Category: 本文
Fさんは、いろいろな歌をご存知です。。
その日もBGMにあわせて歌を口ずさんでおられました。
歌い終わったFさんがにっこり笑って一言
「歌えたね」
歌えることに確信をもっていれば、こんな言葉は出てきません。
「私はバカだから」
「なんにもわからないから」
Fさんは、いろいろな場面でそう言います。
認知症のある方は、日々喪失体験を重ねています。
歌うことが好きなFさんは、歌いながらも不安な気持ちを抱いていたんだ…
そう思うと、Fさんの笑顔が胸に迫ります。
「歌えたね」
即答できなかったけれど、
私もにっこり笑ってFさんに言いました。
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5本箸でお食事…つまり、手づかみで食べてしまう方も中にはおられます。
Eさんも、ご多分にもれず5本箸を使用中。
ですが、Eさん、手づかみで食べながらも
左手はちゃんと手で受けるように口もとに添えています。
しかも、その手の添え方は指をそろえていて、とても優雅な仕草です。
一瞬、みとれてしまいました。
Eさんは、挨拶される姿も優雅です。
ちょこっと、小首をかしげ、手を口もとに添えて
「こんにちはー」「おほほほー」とにこにこされます。
もしかしたら、Eさんは、ものすごいお嬢様だったのかしら
…などと感じました。
5本箸…といっても
人それぞれ
千差万別のあらわれ方が見られます。
食事…という場面は本当に大切
生命に直結しているし
最後まで残るADLだし
だからこそ、対象者の方の能力と困難と特性があらわれやすい
対象者の方にとっては、能力発揮の最後の砦
私たちにとっては、その方の状態を把握できる最後の砦
食事という場面を
もっと、多くの人に
もっと、大切にしてほしいな…と常々感じています。
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認知症の症状には大きくわけて2つの症状があります。
中核症状とBPSDです。
BPSDとは、Behavioral and Psychological Symptoms of Dementiaの略で、直訳すると認知症の精神行動症状になります。
内容的には、徘徊、暴言暴力、介護拒否、異食などの状態像を意味します。
かつて、周辺症状と言われていましたし、その昔は問題行動などと呼ばれていた時代もありました。
1996年に国際的に呼称を統一しようと決定され、以来、日本でも厚生労働省のHPや認知症の人と家族の会でもBPSDという言葉が使われています。
私は時折、地域の公民館などでお話させていただくこともあるのですが
そのような時にもBPSDという言葉を使っています。
すると、必ず頷きながら聞いている方がいるのです。
BPSDという言葉を知らない…という人もいるかもですが、一般の人でも知っている言葉を専門家と呼ばれる私たちが知らない…というのは、ちょっと恥ずかしいことかも。ですね。
一方、中核症状というのは、記銘力低下、抽象思考力低下などの状態像をさします。
SDATアルツハイマー型認知症の場合には、中核症状は必発しますが
BPSDは、ある方もない方もいます。
また、中核症状は重度でもBPSDは軽度だったり、逆に中核症状は軽度でもBPSDは重度ということもよくあります。
このあたりは、身体障害とは異なるところです。
中核症状が軽度の時には、記銘力低下を明確に自覚できるが故に、将来を悲観したり、不安感が高まり情緒不安定になったり、ひきこもったり怒りっぽくなることもあります。
また、そのような時期には周囲に病気としての認識がない場合も多く、本人の性格のせいにされて関係性が損なわれてしまうこともあるようです。
「さっきも同じことを言ったでしょう」
「どうして同じことを言うのかしら」
お気持ちはお察ししますが、このような言葉は百害あって一利無しです。
片麻痺のある方に対して
「どうしてその手は動かないのよ」と言うようなものなのです。
でも、片麻痺のある方に対しては誰もそんなことは言いませんよね。
まだまだ、「認知症=ヘンなことを言ったりしたりする人」という誤解も多く
知識がないために、余分に苦しんだり困惑したりする場合も多いのが現実のように感じています。
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「認知症」とよく一言で言いますが
実は、認知症という単一の疾患名はありません。
認知症という状態像をひきおこすさまざまな疾患があるのです。
(たとえば、ADアルツハイマー病やDLBレビー小体病など)
認知症…というのは、いわばそれらさまざまな疾患の総称です。
巷では、認知症に対しての対応マニュアルの本などをたくさん見かけますが
うーん、どうなんでしょう。
認知症を引き起こす疾患によって状態像はさまざまです。
Aさんに対して有効なことがBさんに対して有効でないことはヤマほどあります。
どのように対応したらいいのか…という切実な問いは
実は、単に答えを求めているのではなくて
どのように考えたらいいのか…という問いの、カタチを変えたもうひとつの問いなのです。
私たち専門家と呼ばれる者は
その時その場のその関係性において
どのように感じ、考え、対応したのか
説明できる責任を常に負っていると考えています。
そのためには
どのように考えたらいいのか
…という根拠の1つとしての
疾患や障害に対する知識は必須です。
このカテゴリーでは、
認知症を引き起こす病気と障害像について
とっかかりとなるような導入的な知識を体験談とあわせて書いていきます。
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休日など私が不在の時でも
看護介護職員が対象者の方の自主リハを見守ってくれることになりました。
それぞれの方に特定のAct.を準備しておき、それを実施してもらっています。
おかげさまで対象者からも職員からも好評なのですが
いかんせん、病棟の中には、いろいろな方がおられます。
徘徊して異食してしまう方もおられます。
毛糸モップを作っておられる方の所に近寄ってきてカラフルな毛糸を口の中に入れてしまうということが起こりました。
これは何とか対策を考えないと…
ということで考えたのがこちらです。
材料は、100円ショップで買った調味料ポット、フェルト、紙です。
フタの裏にフェルトをはりつけ、側面を紙で覆うことで、中身がカラフルな毛糸であることをわかりにくくしました。
自主リハの方には毛糸の色が瞬間的に認識できるように毛糸の色を表示し、すき間から毛糸が見えるようにしてあります。
フタは通常状態では閉まる形式ということと、開閉が押すという1工程のため、自主リハをやる方にもストレスが少なくてすみます。
この工夫をしてからは、毛糸を異食されることはなくなりました。
Act.をする方も特に不便は感じていないとのことです。
このような工夫をする時の考え方のポイントは
Act.を実施する方と異食リスクのある方とAct.を行う環境のそれぞれについて
能力と障害と特性を把握しておくことに尽きます。
逆に言うと、状態が変われば対応も工夫していかなければならないので
1度工夫して終わり!ではなくて、関係する方の状態像の変化に注意しておくことが大切です。
特に、自主リハでは看護介護職員にその旨きちんと伝えて変化があった時にはすぐに連絡してもらうよう事前に伝えておくことがポイントです。
ちなみに、「毛糸モップ」の詳細はこちら
神奈川県作業療法士会>作業療法Tips>手工芸Tips>毛糸モップ
http://kana-ot.jp/cgi-bin/ga_06ry/main_g.cgi?no=30
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大きな声で独語が続いて対応困難…というEさん。
前の施設では、高機能のリクライニング車いすを使用していたそうですが
うーん…ポジショニング、合ってない。
全身が突っ張り、なんと、顎まで歪んでしまっています。
上顎は左前へ、下顎は右奥へ…
(ここまでの方は見たことない…!)
