Tag: 口腔ケア

開口してくれない方への口腔ケア:じゃあどうするか?

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関与の適切さが担保されていれば
開口してくれない、開口できない、という行動には
口唇を開けてくれない、開けられない、
もしくは、
歯を噛み締めていて開けてくれない、開けられない
と大きく分けると2つのパターンがあるこちに気がつくと思います。
  
まず、どちらなのか、
口唇を開けることと顎を開けることのどちらが困難なのかを把握します。
この時に同時に頸部や体幹、上肢などのアライメントと筋緊張も把握します。
口を開けてくれないのではなくて
開けたくても開けられない
姿勢の問題、ポジショニングで対処すべき問題もあるからです。

意外に多いのが
顎の開閉は可能でも口唇閉鎖のままというケースです。
口輪筋に力が入ってしまっているので開口したくてもできない状態です。
そのような時には、介助者の示指を口唇中央にそっと当てて円を描くように動かします。
この時穏やかな口調で「くちびるが楽になります」と語りかけます。
すると口唇閉鎖が緩んできますから
「そうです。いいですね。その調子です。」と語りかけます。
   
口輪筋が十分に緩めば、すぐにその方の手続き記憶を確認しながら(前記事参照)
前歯もしくは奥歯からブラッシングを始めます。
口輪筋がまだ硬くて少ししか開口しない場合には
緩んだ部分から介助者の示指を口唇の内側にいれて
決して無理やりはしないで、可能な範囲で円を描くようにマッサージを行います。
すると、だんだん口輪筋が緩んでくるので口角や下唇の裏側など
まだ緩んでいない部分のマッサージを行います。
(この時に 口唇小帯 の部分は避けるようにしましょう。)
口輪筋が十分に緩んだことを確認できたらブラッシングが可能となります。

次に口唇は開いても歯と歯を噛み締めてしまっていて開口できない
顎がしっかり閉じてしまっている場合の対応について記載していきます。
口唇を開くことはできるので一部でも歯を見ることは可能です。
その見えている可能な範囲で(無理に範囲を広げずに)歯をブラッシングします。
穏やかな口調で
「歯を磨きますよ」「歯が綺麗になります」「お口の中がさっぱりします」
などの感覚や感情に働きかける声かけをしながらブラッシングをします。
すると、前歯からだんだんと奥の方に歯ブラシを移動させることが可能となります。
奥歯の表側をブラッシングできたら十分に時間をかけると緩みを感じられると思います。
緩みを感じたら奥歯の上側をブラッシングします。

相手の身体とのノンバーバルコミュニケーションをとりながら介助するのです。
緩んでいない→まだなのね、じゃあこれ以上は無理やりはしない→介助という動作で相手に伝える
口腔ケアという介助というを通して
相手の身体反応という行動と自身の行動というコミュニケーションを行うことです。

当然、昨日はすぐに緩んだのに今日はなかなか緩まない
ということだって起こり得ます。
人間ですから。
逆に自身の介助だって、昨日はきちんと感受できたのに今日はちょっと強引だったかも。
ということだって起こり得ます。
人間ですから。
状況だって違うでしょうし。

  大切なことは
  常に毎回100%の完璧な実践が為されることではなくて
  常に毎回自覚できていること。
  少なくとも自覚しようと意思することです。
  その時起こった事実をきちんと感受し自身の認識を自覚しようと意思することです。
  この過程にゴールはありません。
  イマ、ココでの言動には
  カコ、タシャとの関係が顕在的にも潜在的にも反映されるものだからです。

奥歯の上側をブラッシングできるということは
わずかであっても歯と歯の噛み締めが減少し、顎が開いたことの証左ですから
そうなれば、もう大丈夫です。
決して焦らずにここできちんと時間をかけて
「いいですね。歯がすごく綺麗になります。」と声掛けしながらブラッシングすると
もっと大きく開口できるようになりますから
奥歯の裏側もブラッシングできます。

