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ポジショニング術、伝授します(10)手指にスポンジ

 

手指を開くことができずに
爪切りができなかったり
手掌面の衛生管理ができずにいた方でも
スポンジを装着していただくことでそれらが可能になります。
肘の伸展筋群が過緊張状態で更衣が大変だった方の手指にスポンジを装着して
肘の屈伸がスムーズになったこともありました。
もちろん可動域が100%元通りになるわけではありませんが
日常生活上の支障は無くなります。

人の手の筋緊張は
どんなに強い拘縮のある方でも24時間同じ筋緊張ではなく
必ず変動があるものです。
その変動をスポンジの反発性を活かして増幅させるところに意義があります。 
だから、スポンジを外しても、手指が伸展・開排肢位を保つことができるのです。
よくある市販品やタオルやガーゼを巻いて握ってもらっても
大抵、外すとキューっと一気に握り込んでしまうでしょう?
スポンジであれば、適切に作成できればそんなことはまずありません。

筋緊張の変動を生かすということは、当然、前提として
臥床時・離床時に全身の適切なポジショニングが設定できることは必須となります。

このスポンジセラピーの良いところは
spasticityだけでなくrigidityへも対応可能で
人の手によるリラクゼーションの手間を省略して
関節そのものを動かしたり、その次の展開へと結びつける時間を確保できる
ところにあります。

スポンジセラピーで良い結果が出ない時には
まず、自身の選択と対応の適・不適について確認していただきたいと思います。
決して、手指だけを見て過剰な大きさ・過剰な反発性で作らないでいただきたいと思います。
末梢を過剰に外的に見た目だけ伸長させれば近位部の過剰収縮を招きます。
既に説明したように、大腿四頭筋や縫工筋などポジショニングのクッションと
全く同じことが違うカタチで起こってしまいます。

修正・改善するのではなくて、援助するという観点に立って
近位の手関節や肘、肩関節に負担をかけないように作成します。

また、手指の拘縮が長期にわたっていた方の場合に
皮膚も短縮していることが往々にしてありますので
過剰な伸展位の設定は皮膚を傷つける恐れがあります。
いきなり最大可動域でスポンジを作ることは危険です。

私は、通常、小さめ・弱めに作って上肢全体の状態を確認しながら
必要であれば2個目、3個目で完成版を作成するようにしています。

適切に、スポンジの大きさ・形・反発性を選択することができれば
最初は嫌がって拒否をしていても
拒否の程度が装着時のみに限定されたり
拒否がなくなったり
痛みを訴えることもなくなったりしてきます。

たぶん、「スポンジを装着すると楽だ」ということが実感できているのだと思います。

拘縮が強く、筋緊張が亢進している方ほど
スポンジセラピーによって状態が劇的に良くなりますから
他職種への説明の説得力があります。

そのスポンジですが
オートバックスやイエローハットなどのカー用品店で
洗車用のスポンジを購入して作っています。
最初は100均で台所用スポンジを使っていたのですが
気に入っていたスポンジが販売されなくなったことと
手の大きな方には台所用スポンジでは小さすぎたので
大きめの洗車用スポンジを使うようになりました。

Amazonでも購入できますが、
スポンジの反発性を確認してから購入した方が良いと思います。
私は最近は、こちらの商品をよく使用しています。

まず、反発性が弱目のスポンジで小さく作ります。
ここがポイントです。
修正するのではなく、援助するのですから、
受け入れられる変化にとどめる、負担をかけない、他部位に代償させない

ということが大切です。

作成したスポンジはガーゼでくるんで手に固定しています。
以前は冒頭の写真のように
スポンジの中に紐やマジックテープを通すこともありましたが
消毒などの衛生面を考慮してガーゼ固定を選択するようになりました。
洗浄・消毒が担保されれば紐やマジックテープの固定の方が良いと思います。

本来、皮膚に接したガーゼは使い捨てるものですが
諸般の事情で難しい場合もあるかもしれません。
他の方と使い回すことのないように
その方専用で洗って期間を決めて交換しても良いかもしれません。
ただし、血液や膿などで汚染されたガーゼは必ず破棄するようにしましょう。
  
スポンジは、入浴時などに洗ったりアルコール消毒して乾燥させて再利用します。
理想は、毎日交換できることです。
なぜかわかりませんが、つぶれて変形したスポンジにアルコールスプレーをすると
ふっくらと反発性が戻り、形も元に戻ります。

