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開口してくれない方への口腔ケア:じゃあどうするか?

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関与の適切さが担保されていれば
開口してくれない、開口できない、という行動には
口唇を開けてくれない、開けられない、
もしくは、
歯を噛み締めていて開けてくれない、開けられない
と大きく分けると2つのパターンがあるこちに気がつくと思います。
  
まず、どちらなのか、
口唇を開けることと顎を開けることのどちらが困難なのかを把握します。
この時に同時に頸部や体幹、上肢などのアライメントと筋緊張も把握します。
口を開けてくれないのではなくて
開けたくても開けられない
姿勢の問題、ポジショニングで対処すべき問題もあるからです。

意外に多いのが
顎の開閉は可能でも口唇閉鎖のままというケースです。
口輪筋に力が入ってしまっているので開口したくてもできない状態です。
そのような時には、介助者の示指を口唇中央にそっと当てて円を描くように動かします。
この時穏やかな口調で「くちびるが楽になります」と語りかけます。
すると口唇閉鎖が緩んできますから
「そうです。いいですね。その調子です。」と語りかけます。
   
口輪筋が十分に緩めば、すぐにその方の手続き記憶を確認しながら(前記事参照)
前歯もしくは奥歯からブラッシングを始めます。
口輪筋がまだ硬くて少ししか開口しない場合には
緩んだ部分から介助者の示指を口唇の内側にいれて
決して無理やりはしないで、可能な範囲で円を描くようにマッサージを行います。
すると、だんだん口輪筋が緩んでくるので口角や下唇の裏側など
まだ緩んでいない部分のマッサージを行います。
(この時に 口唇小帯 の部分は避けるようにしましょう。)
口輪筋が十分に緩んだことを確認できたらブラッシングが可能となります。

次に口唇は開いても歯と歯を噛み締めてしまっていて開口できない
顎がしっかり閉じてしまっている場合の対応について記載していきます。
口唇を開くことはできるので一部でも歯を見ることは可能です。
その見えている可能な範囲で(無理に範囲を広げずに)歯をブラッシングします。
穏やかな口調で
「歯を磨きますよ」「歯が綺麗になります」「お口の中がさっぱりします」
などの感覚や感情に働きかける声かけをしながらブラッシングをします。
すると、前歯からだんだんと奥の方に歯ブラシを移動させることが可能となります。
奥歯の表側をブラッシングできたら十分に時間をかけると緩みを感じられると思います。
緩みを感じたら奥歯の上側をブラッシングします。

相手の身体とのノンバーバルコミュニケーションをとりながら介助するのです。
緩んでいない→まだなのね、じゃあこれ以上は無理やりはしない→介助という動作で相手に伝える
口腔ケアという介助というを通して
相手の身体反応という行動と自身の行動というコミュニケーションを行うことです。

当然、昨日はすぐに緩んだのに今日はなかなか緩まない
ということだって起こり得ます。
人間ですから。
逆に自身の介助だって、昨日はきちんと感受できたのに今日はちょっと強引だったかも。
ということだって起こり得ます。
人間ですから。
状況だって違うでしょうし。

  大切なことは
  常に毎回100%の完璧な実践が為されることではなくて
  常に毎回自覚できていること。
  少なくとも自覚しようと意思することです。
  その時起こった事実をきちんと感受し自身の認識を自覚しようと意思することです。
  この過程にゴールはありません。
  イマ、ココでの言動には
  カコ、タシャとの関係が顕在的にも潜在的にも反映されるものだからです。

奥歯の上側をブラッシングできるということは
わずかであっても歯と歯の噛み締めが減少し、顎が開いたことの証左ですから
そうなれば、もう大丈夫です。
決して焦らずにここできちんと時間をかけて
「いいですね。歯がすごく綺麗になります。」と声掛けしながらブラッシングすると
もっと大きく開口できるようになりますから
奥歯の裏側もブラッシングできます。

噛み締めがきつくて上述の対応でも困難な時にはKポイントを刺激します。
いきなり指を口の中に突っ込もうとすると噛まれてしまいますから
緩んでいる口唇の間から示指を入れて
下の歯の表側と頬の間を通って奥歯まで指を入れてから
歯ぐきの内側に示指を入れて該当箇所を押します。
すると開口してもらえます。
これは最後の手段として、できるだけ上ふたつの方法で
開口してもらえるように関与していきます。