噛み締めがきつくて上述の対応でも困難な時にはKポイントを刺激します。
いきなり指を口の中に突っ込もうとすると噛まれてしまいますから
緩んでいる口唇の間から示指を入れて
下の歯の表側と頬の間を通って奥歯まで指を入れてから
歯ぐきの内側に示指を入れて該当箇所を押します。
すると開口してもらえます。
これは最後の手段として、できるだけ上ふたつの方法で
開口してもらえるように関与していきます。

口腔ケアに協力してもらえない、開口してもらえない
時には、必ずその方にとっての必然があります。(理由や原因ではなくて必然)
   
まず、開口してもらえない場面そのものをきちんと観察する情報収集から始めましょう。
「開口してもらえない時には〇〇する」というようなハウツーは卒業しましょう。
その時その場でのその関係性において関与していくことができるようになるために
まず、今、その方に何が起こっているのかを洞察できるように
そのために自身の「行動」というもうひとつの言葉(自覚的に選択された行動)で働きかけ
対象者の「反応行動」というもうひとつの言葉をきちんと聴くことから始めましょう。

 

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開口してくれない方への口腔ケア:介助の問題

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開口してもらえないと口腔ケアが難しくなります。
すると、往々にして「どうしたら開口してもらえるか?」
という問いが立てられます。

そうではなくて
まず、口腔ケアを促した時にどのような反応が返ってくるのか
どんな風に口を開けてもらえないのか
どんな風に拒否をするのかを
きちんと観察することから始めることが必要です。

驚くべきことに、この部分をきちんと観察している人は
ものすごく少ないと言っていいでしょう。
逆に、きちんと観察している人は
所属組織の中で現状把握のあまりの乖離に
とても困っているのではないでしょうか。
  
言葉にならないもうひとつの言葉、行動をきちんと観察しましょう。
何が起こっているのかを観察し
習得してきた知識をもとに洞察しましょう。
 
同時に、有効な情報を得るためには
まず、こちらが適切な促しをできていることが必要です。
臨床でおろそかになりがちなのは
・声はかけてもアイコンタクトはしていない
・歯ブラシをきちんと見せることなく口の中に歯ブラシを突っ込む
という関わりです。
このような介助では、口腔ケアを拒否して当たり前だと思いますし
仮に、今は口腔ケアを受け入れてもらえたとしても
後になって対象者の「相手に合わせる」能力が低下した時に
蓄積した「感情記憶『嫌だな』」を想起して拒否することになっても当然だと思います。
そしてその経過への配慮なく問題視してしまう。。。

口腔ケアをする時には
必ずアイコンタクトを促してから、次に声かけ
歯ブラシを見せて、
対象者がきちんと歯ブラシを見たことを確認してから
歯ブラシを横に数回動かします。
  この動作は、言葉という聴覚情報だけではなく視覚的情報を提示することで
  「歯磨きをする」ということはどういうことなのか、再認を促しています。
それから「あー」と言ったり「いー」と言ったりします。
歯磨き→「大きく開口する」ことが
その方の「歯磨き」という手続き記憶であれば「あー」と声をかけ
口腔内に歯ブラシを入れて奥歯から磨き始めます。
歯磨き→「前歯から磨き始める」ことが
その方の「歯磨き」という手続き記憶であれば「いー」と言って
前歯からブラッシングを始めます。

以前に「再生と再認」の可否を確認する
という説明をしましたが
再生と再認の可否の確認しておくと、対応の工夫にものすごく活用できます。
重度の認知症のある方でも再認可能な方はとても多いものです。
(そしてこのことは、あまり知られていない)
また、手続き記憶は残りやすいと言われていますが
ADLはまさしく手続き記憶の宝庫です。
だからこそ、介助者が対象者の手続き記憶ではなく
自身の手続記憶で対応してしまいがちで、しかもそのことに無自覚なのです。
介助者の手続き記憶と対象者の手続き記憶の違い
(たとえば、歯をどこから磨くか)は手続き記憶だからこそ自覚しにくい
(違って当たり前なのに)ということはもっと強調されて然るべきものです。
そして手続き記憶のズレは強烈な違和感を生じさせるものですが
介助者自身は「手続き記憶のズレ」という体験を
受けたことがないのでさらに自覚しにくい。
その結果、自身の手続記憶を押し付けてしまい
拒否や介助への適切な協力をしてもらえないことになってしまいます。
そこで自身の関与を振り返ることができないと
対象者に「介護抵抗」「介助拒否」というレッテルを貼って
「関係性の中で生じている問題」を「対象者の問題」にすり替えてしまう。。。
本当に現場あるあるです。