他部門が紛失してしまうことも起こりえますから
可能であれば、洗い替え用に1つ、紛失に備えてもう1つ
最初に3つ同じものを用意しておけば、いざという時に即応できます。

退院・退所時には
スポンジの意義を文書化したものを用意して
スポンジと一緒に持っていっていただきます。
意義を理解した上で使うことが重要です。
たいていの人はスポンジの意義を知らずに
タオルや脱脂綿を巻いて使ったり、市販品を使ったり
逆効果になることをしています。
そして、逆効果になっているのに
PDCAを回すことなく、
事実に目を向けることなく、
何が起きているのかを洞察しようともせずに
今までそうしてきたから
周囲もそうしているから
漫然と使用を継続し、状態を悪化させてしまうのです。
  
善意があったとしても
知識がない、技術がない、事実を直視しようとしないために
逆効果になることをしてしまうのは本当にもったいないことだと感じています。

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ポジショニング術、伝授します(6)側臥位設定のポイント

側臥位では
必ず肩甲帯〜骨盤帯の後にクッションを設置して寄りかかれるようにします。
寄りかかる=身体を預けられる=筋の姿勢保持の働きを休めることができる=筋緊張緩和する
からです。

ここで気をつけなければいけないことは
完全側臥位をとらせてはいけない。ということです。
完全側臥位はベッドに接する身体の支持面がとても狭く不安定な姿勢です。
また、下側になっている上下肢を引き出しておかないと
圧迫されて橈骨神経麻痺による下垂手や腓骨神経麻痺による下垂足を起こしてしまうこともあります。

 * 橈骨神経麻痺 と 腓骨神経麻痺 はそれぞれのページをご参照ください。
   
30度側臥位が推奨されていますが、
最も重要なことは身体を面で支えるということです。
身体を面で支えた上で重心の位置を変えていけば良いのです。

変形・拘縮があったり
筋緊張が亢進していれば
身体を面で支えることが難しくなります。
一見、ベッドに身体が接しているように見えても
筋緊張が亢進していれば、
支持面が狭くなりますし
筋肉内を走る毛細血管も拡張しにくいので循環障害も起こりやすくなります。

側臥位は不安定になりやすい姿勢ですので気をつけていただきたいものです。
ポイントは、
1)肩甲帯〜骨盤帯をきちんとクッションで支える
2)下側の上下肢はきちんと引き出す

ということです。

 

 

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ポジショニング術、伝授します(5)見た目を整えるのではなく働きを変える

きちんと観察すれば
その方がどういう状態なのか、そのポイントを洞察することができます。

洞察するに際して、最も重要なことは考え方で
良いと考える姿勢から、差し引きマイナスで現状を見て
「修正」しようとはしないことです。

その方が困っているところを洞察して「援助」しようと考えてください。

多くの場合に
「修正しよう」と考えて対応して逆効果になっているのです。
そのような考え方ができるのは、実は、
その方固有のポイントを洞察できていないからだとも言えます。

例えば
下肢が交差してしまうケースでも
状態像はケースによって、まったく異なりますが
きちんと全体を観察しないと
ただ、下肢が交差しないようにというポジショニングを設定してしまいがちです。
(そして効果がないのに、そのまま放置されて、対象者の状態のせいにされるという。。。)

ある方は
下肢そのものの筋緊張はさほど高くありませんでしたが
円背があって肩甲骨が外転・前方突出していて肩甲帯が不安定でした。
肩甲帯が安定するように肩甲骨〜上腕にかけて柔らかなクッションを、
膝下〜下腿にかけてクッションを設置したところ
下肢の交差そのものへは何の対処もせずとも
交差することはなくなったということもありました。

別の方は
下肢を含めた全身の筋緊張が高く
下肢は伸展パターンをとっていましたので
骨盤を後傾させ股関節を屈曲させてからクッションを設置し
膝下〜下腿にクッションを設置することで全身の筋緊張が緩和されました。

見た目は同じ「下肢が交差している」状態でも
1例目は肩甲帯の不安定さ
2例目は下肢の伸展パターン
というように、状態像は全く異なっていますから、当然、対処も全く異なります。

下肢の交差という、とても目立つ「見た目」があると
そこに注目して、修正しようとしがちですが
まず、常に全身、全体像を観察することが重要です。

1例目は
目立つ「見た目」にとらわれて
ポイントである肩甲帯の不安定さを見落としてしまいがちですし
2例目は
目立つ「見た目」にとらわれて
下肢だけを外転・屈曲させようとクッションを膝の間に詰め込んだり
必死になって屈曲させようとしがちですが
大抵の場合に、クッションを外せば一気にキューっと下肢が伸展内転してしまいます。

