症状を援助に活かす:視覚的被影響性亢進

症状を援助に活かす:視覚的被影響性亢進FTD(前頭側頭型認知症)のある方では、視覚的被影響性が亢進します。
目で見たものに行動が影響されやすくなるのです。
たとえば、目の前で手のひらを大きく広げながら言葉で「じゃんけんのグーを出して」と言われても、認知症のある方はパーを出してしまう…ということが起こってきます。

実は、こういった症状はFTDのある方だけではなくてSDAT(アルツハイマー型認知症)のある方にも起こってきます。
認知症というのは、疾患の定義上、進行性の疾患です。
SDATのある方でも疾患の進行に伴ってFTDの症状が現れてくるということにはよく遭遇します。

これは、脳の器質的生理的変化に基づく症状ですが、逆に援助に活用することもできるのです。

「困ったときほど要注意」http://kana-ot.jp/wp/yosshi/37 の記事にも書きましたが、こちらが柔らかい笑顔だと相手もつられて笑ってしまう。
こちらが怖い顔をしていると相手もよけいに怒りだす…ということはよくあります。
試しに、鏡の前で、にっこり笑いながら語気荒く怒ってみてください。
逆に、強面の形相で柔らかい口調でゆったりとしゃべってみてください。
どうでしょう?
できましたか?
仮に、できたとしてもかなりの努力を要したのではないでしょうか?

対人援助職ならどのような方に対しても、自らのノンバーバルなコミュニケーションに自覚的であることは大切だと思いますが、こと認知症のある方に対してはより一層強調されるべきことだと考えています。

認知症のある方が混乱している時に、こちらが強ばった表情で語気荒く接することは火に油を注いでしまうことになりかねません。
相手が混乱している時こそ、柔らかい表情でゆったりした声で接することが必要です。
状況を悪化させないだけでなく、往々にしてそれだけで落ち着かれる場合も多々あります。
「Do No Harm 悪いことはしない」という意味はもちろんですが、さらに症状を逆手にとって援助に活かすこともできるのです。

たとえば、体操をしていただきたいのなら、職員が正面に立ち身体を明確に動かす。メリハリをつけて動きをわかりやすく伝える。
周囲の状況も目に入りやすいように、半円形に並んで座っていただく…などの場面設定をする。

周囲の状況がわかってなおかつ食事に集中できない方の場合には、敢えて食事動作の自立度の高い方たちのいる席に座っていただく。

誘導する時には、言葉だけでなくジェスチャーを使って視覚的に伝える。

ここに書いたような方法論は、たぶんおそらく何となく使える方法として現場では既に取り入れられていることと思います。
ただ、方法論が意味する意図を明確に言語化した上で取り入れられているケースは少ないのではないでしょうか。

対象者の能力と障害と特性に応じ、視覚情報という場面設定を細かく複数組み合わせるとさらに応用することもできます。
ポイントは、こうしてみたらAさんによかったからBさんにもしてみよう…ではなくて(^^; Aさんの能力と障害と特性はこうだからこのような場面設定をしてみた。Bさんの能力と障害と特性はこうだからこんな場面設定はどうかな?というマッチング、照合作業です。
 

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