先の記事で
「拒否は情報収集のチャンス」という記事を書きました。
認知症のある方が
拒否するには拒否するに値する必然があります。
(原因ではなくて必然です)
その中でも最も多いのが
「できない」
「わからない」
という予期不安から
Activity遂行を尻込みしてしまうというケースです。
私たち作業療法士が
認知症のある方に出会った時点で既に認知症のある方は
たくさんの失敗体験・喪失体験を蓄積してきています。
生活する、暮らすだけでも
失敗する。混乱する。不安になる。
どうするんだっけ?と朝起きてから夜寝るまでの間
考えながら暮らしていらっしゃいます。
私たちが考えなくても自動的に当たり前にできること
例えば、朝起きたら間違えることなくトイレに行き
パジャマの下衣を下げ、下着を下ろし、排泄し、清拭し、下着を上げ、下衣を上、手を洗い。。。
ある方は排尿後に
「ちゃんと出たね」とおっしゃいました。
私はトイレで「ちゃんと出た!」とは思いません。
ちゃんと出るかどうか迷ったり不安に思ったりしません。
確信を持って排尿しています。
また、ある方は
「カラオケ?私カラオケ好きよ。だって考えなくてもいいんだもの。」
とおっしゃいました。
あぁ、そうか。。。言葉にしなくても
暮らすだけでたくさんのことを考えながら暮らしているんだ
と思いました。
その都度その都度考えなくてはならないとしたら
「やる」ことに必死で楽しむどころじゃないでしょう。
「これ以上困ることなんてやりたくない」
と感じるのは当たり前なんじゃないかなと思います。
そう考えていくと
Activityへの導入も慎重にならざるを得なくなってくる
失敗体験、混乱体験、不安な体験とならないように
声かけや場面設定にも細心の配慮をしようと思うようになってくる
私たちの仕事は
「何かをさせる」ことではなくて
「何かをする」ことが目的でもなくて
「何かをした」ことは手段であって
「何かをした」ことで認知症のある方がプラスの体験ができる
ことにあると考えています。
「拒否されてどうしたら良いのかわからない」
という気持ちはわかりますが
これは問題設定の落とし穴なんです。
拒否されてどうしたら良いのかわからない
というのは私たちの側の問題であって認知症のある方の問題ではない。
私たちは認知症のある方の困難を改善するために仕事をしているので
解決すべきは私たちの困りごとではありません。
ここがいつの間にかすり替えられてしまうのが、臨床あるあるです。
問題設定が悪いから適切な答えが出てこないというのも、現場あるあるです。
だとしたら、適切に問題設定ができるようになれば良いだけなので
そこに立ち戻るべきなんです。
でも、なかなかそうはならない。。。
このあたりの混同・すり替えは、
いろいろなところでいろいろなカタチで起こっています。
あまりにも蔓延っているので、きちんと指摘できる人も少ないし
指摘した上で解決できる方策を示せる人もまた少ないので
善意はあってもモノゴトが解決できずに真摯な人ほど悩みまくる
という構図があちらこちらで散見されているのではないでしょうか。
認知症のある方の立場にたてば
何かをするより、しない方が自分にとってはプラスの時間
という意思表示なんです。
だとすると
目の前にいる方にとって
提案したActivityが
プラスの時間になると、
私たちが確信できるものを提案する
ということが前提条件となります。
認知症のある方の場合
「やりたいことをやる」というのが良い方向に作用しないことも多々あります。
これも以前に書いていることですので検索してみてください。
ところが
この前提条件をクリアするよりも
「いろいろなことをやる方が良い」
「何もしないよりした方が良い」
「何かさせないと」
という思い込みがあって
「することのマイナス」については、あんまり検討されなくて
とにかく、できることを何でもいいから、させるように焦ってしまったり。。。
それで、塗り絵やら折り紙やらを提示したり。。。
しかも、幼稚な下絵で。。。
(この問題もすでにあちこちで指摘済みです。検索してみてください。)
ちょっと話はズレますが
認知症のある方の精神的疲労について
あんまり検討されなくて、できるからって難易度を上げてしまったり。。。
特に通所系の施設では、自宅での暮らしが豊かになることが本来の目的なので
手段と目的を取り違えないように、
質的にも量的にも頑張らせすぎないことが大切だと考えています。
なんとなく提供したActivityをやってもらえたりすると
あぁ良かったで終わってしまいがちですが
(本当は良い結果が出た時こそ、何がどう良かったのか検討する意義がある)
拒否されたら考えるようになるので
本当にチャンスなんです。
ただ、多くの場合に先輩に相談しても
「昔とった杵柄」や「毎朝の挨拶作戦」「なじみの関係づくり」「褒めてあげる」など
なんとなく継承されてきたことを言われるだけで
納得できたわけじゃないけど
自分では納得できる解決案が思いつかないのでそれ以外に術がなく
心の奥ではこんなんじゃいけないのに。。。と思いつつも
多忙な日々に流されていく。。。という人もいると思います。
4月からは先輩として後輩指導にあたることになって
内心ドキドキしている人もいると思います。
「破綻の危機は成長へのチャンス」
という中井久夫の言葉は、本来統合失調症のある方に向けた言葉だと思いますが
もっと広く一般化しても通用する言葉だと思います。
困ることは成長へのチャンスなんだからいいことなんです。
困ることすら、できない人になっちゃいけないんです。
作業療法士として
まずは、その方に有益だと確信できるActivityを選択できること
(具体的には、こちらでもたくさん記事を書いてきたので検索してください)
その努力から始めましょう。
その上で、提案したActivityを拒否された時にどうしたら良いのか
私がしているのは次の二つです。
1)戦略的に時間稼ぎをする
:拒否なく応じていただける別のActivityに誘導して機会を待つ
2)マンツーマンで生活歴を聴取する
:話をしやすいように事前の情報収集と聞き方に工夫をする
次からの記事でご説明していきます。
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