Category: 工夫のひきだし あれやこれ

HDS-RとMMSEの扱い方・留意点

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HDS-Rを施行すると、怒り出してしまう方がたくさんいます。
(怒り出すということも大事な情報ですが)

検査は大事ですが
検査しなくても観察から検査と同等の洞察ができれば
認知症のある方の心身の負担を減らすことができるとずっと思っていました。

そのため
HDS-Rやかなひろいテストをする一方で
日常生活や会話の質的内容や行動との照合をずっと行なってきました。

HDS-Rの項目の意義を理解できるようになり
生活場面への反映についてそれなりに洞察ができるようになり
だんだんと観察だけでもかなりHDS-Rの予測がつくようになり
生活場面への反映についてもわかってきたので
HDS-Rの検査場面でちょっと1工夫することも始めました。
詳細は 「対応に役立つHDS-Rの工夫」 をご参照ください。

ところが、
これだけ認知症の普及啓発がなされている現状でも
実際に働いている職員の中には
「リハに支障がない」「従命可」「会話が弾む」「気遣いができる」「冗談が言える」
という程度の根拠で
「認知症じゃない」「年相応の物忘れ」などと、
安易に無責任な判断をする人がまだまだ多いという現実にびっくりしています。

「ちゃんとお話ができるから認知症じゃない」
という言葉を幾度聞いたことでしょう。
この言葉はその裏側に
「認知症になるとちゃんとお話ができない」
という思い込み・偏見があるからこそ、言える言葉です。
そんなことは決してありません。
HDS-R3/30点の方が
「こんなバカな俺に優しくしてくれてありがとう」と言ったり
HDS-R0/30点の方が
「俺はよ、ここがよ(頭を指さして)こうだから(指をくるくる回す)」
と発言されたりします。

年相応の物忘れと判断された方のHDS-Rは10点
認知機能低下に言及もされず、しっかりした方と言われていた方の
HDS-Rは5点ということもありました。

これだけHDS-Rが低いと明らかに生活に影響が生じいるはずなのに、
認知機能低下が見落とされている。。。
ご家族や生活の支援をする看護介護職は困っているのに
一部のリハ職はまったく気づいていないという。。。

ひとつには
認知症、認知機能低下という概念の理解ができていない職員側の問題がありますし
他方
他者に合わせようとして生きてきた方、他者に合わせるタイプの方は
自主的に起こす行動が少ない場面だと
認知機能低下が目立ちにくいという傾向があります。
たとえば、困った時わからない時には
誰かに尋ねて返ってきた答えの通りに対応する方や
自分から何かしようとはせず指示があるまではじっと待っている方は
その場では「穏やかな方」「良い方」といった判断がなされがちで
記憶の連続性が低下していたとしても
行動特性から表面化しにくいので見落とされてしまいます。
また、俗に言う地頭の良い方、元来認知機能が高かった方は
記憶の連続性が低下しても逆症や計算ができるので
これまた見落とされがちです。

「同居しているご家族は認知機能低下によって生活支援で困っていても
 たまに来るご家族には理解してもらえないことも多い」
と言われるゆえんです。

MMSEを施行する時に
MMSEはHDS-Rとは違って、検査項目が記憶だけではない
という前提条件を見落としていると
得点結果だけで判断してしまい、状態を見誤ります。
同じ30点満点のテストでも、
得点結果が同じ20点であったとしても
どの項目で失点してどの項目で得点したかは全く異なります。

実際に
他院でMMSEが10点代後半、疎通も良好で礼節も保持されていた方で
他院からのリハサマリーに認知機能低下への言及がまったくなかった方とお話をしていたら
1分前にした説明を忘れてしまっていたので
HDS-Rをとったら10/30点だったということがありました。
遅延再生も見当識も0点でした。そのかわり計算や語想起は満点だったという方もいました。

得点結果だけで判断してはいけないのです。

HDS-RとMMSEの違いを認識した上で使い分ける
そして、失点項目と得点項目に着目する
わからない時にどんな風に対応するのかということを観察しておくと
日常生活で困難に遭遇した時の行動パターンが予測できて
対応方法を明確化することに役立ちます。

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車椅子で前傾してしまう方への対応

上図のように
車椅子上で体幹が前傾してしまう
背もたれに寄りかかるように動作介助しても
身体が硬くてすぐに前傾してしまう方っていますよね?
ティルト型車椅子に変更してティルトを倒してもやっぱり前傾してしまう
そのような場合、どうしていますか?

