Category: 教科書的基礎知識篇

ポジショニング術、伝授します(4)見落としがちなポイント

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骨盤が傾いている場合
まず、傾いている側の骨盤の下にタオルを畳んで設置します。
例えば、骨盤が左方へ傾いていれば左側の骨盤の下にタオルを畳んで設置します。
すると、骨盤が左右対称位になりますから
次に、下肢とベッドの隙間を埋めるようにクッションを設置していきます。

肩甲骨が外転して前方突出していて背骨だけがベッドに接しているような場合には
肩甲骨の下もしくは肩〜上腕にかけてクッションを設置します。
背骨だけだと線で身体を支えているような状態ですが
身体とベッドの隙間を埋めるようにすることで面で身体を支えられるようにするのです。

ベッド上のポジショニングでは
身体を面で支えられるようにすることが大切です。
面で支えられずに線で支えているような状態を放置すると
身体が不安定なので安定させようと筋肉が姿勢保持の機能を行います。
すると同じ筋を同じ方向に同じ力で収縮させることになり
拘縮の原因となりますし
身体を休めることができませんし
褥瘡発生のリスクを生じさせることにもなります。

仰臥位で上記ふたつを設定しただけで
仰臥位時の筋緊張緩和だけでなく
車椅子座位の筋緊張が緩和するケースも少なくありません。
対象者本来の問題ではなく、
環境不適合によってもたらされた身体機能低下だからなのです。

上記二つをクリアした上で
次にすべきことは
対象者の方それぞれにポイントがありますので
そのポイントを見極めることです。
それは次の記事で。

 

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ポジショニング術、伝授します(3)まず全身を観察

飲みもののチカラ

どうポジショニングをしたら良いのかを、
考えるよりも、まず先にすべきことは観察です。

この、とても大切なステップをすっ飛ばす人って
とっても多いんですよね。
だから、「自分の気になるところだけを表面的に修正しようとする」ような
ポジショニングをしてしまうことになるんです。

まず、全身を観察します。
特に、現場あるあるの下記のポイントを見落とさないように観察します。

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いかがですか?

骨盤が左右どちらかに傾いて身体が捻れていませんか?
その状態のままで股関節を外転させたり膝関節を伸展させてはいませんか?
  
円背があって肩甲骨が外転して前方突出して
背骨だけで身体を支えているような状態になってはいませんか?
身体がコロンと左右どちらかに転がったり
肩甲帯とベッドの間に隙間ができてはいませんか?

まず、最優先で対応すべき部分です。
どう対応するのかは次の記事で。

その後に、全身のアライメントを観察します。
次に、優先事項に沿って設定していきます。
通常は、筋のリラックス・姿勢保持のための働きを
クッションで代用させるように考えますが
褥瘡のある方や褥瘡予防対応を優先する必要のある方の場合には
そちらを優先させた対応をします。

 

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ポジショニング術、伝授します(2)考え方

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まずは
最も重要な、考え方・視点について、お伝えしたいと思います。

生活期にある方のポジショニングで
やっちゃいけないのに現場あるあるな考え方は
「姿勢を修正しようとする」「良い姿勢に矯正しようとする」考え方です。

生活期にある方で不良姿勢があると
その不良姿勢だけを見て
表面的に「良い姿勢」を想定して
そこから、差し引きマイナスで現状を判断して
「良い姿勢」に近づけようとする、といった考え方は
OTでもPTでも散見される考え方ですが
一見、良い姿勢になったように見えても
長期的には逆効果になることがとても多いものです。
(そして、設定した人はそのことに気がつけないで
 対象者の不良姿勢、変形・拘縮がどんどんひどくなるという。。。)

認知症のある方の生活障害やBPSDに対して
表面だけを見てハウツーを当てはめるような対応の弊害について
私は、あちこちで言明していますが
ポジショニングもまったく同じで、同じコトが違うカタチで現れているだけなんです。

問題を対象者の状態像のせいに限定してはいけないのです。

まず、視点・考え方を変えましょう。

そうすると、本当にすごくお身体がガチガチで変形・拘縮が強い方でも
筋緊張が緩和してお身体が柔らかくなり可動域が改善していきます。

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予防可能その3:美容院脳卒中症候群

美容院脳卒中症候群(スタンダール症候群)は
美容院業界では対策がとられているようですが
高齢者施設では、そこまで注意喚起がなされていないようにも思います。

美容院脳卒中症候群とは
長時間の頸部圧迫や上方注視によって
後頸部にある椎骨動脈を圧迫してしまうことによって
めまい、ふらつき、手足のしびれやひどい時には脳梗塞を起こしてしまうことを言います。

