Tag: 食事介助

自己効力感

自己効力感とは
カナダ人の心理学者アルバート・バンデューラによって
「自分が行為の主体であると確信していること
自分の行為について自分がきちんと統制しているという信念
自分が外部からの要請にきちんと対応しているという確信」として
自己に対する信頼感や有能感のことだと提唱されたそうです。

介助、とりわけ食事介助って
自己効力感を高めもするし、結果として低めてしまう恐れもあるのだと感じることがあります。

臨床あるあるなのが
なんとか食事を自力摂取している方だと
全量は食べられずに少し残してしまうこともあると思います。
その時にどうするか。

あと少しだから。。。と介助することってありませんか?
気持ちは本当によくわかります。
そうしたくなりますよね。

でも
意思表示をきっぱりと明確にできる方が
自分の意思で「もういらない」と言ったのに
(もう少し食べられる?)と言われてしまうというのは
どのように受け止められているのかな。。。

普通に考えて
家族と一緒にご飯を食べていて
「もういらない」って言われた時に
「あとちょっとだから食べてよ」って言うのかな?
あんまり量が食べられなくて
「もういらない」って言われたら
「もう少し食べたら?」って言うんじゃなくて
「どうしたの?具合悪いの?」って心配するのが先なんじゃないかな?

肺炎後の回復過程において
いきなり全量摂取は目指さずに
その方の意思表示に従って「いらない」「もうたくさん」と言われたら必ず終了する
という対応をすることはよくあります。
1/3しか食べられなくても、あと一口で食べ終わる時でも
「はい。じゃあ終わりましょう」ときっぱり終わりにします。
それでもだんだんと摂取量は増えていく場合がほとんどです。

増えない場合には、他の要因がある。
食べさせないから食べられなくなる。わけじゃないし
食べさせれば食べられるようになる。わけでもなくて
食べることの援助をするから食べられるようになる。

その方が
「食事」という対象に対して
関わって、感じて、どうするか判断して、表現する
一連の過程を1つのループとして完結するように援助する。

無理やりループを大きく広げるのが援助ではなくて
どんなに小さくても、ループがループであるように援助する。

食事で感じられる、満腹感、空腹感、美味しさ、満足って
とても根源的なものだから
自己効力感と密接に関与しているんじゃないかな
と感じる今日この頃です。

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誤嚥性肺炎後回復の対応と考え方

認知症のある方や生活期にある方で
誤嚥性肺炎になってしまった後のリカバリーについて書いてみます。

1)不顕性誤嚥の予防ー口腔ケアの徹底
2)体力勝負ー焦らず・疲れず・食べる
3)食形態の選択
4)食事介助の工夫

ポイントはこの4つだと考えています。

そして、最も重要なことは、
どんな風に食べているのか、その食べ方に反映されている能力と障害・困難と特性を把握できる
つまり、アセスメント・評価・状態把握であり
アセスメント・評価・状態把握ができるためには
食べることと認知症の両方の知識に基づいた観察ができることだと考えています。

 

1)不顕性誤嚥の予防ー口腔ケアの徹底

誤嚥性肺炎肺炎の治療で
禁食にする場合とそうでない場合があるかと思いますが
禁食にした場合でも大切なのは口腔ケアです。

痰の自己喀出ができる方も
吸引をしてもらっている方も
たとえ経口摂取していなくても口腔ケアが必要です。

口腔内の清潔と湿潤を保持するために
歯のある方は必ず歯をブラッシングする
舌苔がある方は除去する
痰が硬口蓋(上顎)にこびりついていれば除去する

口腔ケアは、どうしても後回しになりがちではありますが
誤嚥性肺炎後、体力が低下していると不顕性誤嚥に罹患しやすいので
体力が戻ってきたら、ある程度大雑把でも不顕性誤嚥にならずに済みますが
(もちろん、どんな時でも口腔ケアは必須ではありますけれど)
体力が低下している時に、口腔ケアが不十分で口腔内が汚いと唾液が汚染されてしまいます。
その唾液を誤嚥してしまえば、どんなに抗生物質を点滴しても、吸引しても
イタチごっこになってしまって、なかなか治癒できないという状態になってしまいます。
いったん、解熱したのに、また熱発してしまうということも起こり得ます。

その意味で、食べた後だけではなくて食べる前の口腔ケアも必要です。
特に口腔内の粘調痰は誤嚥を引き起こしやすいので
必ず除去してから食べていただくようにしてください。