当然、舌の動きまで制限を受けてしまっています。
咀嚼運動がほとんどできず丸呑み状態です。
初回の食事介助はとても恐かったことを覚えています。
その方に、ベッド上と振り子式車いすでのポジショニングを設定し、
看護介護職員にも伝達してみんなで実施したところ、
みるみるうちに筋緊張が改善し全身の関節可動域も改善してきました。
咬合不全も解消(!)
閉口している状態が増え(!!)
上唇でのとりこみも改善(!!!)
口唇閉鎖しての咀嚼もできるようになりました(!!!!)
それだけではなくて、なんと、大声での独語まで著明に減少したのです。
この現実は、いったい何を意味しているのでしょう?
独語や大声は、本当にBPSDという症状だったのでしょうか?
不適切なポジショニングによる、苦痛の意思表示だったのではないでしょうか?
認知症のある方が、身体的な障害も合併することは多々あります。
認知症のある方にも、身体面に対して適切に対応できることが求められているのです。
Eさんには、ポジショニングをしただけです。
ポジショニングだけで、こんなにもEさんは変わったのです。
身体面への対応…とりわけ、ポジショニングの必要性・重要性について、再認識させられた体験談。でした。
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よく聞く言葉。
「私は誰?」
「この人、誰?」
「わかる?」
悪気があって言うわけではないことはわかるのですが…
でも、認知症のある方に
そんな聞き方をしないでいただきたいと思うのです。
大切な人だからこそ
心配しているからこそ
つい、確認したくなってしまうのかもしれません…。
でも、認知症のある方の中には
誰だかわからない…人物の見当識が低下してしまう方も大勢います。
聞かれて答えられない
答えたら相手ががっかりした顔をした
そのような体験は、日々喪失体験を重ねている認知症のある方にとっては
さらに、「できなかった」という失敗体験、喪失体験を反復し強調してしまうことになってしまいます。
気持ちの安定性をそこなわれ、BPSDの増悪をきたしかねません。
ですので、もし、確認したい…と思われるならば
「私は誰?」って聞くかわりに次のような対応をおすすめしたいと思います。
「私は○○の□□です。」
って、名乗ってください。
もし、認知症のある方がそれでわかれば(思い出すことができれば)
「あぁ、□□ちゃん」
「うれしい」
などと言うでしょうし
もし、わからない時には
怪訝な顔をしたり、「□□…?」などと考え込んだり
といった対応の様子で、わかったかわからないのかの確認ができると思います。
「私は誰?わかる?」って聞かなくても
知りたかった答えを得ることができます。
これからは
「私は誰?」
「この人、誰?わかる?」
とは聞かないで、こちらから名乗ってみてくださいね!
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あり得るだろうな…とは思っていましたが、ホントに遭遇した時には一瞬かたまってしまいました(^^;
HDS-R29/30点の方がかなひろいテストで3点。文意把握不可。
たぶん、多くの人がHDS-R29/30点というと、認知症なしって判断してしまって「普通の人」として対応し、それ以上の観察に手を抜いてしまうんじゃないかと思います。
でも、この方はご自宅ではいろいろと異変がありました。
ゴミ箱の中に捨てられた食べ物をあさって食べる…
ご家族との言い争い…
ですが、第三者にはそのような様子は想像できないくらい、そつのない対応をされます。
また、このような方の場合、えてして「認知症」という診断はつかないものですが、そうすると、ご家族の困惑、ご本人の不安感…いずれに対しても対応が後手になってしまいがちです。
作業療法士は医師ではないので、もちろん診断することはできません。
ですが、状態像をきちんと把握しておくことはできます。
現状を適切に把握することができれば、将来の暮らしの困難を予測して対応の布石を考えておくことができます。
その他にも、HDS-R26/30点でかなひろいテスト4点。文意把握不可。
という方もおられました。
HDS-Rは簡単で便利ではありますが、結果だけにとらわれると重要なことを見落としかねません。
検査に対象者をあてはめるのではなくて、
検査結果を状態像把握のために活用できるように…。
以上、ホントにあった体験談。でした。
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