「認知症のある方に寄り添ったケア」という理念を具現化するとは
声高に唱えることなんかではなくて
こういう日々のケアひとつひとつに誠実に向き合うことです。
介助者自身の手続き記憶を自覚する
対象者の手続き記憶を模索することから始めましょう。
「あなたの歯磨きの手順はこうですか?」
と言葉ではなく動作介助というもうひとつの言葉で尋ね
対象者が開口するか、もっと強く拒否をするのか、
言葉ではない、反応行動というもうひとつの言葉を聴きとります。

適切な関与とは
決して、単に敬語を使うことをはじめとする接遇にとどまりません。
もちろん、接遇の重要性を否定するものではありませんが
認知症は脳の病気ですから
もっと障害や能力という観点での対応が必要です。
そして、再認という能力発揮を促せるようになるためには
生活歴や手続き記憶、特性という情報収集が本当に必要です。
  
でも、実際の現場では
「その人らしさを大切に」
「その人に寄り添ったケア」
と声高に唱えられることはあっても
実際にそれらの情報の活用の仕方について具体的に説明を受けたことは
あんまりないのではありませんか?
だから、認知症の普及啓発がこれだけ進んできているのに
講習の内容が旧態依然とした理念の提示や
スローガンの提示程度にとどまってしまっていて
現場で必死になって本当に「認知症のある方の役に立てるように」働こうとしても
じゃあ、どのように考えたら良いのか
本当に役立つような指針が得られなくて、辛くて、あまりに辛いからこそ、
そのうち初心に目をつぶって目の前の現実に押し流されてしまうことを
選ぶしかなかった人だっているのではないかと思います。

そんな人に向けて
このサイトがありますし、こちらのサイトもあります。
  
次の記事では、じゃあどうしたら良いのか
開口してくれない方への口腔ケアについて
具体的に記載していきます。

 

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口を開けてくれない方への口腔ケア

口腔ケアを嫌がる方は案外多くいらっしゃいます。
「認知症だから口腔ケアを嫌がる」というのは安易な考え方です。
認知症のある方それぞれに嫌がる必然があります。

最も多いものは、過去の不適切な口腔ケアを再認して拒否するというケースです。
それって当然ですよね?
口の中というデリケートな部分に対して侵襲的な刺激があれば防御するのは当然です。

だとすると、
侵襲的でない口腔ケアをどうしたら良いかと考えることになります。
ここでよくある誤解が
〇〇さんの口腔ケアへの拒否や抵抗をどうしたらなくせるか
ということを考えたり話し合ったりしがちなことです。
まず最初にすべきことは
〇〇さんが嫌がっている口腔ケアの場面そのものを観察し直すことです。

そうすると
実は言語理解力が低下していて
声かけだけでは
「歯磨きをしてもらうために口を開ける」ということを認識できない
でも
歯ブラシを見てもらう、
あるいは歯ブラシを横に動かす動きを見てもらうことで
「歯磨きをしてもらうために口を開ける」ことを認識できることに
私たちが気がつくことができます。

現場あるあるの誤解は
強引で無理矢理といった侵襲的でない、適切なケアを提供しようと考えて
懇切丁寧な声かけという言葉に頼った対応をする
声かけは丁寧でも、いきなり歯ブラシを口の中に突っ込む

というものです。
声かけを理解したかどうかの確認もしていません。
それではびっくりして嫌がって当たり前です。
視覚情報の提示によって口腔ケアに協力していただけるようになる方は大勢います。

まず、歯ブラシを認知症のある方の目の前に提示して、見たことを確認します。
その後に、歯ブラシを左右に動かしながら「歯磨きしましょう」と声をかけます。
これだけで嫌がっていた方が大きく開口してくださることは多々あります。

