Tag: 評価

座位で身体が傾く方へのポジショニング

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前の記事で
車椅子座位で身体が傾いてしまう方に対して
臥床時のポジショニングをすることで座位姿勢が改善されるケースがあることに言及しました。

臨床の現場では
車椅子で身体が横に傾いている方に対して
1)傾いている側にクッションを当てる
2)車椅子の座面を調整する
対応をされることが多いようです。

 

大切なことは、
なぜ傾いている側にクッションを当てると良いのか?
なぜ、車椅子の座面を調整すると良いのか?
その前後で対象者の身体に何が起こっているのかを理解した上で対応する。
ということだと思っていますが、
多くの場合にそれらについての言及はなく、
単にハウツー的にそうするものだと先輩から教えられ
そうした結果の身体の違いを確認することもないのが現実ではないでしょうか。

褥瘡予防と言って
不必要に過剰に下肢を伸展させ踵部を浮かせてしまうと
下肢の屈曲拘縮を増悪させてしまいます。
大腿四頭筋や縫工筋は2関節筋ですから
筋緊張を緩和させることなく、
遠位の膝を過剰に伸展させたり股関節の外転を行えば
近位の股関節周囲の筋は短縮するしかありません。
クッションを当てている間は膝が伸びているように見えて
クッションを外した途端、ギュンと一気に膝が曲がったり
股関節が内転・内旋してしまうことも現場あるあるです。
  
その場面を切り取って
「やっぱりクッションを当てないとこうなっちゃうのよね」と思われていますが、
実際に起こっていることは全くその反対のことなのです。
クッションが膝の伸展や股関節の外転を援助しているのであれば
クッションを外してもしばらくはその肢位を保持できているはずです。
ところが、実際にはそうではなくて
クッションを外すと逆方向に力が働いてしまうというのは
クッションを外さなくても逆方向に力が入っていて
クッションはその力を止めるだけの作用しかしていなかった。。。
良かれと思っての不適切な対応、過剰に膝を伸展させたり股関節を外転外旋させる対応が
逆効果となって筋緊張を亢進させ、拘縮を増悪させているのです。

なぜ
「ちゃんとクッションを当てているのによくなるどころか悪くなっているのか?」
疑問に思わないのでしょうか?
ちゃんとした対応をすれば悪くなることはないはずです。
悪くなるとしたら、
見立てのもとに行った対応が悪かったのか、
それとも見立てそのものが悪かったのか、
そのいずれかということを検討する必要があるのではありませんか?

さてさて、話を元に戻します。

生活期において、
車椅子座位で身体が横に傾いてしまう方で圧倒的に多いのが、骨盤周囲筋の硬さです。

その場合、臥床している時にも骨盤周囲筋は硬く、
往々にして骨盤がどちらかに傾いているものです。

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このような骨盤の傾きに対処せずに、
膝を伸展させようとクッションを当ててしまいがちですが
まず、写真では骨盤が左へ傾いていますから
左右対称になるように骨盤の左側の下に折りたたんだタオルを設置します。
筋肉の働きをタオルで代償させるのです。

臥床レベルでも姿勢保持するために筋肉は働いていますから
筋肉の働きを代償するように、身体とベッドの隙間を埋めるようにクッションを設置します。

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姿勢保持のために過剰に働いていた筋肉を休ませることができれば
身体はリラックスしますから
、結果としてリラックスした状態
(骨盤周囲筋の左右差のある筋緊張が緩和される)
で車椅子に座ることができるようになります。
だから、結果として車椅子の座位姿勢が改善されるのです。

リハやケアの分野では
良かれと思って、
でも結果としては過剰筋緊張を生むようなポジショニングをしていることが散見されます。
そこを改めれば良いだけなのです。

筋肉はゴムのように伸び縮みをするものです。
縮みっぱなしでは筋肉は有効に働けません。
車椅子座位で骨盤よりも上の、
体幹や上肢の動きに合わせて骨盤内での重心移動が起こります。
その重心移動に応じて骨盤が無理なく動くことで
骨盤上位の姿勢を保つことができる。
筋肉の柔らかさを保つことが大切なのです。