高齢者施設でよくあるケースが
普通型車椅子に乗車している方が
頸部後屈位のまま長時間居眠りをしているというケースです。

認知症が重度になると
手足のしびれを言語化できないことも多々ありますので
職員が予防的に対応できないと片麻痺がいつの間にか生じている
ということも起こり得ます。

このような姿勢で居眠りしていたら
ベッドで臥床を促したり
ベッド臥床が難しい場合には、
ヘッドレストを後付けしたり
ヘッドレストがついているタイプの車椅子に変更することによって
予防するように気をつけたいものです。

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予防可能その2:下垂足

  
たまに見かける下垂足
足関節を背屈しようとしてもできません。
圧迫による腓骨神経麻痺による場合は
不適切な側臥位ポジショニングや長時間の横坐りや
椅子で足を組んだまま長く座っている方に起こることがあります。

認知症が重度になると
ご本人は下垂足の自覚がなくとも
無意識に股関節や膝関節を過剰に屈曲する代償歩行をしています。

認知症が軽度までの方なら
プロフッター を装着してもらうことも可能ですが
重度になると説明した意義を忘れて外してしまい装着継続が困難になったりします。

代償歩行ができるとはいえ、歩行時の転倒リスクはありますから
予防できるに越したことはありません。

側臥位ポジショニングは適正に設定すれば良いのですが
足を組んで座るというその方の座り方の癖を直すというのは難しいものです。
長時間、足組み座位が連続しないように
体操やトイレ誘導など、立ったり足を動かす機会を作ることで
腓骨神経の長時間の圧迫による麻痺を回避させる工夫をする方が現実的だと思います。

 

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予防可能その1:下垂手

移乗動作や寝返りが全介助でも食事は自力摂取している方が
突然、下垂手になってしまうこともあります。

このようなケースで圧倒的に多いのが
完全側臥位による橈骨神経麻痺です。
  
「褥瘡予防のために仙骨部を除圧しなきゃ」という善意かもしれませんが
完全側臥位は非常に危険です。

体位交換・ポジショニングに関する誤解もまだまだ多いようですが
1)完全側臥位はとらせない
2)側臥位で下になった上肢は必ず体幹から引き出す
3)肩甲帯〜骨盤帯をクッションで支える
という側臥位設定時の注意を守っていただきたいと思います。

橈骨神経麻痺は、圧迫の程度や持続時間によって回復までの時間は様々です。

一番、問題になるのが食事摂取です。

食事は、ご自身で自力摂取できていた方なのに
下垂手になると摂取困難になってしまいます。
認知症がないか、あっても軽度であれば
一時的に非利き手を使用したり
手にカフを巻きつけて代償的に食べたりもできますが
認知症が重度になってくると
食べ方を変更することは困難になり
下垂手の状態で以前と同様に食べようとして食べられず
辛い思いをされることになります。

高齢者の下垂手、橈骨神経麻痺は完全側臥位が原因のことが多く
(もちろん、その他の原因によっても起こりますが)
その場合は職員の側にありますので予防可能なことが多いのです。

 

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視覚的理解の活用:透明のコップ

ダイソーさんで購入した、透明のコップです。

認知症があると、いろいろなことを忘れてしまいますが
目で見てわかるチカラは、かなり保たれています。

ところが
高齢者施設や病院では不透明なコップを使用していることが多いですよね。

近時記憶が低下していると
水分摂取を促しても不透明なコップだと
飲み残しがあるということを忘れてしまいます。

透明なコップだと、コップにまだ飲み物が残っているということが一目瞭然
飲み残しがある→飲む という
環境認識→判断→行動の一連の過程を職員の声かけではなく
認知症のある方の視覚理解を活用する
環境調整によって援助することが叶います。

「水分摂取に促しが必要」な方の中には
「飲みたくない」のではなくて
「飲んでいたことを忘れてしまう」
「飲み終わっていないことを忘れてしまう」
「コップの中に飲み物が残っていることを忘れてしまう」
というケースも多々あります。
そのようなケースに有効なのが、視覚理解に働きかけるという環境調整による工夫です。

