Category: ホントにあった体験談

非麻痺側のべた足歩き

非麻痺側のべた足歩き歩行時に非麻痺側の足関節の背屈が起こらないケースが圧倒的に多いのです。
ヒールコンタクトが起こらない。
非麻痺側なのに。

非麻痺側ですから
当然、端座位では、足関節を背屈できます。
でも、歩行時にはヒールコンタクトではなくて足裏全体で接地しているのです。

初めて、このことに気がついた時には自分の見間違いかと思いました。
何度も見直しました。
何人もの方の歩容を確認しました。
やっぱり見間違いなんかじゃない。

このことが意味することは一体なんなのでしょう?

おそらく、安定性を優先して非麻痺側下肢のはたらきを自制しているのだと思われます。

身体は総体としてはたらいている
身体は身体を守っている

私はこのことを確信しています。
いつかどこかで書くつもりでいますが
認知症のある方においても言えることなのです。

非麻痺側のべた足歩き

なぜ、こんなにも明白なことなのに
今まで誰も気がつかなかったのか…

身体を部分として捉え
麻痺側を「修正すべき」対象として捉え
歩行観察はしても
全体をみていなかったことの証しではないでしょうか。
非麻痺側の下肢なのだから「問題」が起こるはずがない。

最初から「非麻痺側は問題ない」として
「見れども見えず」状態だったのではないでしょうか。

そして、もし、そうだとしたら
同じことが他の状況でも起こっているのではないでしょうか

それらの意味することは何なのか…

私たちは科学的という言葉を使う一方で
とても重大なことを見落としてきてしまったように感じられてなりません。

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愚痴を聞いてくれるいい人

愚痴を聞いてくれるいい人対象者の方に愚痴をこぼす職員が多くてビックリです。

対象者の方は、お金を払ってご自身の時間を割いてリハを受けるのです。
愚痴を聞かせるなんてもってのほかです。
ラポール…ということを誤解しているのではないかと思います。

もし、対象者の方が
好んで職員の愚痴を聞いてくれるとしたら
その能力と特性を他の場面で活かせるように考えることが
専門家としての在り方です。

飛行機のパイロットが操縦中に
いろいろな愚痴を客席に聞かせたとしたら
乗客は、どう感じるでしょう?
大変なのはわかるけど、今はとにかく安全に操縦してくれよ…と思うのではないでしょうか。

最後にひとこと。
私は、たくさんのお年寄りからお年寄り自身の愚痴を聞いてきました。
と同時に、たくさんのお年寄りから、職員のこぼした愚痴もマル秘な話も聞きました(^^;
そうなのです。
お年寄りにこぼした愚痴は、ちゃんと廻り廻って他の人の耳に入っているのです。

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ボケちゃえば何にもわからない?

ボケちゃえば何にもわからない?私には、とてもそんな風には思えません。

もちろん、ご家族など周囲の人のご苦労はお察しします。
けれど、認知症のある方が「何にも感じていない」わけがありません。

時間や場所の見当識が低下し
短期記憶が低下し
なぜ、今、自分がここにいるのか
なぜ、今、自分がこうしているのか
わからない…

わからないという自覚や不安を感じるのに
状況の理解ができなくなるという状態が
どんなに辛いことか…

私たちがいきなりタイムスリップして
見知らぬ時代の見知らぬ土地へ連れてこられたようなものなのではないか
と感じることがあります。
何もわからない場所で
よく知らない人たちの間で
生活様式の異なるところで
自分にはよくわからない言葉が交わされる…

私たちにとっては自明の前提が崩れてしまっている状況で
なおかつ、暮らしていくことの困難さ

職業人としての私たちに求められていることは
そのような日々の暮らしの困難を少しでも改善していくことのお手伝い

症状がある…ということは
能力がある…ということ

たとえ、認知症になったとしても
その人らしさは失われない
その人の能力と特性こそが
その人の日々の暮らしの困難を乗越えていく
(逆に言えば、ないものはない。
 ないものねだりはできない
 …ということにもなるのですが。)

たぶん、作業療法士は、職業柄
1番具体的に現実的にそのことが共感できる職種だと感じています。

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歌えたね

歌えたねFさんは、いろいろな歌をご存知です。。
その日もBGMにあわせて歌を口ずさんでおられました。

歌い終わったFさんがにっこり笑って一言
「歌えたね」

歌えることに確信をもっていれば、こんな言葉は出てきません。

「私はバカだから」
「なんにもわからないから」
Fさんは、いろいろな場面でそう言います。

認知症のある方は、日々喪失体験を重ねています。
歌うことが好きなFさんは、歌いながらも不安な気持ちを抱いていたんだ…
そう思うと、Fさんの笑顔が胸に迫ります。

「歌えたね」

即答できなかったけれど、
私もにっこり笑ってFさんに言いました。

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5本箸

5本箸5本箸でお食事…つまり、手づかみで食べてしまう方も中にはおられます。

Eさんも、ご多分にもれず5本箸を使用中。
ですが、Eさん、手づかみで食べながらも
左手はちゃんと手で受けるように口もとに添えています。
しかも、その手の添え方は指をそろえていて、とても優雅な仕草です。
一瞬、みとれてしまいました。