大きく開口してくれない場合でも
少しでも開口してくれるなら、開口してもらえたところから可能な範囲で
歯をブラッシングします。
そうするとだんだんと開口が大きくなるので、ブラッシングの範囲を広げていきます。
奥歯を上からブラッシングすることができるようになれば
奥歯の裏側をブラッシングすることも可能になります。
奥歯の裏側をブラッシングできれば、手前に戻ってくることで
前歯の裏側もブラッシングが可能となります。

それでもやっぱり開口してくれない方もいます。
口輪筋が硬くなっていたり力が入ってしまっている場合です。
そのような場合はいきなりブラッシングをするのではなく、
自身の指に歯磨きティッシュを巻きつけ
口唇を小さく丸く円を描くようにマッサージします。
するとだんだんと口輪筋の緊張が緩んできます。
一番多いのが下唇の下あたりが硬くなってしまっているケースが多いので
下唇と歯の間に指を入れることができたら、そのまま指を左右に動かします。
ここまでできれば次第に開口できるようになります。

もう一つ
「口を開けてくれない方への口腔ケアをどうしたら良いか」
という命題に潜在する本質的な課題があります。
それは次回に。
  

 

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口腔ケアも再認を活用

口腔ケアをする時に
「口を開けてくれない」
「歯で指を噛まれてしまう」
というケースは多々あります。

そうすると
たいていの人は
最初は丁寧に説明したり対応しても
最終的には強引に口の中に歯ブラシを入れたり
(だから十分なケアができない)
口腔ケアそのものを諦めてしまいがちです。

安易に
開口してくれない=Kポイント刺激して開口を促す
とパターン化した対応をしていると
指を噛まれてしまいます。

口腔ケアも食事介助と同じで
環境適応の再学習を口腔ケアという場面でおこなっている
という認識に立てば
認知症のある方がどのように説明を感受し認識し適用しようとしているのか
ということを観察・洞察しようという意識が働きます。

長い文章での説明は理解できなかったとしても
目の前で歯ブラシを見せ
歯ブラシを横に数回動かすという動作を見せて「歯磨き」を伝え
歯の一部を優しく数回ブラッシングするという体験を通して「歯磨き」を伝えると
「歯を磨いてもらう」ことを再認できるので開口してくれます。

体験を通して再認できるという能力を活用します。

歯磨きの再認が目的なので
あくまでも優しくそっとブラッシングを続け
だんだんと歯ブラシを奥歯に持っていき
奥歯の上から裏側へと歯ブラシを動かします。
ここまで受け入れてもらえれば
歯ブラシで歯の裏側をブラッシングさせてもらえます。

開口に協力してもらえるので
きちんと口腔内の確認もできます。

口腔ケアが手段の目的化で終わらないように
歯磨きや口腔内清拭をすることが目的ではなく
歯磨きや口腔内清拭をすることによって口腔内の衛生環境を保つことが目的
なのだということを忘れないようにしたいものです。

口腔ケアは疎かになりやすい部分でもあります。
ケアの実行という意味でも
ケアの質の担保という意味でも。

口腔ケアを介助者が一方的にするのではなく
認知症のある方と協働して行っている人は
認知症のある方の能力をまざまざと感じていると思います。

 

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誤嚥性肺炎後回復の対応と考え方

認知症のある方や生活期にある方で
誤嚥性肺炎になってしまった後のリカバリーについて書いてみます。

1)不顕性誤嚥の予防ー口腔ケアの徹底
2)体力勝負ー焦らず・疲れず・食べる
3)食形態の選択
4)食事介助の工夫

ポイントはこの4つだと考えています。

そして、最も重要なことは、
どんな風に食べているのか、その食べ方に反映されている能力と障害・困難と特性を把握できる
つまり、アセスメント・評価・状態把握であり
アセスメント・評価・状態把握ができるためには
食べることと認知症の両方の知識に基づいた観察ができることだと考えています。

 