意思疎通が困難な方には
言葉だけに頼らずに、視覚情報を明確に提示することが有効です。
例えば、歯ブラシを目の前できちんと見せる。歯ブラシを左右に動かしながら「歯磨き」と言う。
実際には、総入れ歯の方の口腔ケアなどで歯ブラシを使わない方であっても
「歯ブラシ→歯磨き→開口する」ことをイメージしやすくなる場合も多いです。
口腔ケア用のスポンジを目の前で提示すると「飴」と誤認されやすく
舐めたり吸われたりしてしまってかえって開口しにくくなってしまう場合もあります。

また、いろいろな工夫をしても、
どうしても口腔ケアに協力していただけない場合もあるかと思います。
そのような時には殺菌作用があると言われている緑茶や紅茶を食後に摂取していただきながら
ケアに協力してもらえるように、どのようにしたら可能になるのかを探っていきます。

Kポイントを利用して開口を促すことも行いますが
「口を開けさせる」ためにKポイントを使うのではなくて
「開口のきっかけ」としてKポイントを活用すると考えています。
できるだけKポイントを使わなくても開口維持してもらえるように関与していきます。

認知症の状態が進行していれば
理屈ではなくて感情・感覚に働きかける声かけをします。
例えば
「歯磨きをしないと虫歯になっちゃいますよ」ではなくて
「歯磨きをすると口の中がスッキリさっぱりしますよ」と言うようにしています。

 

2)体力勝負ー焦らず・疲れず・食べる

誤嚥性肺炎後は体力が低下しているので
最初は数口食べるだけでも疲れてしまうこともあります。
疲れ切ってしまえば、意欲が低下してしまったり、この次に食べる体力がなくなってしまいます。

食べることも、筋肉が働いた結果として可能になることなので
食べることはエネルギーを摂取するというインプットの反面、
全身の運動というエネルギーのアウトプットでもあります。

食べていただきたいのはヤマヤマですが
その時に介助者の側が焦らずに
食べられる分を無理し過ぎずに食べていただくことが大切です。

1回量を把握しながら
少しずつ増えていけるように
想定より少なくても「頑張って食べた」ことを喜びあえるように励ましてください。

ふだん臥床しているお部屋から出て食堂などの異なる環境で食べることも
心理面では良い刺激にはなりますが、一方でいきなり長時間の離床は
食べる体力・気力までも低下させてしまいかねませんので注意が必要です。

病院に勤務していれば血液検査の結果を確認しながら関与できます。
特に、炎症反応を示すCRP、総蛋白TP、アルブミンALBの値は必ず参照していますし
易疲労にならないように、適正な1回量を把握するためにも
顔色・表情・活気・声量や声のハリについて注意深く観察をしています。

食べさせるのではなくて
今の状態でも、ラクにスムーズに食べられる形態と量そして離床・臥床のバランスについて検討しつつ関与していきます。

 

3)食形態の選択

食べやすい形態は様々です。
その方の食べ方をよく観察して食形態を選択することが一番のポイントとなります。

一見、咽頭期の低下に見えて、
実は口腔期の易疲労が主要問題で咽頭期は二次的に引っ張られて低下している
という状態像の方は、とても多くいらっしゃいます。
「ムセたらトロミ」という安易な発想からは卒業しましょう。

後述しますが、
「どんなものなら食べられるのか?」という問いを立てるのではなくて
「どんな風に食べているのか」を嚥下の機能解剖の知識に沿って観察することから始めます。
観察できれば必然的に「今はこの形態なら食べやすい」「この形態では食べにくい」「この形態では危険だ」という判断が伴ってきます。

誤嚥性肺炎後は体力低下していますし、禁食期間があれば内蔵に負担をかけないように
いきなり食形態を元に戻すのではなくて段階的に食形態を上げていくことが望ましいと考えています。
(断食後には段階的に食事内容を元に戻していきますよね)

今は液体の栄養補助食品も個体の栄養補助食品も様々なものが販売されています。
施設環境によって、用意できる栄養補助食品は限られてしまうかもしれませんが
食感というテクスチャーと栄養の両面から食形態を選択できるように
栄養士さんとの情報交換・連携が求められると考えていますし
また、栄養士さんとの情報交換がスムーズに進められるように
最低限の情報はこちらも知っておいたほうが良いと考えています。

 

4)食事介助の工夫

必要であれば、最初にシリンジを使用することもあります。

液体の栄養補助食品をこのシリンジを使って
一口量を1cc・2ccから始めたケースもありました。

易疲労が顕著な時や身体の環境適応が混乱している時には
上唇で取り込まなくても食べられるように
ゼリー状の栄養補助食品を箸で臼歯の上に載せて食べていただくこともあります。

