前の記事「あそこへ行く!」の答え、
どう対応するのか、そして、その解説です。
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「あそこの向こうにある郵便局に行くんだ!」
郵便局に行こうとしていたんですね?
郵便局に行って何をしたいんですか?
「郵便局には〇〇さんがいてね。
前に〇〇さんのことをいろいろお世話したんだよ。
〇〇さんに言えばちゃんとやってくれる。
洋服がたくさんあるんだ。」
〇〇さんにちゃんとやって欲しいことがあるんですね。
(両手を太ももの下に入れているのを見て)
ところで、今、寒いですか?
「いや、寒くはないんだけどね、
朝方寒くなったら嫌だから服を取りに行こうと思って」
服を取りに行きたかったんですね。
それでは、洋服のあるところにご案内します。
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上着は、その方のお部屋のベッドの上にちゃんと畳んで置いてありました。
その後上着を車椅子の後ろにかけて食堂に戻りましたが
立ち上がることはありませんでした。
いかがでしたか?
それでは、私が何を意図して何をしていたのか
解説をしていきます。
この方は、最初から「手段(方法)の言葉」を使っています。
「あそこに行く!」
あそこに行って、何をしたいか ということは言っていません。
そこで、まず最初に目的を尋ね返しました。
あそこに行って何をしたいんですか?
それに対する答えが
「あそこの向こうにある郵便局に行くんだ!」と
もう一度、「手段(方法)の言葉」で答えられました。
そこで、再度、目的を尋ね返しました。
郵便局に行きたいたんですね?
郵便局に行って何をするんですか?
ここは、口調に気をつけないと。
詰問しているような口調にならないように気をつけながら
語尾は小首をかしげるようにして尋ねました。
そこで、ようやく、この方がしたいことを答えてくれました。
〇〇さんに言えばちゃんとやってくれる。
洋服がたくさんあるんだ。
ちゃんとやってほしい。
その気持ちを受け止めたことを言葉にして伝えます。
〇〇さんにちゃんとしてほしいことがあるんですね。
何をちゃんとして欲しいのか、尋ねてみないとわかりません。
洋服に関係あることだと言っています。
ここでその方の様子を確認すると、両手を太ももの下に入れています。
この方は寒がりだし、両手を太ももの下に入れてるのは寒いからかな?
と思って具体的に尋ねてみました。
イマ、ココでのその方の感覚を確認する言葉です。
ところで、今、寒いですか?
ここで、ようやく 目的の言葉 が出てきました。
「いや、寒くはないんだけどね、
朝方寒くなったら嫌だから服を取りに行こうと思って」
この方が
あそこに行きたかった
郵便局に行きたかった
本当の理由は、上着を手元に置いておきたかった
ということがわかりました。
このように
認知症のある方が
何かしたいと思った時に
直接的にしたいこと(目的)を言葉にせずに
したいことを達成するための手段(方法)の言葉で表現することは
よくよくあります。
そのことを職員が認識せずに
表現された言葉だけを切り取って
「あそこへ行きたい」
「郵便局へ行きたい」と言われた時に
「郵便局なんてここにはない」
「今は寒いから郵便局には出かけないほうがいい」
「あそこはパントリーでその向こうは廊下。よく見て」
「そんなことより、お茶でもいかが?」と言ったり
あるいは
「じゃあ、あそこへ行ってみましょう」と車椅子を押して行って
「郵便局はありませんよね?」などと言っても
かえって大声で怒鳴られまくって立ち上がり続けて
ほとほと困り果ててしまう。。。ということも現場あるあるです。
でも、よくよく考えてみて下さい。
上記のような職員の対応は
「立っちゃダメ」「立たないで」と言われても、
それでも、なおかつ
どうしても郵便局へ行きたいと思う、あなたにとっての必然を教えて下さい。
ではなくて
あなたが何をしたいのかは感知しない
あなたの言っていることはおかしなことだ
おかしなことを言っているとわかってね
と言っているのと同じなんです。
だから
「やっぱりあんたは私の話を聞いてくれないじゃないか」
「だから〇〇さんじゃなきゃダメなんだ」
「郵便局に行くって言ってるのに違うところに連れてきただろう」
「なんでこんなところに連れてきたんだ!」
「そうやって私を言いくるめようとして!」
「私のことをバカだと思っているんでしょう!」
と怒り出してしまう。。。
それに対して
この方は最近怒りっぽいから認知症が進行したのかな?と
認知症のせいにして、自身の関与を吟味検討することなく終わってしまう。。。
でも
この方の怒りはもっともなこと、正当な怒りではないでしょうか?
この方が本当は何をしたいと思っているのか
困っていることは何なのか
答えることができるのは、その方だけ
対象者の方だけです。
対象者の方は答えている
答えを聴くためには工夫が必要です。
私たちは聴けている?
答えを聴くために必要なのは
知識の明確な認識であり、
その知識をもとにした観察・洞察であり、
自身の意図を的確に実現できる技術です。
詳細は
「声かけの工夫の考え方」
に説明してありますので、ぜひご参照ください。
この記事で説明している
「手段(方法)の言葉と目的の言葉」を理解しておくと
認知症のある方とのコミュニケーションの質が上がり
ケアの質、対応の工夫の質が格段に上がると思います。
(ただし、適切に実践できるためには反復練習が必須です)
もうひとつ
大切なことは「声」です。
「何」を言うか考えても
口調に無頓着だったりすると
認知症のある方は口調のキツさに反応して怒ってしまうことがあります。
認知症のある方への声かけ、コミュニケーションにおいて
What、言葉だけでなく
How、声もcontrol して選択しながら関与できることが大切です。
認知症のある方の答えを聞いているようで本当には聴かずに
表面的な困りごとをどうやって収めるのか考える風潮もあります。
もちろん、私たちの手は2本しかないから
気持ちがあっても収める、しのぐしかない時だってあります。
そのような時には、しのぐ自覚のもとに正々堂々としのげば良いと思います。
ただし、決して「しのいでいることと適切な対応の混同をしない」ことが重要です。
だって、違うんですから。
今はどの職種も忙しい。
時間も人手も限りがあります。
だからと言って
事実と内心の要請とを混同するから話がややこしくなってしまいます。
課題解決において、この混同も現場あるあるではないですか?
本当に適切な対応は時間もかかりません。
適切な食事介助をすれば15~20分程度の通常時間内で食べられるようになるのに
適切なスプーン操作ができないから
対象者の食べるチカラが混乱・低下し、
結果として食事に要する時間が40分もかかってしまう。。。
同じコトが違うカタチで
認知症のある方への対応全般に関しても起こっているだけです。
まず、考えるべきは適切な対応、食事介助ができることであって
それは可能なのだということを実践し伝えることが
このサイトでの役目のひとつだと考えています。
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