クッションで外転・屈曲位になっていたわけではないのです。
単に見た目だけを外転・屈曲位になるように見せていただけなのです。

クッションを外したから不良姿勢になったわけではなくて
クッションを外したことで観察力の未熟な人にでも
身体の状態、働きが見えるようになっただけなのです。

解剖を思い出してください。
大腿四頭筋や縫工筋は2関節筋です。
筋肉の伸長性が保たれていない状態のまま
遠位部(膝の伸展や股関節の外転)を無理矢理伸長しようとすれば
近位部が短縮するしかありません。
見た目、膝が伸びたり股関節が外転しているように見えても
近位部は短縮するように働いているので
クッションを外すと一気に屈曲内転方向に筋肉が働くのです。

筋肉は本来ゴムのように伸び縮みするものですが
筋緊張が亢進していると伸び縮みしない、できない状態となっています。
そんな状態で見た目だけ整えるようなことを繰り返していると
全身がどんどん硬くなってしまいます。。。
これじゃあ、寝ても寝た気がしないと思うのです。。。
第一、すごく痛いと思います。

まずは、筋肉の伸長性を担保しなければ。

車椅子上でどちらかに傾いて座っている方にもよく遭遇します。
たいていの人は、傾いている側にクッションを当てたり
座面を調整しようとしますが
実は、身体の過緊張の問題だったりするので
臥床時のポジショニングを適切に設定することで
身体の働き、筋肉の本来のゴムのように伸び縮みする働きを取り戻すことができると
車椅子上のポジショニングを設定しなくても
結果として、車椅子での姿勢が改善されるということもよくあります。

見た目だけ捉えて表面的に修正しようとすると
効果が得られないどころか逆効果を生み出してしまいます。

自分の気になるところだけをみて
表面的に修正・改善しようとするような在り方は
ポジショニングだけでなく
生活期にある方の食事介助でも
認知症のある方の生活障害やBPSDへの対応についても
散見されるパターンです。

私がよく
「同じコトが違うカタチで起こっている」
と言う所以です。

 

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ポジショニング術、伝授します(4)見落としがちなポイント

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骨盤が傾いている場合
まず、傾いている側の骨盤の下にタオルを畳んで設置します。
例えば、骨盤が左方へ傾いていれば左側の骨盤の下にタオルを畳んで設置します。
すると、骨盤が左右対称位になりますから
次に、下肢とベッドの隙間を埋めるようにクッションを設置していきます。

肩甲骨が外転して前方突出していて背骨だけがベッドに接しているような場合には
肩甲骨の下もしくは肩〜上腕にかけてクッションを設置します。
背骨だけだと線で身体を支えているような状態ですが
身体とベッドの隙間を埋めるようにすることで面で身体を支えられるようにするのです。

ベッド上のポジショニングでは
身体を面で支えられるようにすることが大切です。
面で支えられずに線で支えているような状態を放置すると
身体が不安定なので安定させようと筋肉が姿勢保持の機能を行います。
すると同じ筋を同じ方向に同じ力で収縮させることになり
拘縮の原因となりますし
身体を休めることができませんし
褥瘡発生のリスクを生じさせることにもなります。

仰臥位で上記ふたつを設定しただけで
仰臥位時の筋緊張緩和だけでなく
車椅子座位の筋緊張が緩和するケースも少なくありません。
対象者本来の問題ではなく、
環境不適合によってもたらされた身体機能低下だからなのです。

上記二つをクリアした上で
次にすべきことは
対象者の方それぞれにポイントがありますので
そのポイントを見極めることです。
それは次の記事で。

 

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ポジショニング術、伝授します(3)まず全身を観察

飲みもののチカラ

どうポジショニングをしたら良いのかを、
考えるよりも、まず先にすべきことは観察です。

この、とても大切なステップをすっ飛ばす人って
とっても多いんですよね。
だから、「自分の気になるところだけを表面的に修正しようとする」ような
ポジショニングをしてしまうことになるんです。

まず、全身を観察します。
特に、現場あるあるの下記のポイントを見落とさないように観察します。

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いかがですか?

骨盤が左右どちらかに傾いて身体が捻れていませんか?
その状態のままで股関節を外転させたり膝関節を伸展させてはいませんか?
  
