初めて行うActivityを紹介する時には
まず最初に完成品を見ていただき
完成品の用途を説明します。
ここで興味を持った方には
作り方の説明を実演しながら行います。
実演する時は通常通りに最初から行います。
例えば
幅広い状態像の方に適用可能なのが毛糸モップ
毛糸モップを例にとって説明していきます。
1)ハンガーの下に毛糸をくぐらせる
2)糸先を輪っかの中に入れる
3)糸先を引いて毛糸をハンガーに結びつける
ここの工程をあえて省くことも多々あります。
認知機能が低下している場合には省いたようが理解しやすいケースが多いです。
自分がやることだけを覚える、余分なことは説明しないという意味です。
ここを誤解している職員が大勢います。
丁寧に説明しようと思って説明しすぎてしまうと
認知症のある方に入力刺激が多すぎて混乱させてしまいます。
認知症のある方へのわかりやすい説明とは接遇を尽くすことではないのです。
認知症のある方に実際にやってもらうことを通して
工程を説明していきます。
ここで最も重要なことは工程の最後から体験学習するということです。
1)糸先を輪っかの中にいれておき、糸先を引き絞る動作をしてもらう
まず、この工程を繰り返し体験してもらいます。
迷うことなく糸先を引き絞る動作ができるようになったことを確認してから
次の工程にうつります。
2)毛糸の糸先をハンガーの下からくぐらせてから
糸先を輪っかの中に入れ引き絞るという2工程の動作をしてもらう
この2工程を迷うことなく行えることを確認したら
ひとつ遡って、毛糸をとるという工程を追加します。
3)毛糸をとる、ハンガーの下をくぐらせる、輪の中に糸先をいれ引き絞る
という3工程を行なってもらいます。
この3工程を繰り返し行なってもらい
迷うことなく行えることを確認したら
次に糸先をそろえるという工程を追加します。
4)毛糸を取る、糸先をそろえる、ハンガーの下を潜らせる、輪の中に糸先を入れ引き絞る
という4工程を行なってもらいます。
* ここは細かく段階づけをしていきます。
まず、糸先はそろえて、隙間を開けて置いておきます。
こちらで迷いなくできることを確認したら
糸先をズラして、糸の隙間も開けて、置いておきます。
こちらで迷いなくできることを確認したら
毛糸を少し丸めた状態で置いておきます。
こちらで迷いなくできることを確認したら
毛糸を一本そのままの状態で置いておきます。
こちらで迷いなくできることを確認したら
3本ほどの毛糸をまとめて置いておき
そこから1本取って行えることを確認します。
こちらで迷いなくできることを確認したら
毛糸をまとめた状態にして置いておきます。
ここまでできたら、困っていないか時々確認する程度の見守りをします。
ちなみに
アクリル毛糸同士ではなくて
モヘアや綿とアクリル毛糸の異素材の組み合わせも素敵です。
ただし、モヘアは軽くて細くてつまんでいる感覚が分かりにくいので
そのあたり大丈夫な方が対象となります。
認知症のある方あるあるなのが
最初はできていたのに
途中で混乱してわからなくなってしまうケースです。
その方にとって、何か注意をそらせるようなことがあった時に起こりやすい
なので、私はあまりAct.中には話しかけないようにしています。
一般的に「楽しく!」という思い込みによって
「わいわいした雰囲気」を作り出そうとしたり
おしゃべりをするケースも散見されますが
そのような場面は実は注意集中を妨げやすい場面設定でもあります。
もちろん、そのような場面設定でも注意集中が可能であれば良いのですが
重度の認知症のある方の場合には周囲の環境という場面設定によって
本来の能力発揮が妨げられることのないようにしたいものです。
途中で混乱してしまったり
トイレなどでいったん手を止めた後で
できなくなってしまった場合には
迷いなくできる工程まで戻ります。
この時に工程の最初に戻るのではなくて
工程の最後から確認していくことがポイントです。
工程の最後から
「こうしたらできる」
「こうやってできた」
という体験を繰り返し行うことで
できる、できた、という再認をすることが可能となります。
その上で1工程ずつ増やしていきます。
増やす工程そのものは「くぐらせる」「手にする」「そろえる」などの
かつて必ずどこかで行なってきた手続き記憶です。
その手続き記憶を新たな体験に統合する作業をしてもらうことを意味しています。
だから、段階づけは細かく行いますし
混乱したり、不安になったり、わからなくなってしまった時には
「できる」工程に戻って再認してもらっています。
ここまで、1回のリハの時間に行えたとしても
次に来る時には忘れてしまうことも現場あるあるです。
なぜなら、時間経過という時間干渉と
その間、さまざまな動作をしていたという動作干渉という二重の意味で
認知症のある方が忘れやすい状況に置かれるからです。
つまり、忘れてしまうのは仕方ないことなのです。
むしろ、初めてのActivityの工程を覚えているということ自体
素晴らしい能力発揮なのです。
手工芸をしていた方は、このような体験の統合が容易なことが多くあります。
たとえ、1−2分前の会話を忘れてしまう方でも
Activityの工程を覚えられることは本当にたくさんあります。
仮に、せっかく工程を教えたのに
忘れられてしまったからとがっかりする必要は全くありません。
忘れてしまったとしても
その方の行動パターンはこちらが把握できているので
工程のどこまで戻ったら良いのかの判断基準は手にしています。
もちろん、認知症のある方の体調変動によって多少の誤差はありますが
判断基準があるので提供するこちらの負担は初回ほど多くありません。
私は、Activityの工程を丁寧に言葉で説明を尽くし
「一緒にやるから大丈夫」とつきっきりで
安心させるような場面設定はしていません。
Activityの工程はActivityそのものに語らせるような場面設定をする工夫をして
認知症のある方が安心できるような場面設定をしています。
手も口も出しませんが、目だけは離さずにいる場面設定をする方が
認知症のある方自身の達成感を促しやすく
また、メタ認知やメタ体験としての達成感も得やすくなります。
そしてそのような体験ができるリハ場面そのものが
ポジティブな再認の場となるのでリハやActivityへの拒否が少なくなります。
もし良かったら是非お試しください。
ポイントは
・言葉だけに頼らず視覚的説明を活用する
・工程は最後から体験を通して理解してもらう
ということです。
認知症のある方への介助、援助、支援とは
接遇を尽くすということとは異なるのだと考えています。
蛇足になりますが
こう書くと必ず「接遇を否定した」と誤読する人がいるので念の為。
私は接遇そのものは対人援助職として必要だと考えてはいますが
接遇を尽くすことで認知症のある方の生活障害やBPSDが
改善されることにはならない。
私の主張は評価に基づいて対応を判断すべきということです。
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