車椅子上での姿勢について
車椅子上でクッションを入れる対処はしても
臥床時の姿勢、ポジショニングの見直しをしている人は少ないのですが
実はここが重要なのです。

上述のような方の場合
骨盤と体幹の分離が不十分というケースが圧倒的に多いものです。

臥床や離床介助の時に
立ち上がり時の動作を確認すると
腰背部を伸張した前傾ではなくて
骨盤も一緒に浮き上がってしまう。
なんなら、下肢も屈曲位のまま、浮き上がってしまい
足底接地や足底への荷重が難しい。。。ということもあります。

臥床時は
体軸内回旋が乏しく
骨盤を動かすと下肢も体幹も一緒にゴロンと転がってしまいます。
運動麻痺があるわけでもないのに(運動麻痺があることも多々ありますが)
全身がガチガチに硬くなってしまっているのです。
そして、このガチガチの硬さに対応せずに
座位でのポジショニングしかしていない人がとても多いのです。。。

こんなにガチガチだとおむつ交換も大変ですし
臥床はしていても、寝ても寝た気がしないと思います。
臥床本来の目的である身体をゆっくり休めることができないのではないでしょうか。

こんなにガチガチに硬くなってしまうのには理由があって
1)ポジショニングをまったくされてこなかった
2)不適切なポジショニングをされてきた
どちらでも起こり得ます。

筋緊張緩和目的のポジショニングは
過剰な筋緊張をせずとも臥床できるように環境調整することが肝要です。

まず、個々人のキーポイントを見つけられるように観察します。

臨床上、最も多いのは、
骨盤の傾きや肩甲帯の不安定さを見落とされているケースです。
そこを対応するだけで身体柔軟性が発揮されるようになります。
また、下肢の伸展パターンに対しては
骨盤後傾と股関節の屈曲位を引き出すような設定をすると
伸展パターンの抑制が可能となることも多々ありますし
側臥位設定することで伸展パターンの抑制が可能となることもあります。

どうしたら良いか、途方に暮れてしまう、という人は
まず、全身のアライメントを観察してください。
ベッドの足元側から観察し、
次にベッドの右側から、左側からも観察してください。
観察が難しければ、許可を得た上で臥床時の姿勢を写真に撮り、
各関節がどうなっているのか、一つひとつの関節角度をきちんと確認しましょう。
そして必ず筋緊張を確認しましょう。

全身の一つひとつの関節の状態がどうなっているのかがわかり
筋緊張も把握できれば
どうしてそうなっているのか、どうしたら良いのかということが
自然と一本道のように浮かび上がってきます。
あとは、浮かび上がってきたことを具現化するだけです。

この繰り返しで即座に観察・洞察することができるようになります。

どうポジショニングしたら良いかわからない
と言う人に限ってこの過程をすっ飛ばしていますが
「自分がわからない」という事実にきちんと向き合って
どうしたら自分自身でわかるようになるのかを考え対処しない限り
永遠にわからないままです。
そうするとハウツーを当てはめるだけになってしまい
しかも当てはめたハウツーがその方に適切だったかどうかもわからないままとなってしまいます。

どうポジショニングしたら良いのかがわからないのではなくて
その方に何が起こっているのかがわかっていないのですから
何が起こっているのかをわかるようにならなければいけません。
(認知症のある方への生活障害やBPSDへの対応とまったく同じコトが違うカタチで現れています)

ここを誤解している人がとても多いのです。
「どうしたら良いか」と問うのではなく
「何が起こっているのか」と問うべきであり
「自分がこの方に何が起こっているのかわからない。どうしたらわかるようになるのか」
と問うことから始めるしかありません。