円背があって肩甲骨が外転して前方突出して
背骨だけで身体を支えているような状態になってはいませんか?
身体がコロンと左右どちらかに転がったり
肩甲帯とベッドの間に隙間ができてはいませんか?

まず、最優先で対応すべき部分です。
どう対応するのかは次の記事で。

その後に、全身のアライメントを観察します。
次に、優先事項に沿って設定していきます。
通常は、筋のリラックス・姿勢保持のための働きを
クッションで代用させるように考えますが
褥瘡のある方や褥瘡予防対応を優先する必要のある方の場合には
そちらを優先させた対応をします。

 

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ポジショニング術、伝授します(2)考え方

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まずは
最も重要な、考え方・視点について、お伝えしたいと思います。

生活期にある方のポジショニングで
やっちゃいけないのに現場あるあるな考え方は
「姿勢を修正しようとする」「良い姿勢に矯正しようとする」考え方です。

生活期にある方で不良姿勢があると
その不良姿勢だけを見て
表面的に「良い姿勢」を想定して
そこから、差し引きマイナスで現状を判断して
「良い姿勢」に近づけようとする、といった考え方は
OTでもPTでも散見される考え方ですが
一見、良い姿勢になったように見えても
長期的には逆効果になることがとても多いものです。
(そして、設定した人はそのことに気がつけないで
 対象者の不良姿勢、変形・拘縮がどんどんひどくなるという。。。)

認知症のある方の生活障害やBPSDに対して
表面だけを見てハウツーを当てはめるような対応の弊害について
私は、あちこちで言明していますが
ポジショニングもまったく同じで、同じコトが違うカタチで現れているだけなんです。

問題を対象者の状態像のせいに限定してはいけないのです。

まず、視点・考え方を変えましょう。

そうすると、本当にすごくお身体がガチガチで変形・拘縮が強い方でも
筋緊張が緩和してお身体が柔らかくなり可動域が改善していきます。

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予防可能その1:下垂手

移乗動作や寝返りが全介助でも食事は自力摂取している方が
突然、下垂手になってしまうこともあります。

このようなケースで圧倒的に多いのが
完全側臥位による橈骨神経麻痺です。
  
「褥瘡予防のために仙骨部を除圧しなきゃ」という善意かもしれませんが
完全側臥位は非常に危険です。

体位交換・ポジショニングに関する誤解もまだまだ多いようですが
1)完全側臥位はとらせない
2)側臥位で下になった上肢は必ず体幹から引き出す
3)肩甲帯〜骨盤帯をクッションで支える
という側臥位設定時の注意を守っていただきたいと思います。

橈骨神経麻痺は、圧迫の程度や持続時間によって回復までの時間は様々です。

一番、問題になるのが食事摂取です。

食事は、ご自身で自力摂取できていた方なのに
下垂手になると摂取困難になってしまいます。
認知症がないか、あっても軽度であれば
一時的に非利き手を使用したり
手にカフを巻きつけて代償的に食べたりもできますが
認知症が重度になってくると
食べ方を変更することは困難になり
下垂手の状態で以前と同様に食べようとして食べられず
辛い思いをされることになります。

高齢者の下垂手、橈骨神経麻痺は完全側臥位が原因のことが多く
(もちろん、その他の原因によっても起こりますが)
その場合は職員の側にありますので予防可能なことが多いのです。

 

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視覚的理解の活用:透明のコップ

ダイソーさんで購入した、透明のコップです。

認知症があると、いろいろなことを忘れてしまいますが
目で見てわかるチカラは、かなり保たれています。

ところが
高齢者施設や病院では不透明なコップを使用していることが多いですよね。

近時記憶が低下していると
水分摂取を促しても不透明なコップだと
飲み残しがあるということを忘れてしまいます。

透明なコップだと、コップにまだ飲み物が残っているということが一目瞭然
飲み残しがある→飲む という
環境認識→判断→行動の一連の過程を職員の声かけではなく
認知症のある方の視覚理解を活用する
環境調整によって援助することが叶います。

「水分摂取に促しが必要」な方の中には
「飲みたくない」のではなくて
「飲んでいたことを忘れてしまう」
「飲み終わっていないことを忘れてしまう」
「コップの中に飲み物が残っていることを忘れてしまう」
というケースも多々あります。
そのようなケースに有効なのが、視覚理解に働きかけるという環境調整による工夫です。

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