口腔ケアに協力してもらえない、開口してもらえない
時には、必ずその方にとっての必然があります。(理由や原因ではなくて必然)
   
まず、開口してもらえない場面そのものをきちんと観察する情報収集から始めましょう。
「開口してもらえない時には〇〇する」というようなハウツーは卒業しましょう。
その時その場でのその関係性において関与していくことができるようになるために
まず、今、その方に何が起こっているのかを洞察できるように
そのために自身の「行動」というもうひとつの言葉(自覚的に選択された行動)で働きかけ
対象者の「反応行動」というもうひとつの言葉をきちんと聴くことから始めましょう。

 

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開口してくれない方への口腔ケア:介助の問題

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開口してもらえないと口腔ケアが難しくなります。
すると、往々にして「どうしたら開口してもらえるか?」
という問いが立てられます。

そうではなくて
まず、口腔ケアを促した時にどのような反応が返ってくるのか
どんな風に口を開けてもらえないのか
どんな風に拒否をするのかを
きちんと観察することから始めることが必要です。

驚くべきことに、この部分をきちんと観察している人は
ものすごく少ないと言っていいでしょう。
逆に、きちんと観察している人は
所属組織の中で現状把握のあまりの乖離に
とても困っているのではないでしょうか。
  
言葉にならないもうひとつの言葉、行動をきちんと観察しましょう。
何が起こっているのかを観察し
習得してきた知識をもとに洞察しましょう。
 
同時に、有効な情報を得るためには
まず、こちらが適切な促しをできていることが必要です。
臨床でおろそかになりがちなのは
・声はかけてもアイコンタクトはしていない
・歯ブラシをきちんと見せることなく口の中に歯ブラシを突っ込む
という関わりです。
このような介助では、口腔ケアを拒否して当たり前だと思いますし
仮に、今は口腔ケアを受け入れてもらえたとしても
後になって対象者の「相手に合わせる」能力が低下した時に
蓄積した「感情記憶『嫌だな』」を想起して拒否することになっても当然だと思います。
そしてその経過への配慮なく問題視してしまう。。。

口腔ケアをする時には
必ずアイコンタクトを促してから、次に声かけ
歯ブラシを見せて、
対象者がきちんと歯ブラシを見たことを確認してから
歯ブラシを横に数回動かします。
  この動作は、言葉という聴覚情報だけではなく視覚的情報を提示することで
  「歯磨きをする」ということはどういうことなのか、再認を促しています。
それから「あー」と言ったり「いー」と言ったりします。
歯磨き→「大きく開口する」ことが
その方の「歯磨き」という手続き記憶であれば「あー」と声をかけ
口腔内に歯ブラシを入れて奥歯から磨き始めます。
歯磨き→「前歯から磨き始める」ことが
その方の「歯磨き」という手続き記憶であれば「いー」と言って
前歯からブラッシングを始めます。

以前に「再生と再認」の可否を確認する
という説明をしましたが
再生と再認の可否の確認しておくと、対応の工夫にものすごく活用できます。
重度の認知症のある方でも再認可能な方はとても多いものです。
(そしてこのことは、あまり知られていない)
また、手続き記憶は残りやすいと言われていますが
ADLはまさしく手続き記憶の宝庫です。
だからこそ、介助者が対象者の手続き記憶ではなく
自身の手続記憶で対応してしまいがちで、しかもそのことに無自覚なのです。
介助者の手続き記憶と対象者の手続き記憶の違い
(たとえば、歯をどこから磨くか)は手続き記憶だからこそ自覚しにくい
(違って当たり前なのに)ということはもっと強調されて然るべきものです。
そして手続き記憶のズレは強烈な違和感を生じさせるものですが
介助者自身は「手続き記憶のズレ」という体験を
受けたことがないのでさらに自覚しにくい。
その結果、自身の手続記憶を押し付けてしまい
拒否や介助への適切な協力をしてもらえないことになってしまいます。
そこで自身の関与を振り返ることができないと
対象者に「介護抵抗」「介助拒否」というレッテルを貼って
「関係性の中で生じている問題」を「対象者の問題」にすり替えてしまう。。。
本当に現場あるあるです。