正しく問うことができるから正しい答えを得られます。
今までは問うてはいたけれど問い方を間違えていたのです。
だったら、間違えずに問えるようになれば良いだけです。

   ポジショニングに限らず
   食事介助や認知症のある方への対応なども含めて
   最も重要なことは常に状態把握・評価です。

   実習において学生に体験学習させるべきはこの臨床姿勢であり
   協会主催の研修会でも再学習を促した方が良いと考えています。
   なぜなら、私の経験ですが
   (各地で多様な主催者から多様なテーマで多数の講演を依頼されてきました)
   講演後の質疑応答で「どうしたら良いのでしょう?」と質問する人は多くても
   「どうしたら的確な評価を行えるようになるのでしょう?」と質問した人は
   今までに1人しかいませんでした。
   正しく問える能力を養成すべきだと考えています。

それでは、次の記事で
ポジショニング設定の基本についてご説明します。

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なぜ股関節周囲筋が硬くなるのか?

なぜ、生活期の方の股関節周囲筋が硬くなるのか?

一つには、前の記事で記載したように
臥床時のポジショニングの問題があると思っています。
褥瘡予防と言いながらも
結果的に逆効果となるようなポジショニングをしてしまっている。。。
近位部を短縮させるようなポジショニングをしてしまっている。。。
クッションを外した後でクッションを入れる前よりも
下肢の内転内旋がひどくなっている事実を目の前にしながらも
「善かれ」と思って為したことなので
見ているのに観落としている、PDCAを回せない、という現実があると感じています。

もう一つは、
立ち上がりの問題です。

足で踏ん張って床半力を利用して立ち上がる方法を指導された人は多いと思います。

でも、この写真を見て重心がどこにあるか考えてみてください。

床半力は足底から垂直に働きますが(黄色い線)
重心は黄色い線よりも後方にあるので
床半力だけでは立ち上がれません。
後方にひっくり返ってしまいます。
そこで無自覚のうちに腰背部の筋肉を収縮させて離臀しようとします。
 
床半力の力を大きくしようとして
踏ん張れば踏ん張るほど
後方にひっくり返らないように
より強く腰背部の筋肉を使って離臀させる必要が生じます。

そして
移乗動作時には
自力遂行する方でも介助を受ける場合でも
離臀した状態のまま、股関節屈曲させたまま、方向転換をするケースが多いものです。

日中、長時間車椅子で離床する生活、
つまり股関節屈曲位を取り続ける生活をしていて
その上、1日に何回も行う移乗動作時に股関節屈曲を使う方法で動作して
さらに、臥床ときに筋の近位部を収縮させるようなポジショニングをして
。。。これで、股関節の屈曲拘縮が起こらないわけがないと思います。

でも、逆に言えば
日中、短時間でも臥床時間を設けて
移乗動作ときには腰背部を伸長させるような方法で移乗動作を行うように指導をして
臥床時には身体がリラックスできるようなポジショニングをする
。。。そうすれば、股関節の屈曲拘縮が起こりにくい状況を作れると確信しています。

上記全てを同時に実践できなくても
どれか一つだけでも変われば、身体の働きは相当変わります。

 

 

 

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対応に役立つHDS-Rの工夫

認知症のある方の評価として、HDS-RやMMSEをとる人はたくさんいると思います。
一時期、「認知症のある方を傷つける恐れがあるからHDS-Rはしません」
という学生に複数遭遇しました。
そんな時に私は
「HDS-Rをとらなくても
記憶障害について根拠を元に明確に説明できるくらいに状態把握できるなら
HDS-Rをとらなくてもいいよ。
でも、それができないならHDS-Rをとって状態把握をしなさい。」
と指導してきました。

認知症という状態像を引き起こす疾患の中で圧倒的に多い
アルツハイマー型認知症の主要な障害は記憶障害です。
記憶障害の状態を把握できずにどうやって評価ができるのでしょうか?
どうやって適切な対応ができるのでしょうか?