大切なことは、嚥下の機能解剖の知識をもとに
目の前にいる方の食べ方をよく観察することです。
観察できれば、今、その方がどんな風に食べているのかがわかります。

どのような障害・困難があって
でも、能力をどんな風に発揮して頑張って食べているのか
食べにくい、食べようとしないという状態には必然があります。
同時に、「限定した」環境(場面・食形態・食事介助)であれば食べられる
ということを意味します。

私たちができることは「限定した環境」を見出し、援助すること。
そうすると、重度の認知症のある方でも、能力がありさえすれば、体力を消耗しすぎていなければ
限定した環境から、だんだんと多様性のある環境にも適応できるようになっていく。
つまり、食形態を上げられるようになっていきます。

意思疎通困難、食事介助困難と思われていた方でも
食事介助を通して、意思疎通も改善されるというケースにも数多く遭遇しています。

誤嚥性肺炎後にもう一度口から安全に食べられるようになるためには
あるいは誤嚥性肺炎に罹患しないように予防しながら口から食べていただくためには
アセスメント・評価・状態把握こそが重要です。

impairmentの評価は必要ですが
人間の身体は形態的にも機能的にも連続性があります。
脳血管障害などの具体的なアクシンデトがない認知症のある方や生活期の方においては
咽頭期の問題は咽頭期固有のものではない場合もあります。

嚥下5相の中での関係性
身体と口腔器官との関係性
対象者本人と介助者との関係性
その時その場のその関係性において
能力を発揮しながら食べています。

口腔嚥下リハは、できるに越したことはありませんが
もっと重要なのは、食事場面そのものです。

私たちが上の歯で食塊をこそげ落とすようなスプーン操作をしていれば
認知症のある方、生活期にある方その方の本来の食べ方を見ることすら叶いません。
適切なスプーン操作をできるということは
認知症のある方、生活期にある方の食べ方を観察することができるようになるための入り口です。

このあたりについては
「食べられるようになるスプーンテクニック」(日総研出版)に記載しました。
喉頭の複数回挙上によって完全嚥下している方も多いのですが
この本にあるQRコードから動画を確認することもできます。
詳細はご参照ください。

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講演@「芳徳の郷ほなみ」

昨日、2月28日(木)に
芳徳の郷ほなみさんにて
「認知症のある方の食事介助」をテーマにした研修会で講師を務めてきました。

勤務終了後のお疲れの中、熱心にお話を聞いてくださり
どうもありがとうございました。

窓口になってくださったTさん、お世話になりました。
ありがとうございました。

適切なスプーン操作ができて初めて
認知症のある方の食べ方を評価することが可能となります。

評価することができるから
どんな食形態を選択するか
どんな介助方法をするか
具体的に考えることが可能となるのです。

評価の前段階としての
適切なスプーン操作の基本
してはいけないスプーン操作
そして、その意味をお話いたしました。

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事実の子2:?「ひどいムセは食事中止」

認知症のある方や生活期にある対象者が
食事中にひどくムセてしまうと
そこで食事を中止してしまう
という対応をしている施設・病院も多いのではないかと感じています。

この問題はふたつ

ひとつには
「ムセ」がどういう機序で起こっているのか理解せずに
「ムセ=誤嚥=ひどいムセ=ひどい誤嚥=食事中止」というパターン化した思考・対応をしているところです。

ふたつめには
ムセた時に、どうしたら良いのかを教わっていないために
ムセで苦しんでいる方を目の前にすると、食事を中止するしかできないのだと推測しています。

ムセは、確かに誤嚥のサインではありますが
同時に、誤嚥した異物を喀出しようとしている生体防御の働きでもあります。
ひどいムセ、強いムセは確かに目立つものですが
しっかりと喀出しようとしている働きの強さを示してもいます。
むしろ、危ないのは、か細く弱々しくしかムセられないケースなんです。

また、ムセた時には
背中を叩くのではなくて
異物を喀出しようとしている呼気のパワーを強めるために呼気の介助をします。
そして声の清明さを確認して清明な声であれば食事を再開できるし
まだ声が濁っていたり嗄声であれば呼気の介助を繰り返します。

本当に「事実の子たれよ。理論の奴隷たるなかれ。」なんです。
評価が大事
そして後でまた書きますが
評価ができるためには適切なスプーン操作ができないと
評価の入り口にさえ立てないんです。
不適切なスプーン操作をしているために
誤嚥のリスクを高めてしまう恐れがあるのです。