「認知症のある方に寄り添ったケア」という理念を具現化するとは
声高に唱えることなんかではなくて
こういう日々のケアひとつひとつに誠実に向き合うことです。
介助者自身の手続き記憶を自覚する
対象者の手続き記憶を模索することから始めましょう。
「あなたの歯磨きの手順はこうですか?」
と言葉ではなく動作介助というもうひとつの言葉で尋ね
対象者が開口するか、もっと強く拒否をするのか、
言葉ではない、反応行動というもうひとつの言葉を聴きとります。

適切な関与とは
決して、単に敬語を使うことをはじめとする接遇にとどまりません。
もちろん、接遇の重要性を否定するものではありませんが
認知症は脳の病気ですから
もっと障害や能力という観点での対応が必要です。
そして、再認という能力発揮を促せるようになるためには
生活歴や手続き記憶、特性という情報収集が本当に必要です。
  
でも、実際の現場では
「その人らしさを大切に」
「その人に寄り添ったケア」
と声高に唱えられることはあっても
実際にそれらの情報の活用の仕方について具体的に説明を受けたことは
あんまりないのではありませんか?
だから、認知症の普及啓発がこれだけ進んできているのに
講習の内容が旧態依然とした理念の提示や
スローガンの提示程度にとどまってしまっていて
現場で必死になって本当に「認知症のある方の役に立てるように」働こうとしても
じゃあ、どのように考えたら良いのか
本当に役立つような指針が得られなくて、辛くて、あまりに辛いからこそ、
そのうち初心に目をつぶって目の前の現実に押し流されてしまうことを
選ぶしかなかった人だっているのではないかと思います。

そんな人に向けて
このサイトがありますし、こちらのサイトもあります。
  
次の記事では、じゃあどうしたら良いのか
開口してくれない方への口腔ケアについて
具体的に記載していきます。

 

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ポジショニング設定の基本

それでは
ポジショニング設定の基本を記載します。

側臥位の基本
1)肩甲帯と骨盤帯をクッションできちんとサポートする
2)下側の上下肢はきちんと引き出す
3)頭部のアライメントが適正に保持できているか、枕の高さを確認する

仰臥位の基本
1)骨盤の傾きの確認と対応
2)肩甲帯の安定性の確認と対応
3)股関節は過剰に(安静時の最大可動域以上に)外転・伸展させない
4)膝関節は過剰に(安静時の最大可動域以上に)伸展させない
5)下肢の重さを面できちんと支える
6)上記1)から5)が担保できていれば基本的には
  足部は挙上位設定(褥瘡予防のための設定)しなくても大丈夫です。
  そのかわり、足底全体がベッドに接地するように設定します。

   変形拘縮があるけれど褥瘡ができていない方に対して
   褥瘡予防という名のもとに変形拘縮を増悪させるようなポジショニングをしていると
   本当に褥瘡が発生してしまいます。
   そうすると「だからもっと褥瘡対応が必要」と言う人もいますが
   事実はまったく逆で不適切なポジショニングが褥瘡を引き起こしていたのです。
   変形拘縮のある方に対して筋緊張緩和を目的としたポジショニングが適切にできれば
   結果として褥瘡も発生しにくくなります。
   その理由は別の記事で述べます。 

そして、最も重要なのに、多くの人がしていないことは
ポジショニング設定後の確認です。

ポジショニングを設定したら
肘や膝を動かして、筋緊張が緩和していることを必ず確認してください。

適切に設定できていれば
設定直後から筋緊張は緩和しますから、その変化を実感できるはずです。
ガチガチだった膝を他動的に抵抗感なく左右に動かせるようになったり
体幹にピッタリくっついて動かせなかった腕を抵抗感なく体幹から離して動かせるようになります。
   
設定後に筋緊張の緩和がみられない、抵抗感を感じる場合は
設定が不適切であることの証左ですから
もう一度、全身のアライメントを確認し、設定し損ねている部分を見つけます。
設定を忘れているのか、過剰なのか、不足なのか
見つけた部分を修正して、再設定すれば良いだけです。