そして、ポジショニングを設定したら必ず確認をすることが重要です。
必要に応じて動けるように身体の柔らかさを担保することが目的ですから
設定した後に身体が柔らかくなったかどうかを確認します。
適切なポジショニングを設定できれば、その効果はすぐに現れます。
  
仰臥位でも側臥位でも膝を軽く左右に動かして抵抗感なく動くかどうかを確認します。
もしここで抵抗感を感じるようであれば、設定のどこかに問題があるという意味です。
ベッドの足元からとベッドの横からの2方向から
全身のアライメントを確認し直して
見落としている部分があるのかどうか、
設置したクッションが過剰だったのかどうかを見直します。

抵抗感なく膝を動かすことができれば、リラックスできている証左となります。

じゃあ、そもそもなぜ、骨盤周囲筋が硬くなるのか
私の考えと実践を記事にしていきます。

 

 

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車椅子で身体が傾く方にどうする?

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写真のように身体が傾いていると、
第一選択として、右脇にクッションを当てているのではありませんか?

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でも、クッションを当てた後に状態を確認してほしいと思います。
クッションを当てたって、右側への傾きは解消されていませんよね?

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そもそも、まず全身を観察すると、
車椅子の座面に対して臀部が斜めになっています。
クッションを当てるよりも先に、座り直しをすべきです。

そして
座り直したにも関わらず、身体が傾いてしまう場合には
1)体幹の過剰緊張
2)感覚入力の著明な左右差
3)疲労による座位保持時間の限界
4)その他の理由
によって引き起こされていますので、ここを評価することが重要です。

1)の場合
座位姿勢そのものへアプローチよりも
実は臥床姿勢へのアプローチが重要な場合が多いものです。
臥床時に良肢位保持と言いながら、
実は筋緊張を亢進させてしまうようなポジショニングをしていると
座位姿勢が崩れてしまうことがよくあります。
臥床時のポジショニングを修正することで座位姿勢が改善されるケースに多々遭遇しています。

2)の場合
基礎疾患として、中枢神経障害を持っている方で臥床時間が多い時に起こります。
ベッドの位置は固定されていることが多いので
どうしても職員の関与が同一方向からに限定されてしまいます。
そうすると職員の関与がない側からの感覚入力が減少し著明な左右差を生むことになります。
そのような場合には、
可能であれば離床時間を増やし、
意図的に職員の関与する位置や
テレビや人の出入りなどの感覚入力の左右差を減少させるような環境調整を図ります。
直接的な身体アプローチはせずとも座位姿勢が改善されるケースもあります。

3)の場合
私は普段電車にはほとんど乗りませんが
たまに電車に乗って座席に座れたとしても満員で身じろぎもできない状態だと
長時間座っているとお尻が痛くなって辛くなってきます。
対象者の場合、日中の離床時間が長いと
たとえ高機能の車椅子用クッションを使用していたとしても
辛くなったとしても不思議はありません。
対象者の方は自身の動ける部位の動ける能力を使って対応しようとしますから
前方に滑ったり横に傾いたりすることがあります。
臥床して身体を休める機会を設けることが必要です。

4)の場合
膝関節の拘縮の左右差によって座位姿勢が崩れてしまっていた方もいましたし
全身の伸筋痙性のために股関節の90度屈曲座位が困難な方もいましたし
実は脱肛があって仙骨座りになっている方もいました。
多様な状態がありますので、きちんとした評価が必要です。

私の経験では
生活期にある方で圧倒的に多いのは
上記1)のケースであり
しかも、対応し損ねていることが多いケースでもあります。
身体の総体的な把握がなされないと
「座位の不良姿勢→座位でのポジショニング」
「臥位の不良姿勢→臥位のポジショニング」にとどまってしまい、
臥位でのポジショニングとの関連性を認識できていないセラピストも少なくありません。