学生の「相手を傷つけたくない」という気持ちは尊いものですが
状態を把握できなければ
的確な対応が行えるはずがありません。

確かに
HDS-Rをとる過程において
怒り出してしまう方や途中で拒否する方もいます。
でも、それはそれで大切な情報の一つなんです。

もっと重要なことは
相手を傷つけるかもしれないリスクを知った上で
とったHDS-Rの結果を日々の対応に活用すべきなのです。

HDS-RやMMSEをとっても
その結果を声かけや対応の工夫に生かしているセラピストは
まだまだ少ないのが現状です。

検査は検査、治療は治療、対応の工夫は対応の工夫と
バラバラになってしまっていて
個々の認知症のある方の状態を元に対応の工夫を考える
といった展開にはまだまだ至っていないのが現状です。
だから
「〇〇という状態の人がいるんですけど、どうしたらいいでしょうか?」
という質問をする人が絶えないのだと感じています。

本当に状態像を把握できれば
どうしたら良いのか、という対応の工夫は
自ずから一本道のように浮かび上がってくるものなのです。

作業療法は人文科学として
根拠を目の前にいる方の状態像に置いた展開ができるはずです。
そのために必要なことは医学的知識を元にした科学的な観察と洞察です。
その一方で、観察と洞察の技術を磨くには経験が必要です。
時間がかかるのです。
初学者は理想を語るのではなくて、
理想を具現化するための過程として検査もすべきです。
相手を傷つける検査が嫌なのであれば検査をせずとも
状態像を明確化できる技術を磨くべきです。
理想を語るだけですべきことをしないのは本末転倒です。

誤解のないように付け加えると
障害を明確化するのは能力を明確化するためです。
できないことのできなさをどれだけわかっても
認知症のある方の役に立つことはできません。
できること、埋もれていて表面には見えない能力をこそ
見出し、活用することが望まれます。

そこで、その工夫の一例として
HDS-Rをとる際に私がしているちょっとした工夫をお伝えします。

検査は本来実施方法が決められているものですが
一方で治療や対応に役立てるためにするものでもあります。
方法としては少し逸脱してしまいますが
研究資料として使用するのでなければ
このような工夫をするのは実際的でその後の対応に非常に役立つ情報を得ることができます。

一番最初に、年齢を尋ねます。
そこで答えられなくても生年月日や生まれ年の干支を尋ねます。
認知症が進行すると自身の生年月日も干支も答えられなくなりますが
一方で実生活において、年齢を答えるという必要性がないために答えられない
という方もいます。

次に
遅延再生の可否を確認をする質問で
ここで3問全問正解できなかった場合には
正解を伝えてその時の反応を見ます。
つまり、聴覚情報を提供して再認できるかどうか見ているのです。

5つの物品の質問で
5問全問正解できなかった時には
5つの物品を目の前に提示してその時の反応を見ます。
つまり、視覚情報を提供して再認できるかどうかを見ています。

最後の語想起課題で
全て答えられなかった場合には
検査を終える前に
その方が答えた野菜を使った献立や好きな調理方法について尋ねます。
まず、オープンクエスチョンで尋ねて答えられればそのままお話を聞きます。
答えられなければ、クローズドクエスチョンで尋ねます。
すると大抵の方は再認できて「おう」「好きだよ」「そうそう」などと
お話を始めてくれます。
HDS-Rを終える前に「できた」体験をしていただく配慮をしています。
だからと言って、不全感や困惑や困った体験をさせてしまったことを
帳消しにはできませんが、こちらのマナーとしてそのような工夫をしています。

HDS-Rの得点結果だけを見るのではなくて
上記のように、聴覚情報で再認できるのか、視覚情報で再認できるのか
ということは日々の場面でも同じようなことが起こっていますので
対応の工夫に直結します。

そして、答えられなかった時の反応を見ておくと対応に活かせます。
わからなかった時に怒ってしまう方は
日々の場面で困った時に怒ることが多いし
わからなかった時に思いついた言葉を並べるような方は
実際の生活場面でも自身でなんとか対処しようとすることが多いし
逆に俯いて硬い表情になってしまう方は困った時に他者に尋ねて解決することができない
といったようなことが起こります。

HDS-RやMMSEを
単にとるべき検査項目の1つとして設定するか
貴重な情報を得ることができる機会として捉えるか
検者の在り方によって、得られる情報の量も深度もまったく変わってくるのです。

 

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靴下の工夫:むくみと認知面

    

こちらは _徳武産業さんのあゆみシリーズ_ から
 _「あゆみが作った靴下のびのび2」_ です。

お年寄りだと足がむくんでしまう方ってとても多くて
普通の靴下だときつくて履けないこともあるかと思います。
そんな時の救世主がこちらです。
「ギプスの上からでも履けます」というキャッチフレーズの通り
本当によく伸びます。
前後の向きを気にせず履けるところもポイント高し!