臥床時に筋緊張緩和の変化を確認できれば
離床介助時の抵抗感の減少や車椅子座位時の姿勢の変化が目で見てはっきりとわかるようになります。
車椅子上で体幹が前傾してしまい介助しても背もたれに寄りかかることができなかった方が
(前傾方向への力が強くて介助しても体幹を後傾させることができなかった)
背もたれに身体を預けてストンと座れるようになります。
体幹前傾位から中間位へ自身で立ち直ることができるようにもなります。
車椅子上で何度姿勢修正しても前滑りしてしまい食事介助が必要だった方が
前滑りすることなく座れるようになったので
姿勢修正の必要もなく食事を全量自力摂取できるようになった方もいます。

対象者の障害や困難と自身の未熟を混同してはいけないのです。
混同しない、区別できるようになるためには
ポジショニング設定後に筋緊張緩和の確認をすれば良いのです。

また、
ここが誤解されがちなところですが
ポジショニングとは、良い姿勢に整える
ということではありません。

車椅子での座り方やベッドでの寝方には
その方の障害や困難だけでなく能力も反映されています。

本来の能力発揮を阻んでいる環境を変更することによって
本来の能力を発揮した状態で寝られるようになります。
臥位レベルで能力が発揮できるようになり
座位レベルでも能力発揮できるようになるから
結果として車椅子座位姿勢も改善されるのです。

姿勢には機能、働きが反映されています。

良い姿勢には、機能、働きの良さが反映されており
悪い姿勢には、機能、働きの不合理や不全が反映されているのです。

悪い姿勢を見た目良い姿勢のように整える、修正するのがポジショニングではありません。

悪い姿勢に対して、見た目を修正するのではなく
悪い姿勢に反映されている機能や働きを
より合理的に発揮できるように援助すると
機能や働きが改善された結果として、姿勢が良くなるのです。

繰り返しますが
認知症のある方への生活障害やBPSDへの対応も
生活期の方の食べる困難への対応も
カタチを変えてまったく同じコトが違う表れをしているだけなのです。

どれか一つで良いから
結果を出す、誰が見ても対象者が良くなったことがわかるまで変化を起こす
ように挑戦してみていただきたいと思います。
その時に私が提案してきていることの数々の一端をご理解いただけると思います。

 

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車椅子で前傾してしまう方への対応

上図のように
車椅子上で体幹が前傾してしまう
背もたれに寄りかかるように動作介助しても
身体が硬くてすぐに前傾してしまう方っていますよね?
ティルト型車椅子に変更してティルトを倒してもやっぱり前傾してしまう
そのような場合、どうしていますか?

車椅子上での姿勢について
車椅子上でクッションを入れる対処はしても
臥床時の姿勢、ポジショニングの見直しをしている人は少ないのですが
実はここが重要なのです。

上述のような方の場合
骨盤と体幹の分離が不十分というケースが圧倒的に多いものです。

臥床や離床介助の時に
立ち上がり時の動作を確認すると
腰背部を伸張した前傾ではなくて
骨盤も一緒に浮き上がってしまう。
なんなら、下肢も屈曲位のまま、浮き上がってしまい
足底接地や足底への荷重が難しい。。。ということもあります。

臥床時は
体軸内回旋が乏しく
骨盤を動かすと下肢も体幹も一緒にゴロンと転がってしまいます。
運動麻痺があるわけでもないのに(運動麻痺があることも多々ありますが)
全身がガチガチに硬くなってしまっているのです。
そして、このガチガチの硬さに対応せずに
座位でのポジショニングしかしていない人がとても多いのです。。。

こんなにガチガチだとおむつ交換も大変ですし
臥床はしていても、寝ても寝た気がしないと思います。
臥床本来の目的である身体をゆっくり休めることができないのではないでしょうか。

こんなにガチガチに硬くなってしまうのには理由があって
1)ポジショニングをまったくされてこなかった
2)不適切なポジショニングをされてきた
どちらでも起こり得ます。