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検査結果は表裏一体/できないできる一体

目標設定の記事で
評価と治療の乖離
検査結果を対応に活かせていない という内容を書きました。

せっかくですので
もうちょっと具体的に書きますと
HDS-R18点の方とHDS-R3点の方に同じ声かけをしているとか
構成障害のある方に折り紙を提供して
「ここをこうしてこうやって」と説明しているというようなことは
認知症のある方や高齢者を対象とした現場でよくよく見られることです。

しかも
それで指示通りに実行できないと
簡単に「疎通困難」とか「認知症だから」と言ったり
折り紙のほとんどをセラピストが仕上げて「頑張りましたね」と言ったり
認知症のある方の手をセラピストが動かしている状態にしていたり
というのも現場あるあるです。。。

本当にそれで良いのかなぁ。。。?
 
うまく言語化できないけど
「どこか違う」「何か良くない」と
漠然とした違和感を抱いている人も少なからずいると思います。

HDS-R18点であれば、遅延再生に一部得点できたりヒントで答えられることが多いでしょうし
HDS-R3点であれば、遅延再生はヒントを出しても答えられないケースが多いと思います。
つまり、近時記憶障害の程度が違う、記憶の連続性が異なるので
リハ場面で諸々の説明をする時には配慮が必要です。
HDS-R18点の方の場合では
最初に1回説明するだけで「何をどうやるのか」リハ中の20分間覚えていられても
HDS-R3点の方の場合では
説明を数分しか覚えていられないので
工程を簡略化し、その工程を終えるたびに同じ説明を繰り返す配慮が必要です。
ところが、現実には
HDS-Rをとって「認知症重度」と判断しているのに
認知機能が低下していない方と同様の対応をして
その結果、認知症のある方が工程を遂行することができないと
「やっぱり認知症が重度」と判断を上塗りするだけのセラピストは多いのです。。。
いやいや、対応を変えなきゃ。でしょうに!
そうすると「ちゃんと優しい声かけをしてる」って言うのです。。。

構成障害とは
全体と部分、部分と部分の位置関係を認識し再現する能力の障害のことですから、
「ここをこうしてこうやって」と見本を見せながら説明しているつもりであったとしても
隣にいるセラピストの折り方と自身の折り方を照合させながら動作することを要請しています。
構成障害がある方に対して、できないことをさせていることになってしまっています。
再現できなくても認識はできる方は大勢いますから
「自分がやろうとしてもできない」体験を反復強調させていることにもなってしまっています。
ところが「ここをこうしてこうやって」が適正な説明だと思い込んでいる人も多いのです。
構成障害のある方にとって最も困難な説明なのに。。。
  
もちろん、このような対応をしているセラピストに悪意があるわけではなく
単に知識がなかったり、概念の本質を理解できていないことによって
本当は適切な対応でないことを自覚できていないに過ぎません。

  だからこそ、厄介とも言えますが。。。
  まさに、
  「地獄への道は善意で敷き詰められている」

  「天国には善行が満ち、地獄には善意が満ちている」
  わけです。。。

HDS-RやMMSEをすることが評価でもなければ
立方体透視図模写テストや五角形模写課題をすることが評価ではありません。
「検査=評価」ではないのです。

HDS-Rや立方体透視図模写テストなどの検査は、
ふだん能力低下に直面せずに暮らせている人に対して
「できない、わからない、困った」ことに直面させる体験でもあります。
そのような辛い体験をさせてまで得た結果なのだから対応に活用しましょう。
私たちは評論家ではないのですから。

評論家なら、
「HDS-Rが1桁で重度の認知症」
「立方体透視図模写テストが全然できなかったから構成障害重度」
と宣って終わりで良いでしょうけれど
私たちは評論家ではなくて、援助者なのですから。

それら検査結果を踏まえて
「じゃあ、どうするのか」が問われているのです。

リハとは、「じゃあ、どうするのか」の協働作業です。
「認知症だから、どうするのかが難しい」わけではありません。

「HDS-R3点だった」
という結果から「どうするのか」が出てくるわけがありません。
「じゃあ、どうするのか」を具現化できるためには
能力を見出し活用することが必須です。
「HDS-R3点だった」ということは、
1)3点はとれた
2)尋ねたことの枠組みで答えることができた
ということでもあります。
ここに、能力を見出すヒントがあります。

そしてこれって、実は
検査に限らないし
リハの場面設定に限らないし
食事介助でもポジショニングでもBPSDへの対応でも言える
ことですし
もっと言うと認知症のある方に限らないと思うのです。

 

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