座位で側方に身体が傾いている対象者は
骨盤周囲筋の過剰筋緊張が起きていることが多く
臥位での過剰筋緊張を抑制するポジショニングによって
座位でのポジショニングはせずとも
座位姿勢が改善されるというケースを多々経験しています。

現場あるあるなのは
自身の気になるところだけを
そう見えないように整える方法論です。
その最たるものが、傾いている身体にクッションを当てるというやり方です。

身体が傾いていたら
痛くないように危なくないようにクッションを当てても良いですが
その一方できちんと状態把握、評価をして
その方に今、何が起こっているのかを
きちんと観察し洞察し適切な対応をすべきです。

「座位で身体が傾いている→クッションを当てる」
というような単なるハウツーの当てはめという臨床姿勢からは
もう卒業すべきだし、卒業できる時期に来ていると思います。

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論理的に考える:ムセたらトロミ

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ムセたら食事を中止する人も多いけど
ムセたら飲み物にすぐにトロミをつける人もとても多いですよね。

確かに、トロミは飲み物の粘性を高めてゆっくり通過するので
喉頭挙上のタイミングが遅い人には有益だったりします。

ですが、ムセたからトロミをつけたのに、まだムセる方もいます。
そうするとすぐに、もっとトロミをつけていませんか?
「トロミ剤を大さじ3杯入れるように」って言った人もいましたけど
トロミ剤大さじ2杯でも結構ベッタリと口腔内や咽頭にへばりついて違和感バリバリです。
介助に従事する人は是非トロミ剤を入れた飲み物を飲んでみていただきたいものです。

誤解のないように付け加えると私が若い頃に比べるとトロミ剤はとても進化しています。
昔は変な匂いと味がしてもっとベッタベッタにへばりつく感じがしましたが
最近のトロミは変な匂いや味はほとんどしなくなって
へばりつきもずっと少なくなってきていると感じています。
トロミ剤があるから、水分を安全に飲める方がたくさんいます。

ただし、どんなに良いものでも扱い方が不適切であれば
効果があるどころか逆効果になることすら起こり得ます。

それが、口腔期に問題があって二次的に咽頭期の能力低下が起こっているケースです。
実は、そのようなケースは生活期にある方や認知症のある方にとても多いのです。

不適切なスプーン操作によって誤介助誤学習が生じ
舌が後方へ引っ込んでしまったり
板のようにガチガチに固くなってしまうと
舌のしなやかな動きが損なわれてしまって
スムーズに食塊を再形成したり
送り込んだりする働きが低下してしまいます。
その結果、喉頭挙上の動きまで損なわれてしまうのです。

舌の動きが低下しているのに
トロミをたくさんつけて粘性を高めれば
ただでさえ動きの悪い舌にもっと負担をかけることになってしまいます。
だから送り込みがうまくできなかったり
喉頭挙上の動きが阻害されてしまい、ムセてしまう。
つまり、咽頭期に本質的な問題があるのではなくて
口腔期に本質的な問題がある方に
トロミをつけると逆効果
になってしまうのです。

このようなケースはとても多いのに
「ムセたらトロミ、まだムセたらもっとトロミ」
をつけることによってますます食べにくくさせてしまいます。

摂食・嚥下5相にそって食べ方を観察すると
本来の困難が咽頭期にあるのか、口腔期にあるのか、
観察することができるようになります。
口腔期に本質的な問題があって咽頭期の能力が保たれている場合には
むしろ粘性は下げてトロミは必要最低限にしてから、
食べ方・飲み方の再学習を行う
誤嚥することなく安全にスムーズに食べたり飲んだりすることができるようになります。
舌が動くようになってきたら段階的に食形態をあげることも可能になります。

ムセたらトロミ、というパターン化した対応はもう卒業しましょう。

ムセてもムセていなくても食べ方をきちんと観察するようにしましょう。

 

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論理的に考える:ムセたら食事中止

誤解している人がとても多いと思います。
食事中に強く激しくムセたら食事を中止させていませんか?