筋緊張緩和目的のポジショニングは
過剰な筋緊張をせずとも臥床できるように環境調整することが肝要です。

まず、個々人のキーポイントを見つけられるように観察します。

臨床上、最も多いのは、
骨盤の傾きや肩甲帯の不安定さを見落とされているケースです。
そこを対応するだけで身体柔軟性が発揮されるようになります。
また、下肢の伸展パターンに対しては
骨盤後傾と股関節の屈曲位を引き出すような設定をすると
伸展パターンの抑制が可能となることも多々ありますし
側臥位設定することで伸展パターンの抑制が可能となることもあります。

どうしたら良いか、途方に暮れてしまう、という人は
まず、全身のアライメントを観察してください。
ベッドの足元側から観察し、
次にベッドの右側から、左側からも観察してください。
観察が難しければ、許可を得た上で臥床時の姿勢を写真に撮り、
各関節がどうなっているのか、一つひとつの関節角度をきちんと確認しましょう。
そして必ず筋緊張を確認しましょう。

全身の一つひとつの関節の状態がどうなっているのかがわかり
筋緊張も把握できれば
どうしてそうなっているのか、どうしたら良いのかということが
自然と一本道のように浮かび上がってきます。
あとは、浮かび上がってきたことを具現化するだけです。

この繰り返しで即座に観察・洞察することができるようになります。

どうポジショニングしたら良いかわからない
と言う人に限ってこの過程をすっ飛ばしていますが
「自分がわからない」という事実にきちんと向き合って
どうしたら自分自身でわかるようになるのかを考え対処しない限り
永遠にわからないままです。
そうするとハウツーを当てはめるだけになってしまい
しかも当てはめたハウツーがその方に適切だったかどうかもわからないままとなってしまいます。

どうポジショニングしたら良いのかがわからないのではなくて
その方に何が起こっているのかがわかっていないのですから
何が起こっているのかをわかるようにならなければいけません。
(認知症のある方への生活障害やBPSDへの対応とまったく同じコトが違うカタチで現れています)

ここを誤解している人がとても多いのです。
「どうしたら良いか」と問うのではなく
「何が起こっているのか」と問うべきであり
「自分がこの方に何が起こっているのかわからない。どうしたらわかるようになるのか」
と問うことから始めるしかありません。

正しく問うことができるから正しい答えを得られます。
今までは問うてはいたけれど問い方を間違えていたのです。
だったら、間違えずに問えるようになれば良いだけです。

   ポジショニングに限らず
   食事介助や認知症のある方への対応なども含めて
   最も重要なことは常に状態把握・評価です。

   実習において学生に体験学習させるべきはこの臨床姿勢であり
   協会主催の研修会でも再学習を促した方が良いと考えています。
   なぜなら、私の経験ですが
   (各地で多様な主催者から多様なテーマで多数の講演を依頼されてきました)
   講演後の質疑応答で「どうしたら良いのでしょう?」と質問する人は多くても
   「どうしたら的確な評価を行えるようになるのでしょう?」と質問した人は
   今までに1人しかいませんでした。
   正しく問える能力を養成すべきだと考えています。

それでは、次の記事で
ポジショニング設定の基本についてご説明します。

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論理的に考える:手引き歩行

    
30年以上前からずっと言い続けていますが
手引き歩行撲滅作戦!

お年寄りの前に向き合うように介助者が立って
お年寄りの両手を引いて歩かせる方法がいまだに為されています。。。

もちろん、狭いところでも介助歩行ができるというメリットはありますが
手引き歩行のデメリットを考慮することなく
「歩行介助=手引き歩行」周囲の人がみんなそうやっているから、
手引き歩行を行っている人の方が多いのではないでしょうか?