Eさんは、挨拶される姿も優雅です。
ちょこっと、小首をかしげ、手を口もとに添えて
「こんにちはー」「おほほほー」とにこにこされます。

もしかしたら、Eさんは、ものすごいお嬢様だったのかしら
…などと感じました。

5本箸…といっても
人それぞれ
千差万別のあらわれ方が見られます。

食事…という場面は本当に大切

生命に直結しているし
最後まで残るADLだし
だからこそ、対象者の方の能力と困難と特性があらわれやすい

対象者の方にとっては、能力発揮の最後の砦
私たちにとっては、その方の状態を把握できる最後の砦

食事という場面を
もっと、多くの人に
もっと、大切にしてほしいな…と常々感じています。

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独語?大声?咬合不全?

イメージ_マット大きな声で独語が続いて対応困難…というEさん。
前の施設では、高機能のリクライニング車いすを使用していたそうですが
うーん…ポジショニング、合ってない。
全身が突っ張り、なんと、顎まで歪んでしまっています。
上顎は左前へ、下顎は右奥へ…
(ここまでの方は見たことない…!)
当然、舌の動きまで制限を受けてしまっています。
咀嚼運動がほとんどできず丸呑み状態です。
初回の食事介助はとても恐かったことを覚えています。

その方に、ベッド上と振り子式車いすでのポジショニングを設定し、
看護介護職員にも伝達してみんなで実施したところ、
みるみるうちに筋緊張が改善し全身の関節可動域も改善してきました。
咬合不全も解消(!)
閉口している状態が増え(!!)
上唇でのとりこみも改善(!!!)
口唇閉鎖しての咀嚼もできるようになりました(!!!!)
それだけではなくて、なんと、大声での独語まで著明に減少したのです。

この現実は、いったい何を意味しているのでしょう?

独語や大声は、本当にBPSDという症状だったのでしょうか?
不適切なポジショニングによる、苦痛の意思表示だったのではないでしょうか?

認知症のある方が、身体的な障害も合併することは多々あります。
認知症のある方にも、身体面に対して適切に対応できることが求められているのです。

Eさんには、ポジショニングをしただけです。
ポジショニングだけで、こんなにもEさんは変わったのです。

身体面への対応…とりわけ、ポジショニングの必要性・重要性について、再認識させられた体験談。でした。

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HDS-R29点!でも…

イメージ_インコあり得るだろうな…とは思っていましたが、ホントに遭遇した時には一瞬かたまってしまいました(^^;

HDS-R29/30点の方がかなひろいテストで3点。文意把握不可。

たぶん、多くの人がHDS-R29/30点というと、認知症なしって判断してしまって「普通の人」として対応し、それ以上の観察に手を抜いてしまうんじゃないかと思います。

でも、この方はご自宅ではいろいろと異変がありました。
ゴミ箱の中に捨てられた食べ物をあさって食べる…
ご家族との言い争い…

ですが、第三者にはそのような様子は想像できないくらい、そつのない対応をされます。
また、このような方の場合、えてして「認知症」という診断はつかないものですが、そうすると、ご家族の困惑、ご本人の不安感…いずれに対しても対応が後手になってしまいがちです。

作業療法士は医師ではないので、もちろん診断することはできません。
ですが、状態像をきちんと把握しておくことはできます。
現状を適切に把握することができれば、将来の暮らしの困難を予測して対応の布石を考えておくことができます。

その他にも、HDS-R26/30点でかなひろいテスト4点。文意把握不可。
という方もおられました。

HDS-Rは簡単で便利ではありますが、結果だけにとらわれると重要なことを見落としかねません。

検査に対象者をあてはめるのではなくて、
検査結果を状態像把握のために活用できるように…。

以上、ホントにあった体験談。でした。

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介助で変わる!お年寄りの食事

イメージ_スプーンADL車いす全介助、食事も全介助、意思疎通困難で唸り声をあげるCさん。
ADL車いす全介助、食事も全介助、発語も発声も困難なDさん。

Cさんは、お食事の時に舌を前にぐーっと突き出して食塊をとりこみます。
Dさんは、下顎を前にスライドし受け口のようにして食塊をとりこみます。

このような方に口腔機能訓練なんてできようはずもありません。
けれど、この食べ方は仕方ないのか…といえば、そんなことは決してありません。

お2人とも、毎日の昼食時、おやつ時に食事介助をしただけで
3ヶ月後には、上唇をつかったとりこみができるようになりました。

この現実は、いったい何を示しているのでしょうか?

重度の認知症のある方も学習している!環境適応している!のです。

不適切な介助に適応しようとして、不適切な食べ方をしていた。
適切な介助に適応しようとして、適切な食べ方ができるようになった。

認知症のある方の食べ方は
その方の能力と障害と特性を反映しているだけではなくて
こちらのありようをも映し出している…。

ちょっと相当こわいことです。

と、同時に希望を強く感じた体験談。でした。

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