そのような判断をする人は
「強く激しいムセ=ひどい誤嚥」と誤解しています。
ムセとは何か?がわかっていないのです。

確かに誤嚥すればムセは起こりますが
ムセとは異物喀出する生体防御反応です。
強く激しくムセたということは、異物喀出力の高さ、つまり
異物をしっかり喀出しようとする能力があることを示しています。
強くムセることができるのは良いことなのです。

ムセたら食事を中止するのではなくて
ムセたら呼気の介助をしてしっかりとムセきってもらいます。
落ち着いたら声を確認して清明な声であれば食事を再開することができます。

ところが
ムセとは何か?を知らずに
周囲が行っているから
今までそうしていたから
という理由にもならない理由で
漫然とムセたら食事中止という対応がまだまだ多いのが現実です。

むしろ、中止すべきなのは異物喀出能力の低下を示唆するムセ方です。
弱々しくしかムセられない
痰がらみのムセ
遷延するムセ。。。

これらの方は要注意ですけど
概念の本質が理解できていないと
弱々しくしかムセられない、異物を喀出しきれていないのに目立たないから
そのまま食事を継続させられたりしてしまいます。
逆なんです。

そして
ムセとは異物喀出作用なのに
なぜかムセの有無が食べ方の指標になってしまっています。

曰く
「ムセることなくお食事を全量召し上がられました」。。。
「今日は途中でムセたのでお食事を半量ほど摂取したところで終了しました」。。。

あちこちで何回も書き、機会あるごとにお話していますが
ムセは異物喀出作用なので食べ方の指標にはなり得ません。
摂食・嚥下5相に則って、きちんと食べ方を観察しましょう。
その方の本来の食べるチカラを見出せるように、きちんと介助できるようになりましょう。

上唇を丸めて食塊を取り込めているか
舌で食塊再形成ができているか
送り込みが円滑にできているか
喉頭は完全挙上できているか
など、観察すべきポイントがたくさんあります。

 

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対応に役立つHDS-Rの工夫

認知症のある方の評価として、HDS-RやMMSEをとる人はたくさんいると思います。
一時期、「認知症のある方を傷つける恐れがあるからHDS-Rはしません」
という学生に複数遭遇しました。
そんな時に私は
「HDS-Rをとらなくても
記憶障害について根拠を元に明確に説明できるくらいに状態把握できるなら
HDS-Rをとらなくてもいいよ。
でも、それができないならHDS-Rをとって状態把握をしなさい。」
と指導してきました。

認知症という状態像を引き起こす疾患の中で圧倒的に多い
アルツハイマー型認知症の主要な障害は記憶障害です。
記憶障害の状態を把握できずにどうやって評価ができるのでしょうか?
どうやって適切な対応ができるのでしょうか?

学生の「相手を傷つけたくない」という気持ちは尊いものですが
状態を把握できなければ
的確な対応が行えるはずがありません。

確かに
HDS-Rをとる過程において
怒り出してしまう方や途中で拒否する方もいます。
でも、それはそれで大切な情報の一つなんです。

もっと重要なことは
相手を傷つけるかもしれないリスクを知った上で
とったHDS-Rの結果を日々の対応に活用すべきなのです。

HDS-RやMMSEをとっても
その結果を声かけや対応の工夫に生かしているセラピストは
まだまだ少ないのが現状です。

検査は検査、治療は治療、対応の工夫は対応の工夫と
バラバラになってしまっていて
個々の認知症のある方の状態を元に対応の工夫を考える
といった展開にはまだまだ至っていないのが現状です。
だから
「〇〇という状態の人がいるんですけど、どうしたらいいでしょうか?」
という質問をする人が絶えないのだと感じています。