手引き歩行のデメリットを下記に挙げます。
1)介助者もご本人も移動先の前方を見ることができない。
  前方の安全確認をしようとするとご本人に背を向けなければならない。
2)ご本人がいざバランスを崩して倒れそうになった時に
  介助者との距離があるので助けにくい。
  無理に手を引っ張ると腕神経叢麻痺を起こす恐れもある。
3)手を通してご本人の動きをコントロールしようとしても
  複数の関節があるのでコントロールの力が伝わりにくい。
4)歩行の本質(重心の前方移動)と
  真逆の身体反応(重心の後方移動)を引き起こしてしまうので
  いつまで経っても介助から脱却できないどころか
  ますます歩きにくさを助長してしまう。
5)「前から引っ張る方法」なので、心理的にも「寄り添う」のではなく
  介助者に依存させてしまう恐れが高い。

というわけで
私は側方から骨盤を支える介助歩行をしています。
(たぶん、リハスタッフで似たような思いをしている人はきっと多いのではないでしょうか。。。)

骨盤からの側方介助であれば
1)ご本人も介助者も同じように前方を見ることができます。
2)ご本人がバランスを崩しても骨盤を支えているので転倒防止が容易です。
3)複数の関節をまたぐことなく直接骨盤から介助するので
  途中でコントロールが抜けてしまうことがないし
  繊細なコントロールも可能です。
4)歩行の本質に沿った介助が行えるので
  段階的に介助量の調整も可能です。
5)横に立って歩行介助するので
  文字通り見た目も心理的にも「寄り添った」介助の実践ができます。

歩幅が狭く下肢が前に出にくい方に
骨盤からごくわずかに重心移動を介助することで
スムーズに足が前に出て歩幅も広く歩けるようになった方の経験もあります。
(このことについては別の記事で)

 

 

 

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論理的に考える:ムセたら食事中止

誤解している人がとても多いと思います。
食事中に強く激しくムセたら食事を中止させていませんか?

そのような判断をする人は
「強く激しいムセ=ひどい誤嚥」と誤解しています。
ムセとは何か?がわかっていないのです。

確かに誤嚥すればムセは起こりますが
ムセとは異物喀出する生体防御反応です。
強く激しくムセたということは、異物喀出力の高さ、つまり
異物をしっかり喀出しようとする能力があることを示しています。
強くムセることができるのは良いことなのです。

ムセたら食事を中止するのではなくて
ムセたら呼気の介助をしてしっかりとムセきってもらいます。
落ち着いたら声を確認して清明な声であれば食事を再開することができます。

ところが
ムセとは何か?を知らずに
周囲が行っているから
今までそうしていたから
という理由にもならない理由で
漫然とムセたら食事中止という対応がまだまだ多いのが現実です。

むしろ、中止すべきなのは異物喀出能力の低下を示唆するムセ方です。
弱々しくしかムセられない
痰がらみのムセ
遷延するムセ。。。

これらの方は要注意ですけど
概念の本質が理解できていないと
弱々しくしかムセられない、異物を喀出しきれていないのに目立たないから
そのまま食事を継続させられたりしてしまいます。
逆なんです。

そして
ムセとは異物喀出作用なのに
なぜかムセの有無が食べ方の指標になってしまっています。

曰く
「ムセることなくお食事を全量召し上がられました」。。。
「今日は途中でムセたのでお食事を半量ほど摂取したところで終了しました」。。。

あちこちで何回も書き、機会あるごとにお話していますが
ムセは異物喀出作用なので食べ方の指標にはなり得ません。
摂食・嚥下5相に則って、きちんと食べ方を観察しましょう。
その方の本来の食べるチカラを見出せるように、きちんと介助できるようになりましょう。

上唇を丸めて食塊を取り込めているか
舌で食塊再形成ができているか
送り込みが円滑にできているか
喉頭は完全挙上できているか
など、観察すべきポイントがたくさんあります。

 

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論理的に考える:食事時にティルトを起こす

現行のケアやリハの在り方で常識のように行われていることでも
理屈で考えてみると、とてもおかしなことってたくさんあります。

たとえば
ふだん、股関節90度屈曲した座位がとれないために
ティルト型車椅子に座っている方ってたくさんいると思います。
その方達を食事の時にティルトを完全に起こして食事介助する。。。

大昔は老年看護の教科書に90度の法則として、
食事は股関節90度屈曲膝90度足90度屈曲の「良い」姿勢で食べるように
という記載があったとのことですが
そもそも「良い」姿勢がとれない、股関節90度屈曲位をとれない方に対して
見た目だけ「良い」姿勢を取らせることにどんな「良い意味」があるのでしょうか?

