皮肉だなーとは思いますが
本当に予防できた時って、その効果を誰にもわかってもらえなかったりします。
起こると予測されたことを未然に防げた、つまり、現実には起こらなかったことだから。
私は認知症のある方の
一見、できないというカタチで現れる行動に反映されている能力を見出し活用する
ということをとても大切にしてきました。
そして同時に
一見、できるというカタチで現れる行動に反映されている困難を見出し最小化する
ということもとても大切にしてきました。
わかりやすいのが食事場面です。
食事を自力摂取できている方だと
どんな風に自力摂取可能なのかという質的側面を見落としてしまいがちです。
ものすごい把持の仕方をしていても、
代償的な取り込みをしていても、
「今、自分で全量食べられる」という状態だと「問題なし」と認定され
現在の過剰代償という認識も
将来起こるかもしれない困難があると予測することも
将来起こるかもしれない困難を最小化するための手立てを今とっておくことも
いずれも「何言ってんの?」「ちゃんと食べてるじゃない」としか認識されずに
対応が後手に回ってしまいがちです。
そして、思った通りの事態が生じても、
過去に指摘したことについては忘却の彼方となっていて
議論が進まず、いちゃもんをつけられたとしか受け止めてもらえなくなったりということも
現場あるあるです。
特に食事介助というのは
ご本人にとっても介助者にとっても大変な場面ですから
できるだけ自力摂取を推奨したいものです。
こんな時に説得力があるのは、過去にいた対象者の方の状態像を引き合いに出して説明することです。
研修会では「事例があるとわかりやすい」のは
テーマ問わず職種問わず、共通してよくいただく感想でもあります。
抽象的な説明を具体的にイメージすることが容易となるからです。
写真や動画があるとわかりやすい、納得感があるというのも同じ理由です。
ましてや、文化の変容で本を読まない人が増え
文字情報から視覚的情報を自身で構築するという体験が乏しい世代にとっては尚更です。
(当人は体験したことがないので説明してもわからないという
暗黙の前提要件を共有化できないところを踏まえた説明が必要となります)
〇〇が起こることを未然に防ぐために△△するというのは、抽象的説明です。
しかも〇〇が起こる恐れがあるということすら知らない人にとっては余計です。
具体的にイメージできないので、「理屈ばっかり言って」と受け止められかねません。
そこで、共通体験として共有できている事例を引き合いに出して状態像を説明すると
聞く耳を持ってもらえることがあります。
「Aさんは最初食事自力摂取できていたけど、だんだん食べこぼしが増えたじゃない?
あれってスプーンと手指のフィッティングの問題で、
フィッティングの問題を解決すれば自力摂取が続いていた可能性が高いの。
今、BさんがAさんと同じ状態だからスプーンの柄にこういう工夫をしてるんだ。」
そうすると必ずスプーンの柄に工夫をした時としない時とで食べ方が違うということに
気がついてくれる人が出てきます。
このような体験の繰り返しをすると
「よっしーさんの言うことには必ず意味がある」
(この言葉を言われた時にはすごく嬉しかったです)
ことをわかった上で実行してもらえるようになります。
でも、みんながみんなそうじゃないことだって現場あるあるですよね。
そうなるとここで温度差が出てきてしまいます。
工夫したスプーンを使わないから食べこぼしが増えたのに
食べこぼしが増えたのは「認知症のせい」「認知症が進行したから」
という理由づけをされてそれでおしまい。ということも現場あるあるです。
食環境の重要性の認識がなければそのような思い込みに一層の拍車がかかります。
そのような職場環境だと、予防するために為した
さまざまな実践の意味も効果もわかってもらえることはほぼないと言えるでしょう(^^;
でも、諦めないでほしい。
大切なことは、あなた自身の言動を通して世界に表明することだから
誰にわかってもらえなくても
助けてもらった対象者自身にすら理解してもらえなくても
あなたの実践には意味がある。
今は誰にも理解されず辛い気持ちはよくわかるけど
この体験は必ず後になって、線を結ぶことにつながる
だから自身の実践の確度・精度を高めることの方がずっと重要
点と点がどんな線を結ぶかは、後になってからでないとわからない
ということはあちこちで言われていますし
まさにそうだと思う。
ADL低下予防に取り組む時には
本当に効果的な実践ができた時には
そして周囲の人の理解が及ぼない時には一層
効果があったからこそ誰にもわかってもらえないものだという心構えをしておくこと
皮肉なことに
本当に大切で有効な予防策を実践できた時ほど理解してもらえないものなのだと
予め心構えをしておくことが
自身の心を守ることにもつながります。
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