Category: よっしーの情報クリップ

「食べる」再学習:基本

中核症状とBPSD

認知症がある方で「食べる」困難のある方でも
多くの場合、もう一度食べられるようになります。

なぜならば
「口を開けてくれない」
「ためこんで飲み込んでくれない」
「吹き出すほどムセる」
などの「食べる」困難は
多くの場合に、認知症という状態のせいではなくて
不適切な介助にすら的確に適応しようとして誤学習を起こした結果だからです。

クリスティーン・ブライデン氏は
「異常な環境には異常な反応が正常だ」
と言いましたが、まさに!

誤介助によって引き起こされた誤学習なので
正の介助ができれば正の学習が起こります。

 正の介助ができるためには
 摂食・嚥下5相の知識があり
 認知症の知識があり
 それらの知識に基づいた「食べ方」の観察ができ
 「食べ方」に反映されている能力と困難を洞察することができる
 ことが前提要件その1です。

 前提要件その2は
 スプーン操作をはじめとする
 的確な食事介助を行える技術を持っていることです。

 現実には
 (残念なことですが)
 2つの前提要件をクリアできている人って
 そんなにいるものではありません。

 つまり、
 今、私たちが見ている

 認知症のある方の食べる困難は
 前提要件を満たしてない人が介助した結果の姿です。
 
 そして、
 前提要件を満たしていない人は

 前提要件を満たすこととの違いを
 説明されてもわからないということは往々にしてあることです。

 でも、この現実は裏を返せば
 2つの前提要件をクリアしさえすれば
 認知症のある方や生活期にある方の「食べる」困難を激減させることは
 可能だということを意味しています。
 (この問題については、別の記事で詳述します)

話を元に戻すと
正の介助、正の学習のために
イマ、ラクに、食べられるように食環境を調整します。

多くの場合に
いったんは、食形態を下げる必要があります。
再学習が起こりやすいように
今の能力でラクに食べられるように
「食べる」失敗体験をしないように。

このようなお話をすると
難色を示す人が大勢います。

たぶん
食形態を落とすともう二度と今までの形態が食べられなくなる
と心配するのではないかと推測します。

でも
そのような心配が起こるのは
「食べられなくなったのは認知症のせい」という考えが潜んでいるからです。
現実は違います。
「食事介助を受けている方が食べる」とは
認知症のある方と介助者との協働作業に他なりません。

「食べる」再学習が進みやすいように
いったんは食形態を落とし
適切な食事介助が行えれば
その方の能力に応じて
もう一度以前の食形態で食べられるようになる方の方が
圧倒的に多いのです。
 
「食べられなくなったのは誤介助誤学習のせい」と知れば
食形態を落とすことへの心配よりも
自身の介助の適切さへの心配の方が先立つはずです。
そのような方は
「認知症のある方も食べられるようになるスプーンテクニック」
をぜひ読んでみてください。
具体的に明確に介助において気をつけるべきポイントを説明してあります。

それでは
食形態と介助する食具を工夫することで
より適切な食環境を段階づけしながら提供できる
ということについて次からの記事でご説明していきます。

 

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スプーン操作を見直すべき兆候

対象者の方に下記のような兆候が見られたら
それは介助者がスプーン操作を見直すべき兆候でもあります。

<開口した時>
・舌が奥に引っ込んでいる
・舌が硬くなっている

<食塊をとりこむ時>
・顎が上がっている
・上唇を丸めずに閉じている
・口角から食塊がこぼれ落ちる
・引き抜いたスプーンに食塊が残っている
・正面ではなく介助者の側に頭部を回旋している

<食塊が口腔内にある時>
・咀嚼・送り込みに時間がかかる

<食塊を嚥下する時>
・喉頭が完全挙上しない
・喉頭が複数回挙上する

これらは、見ようと思えば今すぐに誰にでも観察できることですが
たいていの場合に、上記兆候は観察されず
「見れども観えず」
視界に入っているはずなのに意識化されていません。

上記兆候は
介助する側の人の不適切なスプーン操作が原因となって
引き起こされたり、増悪されたりしている兆候です。

つまり、改善可能な状態像なのに
見落とされていて対処されていないのが現状です。
 
食事介助の時には
ムセの有無しか確認していない人がとても多いのが現状です。

しかも、
強く激しくムセるとすぐに食事中止を指示する職員がとても多いという問題もあります。

ですが、このような対処は合理的ではありません。
ムセとは何か?
身体の働きについて本質を知ることなく思い込みで対処しているだけです。

この問題については次の記事で。

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食具の工夫:介助

通常は普通のスプーンで介助しますが
場合によっては、全介助でも異なる食具を使うこともあります。

写真上の赤いスプーンのように
幅が狭くて浅いスプーンを使ったり
箸やシリンジで1ccずつ介助したこともあります。

認知症のある方や生活期にある方は
口腔内にちょっとした困難を抱えていることが多く
ちょっとした困難をちょっとした困難のまま
食べられるように維持していくことが大事だと考えています。

