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ポジショニング術、伝授します(5)見た目を整えるのではなく働きを変える

きちんと観察すれば
その方がどういう状態なのか、そのポイントを洞察することができます。

洞察するに際して、最も重要なことは考え方で
良いと考える姿勢から、差し引きマイナスで現状を見て
「修正」しようとはしないことです。

その方が困っているところを洞察して「援助」しようと考えてください。

多くの場合に
「修正しよう」と考えて対応して逆効果になっているのです。
そのような考え方ができるのは、実は、
その方固有のポイントを洞察できていないからだとも言えます。

例えば
下肢が交差してしまうケースでも
状態像はケースによって、まったく異なりますが
きちんと全体を観察しないと
ただ、下肢が交差しないようにというポジショニングを設定してしまいがちです。
(そして効果がないのに、そのまま放置されて、対象者の状態のせいにされるという。。。)

ある方は
下肢そのものの筋緊張はさほど高くありませんでしたが
円背があって肩甲骨が外転・前方突出していて肩甲帯が不安定でした。
肩甲帯が安定するように肩甲骨〜上腕にかけて柔らかなクッションを、
膝下〜下腿にかけてクッションを設置したところ
下肢の交差そのものへは何の対処もせずとも
交差することはなくなったということもありました。

別の方は
下肢を含めた全身の筋緊張が高く
下肢は伸展パターンをとっていましたので
骨盤を後傾させ股関節を屈曲させてからクッションを設置し
膝下〜下腿にクッションを設置することで全身の筋緊張が緩和されました。

見た目は同じ「下肢が交差している」状態でも
1例目は肩甲帯の不安定さ
2例目は下肢の伸展パターン
というように、状態像は全く異なっていますから、当然、対処も全く異なります。

下肢の交差という、とても目立つ「見た目」があると
そこに注目して、修正しようとしがちですが
まず、常に全身、全体像を観察することが重要です。

1例目は
目立つ「見た目」にとらわれて
ポイントである肩甲帯の不安定さを見落としてしまいがちですし
2例目は
目立つ「見た目」にとらわれて
下肢だけを外転・屈曲させようとクッションを膝の間に詰め込んだり
必死になって屈曲させようとしがちですが
大抵の場合に、クッションを外せば一気にキューっと下肢が伸展内転してしまいます。

クッションで外転・屈曲位になっていたわけではないのです。
単に見た目だけを外転・屈曲位になるように見せていただけなのです。

クッションを外したから不良姿勢になったわけではなくて
クッションを外したことで観察力の未熟な人にでも
身体の状態、働きが見えるようになっただけなのです。

解剖を思い出してください。
大腿四頭筋や縫工筋は2関節筋です。
筋肉の伸長性が保たれていない状態のまま
遠位部(膝の伸展や股関節の外転)を無理矢理伸長しようとすれば
近位部が短縮するしかありません。
見た目、膝が伸びたり股関節が外転しているように見えても
近位部は短縮するように働いているので
クッションを外すと一気に屈曲内転方向に筋肉が働くのです。

筋肉は本来ゴムのように伸び縮みするものですが
筋緊張が亢進していると伸び縮みしない、できない状態となっています。
そんな状態で見た目だけ整えるようなことを繰り返していると
全身がどんどん硬くなってしまいます。。。
これじゃあ、寝ても寝た気がしないと思うのです。。。
第一、すごく痛いと思います。

まずは、筋肉の伸長性を担保しなければ。

車椅子上でどちらかに傾いて座っている方にもよく遭遇します。
たいていの人は、傾いている側にクッションを当てたり
座面を調整しようとしますが
実は、身体の過緊張の問題だったりするので
臥床時のポジショニングを適切に設定することで
身体の働き、筋肉の本来のゴムのように伸び縮みする働きを取り戻すことができると
車椅子上のポジショニングを設定しなくても
結果として、車椅子での姿勢が改善されるということもよくあります。

見た目だけ捉えて表面的に修正しようとすると
効果が得られないどころか逆効果を生み出してしまいます。

自分の気になるところだけをみて
表面的に修正・改善しようとするような在り方は
ポジショニングだけでなく
生活期にある方の食事介助でも
認知症のある方の生活障害やBPSDへの対応についても
散見されるパターンです。

私がよく
「同じコトが違うカタチで起こっている」
と言う所以です。

 

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ポジショニング術、伝授します(4)見落としがちなポイント