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事実の子1:?「ムセたらトロミ」

多分ほとんどの施設・病院で
「ムセたらトロミ」
「まだムセたらもっとトロミ」
ムセの頻度や強さによって、トロミの粘度をどんどん強くする
というパターンで対応しているところが多いのではないかと感じています。

この対応の問題は2つ

ひとつには
対象者の食べ方や飲み方の観察・評価が為されずに
「ムセ」という結果だけを見て「トロミ」という
パターン化した対応をしているということ

もうひとつは
嚥下5相(機能解剖が大切なので、4相でも6相でも流派は問わない)の関係性
食べ方のいつ、どこで、どんな風にムセているのか
観察・評価が為されていないこと

現実に起こっていることは
嚥下5相でいう「咽頭期」の問題は「口腔期」の易疲労によって
二次的に引き起こされているケースもあるということです。
だから、トロミをつけたら逆効果になってしまうということも起こり得ます。
このような場合には、ごく薄い粘性の液体の形状で栄養を摂取してもらうことから始めた方が良いのです。
いわば、逆・嚥下ピラミッド

「ムセ→トロミ」という「パターン化された思考・対応」ではなくて
「ムセ→観察・評価→トロミの要・不要と粘性の判断」が必要だと考えています。
その結果、もちろん、咽頭期そのものの問題というケースだってあるでしょう。
そういう場合には、トロミをつけていくことが適切です。

先日、ある人から(すごく信頼している優秀な人です)
私の他にも同じことを言っている人がいることを教えてもらいました。
すごく心強かったです。
そのことについては、ただいま情報収集中です。

本当に「事実の子たれよ。理論の奴隷たるなかれ。」なんです。
評価が大事
そして後でまた書きますが
評価ができるためには適切なスプーン操作ができないと
評価の入り口にさえ立てないんです。

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適切なスプーン操作が評価の入り口

適切なスプーン操作ができて初めて対象者の食べ方、本当の能力がわかる。

適切なスプーン操作は評価の入り口

適切なスプーン操作ができないと評価のドアがくぐれない。

今、目の前に見えていることそのままが事実ではないこともありえます。
事実の一旦しか見えないこともありえます。

かつて
地球は動かないという天動説が常識だった時代がありました。
確かに、空を見上げれば太陽が動いていて私たちの足元は動いていません。
私たちの目の前に見えるのは「太陽が動いている」ということです。
でも、本当は太陽の周りを地球が回っている。
そのことを日々の暮らしの中で直接実感することは叶わないけれど。

だからこそ
観察力と洞察力が大切なのだと強く感じています。

 

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@家族懇談会「みのりの会」

平成30年10月13日(土)に
認知症の人と家族の会神奈川県支部さんの主催で
横浜市健康福祉総合センターで
家族懇談会「みのりの会」が開催され
そこで食事介助の話をするようにとのご依頼があり
行ってきました。

懇談会という貴重なお時間の一部を割いてのことでしたので
「そんなこともあるんだ」「じゃあ気をつけてやってみよう」
と思っていただければ。という目的でお話とデモンストレーションを行いました。

「知らなかった」「もっと早く知っていれば」というお声もいただき
機会をいただけたことに感謝するとともに
本来は、ご家族よりむしろ、直接、仕事として食事介助に関わる職員にもっと知ってもらわないと。
という思いを強くしました。

私たちが適切なスプーン操作ができて初めて
認知症のある方の本当の食べ方、困りごと、能力を目にすることができるのです。
12月に東京で丸一日、実技もたっぷり体験できる食事介助のセミナーが開催されます。
どうぞ、ご参加ご検討ください。
https://www.gene-llc.jp/seminar_info/?id=1530953120-030808

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講演@NEXT10

平成30年10月4日(木)に
南足柄市のりんどう会館にて
「NEXT10 介護の力で南足柄を一番にする会」さん主催の研修会で
「認知症のある方への食べることの援助」
というタイトルで講演&実技体験を行ってきました。

窓口になってくださったIさん
代表のTさんはじめスタッフのみなさま
当日参加されたみなさま
お疲れさまでした。
どうもありがとうございました。

アセスメントしなければ
どう工夫したら良いのかわからない。
アセスメントするためには
観察をしなければわからない。
観察ができるためには
知識が必要だし
知識をもとにして適切な介助ができなければ
対象者の本当の能力を見出すことができない。
そういう内容でお話をしました。

一人でも多くの方に届くことを
そして、一人でも多くの対象者の方の食べ方が良くなることを
心から願っています。

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