ところが、現実には、ちょっとした困難を観察・洞察できず
低栄養・脱水を回避するために結果として
「食べることの援助」ではなく「食べさせる」ことになりがちです。
そこから誤介助誤学習の悪循環に陥ってしまいがちです。

開口しない、ためこむ、抵抗するなど食べようとしなくなった場合に
単にスプーンでなんとか食べさせようと介助をすることは
ネガティブな体験の再認の強化になってしまい
食べることの再学習を阻害してしまいます。

誤介助誤学習の悪循環から抜け出すためには
まず、介助を変えることです。
その一つとして、スプーン、食具を変えます。


シリンジで液体の栄養補助食品を介助したり


液体の栄養補助食品をストローで摂取してもらったり


箸で栄養補助食品のゼリーやソフト食を介助します。

「ラクに食べられた」体験ができるということは
ポジティブな体験の再認の強化にもつながります。

重度の認知症のある方でも再認できる方は非常に多くいます。
ADLは体験を通して再認を促しやすい場面でもあり
特に「食べる」ことは究極の手続記憶ですから
毎回の食事介助が再認の促しの場面になっているとも言えます。

ここで気をつけていただきたいことは
再認はポジティブにもネガティブにもどちらにも働く
ということです。

現状では
善かれと思って
でも知識と技術が伴わない、観察と洞察が不十分な場合に
結果として毎回の食事介助でネガティブな再認の強化をしている
とも言えます。

この悪循環から抜け出すために
「ラクに食べられた」というポジティブな再認を促すために
食環境としての食具を変えます。

対応が適切であれば
そのうちに開口がスムーズになってきますから
その段階で通常のスプーンに切り替えていきます。

介入直後から食べ方の改善を実感できますが
どんな人にでも目に見えてわかるくらいに
食べ方が改善するには1〜2週間かかります。
その後通常の介助に移行できるまでに
もう2週間ほどかかることが多いです。

その間、ご本人が余分な苦労をすることになってしまうので
「予防にまさるものなし」
問題が表面化する前の段階で
(食事介助に困難も負担も感じていない段階から)
適切なスプーン操作
喉頭の完全挙上を必ず視覚的に確認しながら
食事介助してほしいと切に願っています。

「口を開けてくれない」
「ためこんで飲み込んでくれない」
「食べるのを嫌がる」
というのは、結果として表面的に起こっている事象に過ぎません。
ここだけ切り取って「さて、どうしたら?」と考えても答えは出ません。
まずは、それらに反映されている食べ方をきちんと観察することです。

摂食・嚥下5相にそって
食べ方を観察・洞察すれば
目の前にいる方に何が起こっていたのかがわかる。

だから、どうしたら良いのか
どのような食形態・食具・介助方法・場面設定をしたら良いのか
がわかる。

それらは自然と浮かび上がってくるものです。

考えることではないのです。

観察・洞察の結果
必然として導き出されるものなので
明確に浮かび上がってきます。

明確化できない時には考えてはいけません。

何が起こっていたのか、という観察・洞察が曖昧だから
明確化できないのですから
どうしたら良いのか考えるのではなくて
目の前に起こっていることをもう一度観察し直すことに
立ち戻れば良いのです。

 

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連携について:実践的な考え方と工夫

オミアシヲアゲテクダサイ

多職種連携、チームアプローチは
古くて新しい課題
私が学生の頃から課題として取り上げられていました。

作業療法は、
確かにさまざまな知見を集積・発展してきたと感じています。
一方で、本質的な課題ほど
私が学生の頃と比べてあまり改善が為されていないように感じています。

例えば
目標設定について
評価について(検査やバッテリーではなく状態像把握という意味)
多職種連携、チームアプローチについて

目標を目標というカタチで設定できず目的や治療内容と混同していたり
検査やバッテリーをとっても、
結果を対応に活用せずに評価と乖離した実践をしていたり
対象者のための連携ではなくて連携のための連携にすり替わっていたり。。。
 
就職したての作業療法士が困惑し
先輩に相談しても本心から納得できるような援助が得られず
提示された表面的な対応をやってみるしかない
そしてあまり効果がないにもかかわらず
代替案がないのでなんだかなぁと思いつつも
なんとなく口を濁してしまう以外の手が見つからない。。。
実習生や新卒に指導する時にも
実は内心困惑しながら指導しているうちに
数年経つと困惑すら感じないようになってしまう。。。
といった状況が昔も今も変わらずあるんじゃないかなぁ。。。?

私は臨床家として
対象者の役に立てるようになりたいと必死になって考えてきました。
良いと言われたものは必ず自分で実践して
どこがどう良くて
どこがどう使えないのか
事実に即して具体的に考えながら
抽象化・言語化するという過程を実践してきました。

それらについては
講演や論文という形でも世に問い続けてきましたが
総まとめとして別の形でもまとめてありますので
よかったらご参照ください。

目標設定について

関与しながらの観察について

今回、多職種連携・チームアプローチについて
実践的な考え方と工夫について概観できるように連載記事を書きました。

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連携について

1 飲みニュケーションでは連携の問題を改善できない
2 プロのチームスポーツに学ぶ
3 連携という抽象論ではなく具体的に改善していく
4 情報伝達において前提要件を認識する
5 看護介護職は変則交代勤務
6 情報伝達の工夫:使う場所に情報提供
7 対象者が変われば職員も変わる
8 そもそも何のための連携?
9 たったひとりでも変わる意義

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日々の実践を高め深めるための臨床家としての提言です。

 

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アスクルでも自助スプーンが注文できる!