本当に状態像を把握できれば
どうしたら良いのか、という対応の工夫は
自ずから一本道のように浮かび上がってくるものなのです。

作業療法は人文科学として
根拠を目の前にいる方の状態像に置いた展開ができるはずです。
そのために必要なことは医学的知識を元にした科学的な観察と洞察です。
その一方で、観察と洞察の技術を磨くには経験が必要です。
時間がかかるのです。
初学者は理想を語るのではなくて、
理想を具現化するための過程として検査もすべきです。
相手を傷つける検査が嫌なのであれば検査をせずとも
状態像を明確化できる技術を磨くべきです。
理想を語るだけですべきことをしないのは本末転倒です。

誤解のないように付け加えると
障害を明確化するのは能力を明確化するためです。
できないことのできなさをどれだけわかっても
認知症のある方の役に立つことはできません。
できること、埋もれていて表面には見えない能力をこそ
見出し、活用することが望まれます。

そこで、その工夫の一例として
HDS-Rをとる際に私がしているちょっとした工夫をお伝えします。

検査は本来実施方法が決められているものですが
一方で治療や対応に役立てるためにするものでもあります。
方法としては少し逸脱してしまいますが
研究資料として使用するのでなければ
このような工夫をするのは実際的でその後の対応に非常に役立つ情報を得ることができます。

一番最初に、年齢を尋ねます。
そこで答えられなくても生年月日や生まれ年の干支を尋ねます。
認知症が進行すると自身の生年月日も干支も答えられなくなりますが
一方で実生活において、年齢を答えるという必要性がないために答えられない
という方もいます。

次に
遅延再生の可否を確認をする質問で
ここで3問全問正解できなかった場合には
正解を伝えてその時の反応を見ます。
つまり、聴覚情報を提供して再認できるかどうか見ているのです。

5つの物品の質問で
5問全問正解できなかった時には
5つの物品を目の前に提示してその時の反応を見ます。
つまり、視覚情報を提供して再認できるかどうかを見ています。

最後の語想起課題で
全て答えられなかった場合には
検査を終える前に
その方が答えた野菜を使った献立や好きな調理方法について尋ねます。
まず、オープンクエスチョンで尋ねて答えられればそのままお話を聞きます。
答えられなければ、クローズドクエスチョンで尋ねます。
すると大抵の方は再認できて「おう」「好きだよ」「そうそう」などと
お話を始めてくれます。
HDS-Rを終える前に「できた」体験をしていただく配慮をしています。
だからと言って、不全感や困惑や困った体験をさせてしまったことを
帳消しにはできませんが、こちらのマナーとしてそのような工夫をしています。

HDS-Rの得点結果だけを見るのではなくて
上記のように、聴覚情報で再認できるのか、視覚情報で再認できるのか
ということは日々の場面でも同じようなことが起こっていますので
対応の工夫に直結します。

そして、答えられなかった時の反応を見ておくと対応に活かせます。
わからなかった時に怒ってしまう方は
日々の場面で困った時に怒ることが多いし
わからなかった時に思いついた言葉を並べるような方は
実際の生活場面でも自身でなんとか対処しようとすることが多いし
逆に俯いて硬い表情になってしまう方は困った時に他者に尋ねて解決することができない
といったようなことが起こります。

HDS-RやMMSEを
単にとるべき検査項目の1つとして設定するか
貴重な情報を得ることができる機会として捉えるか
検者の在り方によって、得られる情報の量も深度もまったく変わってくるのです。

 

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靴下の工夫:むくみと認知面

    

こちらは _徳武産業さんのあゆみシリーズ_ から
 _「あゆみが作った靴下のびのび2」_ です。

お年寄りだと足がむくんでしまう方ってとても多くて
普通の靴下だときつくて履けないこともあるかと思います。
そんな時の救世主がこちらです。
「ギプスの上からでも履けます」というキャッチフレーズの通り
本当によく伸びます。
前後の向きを気にせず履けるところもポイント高し!