科学は過去の知識の修正の上に成り立つ学問です。
きちんと論理的に考えて不合理な常識はアップデートしていきましょう。

理屈で考えてみれば
安静時でさえ、股関節90度屈曲座位がとれないのに
食べる(たとえ、全介助であっても)という、運動をする時にティルトを起こされたら
姿勢が崩れてしまいます。

もともと、仙骨座りの人だからティルトを倒して座っているのに
ティルトを起こされたら、ますます仙骨座りになってしまいます。
座面が平らだと前に滑り落ちそうになってしまいます。
その不安定さをなんとかしようとすると
使えるところを使うしかないので頸部の伸筋群を過剰収縮させることになります。
頸部の筋は、姿勢保持と嚥下と呼吸に関与しています。
姿勢保持に使う割合が増えれば、その分嚥下と呼吸の働きが疎かになりかねません。

また、仙骨座りを助長するような座り方をさせるので
剪断力が働き褥瘡発生のリスクが高まってしまいます。

何回も書いていますが、
褥瘡の原因は垂直方向の圧迫だけではありません。
ここを誤認している人がいまだに多いことに驚きますが
横や斜めのズレ、剪断力も褥瘡の原因の一つですから
思い込みを卒業し、仮に現行のケアやリハの常識とされていたとしても
論理的に考えて適切かどうかを判断したいものです。

 

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靴下の工夫:むくみと認知面

    

こちらは _徳武産業さんのあゆみシリーズ_ から
 _「あゆみが作った靴下のびのび2」_ です。

お年寄りだと足がむくんでしまう方ってとても多くて
普通の靴下だときつくて履けないこともあるかと思います。
そんな時の救世主がこちらです。
「ギプスの上からでも履けます」というキャッチフレーズの通り
本当によく伸びます。
前後の向きを気にせず履けるところもポイント高し!

続いては認知症のある方で
自分で着たり脱いだりする動作能力はあるけれど
前後を間違えたりといった認知面の問題で
更衣が一部介助になってしまうケースに対する工夫です。

認知症で構成障害が出てくると
洋服の前後や上下を間違えてご自身で着ることが困難になってくることがよくあります。

「障害」による「日常生活の困難」なので
本人に障害に対してトレーニングをするのではなくて
環境調整として靴下の選択を工夫することで
更衣というADL能力の改善を目指す時の考え方と靴下の紹介です。

まずは、こちらから。
_「無印良品」_さんの _「足なり直角靴下」_ です。

商品の本来の特性としては
踵を直角に足の形状に合わせて作ったことでズレにくい
というものですが
足の形状に合わせて作られたカタチから
こちらがつま先、ここが踵、と靴下のカタチが履き方を誘導してくれます。
いわば、履く前の認知面、足に靴下を合わせる段階で有効なのです。
1足399円というお値段も嬉しいです。

一方で、色無地の商品なので
履いている最中に靴下をうまく履けずに靴下がズレてしまったりすると
つま先や踵の視覚情報がありませんので修正するのは大変になってしまいます。

そんな時には、普通の靴下でもデザインによって履きやすいデザインを見つけることができます。

例えば、普通に ↑ のようなデザインの靴下も市販されています。
この色のデザインだと、つま先と踵が色情報として視覚的に区別しやすくなっています。
履いている途中でもつま先が足背部とは異なる色なので混乱しにくくなります。

あるいは、こんな風に 足袋型の靴下も市販されています。
親指とその他の指の区別が見た目でわかりやすいので
左右の区別がしやすくなるし、
親指が視覚的に強調されているので
履きながら親指に合わせて修正する。
修正しながら靴下を履く、ということが容易になります。

環境調整というのは
詰まるところ、マッチングです。
本人の能力と障害を明確に把握できれば
どんな靴下(環境)であれば、
履ける履けない(できる・できない)ということがわかります。

能力というのは、環境によりけり、程度によりけり発揮されるものです。
環境調整が的確に行えるために必要なのは、引き出しの多さではなくて
対象者の評価・状態把握であり、能力と障害・困難の把握と
環境が伝える情報を明確化できるというセラピストの能力です。

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