1)不顕性誤嚥の予防ー口腔ケアの徹底

誤嚥性肺炎肺炎の治療で
禁食にする場合とそうでない場合があるかと思いますが
禁食にした場合でも大切なのは口腔ケアです。

痰の自己喀出ができる方も
吸引をしてもらっている方も
たとえ経口摂取していなくても口腔ケアが必要です。

口腔内の清潔と湿潤を保持するために
歯のある方は必ず歯をブラッシングする
舌苔がある方は除去する
痰が硬口蓋(上顎)にこびりついていれば除去する

口腔ケアは、どうしても後回しになりがちではありますが
誤嚥性肺炎後、体力が低下していると不顕性誤嚥に罹患しやすいので
体力が戻ってきたら、ある程度大雑把でも不顕性誤嚥にならずに済みますが
(もちろん、どんな時でも口腔ケアは必須ではありますけれど)
体力が低下している時に、口腔ケアが不十分で口腔内が汚いと唾液が汚染されてしまいます。
その唾液を誤嚥してしまえば、どんなに抗生物質を点滴しても、吸引しても
イタチごっこになってしまって、なかなか治癒できないという状態になってしまいます。
いったん、解熱したのに、また熱発してしまうということも起こり得ます。

その意味で、食べた後だけではなくて食べる前の口腔ケアも必要です。
特に口腔内の粘調痰は誤嚥を引き起こしやすいので
必ず除去してから食べていただくようにしてください。

意思疎通が困難な方には
言葉だけに頼らずに、視覚情報を明確に提示することが有効です。
例えば、歯ブラシを目の前できちんと見せる。歯ブラシを左右に動かしながら「歯磨き」と言う。
実際には、総入れ歯の方の口腔ケアなどで歯ブラシを使わない方であっても
「歯ブラシ→歯磨き→開口する」ことをイメージしやすくなる場合も多いです。
口腔ケア用のスポンジを目の前で提示すると「飴」と誤認されやすく
舐めたり吸われたりしてしまってかえって開口しにくくなってしまう場合もあります。

また、いろいろな工夫をしても、
どうしても口腔ケアに協力していただけない場合もあるかと思います。
そのような時には殺菌作用があると言われている緑茶や紅茶を食後に摂取していただきながら
ケアに協力してもらえるように、どのようにしたら可能になるのかを探っていきます。

Kポイントを利用して開口を促すことも行いますが
「口を開けさせる」ためにKポイントを使うのではなくて
「開口のきっかけ」としてKポイントを活用すると考えています。
できるだけKポイントを使わなくても開口維持してもらえるように関与していきます。

認知症の状態が進行していれば
理屈ではなくて感情・感覚に働きかける声かけをします。
例えば
「歯磨きをしないと虫歯になっちゃいますよ」ではなくて
「歯磨きをすると口の中がスッキリさっぱりしますよ」と言うようにしています。

 

2)体力勝負ー焦らず・疲れず・食べる

誤嚥性肺炎後は体力が低下しているので
最初は数口食べるだけでも疲れてしまうこともあります。
疲れ切ってしまえば、意欲が低下してしまったり、この次に食べる体力がなくなってしまいます。

食べることも、筋肉が働いた結果として可能になることなので
食べることはエネルギーを摂取するというインプットの反面、
全身の運動というエネルギーのアウトプットでもあります。

食べていただきたいのはヤマヤマですが
その時に介助者の側が焦らずに
食べられる分を無理し過ぎずに食べていただくことが大切です。

1回量を把握しながら
少しずつ増えていけるように
想定より少なくても「頑張って食べた」ことを喜びあえるように励ましてください。

ふだん臥床しているお部屋から出て食堂などの異なる環境で食べることも
心理面では良い刺激にはなりますが、一方でいきなり長時間の離床は
食べる体力・気力までも低下させてしまいかねませんので注意が必要です。

病院に勤務していれば血液検査の結果を確認しながら関与できます。
特に、炎症反応を示すCRP、総蛋白TP、アルブミンALBの値は必ず参照していますし
易疲労にならないように、適正な1回量を把握するためにも
顔色・表情・活気・声量や声のハリについて注意深く観察をしています。