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骨盤が傾いている場合
まず、傾いている側の骨盤の下にタオルを畳んで設置します。
例えば、骨盤が左方へ傾いていれば左側の骨盤の下にタオルを畳んで設置します。
すると、骨盤が左右対称位になりますから
次に、下肢とベッドの隙間を埋めるようにクッションを設置していきます。

肩甲骨が外転して前方突出していて背骨だけがベッドに接しているような場合には
肩甲骨の下もしくは肩〜上腕にかけてクッションを設置します。
背骨だけだと線で身体を支えているような状態ですが
身体とベッドの隙間を埋めるようにすることで面で身体を支えられるようにするのです。

ベッド上のポジショニングでは
身体を面で支えられるようにすることが大切です。
面で支えられずに線で支えているような状態を放置すると
身体が不安定なので安定させようと筋肉が姿勢保持の機能を行います。
すると同じ筋を同じ方向に同じ力で収縮させることになり
拘縮の原因となりますし
身体を休めることができませんし
褥瘡発生のリスクを生じさせることにもなります。

仰臥位で上記ふたつを設定しただけで
仰臥位時の筋緊張緩和だけでなく
車椅子座位の筋緊張が緩和するケースも少なくありません。
対象者本来の問題ではなく、
環境不適合によってもたらされた身体機能低下だからなのです。

上記二つをクリアした上で
次にすべきことは
対象者の方それぞれにポイントがありますので
そのポイントを見極めることです。
それは次の記事で。

 

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ポジショニング術、伝授します(3)まず全身を観察

飲みもののチカラ

どうポジショニングをしたら良いのかを、
考えるよりも、まず先にすべきことは観察です。

この、とても大切なステップをすっ飛ばす人って
とっても多いんですよね。
だから、「自分の気になるところだけを表面的に修正しようとする」ような
ポジショニングをしてしまうことになるんです。

まず、全身を観察します。
特に、現場あるあるの下記のポイントを見落とさないように観察します。

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いかがですか?

骨盤が左右どちらかに傾いて身体が捻れていませんか?
その状態のままで股関節を外転させたり膝関節を伸展させてはいませんか?
  
円背があって肩甲骨が外転して前方突出して
背骨だけで身体を支えているような状態になってはいませんか?
身体がコロンと左右どちらかに転がったり
肩甲帯とベッドの間に隙間ができてはいませんか?

まず、最優先で対応すべき部分です。
どう対応するのかは次の記事で。

その後に、全身のアライメントを観察します。
次に、優先事項に沿って設定していきます。
通常は、筋のリラックス・姿勢保持のための働きを
クッションで代用させるように考えますが
褥瘡のある方や褥瘡予防対応を優先する必要のある方の場合には
そちらを優先させた対応をします。

 

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ポジショニング術、伝授します(2)考え方

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まずは
最も重要な、考え方・視点について、お伝えしたいと思います。

生活期にある方のポジショニングで
やっちゃいけないのに現場あるあるな考え方は
「姿勢を修正しようとする」「良い姿勢に矯正しようとする」考え方です。

生活期にある方で不良姿勢があると
その不良姿勢だけを見て
表面的に「良い姿勢」を想定して
そこから、差し引きマイナスで現状を判断して
「良い姿勢」に近づけようとする、といった考え方は
OTでもPTでも散見される考え方ですが
一見、良い姿勢になったように見えても
長期的には逆効果になることがとても多いものです。
(そして、設定した人はそのことに気がつけないで
 対象者の不良姿勢、変形・拘縮がどんどんひどくなるという。。。)

認知症のある方の生活障害やBPSDに対して
表面だけを見てハウツーを当てはめるような対応の弊害について
私は、あちこちで言明していますが
ポジショニングもまったく同じで、同じコトが違うカタチで現れているだけなんです。

問題を対象者の状態像のせいに限定してはいけないのです。

まず、視点・考え方を変えましょう。

そうすると、本当にすごくお身体がガチガチで変形・拘縮が強い方でも
筋緊張が緩和してお身体が柔らかくなり可動域が改善していきます。

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予防可能その1:下垂手

移乗動作や寝返りが全介助でも食事は自力摂取している方が
突然、下垂手になってしまうこともあります。

このようなケースで圧倒的に多いのが
完全側臥位による橈骨神経麻痺です。
  
「褥瘡予防のために仙骨部を除圧しなきゃ」という善意かもしれませんが
完全側臥位は非常に危険です。

体位交換・ポジショニングに関する誤解もまだまだ多いようですが
1)完全側臥位はとらせない
2)側臥位で下になった上肢は必ず体幹から引き出す
3)肩甲帯〜骨盤帯をクッションで支える
という側臥位設定時の注意を守っていただきたいと思います。