いやー、盲点でした。
つい最近まで知りませんでした。

アスクルで
フセ企画の「かるまげまげ」スプーンフォーク兼用(小)を購入できました。
合わせて、スポンジハンドル(楕円型)も。

施設で出入りの業者さんがない場合に便利です (^^)
注文から1週間もしないうちに届きました。

こちらが
「かるまげまげ スプーンフォーク兼用(小)」税込¥888円

ポイント高いのが
1)なんといっても、軽い!
2)柄の部分が自由自在に曲げられるのでフィット性が高い
3)先割れスプーンなので、食塊が引っかかりやすくて操作性が高い
4)購入しやすい価格

そして
たいていの場合に、ペアで一緒に購入するのが
こちらの「スポンジハンドル S-2」税込¥660円

スポンジの形状が楕円形になっていて
手のアーチを保ちやすいのがポイントです。
欲を言えば、もっと軽ければさらに嬉しい。。。

 

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バリデーションセミナー2014

バリデーションセミナー2014「バリデーションセミナー2014のお知らせ」
今年も開催されます。
バリデーションセミナー2014!
平成26年7月19日(土)の東京会場を皮切りに、大阪・福岡・名古屋でも開催されます。
認知症のある方とのコミュニケーションに悩んでいる方はもちろん、広く対人援助職の方にオススメします。
問い合わせ・申込は公認日本バリデーション協会http://www.clc-japan.com/validation/
こちらからは、過去のセミナーの様子や参加者の感想をみることができます。

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「認知症本人と家族介護者の語り」ディペックス・ジャパン

「認知症本人と家族介護者の語り」ディペックス・ジャパン「認知症本人と家族介護者の語り」ディペックス・ジャパン

NPO 健康と病いの語り ディペックス・ジャパンが運営するサイトをご紹介いたします。
認知症の家族介護者35名と7名の当事者のインタビューを動画で視聴することができます。
当事者の方が本当の気持ちを語ってくださる方がいるのは私たちにとってはとてもありがたいことです。
専門家と呼ばれる私たちが知っていることで、余分な困惑を少しでも少なくすることができるように、できうることなら少しでも有益なことが行えるように、日々努力を重ねたいと思います。
私たちの仕事は、審判することでも評論することでもなくて援助することなのですから。

サイトのURLはこちらです。
http://www.dipex-j.org/dementia/

こちらのサイトには
「前立腺がんの語り」
http://www.dipex-j.org/pc/
「乳がんの語り」
http://www.dipex-j.org/bc/
のコンテンツもあります。
トップページはこちらです。
http://www.dipex-j.org

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バリデーションセミナー2013紹介

バリデーションセミナー2013紹介2013年が始まり、最初の1ヶ月がそろそろ経とうとしています。
今年もナオミ・フェイルさんが5月に来日してバリデーションセミナーが開催されます。
詳細はこちらをご参照ください。
公認日本バリデーション協会http://www.clc-japan.com/validation/index.html

日程としては下記のとおり。
5/11(土)東 京
5/12(日)名古屋
5/14(火)福 岡
5/18(土)大 阪
5/19(日)東 京

私の名刺には「作業療法士」だけでなく「バリデーションワーカー」も記載しています。
名刺交換の折に「バリデーションワーカーって何ですか?」と尋ねられることも多いのですが、最近は「私もセミナーに参加したことがあります」と言われたり「バリデーションという言葉を聞いたことはあります」という方が増えてきてとても嬉しく思っています。

認知症のある方を対象として働いているのであれば、ぜひ一度はセミナーに参加してみてください。
「認知症のある方に寄り添って」という言葉を(つまりは概念を)実践するとはどういうことなのか…ということを体験を通して学ぶことができます。
バリデーションの本もDVDも発売されていますが、本を読んだくらいではバリデーションを理解することは難しいと思います。
表面的にテクニックだけを流用しても効果は限られているし、認知症のある方にも援助者の側にも内的な変化は起こらないでしょう。

バリデーションは、認知症のある方にとっても援助者にとっても豊かな体験ができる場です。
それは本来、私たち自身の内に在るものだということを思い起こさせてくれる場です。

みなさま、お忙しい日々をお過ごしのことと思いますが、ぜひご参加いただきたいと思います。
受講費は、OTの研修会参加費と比べたら…確かに高いかもしれません。
でも、参加費に見合うだけの体験はすることができます。
迷っているなら、参加してみてください!
申込やお問い合わせは上記サイトからできます (^^)

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