食べさせるのではなくて
今の状態でも、ラクにスムーズに食べられる形態と量そして離床・臥床のバランスについて検討しつつ関与していきます。

 

3)食形態の選択

食べやすい形態は様々です。
その方の食べ方をよく観察して食形態を選択することが一番のポイントとなります。

一見、咽頭期の低下に見えて、
実は口腔期の易疲労が主要問題で咽頭期は二次的に引っ張られて低下している
という状態像の方は、とても多くいらっしゃいます。
「ムセたらトロミ」という安易な発想からは卒業しましょう。

後述しますが、
「どんなものなら食べられるのか?」という問いを立てるのではなくて
「どんな風に食べているのか」を嚥下の機能解剖の知識に沿って観察することから始めます。
観察できれば必然的に「今はこの形態なら食べやすい」「この形態では食べにくい」「この形態では危険だ」という判断が伴ってきます。

誤嚥性肺炎後は体力低下していますし、禁食期間があれば内蔵に負担をかけないように
いきなり食形態を元に戻すのではなくて段階的に食形態を上げていくことが望ましいと考えています。
(断食後には段階的に食事内容を元に戻していきますよね)

今は液体の栄養補助食品も個体の栄養補助食品も様々なものが販売されています。
施設環境によって、用意できる栄養補助食品は限られてしまうかもしれませんが
食感というテクスチャーと栄養の両面から食形態を選択できるように
栄養士さんとの情報交換・連携が求められると考えていますし
また、栄養士さんとの情報交換がスムーズに進められるように
最低限の情報はこちらも知っておいたほうが良いと考えています。

 

4)食事介助の工夫

必要であれば、最初にシリンジを使用することもあります。

液体の栄養補助食品をこのシリンジを使って
一口量を1cc・2ccから始めたケースもありました。

易疲労が顕著な時や身体の環境適応が混乱している時には
上唇で取り込まなくても食べられるように
ゼリー状の栄養補助食品を箸で臼歯の上に載せて食べていただくこともあります。

大切なことは、嚥下の機能解剖の知識をもとに
目の前にいる方の食べ方をよく観察することです。
観察できれば、今、その方がどんな風に食べているのかがわかります。

どのような障害・困難があって
でも、能力をどんな風に発揮して頑張って食べているのか
食べにくい、食べようとしないという状態には必然があります。
同時に、「限定した」環境(場面・食形態・食事介助)であれば食べられる
ということを意味します。

私たちができることは「限定した環境」を見出し、援助すること。
そうすると、重度の認知症のある方でも、能力がありさえすれば、体力を消耗しすぎていなければ
限定した環境から、だんだんと多様性のある環境にも適応できるようになっていく。
つまり、食形態を上げられるようになっていきます。

意思疎通困難、食事介助困難と思われていた方でも
食事介助を通して、意思疎通も改善されるというケースにも数多く遭遇しています。

誤嚥性肺炎後にもう一度口から安全に食べられるようになるためには
あるいは誤嚥性肺炎に罹患しないように予防しながら口から食べていただくためには
アセスメント・評価・状態把握こそが重要です。

impairmentの評価は必要ですが
人間の身体は形態的にも機能的にも連続性があります。
脳血管障害などの具体的なアクシンデトがない認知症のある方や生活期の方においては
咽頭期の問題は咽頭期固有のものではない場合もあります。

嚥下5相の中での関係性
身体と口腔器官との関係性
対象者本人と介助者との関係性
その時その場のその関係性において
能力を発揮しながら食べています。

口腔嚥下リハは、できるに越したことはありませんが
もっと重要なのは、食事場面そのものです。

私たちが上の歯で食塊をこそげ落とすようなスプーン操作をしていれば
認知症のある方、生活期にある方その方の本来の食べ方を見ることすら叶いません。
適切なスプーン操作をできるということは
認知症のある方、生活期にある方の食べ方を観察することができるようになるための入り口です。

このあたりについては
「食べられるようになるスプーンテクニック」(日総研出版)に記載しました。
喉頭の複数回挙上によって完全嚥下している方も多いのですが
この本にあるQRコードから動画を確認することもできます。
詳細はご参照ください。

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