続いては認知症のある方で
自分で着たり脱いだりする動作能力はあるけれど
前後を間違えたりといった認知面の問題で
更衣が一部介助になってしまうケースに対する工夫です。

認知症で構成障害が出てくると
洋服の前後や上下を間違えてご自身で着ることが困難になってくることがよくあります。

「障害」による「日常生活の困難」なので
本人に障害に対してトレーニングをするのではなくて
環境調整として靴下の選択を工夫することで
更衣というADL能力の改善を目指す時の考え方と靴下の紹介です。

まずは、こちらから。
_「無印良品」_さんの _「足なり直角靴下」_ です。

商品の本来の特性としては
踵を直角に足の形状に合わせて作ったことでズレにくい
というものですが
足の形状に合わせて作られたカタチから
こちらがつま先、ここが踵、と靴下のカタチが履き方を誘導してくれます。
いわば、履く前の認知面、足に靴下を合わせる段階で有効なのです。
1足399円というお値段も嬉しいです。

一方で、色無地の商品なので
履いている最中に靴下をうまく履けずに靴下がズレてしまったりすると
つま先や踵の視覚情報がありませんので修正するのは大変になってしまいます。

そんな時には、普通の靴下でもデザインによって履きやすいデザインを見つけることができます。

例えば、普通に ↑ のようなデザインの靴下も市販されています。
この色のデザインだと、つま先と踵が色情報として視覚的に区別しやすくなっています。
履いている途中でもつま先が足背部とは異なる色なので混乱しにくくなります。

あるいは、こんな風に 足袋型の靴下も市販されています。
親指とその他の指の区別が見た目でわかりやすいので
左右の区別がしやすくなるし、
親指が視覚的に強調されているので
履きながら親指に合わせて修正する。
修正しながら靴下を履く、ということが容易になります。

環境調整というのは
詰まるところ、マッチングです。
本人の能力と障害を明確に把握できれば
どんな靴下(環境)であれば、
履ける履けない(できる・できない)ということがわかります。

能力というのは、環境によりけり、程度によりけり発揮されるものです。
環境調整が的確に行えるために必要なのは、引き出しの多さではなくて
対象者の評価・状態把握であり、能力と障害・困難の把握と
環境が伝える情報を明確化できるというセラピストの能力です。

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視覚理解の援助:ナースコール

認知症のある方で
ナースコールを使えそうで使えない方がいます。

なぜ、使えないのか
どうしたら、使えるようになるのかは
人それぞれですが
ナースコールを目立たせる工夫が有効な場合があります。

私たちは「ナースコールがどこにあるのか」を覚えていることができますが
認知症のある方の場合、どこにあるのか伝えても忘れてしまいます。
特に夜間のお部屋は暗くなっています。

夜中にトイレに行きたくなった時に
ナースコールを必死になって探さなくても
目立つように気がつきやすいように
蓄光シールを貼ることもあります。

ナースコールにベタベタ汚れがつかないように
養生テープを貼った上に蓄光シールを貼るようにしています。

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検査結果は表裏一体/できないできる一体

目標設定の記事で
評価と治療の乖離
検査結果を対応に活かせていない という内容を書きました。

せっかくですので
もうちょっと具体的に書きますと
HDS-R18点の方とHDS-R3点の方に同じ声かけをしているとか
構成障害のある方に折り紙を提供して
「ここをこうしてこうやって」と説明しているというようなことは
認知症のある方や高齢者を対象とした現場でよくよく見られることです。

しかも
それで指示通りに実行できないと
簡単に「疎通困難」とか「認知症だから」と言ったり
折り紙のほとんどをセラピストが仕上げて「頑張りましたね」と言ったり
認知症のある方の手をセラピストが動かしている状態にしていたり
というのも現場あるあるです。。。

本当にそれで良いのかなぁ。。。?
 