続いては認知症のある方で
自分で着たり脱いだりする動作能力はあるけれど
前後を間違えたりといった認知面の問題で
更衣が一部介助になってしまうケースに対する工夫です。

認知症で構成障害が出てくると
洋服の前後や上下を間違えてご自身で着ることが困難になってくることがよくあります。

「障害」による「日常生活の困難」なので
本人に障害に対してトレーニングをするのではなくて
環境調整として靴下の選択を工夫することで
更衣というADL能力の改善を目指す時の考え方と靴下の紹介です。

まずは、こちらから。
_「無印良品」_さんの _「足なり直角靴下」_ です。

商品の本来の特性としては
踵を直角に足の形状に合わせて作ったことでズレにくい
というものですが
足の形状に合わせて作られたカタチから
こちらがつま先、ここが踵、と靴下のカタチが履き方を誘導してくれます。
いわば、履く前の認知面、足に靴下を合わせる段階で有効なのです。
1足399円というお値段も嬉しいです。

一方で、色無地の商品なので
履いている最中に靴下をうまく履けずに靴下がズレてしまったりすると
つま先や踵の視覚情報がありませんので修正するのは大変になってしまいます。

そんな時には、普通の靴下でもデザインによって履きやすいデザインを見つけることができます。

例えば、普通に ↑ のようなデザインの靴下も市販されています。
この色のデザインだと、つま先と踵が色情報として視覚的に区別しやすくなっています。
履いている途中でもつま先が足背部とは異なる色なので混乱しにくくなります。

あるいは、こんな風に 足袋型の靴下も市販されています。
親指とその他の指の区別が見た目でわかりやすいので
左右の区別がしやすくなるし、
親指が視覚的に強調されているので
履きながら親指に合わせて修正する。
修正しながら靴下を履く、ということが容易になります。

環境調整というのは
詰まるところ、マッチングです。
本人の能力と障害を明確に把握できれば
どんな靴下(環境)であれば、
履ける履けない(できる・できない)ということがわかります。

能力というのは、環境によりけり、程度によりけり発揮されるものです。
環境調整が的確に行えるために必要なのは、引き出しの多さではなくて
対象者の評価・状態把握であり、能力と障害・困難の把握と
環境が伝える情報を明確化できるというセラピストの能力です。

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ポジショニング術、伝授します(10)手指にスポンジ

 

手指を開くことができずに
爪切りができなかったり
手掌面の衛生管理ができずにいた方でも
スポンジを装着していただくことでそれらが可能になります。
肘の伸展筋群が過緊張状態で更衣が大変だった方の手指にスポンジを装着して
肘の屈伸がスムーズになったこともありました。
もちろん可動域が100%元通りになるわけではありませんが
日常生活上の支障は無くなります。

人の手の筋緊張は
どんなに強い拘縮のある方でも24時間同じ筋緊張ではなく
必ず変動があるものです。
その変動をスポンジの反発性を活かして増幅させるところに意義があります。 
だから、スポンジを外しても、手指が伸展・開排肢位を保つことができるのです。
よくある市販品やタオルやガーゼを巻いて握ってもらっても
大抵、外すとキューっと一気に握り込んでしまうでしょう?
スポンジであれば、適切に作成できればそんなことはまずありません。

筋緊張の変動を生かすということは、当然、前提として
臥床時・離床時に全身の適切なポジショニングが設定できることは必須となります。

このスポンジセラピーの良いところは
spasticityだけでなくrigidityへも対応可能で
人の手によるリラクゼーションの手間を省略して
関節そのものを動かしたり、その次の展開へと結びつける時間を確保できる
ところにあります。