橈骨神経麻痺は、圧迫の程度や持続時間によって回復までの時間は様々です。

一番、問題になるのが食事摂取です。

食事は、ご自身で自力摂取できていた方なのに
下垂手になると摂取困難になってしまいます。
認知症がないか、あっても軽度であれば
一時的に非利き手を使用したり
手にカフを巻きつけて代償的に食べたりもできますが
認知症が重度になってくると
食べ方を変更することは困難になり
下垂手の状態で以前と同様に食べようとして食べられず
辛い思いをされることになります。

高齢者の下垂手、橈骨神経麻痺は完全側臥位が原因のことが多く
(もちろん、その他の原因によっても起こりますが)
その場合は職員の側にありますので予防可能なことが多いのです。

 

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視覚的理解の活用:透明のコップ

ダイソーさんで購入した、透明のコップです。

認知症があると、いろいろなことを忘れてしまいますが
目で見てわかるチカラは、かなり保たれています。

ところが
高齢者施設や病院では不透明なコップを使用していることが多いですよね。

近時記憶が低下していると
水分摂取を促しても不透明なコップだと
飲み残しがあるということを忘れてしまいます。

透明なコップだと、コップにまだ飲み物が残っているということが一目瞭然
飲み残しがある→飲む という
環境認識→判断→行動の一連の過程を職員の声かけではなく
認知症のある方の視覚理解を活用する
環境調整によって援助することが叶います。

「水分摂取に促しが必要」な方の中には
「飲みたくない」のではなくて
「飲んでいたことを忘れてしまう」
「飲み終わっていないことを忘れてしまう」
「コップの中に飲み物が残っていることを忘れてしまう」
というケースも多々あります。
そのようなケースに有効なのが、視覚理解に働きかけるという環境調整による工夫です。

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ADL低下予防の実践に際して

皮肉だなーとは思いますが
本当に予防できた時って、その効果を誰にもわかってもらえなかったりします。
起こると予測されたことを未然に防げた、つまり、現実には起こらなかったことだから。

私は認知症のある方の
一見、できないというカタチで現れる行動に反映されている能力を見出し活用する
ということをとても大切にしてきました。

そして同時に
一見、できるというカタチで現れる行動に反映されている困難を見出し最小化する
ということもとても大切にしてきました。

わかりやすいのが食事場面です。
食事を自力摂取できている方だと
どんな風に自力摂取可能なのかという質的側面を見落としてしまいがちです。
ものすごい把持の仕方をしていても、
代償的な取り込みをしていても、
「今、自分で全量食べられる」という状態だと「問題なし」と認定され
現在の過剰代償という認識も
将来起こるかもしれない困難があると予測することも
将来起こるかもしれない困難を最小化するための手立てを今とっておくことも
いずれも「何言ってんの?」「ちゃんと食べてるじゃない」としか認識されずに
対応が後手に回ってしまいがちです。
そして、思った通りの事態が生じても、
過去に指摘したことについては忘却の彼方となっていて
議論が進まず、いちゃもんをつけられたとしか受け止めてもらえなくなったりということも
現場あるあるです。

特に食事介助というのは
ご本人にとっても介助者にとっても大変な場面ですから
できるだけ自力摂取を推奨したいものです。
こんな時に説得力があるのは、過去にいた対象者の方の状態像を引き合いに出して説明することです。

  研修会では「事例があるとわかりやすい」のは
  テーマ問わず職種問わず、共通してよくいただく感想でもあります。
  抽象的な説明を具体的にイメージすることが容易となるからです。
  写真や動画があるとわかりやすい、納得感があるというのも同じ理由です。
  ましてや、文化の変容で本を読まない人が増え
  文字情報から視覚的情報を自身で構築するという体験が乏しい世代にとっては尚更です。
 (当人は体験したことがないので説明してもわからないという
  暗黙の前提要件を共有化できないところを踏まえた説明が必要となります)
  
〇〇が起こることを未然に防ぐために△△するというのは、抽象的説明です。
しかも〇〇が起こる恐れがあるということすら知らない人にとっては余計です。
具体的にイメージできないので、「理屈ばっかり言って」と受け止められかねません。
そこで、共通体験として共有できている事例を引き合いに出して状態像を説明すると
聞く耳を持ってもらえることがあります。
  
