Activityの提供:本当にあったこと1

実際に私が遭遇したことです。

例えば
下記のような塗り絵の下絵を
認知症のある方に提供されていました。

これらの下絵のどこがマズイかというと。。。
1)幼稚な印象を与える
2)単純化されているので誤認しやすい

認知症のある方は
よくご自身のことを「頭がバカになった」と言われますが
決してそんなことはありません。

通常、作業療法士やその他の対人援助職が認知症のある方に出会った時点で
既に認知症のある方は普段の暮らしの中で
相当な困難、できなくなった、わからなくなった体験を積み重ねています。

そのような方に対して
幼稚な印象を受ける下絵を提供すれば
そんなつもりはなくても
やっぱり自分がバカだからこんな程度しかできないと思われているんだ
と感じさせてしまう恐れがあります。

かつて
デイの利用を拒否していた方が
「『あんなところに行ったって
 チーチーパッパ幼稚園みたいなことさせられるんだろう?』
と思っていたけど
全然違った。こんなことならもっと早く来れば良かった」
と言われたことがあります。

その方の誤解もあったかもしれませんが
まったく何もなければ誤解も生まれません。

現に、このような塗り絵の下絵には
私自身が異なる複数の場で遭遇しています。

塗り絵に限らずですけれど
「あなたの両親、学校の校長先生、病院・施設のトップに
 自信をもって提供できるActivityなのか?」
と自問することは大切なんじゃないかと思っています。

また
提供者側がこのような幼稚な下絵を提供するには
それなりの理由があるからとも考えています。
それは「単純化された下絵の方がわかりやすいだろう」
という誤解があるのではないかということです。

でも
それはまったくの誤解で
単純化された下絵はかえって誤認を生じさせやすいのです。

例えば
左側の下絵では
私たちは「ウサギが雪空を見上げている」と認識しますが
認知症のある方は
ウサギの顔を赤く塗り、背景を青く塗りました。
ウサギの顔だけに注意が固着されてしまい
ウサギを金魚、雪を水の中の空気の泡と誤認したのです。

真ん中の下絵は
私たちは「クリスマスのチキンがお皿に載っている」と認識しますが
認知症のある方は
チキンとお皿を黄色やピンクで塗り
添え物の野菜と持ち手の飾りを赤く塗りました。
チキンと野菜とお皿を「帽子」と誤認したようです。

右側の下絵は
私たちは「節分の時に玄関に飾るもの」
「鰯の頭をヒイラギに刺したもの」と認識しますが
認知症のある方は
鰯の頭を赤で塗り、ヒイラギの葉を緑で塗りました。
チューリップと誤認したようです。

「認知症だから変な色を塗る」
「認知症だからこんなこともわからない」
のではなくて
構成障害があったり、図と地の判別がしにくい方もいるし
近時記憶障害があれば、最初に塗り絵のテーマを説明しても
時間が経てば説明されたテーマも忘れてしまいます。

そういった病状特性を踏まえて
誤認しやすい下絵を回避するのは
作業療法士として大切なリスク管理の一つだと考えています。

ヒポクラテスの誓いは
「まず第一に患者を傷つけないこと」
で始まると日野原重明氏の本で読んだことがあります。

幼稚な下絵を提供することもリスク管理の一環として
回避する必要があると考えています。

シンプルな下絵の場合には
ちょっとひと工夫すると幼稚に見えなくなります。
「塗り絵の工夫:幼稚に見せない」をご参照ください。

 

 

 

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