スポンジセラピーで良い結果が出ない時には
まず、自身の選択と対応の適・不適について確認していただきたいと思います。
決して、手指だけを見て過剰な大きさ・過剰な反発性で作らないでいただきたいと思います。
末梢を過剰に外的に見た目だけ伸長させれば近位部の過剰収縮を招きます。
既に説明したように、大腿四頭筋や縫工筋などポジショニングのクッションと
全く同じことが違うカタチで起こってしまいます。

修正・改善するのではなくて、援助するという観点に立って
近位の手関節や肘、肩関節に負担をかけないように作成します。

また、手指の拘縮が長期にわたっていた方の場合に
皮膚も短縮していることが往々にしてありますので
過剰な伸展位の設定は皮膚を傷つける恐れがあります。
いきなり最大可動域でスポンジを作ることは危険です。

私は、通常、小さめ・弱めに作って上肢全体の状態を確認しながら
必要であれば2個目、3個目で完成版を作成するようにしています。

適切に、スポンジの大きさ・形・反発性を選択することができれば
最初は嫌がって拒否をしていても
拒否の程度が装着時のみに限定されたり
拒否がなくなったり
痛みを訴えることもなくなったりしてきます。

たぶん、「スポンジを装着すると楽だ」ということが実感できているのだと思います。

拘縮が強く、筋緊張が亢進している方ほど
スポンジセラピーによって状態が劇的に良くなりますから
他職種への説明の説得力があります。

そのスポンジですが
オートバックスやイエローハットなどのカー用品店で
洗車用のスポンジを購入して作っています。
最初は100均で台所用スポンジを使っていたのですが
気に入っていたスポンジが販売されなくなったことと
手の大きな方には台所用スポンジでは小さすぎたので
大きめの洗車用スポンジを使うようになりました。

Amazonでも購入できますが、
スポンジの反発性を確認してから購入した方が良いと思います。
私は最近は、こちらの商品をよく使用しています。

まず、反発性が弱目のスポンジで小さく作ります。
ここがポイントです。
修正するのではなく、援助するのですから、
受け入れられる変化にとどめる、負担をかけない、他部位に代償させない

ということが大切です。

作成したスポンジはガーゼでくるんで手に固定しています。
以前は冒頭の写真のように
スポンジの中に紐やマジックテープを通すこともありましたが
消毒などの衛生面を考慮してガーゼ固定を選択するようになりました。
洗浄・消毒が担保されれば紐やマジックテープの固定の方が良いと思います。

本来、皮膚に接したガーゼは使い捨てるものですが
諸般の事情で難しい場合もあるかもしれません。
他の方と使い回すことのないように
その方専用で洗って期間を決めて交換しても良いかもしれません。
ただし、血液や膿などで汚染されたガーゼは必ず破棄するようにしましょう。
  
スポンジは、入浴時などに洗ったりアルコール消毒して乾燥させて再利用します。
理想は、毎日交換できることです。
なぜかわかりませんが、つぶれて変形したスポンジにアルコールスプレーをすると
ふっくらと反発性が戻り、形も元に戻ります。

他部門が紛失してしまうことも起こりえますから
可能であれば、洗い替え用に1つ、紛失に備えてもう1つ
最初に3つ同じものを用意しておけば、いざという時に即応できます。

退院・退所時には
スポンジの意義を文書化したものを用意して
スポンジと一緒に持っていっていただきます。
意義を理解した上で使うことが重要です。
たいていの人はスポンジの意義を知らずに
タオルや脱脂綿を巻いて使ったり、市販品を使ったり
逆効果になることをしています。
そして、逆効果になっているのに
PDCAを回すことなく、
事実に目を向けることなく、
何が起きているのかを洞察しようともせずに
今までそうしてきたから
周囲もそうしているから
漫然と使用を継続し、状態を悪化させてしまうのです。
  
善意があったとしても
知識がない、技術がない、事実を直視しようとしないために
逆効果になることをしてしまうのは本当にもったいないことだと感じています。

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ポジショニング術、伝授します(9)車椅子座位のポイント

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車椅子離床時のポジショニングは
端座位をとっていただいて確認しています。
どのような介助をしたら(どこを支えれば)端座位が取れるのか
支えた部分にクッションや巻きタオルを設置
しています。