うまく言語化できないけど
「どこか違う」「何か良くない」と
漠然とした違和感を抱いている人も少なからずいると思います。

HDS-R18点であれば、遅延再生に一部得点できたりヒントで答えられることが多いでしょうし
HDS-R3点であれば、遅延再生はヒントを出しても答えられないケースが多いと思います。
つまり、近時記憶障害の程度が違う、記憶の連続性が異なるので
リハ場面で諸々の説明をする時には配慮が必要です。
HDS-R18点の方の場合では
最初に1回説明するだけで「何をどうやるのか」リハ中の20分間覚えていられても
HDS-R3点の方の場合では
説明を数分しか覚えていられないので
工程を簡略化し、その工程を終えるたびに同じ説明を繰り返す配慮が必要です。
ところが、現実には
HDS-Rをとって「認知症重度」と判断しているのに
認知機能が低下していない方と同様の対応をして
その結果、認知症のある方が工程を遂行することができないと
「やっぱり認知症が重度」と判断を上塗りするだけのセラピストは多いのです。。。
いやいや、対応を変えなきゃ。でしょうに!
そうすると「ちゃんと優しい声かけをしてる」って言うのです。。。

構成障害とは
全体と部分、部分と部分の位置関係を認識し再現する能力の障害のことですから、
「ここをこうしてこうやって」と見本を見せながら説明しているつもりであったとしても
隣にいるセラピストの折り方と自身の折り方を照合させながら動作することを要請しています。
構成障害がある方に対して、できないことをさせていることになってしまっています。
再現できなくても認識はできる方は大勢いますから
「自分がやろうとしてもできない」体験を反復強調させていることにもなってしまっています。
ところが「ここをこうしてこうやって」が適正な説明だと思い込んでいる人も多いのです。
構成障害のある方にとって最も困難な説明なのに。。。
  
もちろん、このような対応をしているセラピストに悪意があるわけではなく
単に知識がなかったり、概念の本質を理解できていないことによって
本当は適切な対応でないことを自覚できていないに過ぎません。

  だからこそ、厄介とも言えますが。。。
  まさに、
  「地獄への道は善意で敷き詰められている」

  「天国には善行が満ち、地獄には善意が満ちている」
  わけです。。。

HDS-RやMMSEをすることが評価でもなければ
立方体透視図模写テストや五角形模写課題をすることが評価ではありません。
「検査=評価」ではないのです。

HDS-Rや立方体透視図模写テストなどの検査は、
ふだん能力低下に直面せずに暮らせている人に対して
「できない、わからない、困った」ことに直面させる体験でもあります。
そのような辛い体験をさせてまで得た結果なのだから対応に活用しましょう。
私たちは評論家ではないのですから。

評論家なら、
「HDS-Rが1桁で重度の認知症」
「立方体透視図模写テストが全然できなかったから構成障害重度」
と宣って終わりで良いでしょうけれど
私たちは評論家ではなくて、援助者なのですから。

それら検査結果を踏まえて
「じゃあ、どうするのか」が問われているのです。

リハとは、「じゃあ、どうするのか」の協働作業です。
「認知症だから、どうするのかが難しい」わけではありません。

「HDS-R3点だった」
という結果から「どうするのか」が出てくるわけがありません。
「じゃあ、どうするのか」を具現化できるためには
能力を見出し活用することが必須です。
「HDS-R3点だった」ということは、
1)3点はとれた
2)尋ねたことの枠組みで答えることができた
ということでもあります。
ここに、能力を見出すヒントがあります。

そしてこれって、実は
検査に限らないし
リハの場面設定に限らないし
食事介助でもポジショニングでもBPSDへの対応でも言える
ことですし
もっと言うと認知症のある方に限らないと思うのです。

 

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