「Aさんは最初食事自力摂取できていたけど、だんだん食べこぼしが増えたじゃない?
 あれってスプーンと手指のフィッティングの問題で、
 フィッティングの問題を解決すれば自力摂取が続いていた可能性が高いの。
 今、BさんがAさんと同じ状態だからスプーンの柄にこういう工夫をしてるんだ。」
 
そうすると必ずスプーンの柄に工夫をした時としない時とで食べ方が違うということに
気がついてくれる人が出てきます。
このような体験の繰り返しをすると
「よっしーさんの言うことには必ず意味がある」
 (この言葉を言われた時にはすごく嬉しかったです)
ことをわかった上で実行してもらえるようになります。
  
でも、みんながみんなそうじゃないことだって現場あるあるですよね。
そうなるとここで温度差が出てきてしまいます。
工夫したスプーンを使わないから食べこぼしが増えたのに
食べこぼしが増えたのは「認知症のせい」「認知症が進行したから」
という理由づけをされてそれでおしまい。ということも現場あるあるです。
食環境の重要性の認識がなければそのような思い込みに一層の拍車がかかります。
そのような職場環境だと、予防するために為した
さまざまな実践の意味も効果もわかってもらえることはほぼないと言えるでしょう(^^;

でも、諦めないでほしい。
大切なことは、あなた自身の言動を通して世界に表明することだから
誰にわかってもらえなくても
助けてもらった対象者自身にすら理解してもらえなくても
あなたの実践には意味がある。
今は誰にも理解されず辛い気持ちはよくわかるけど
この体験は必ず後になって、線を結ぶことにつながる
だから自身の実践の確度・精度を高めることの方がずっと重要

  点と点がどんな線を結ぶかは、後になってからでないとわからない
  ということはあちこちで言われていますし
  まさにそうだと思う。

ADL低下予防に取り組む時には
本当に効果的な実践ができた時には
そして周囲の人の理解が及ぼない時には一層
効果があったからこそ誰にもわかってもらえないものだという心構えをしておくこと
皮肉なことに
本当に大切で有効な予防策を実践できた時ほど理解してもらえないものなのだと
予め心構えをしておくことが
自身の心を守ることにもつながります。

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車椅子サイドガードの工夫

上の写真の緑色の矢印の部分に
足が挟まってしまうと聞いて
赤い星印のようなカバーを作りました。

認知症のある方は
じっとしていられなかったり
理解ができなかったり
かったるかったりといろいろな理由で
手足を動かす方もいます。

足が挟まってしまっては危ないので
挟まらないようにどうしようかと考えました。

まず考えたのは、板を設置することですが
実際に足を挟んだことがある以上、板では足が当たって痛いだろうし
板を認識できずに手で持ったり投げたりしたら危ないし

段ボールや発泡スチロールも考えましたが
手で持ったり投げたりするリスクは変わらないし
トランスファーのたびに、どけたり入れたりするのは手間がかかります。

毎回必ずしなければならないというのは
大した手間ではなくても毎回毎日続けなければならないのは
心理的な負担が増してしまうものです。

そこで考えたのが、フェルトカバー
フェルトなら触れた時の感触も柔らかいし
布とは違ってほつれることもないし
幸い、使用する方は食べ物などで汚染する可能性が少ない方だし
サイドガードを上げ下げしても、使用時に違和感はないし手間も増えない
フェルトが1枚だと伸びてしまうので
耐久性を考えてフェルトを3重に重ねて縫い留めました。

縫うのはもちろん手縫いだったので大変ではありましたが
赤い点線のところは部品ギリギリに2重に縫って
緑の実戦のところはアームレストの形状に沿って縫うことで外れにくいようにしています。

フェルトの色が目立つと手でいじってしまうので
色も目立ちにくいように車椅子本体の色、特にアームレストの色と揃えて黒にしました。

汚染の可能性が少ない方だからフェルトを選択しましたが
もしも、汚染の可能性が高い方なら交換の簡便性を優先して
ビニールクロスにガムテープか養生テープかな?
手で触られにくいように切り口は外側にしてテープで固定した後に
固定跡を隠すために同一のクロスを両面テープで留めておくとか?

そうすればサイドガードを上下させる時の操作の邪魔にはならないし
ちょっとした汚れは拭き取るだけで
しっかり汚れを落としたい時には全面交換になるけど
交換時の手間もさほどかからずにできます。

ちょっとした工夫ではありますが
考え方としては
乗車する対象者の方の安全確保を第一に
操作する職員の工程・手間を増やさないことを考え
汚染可能性について検討して素材を選択した
ということになります。

 

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