明らかに介助端座位をとることが難しい方は
ティルト型車椅子に座っていただいて
(1)前から見て(2)左右両側から見て姿勢確認をします。

まず、第一に確認するのは
車椅子との不適合がないか、どうかです。
特に、座面の奥行きと乗車する対象者の方の大腿長が不適合だと
臀部の前方への滑り座りを惹起させることになりますので要注意です。

可能であれば
対象者の体格と車椅子の座幅が大きく異ならない方が良いと思います。
現実には選択肢が限られていることの方が多いと思いますので
対象者の体格よりも車椅子の座幅の方が大きい時には
側面をクッションで補助するなどの工夫で補います。

最後に
対象者固有のポイントに対処します。

例えば
普通型車椅子に乗車可能な方で
拘縮によって脚長差があれば修正するのではなくて
脚長差があっても上位の体幹に影響が及ばないようにポジショニングを設定します。

気をつけなければならないことは
車椅子上で傾きがある方に対して
クッションを入れ込んだりすることはしても
臥床時のポジショニングを疎かにしてしまいがちなことです。

車椅子上で身体が傾いている方というのは
体幹が低緊張か高緊張かのいずれかですが
臨床的には高緊張の方の方が圧倒的に多いです。
臥床時のポジショニングを設定しただけで
車椅子座位での傾きがなくなるというケースを多数経験しています。

ただ単に車椅子座位時に傾いている側にクッションを当てこんだり
座面を傾けたりするような表面的な対応からは卒業しましょう。

 

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ポジショニング術、伝授します(7)効果確認

ポジショニングを設定したら
まず、することは状態確認です。

設定前に、真横からと足元から
全身を観察し、上下肢の他動運動への抵抗感を確認していますから
設定後にも同様に上下肢の他動運動への抵抗感を確認して
変化を把握します。

きちんと適切に設定されていれば
設定直後から筋緊張は緩和するものです。
さらに日を重ねて筋緊張の度合いはより遠位の筋に及んでいきます。

筋緊張緩和した結果として
良肢位につながっていきます。

順序は逆ではないのです。

こんなことを繰り返していれば
百害あって一利なし
お身体はどんどん硬くなってしまいます。

私たちの不適切な対応と考え方がいけないのに
大多数の人は、
「ちゃんと対応したのにどんどん身体が硬くなるのは対象者の問題」
だから「仕方ない」と思考放棄してしまいます。

ポジショニングとは、見た目を整えることではないのです。

良かれと思って設定したのに
結果が出ない、良肢位保持できない、筋緊張が緩和しない
という時には、ポジショニングの設定が良くないのです。

臥床時のポジショニングは
身体の姿勢保持の働きを休めてリラックスできることが目的です。

ポジショニング設定後には
目的が達成されたかどうか、確認が必要です。
私は臥床時のポジショニングを設定したら
必ず膝や上肢を左右に動かして筋緊張の変化を確認しています。
設定直後はもちろんですが
時間を置いて、もう一度再訪し
姿勢の崩れの有無と筋緊張の変化を再確認しています。

ここまでする人は少ないようですが
(自分の設定が適切かどうか、確認しないで不安じゃないのかな?)
設定が適切かどうか、判断できるのは設定者ですから
必ず確認をしていただきたいものですし
再確認の時に姿勢や設定が崩れていたとしたら
どこかに問題があり、その問題を見落としていた、ということなので
もう一度、真横からと足元から全身を観察して設定をやり直せば良い
だけです。

ここを間違えると
何回、観察したって適切な設定など、できようはずがありません。
食事介助や生活障害、BPSDへの対応とまったく同じなのです。

また、適切にポジショニングが設定されると
時間が経つと設定直後よりさらに筋緊張が緩和されてきます。
設定前に不適切な対応をされていた方ほど変化が大きくなりますから
適切な設定ができていたからこそ再設定が必要になることもあります。
(余分なクッションを外せる)

1時間後、翌日、3日後、1週間後くらいには再確認をしておきましょう。

ガチガチに硬かった足関節や肘が動くようになることも多々あります。

 

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