観察・洞察から始める対応の工夫

ほとんど休眠状態だったこちらのサイトに
こんなにもたくさんのアクセスをいただき
ありがたく思うと同時に
再開への誓いを新たにしました。

個人のサイト(OT佐藤良枝のDcゼミナール)を立ち上げたこともあり
どのように使い分けをしていくかは
走りながら考えていこうと思っています。

ただ
再開にあたり考えたこともあります。
それは事実に即して記述していくということです。

そんなの、当たり前じゃん。って思われるかもしれませんが
多くの場合に、常識とされている慣習的対応や視点、考え方に
無自覚のうちに支配されていることって多々あります。

  例えば
  老年期のリハ場面で立ち上がりの練習をするセラピストは
  大勢いると思いますが
  同時に座る練習をするセラピストは多くありません。

  私は立ち上がりの練習をするよりも座る練習をした方が
  より安全に円滑に立ち上がれるようになると考えており
  第12回神奈川県作業療法学会のワークショップで発表もしましたし
  こちらのサイトでも「立ち上がり」で検索していただければ
  多数の記事がヒットすると思います。

「できることのでき方をよくしていく」
という考え方が私の根幹にあります。

実は
できていることにも
できていないことにも
同じように能力も障害も困難も反映されています。

セラピストは
表面的な「できていること」「できていないこと」を見るのではなくて
表面的な事象に反映されている
impairmentの能力・障害・困難を観ることが重要で
(ここまでは、当たり前と思われると思います)
「できていること」の中には、かなり代償を使って
特に粗大なPowerを使って代償している面があります。

  立ち上がりを例にとれば
  腰背部の筋力があるからこそ立ち上がれてしまう。
  疾患によって筋力が以前のように発揮できない状態に陥ると
  立ち上がれなくなる。 
 
  そこで、筋力強化→立ち上がりの練習
  というのが今の一般的な方法論だと思いますが
  そうではなくて
  せっかく筋力が発揮できない状態になることができたので
  本来の身体協調性を発揮して立ち上がれるように再学習する

  そのためには、立ち上がりの練習をすると
  どうしても脳内にインプットされている過去の回路が起動してしまうので
  新しい回路を作るために、座る練習という体験を通して
  筋力を過剰に使わずとも身体協調性を再学習し能力発揮する
  このような方法論で多数の老年期の方が立ち上がれるようになる
  という体験をしてきました。

  私に言わせれば
  立ち上がり100回!とか、大腿四頭筋の筋力増強訓練!とか
  生活期にある方に対してはとんでもない話で
  せっかくの再学習の機会を奪ってしまっているとしか思えません。

  抵抗と防衛のために
  慣習的視点、対応、方法論にセラピストも支配され
  脱却が困難になってしまっています。

「できることのでき方をよくしていく」
というのは、代償を使わず本来の能力発揮を援助する
能力がより合理的に発揮できるように援助する
という意味なのです。

同じコトが違うカタチで現れていることは
ヤマほどあります。

認知症のある方への食事介助しかり
対応の工夫しかり
「褒めてあげる」「なじみの関係」etc.
(こちらも過去の記事にありますので、検索してみてください)

「事実の子たれよ。
 理論の奴隷たるなかれ。」

この言葉は
内村鑑三の言葉で
私が大切にしている言葉でもあります。

理論というのは
まさしく〇〇理論、〇〇法も該当しますが
常識、慣習的対応という言葉に置き換えても該当すると考えています。

「事実の子たれよ。
 理論の奴隷たるなかれ。
 事実はことごとくこれを信ぜよ。
 その時には相衝突するがごとくに見ゆることあるとも、
 あえて心を痛ましむるなかれ。
 事実はついに相調和すべし。
 その宗教的なると科学的なると、
 哲学的なると事実的なるとにかかわらず、
 すべての事実はついに一大事実となりてあらわるべし。」 

後半のくだりは、まさしくその通りで
実際に認知症のある方と接していて何回膝を打ったことか。。。

科学は過去の知識の修正の上に成り立つ学問であり
まして作業療法は実践の科学です。
実践の科学であるからこそ
解剖学・運動学・症候学などの基礎知識を習得し、
知識を活用して観察・洞察できるようになることが
未来の作業療法に貢献することに他ならないと考えています。

「観察の重要性を知った」
「評価しているつもりだったが、まだまだだと思った」
私の講演を聞いた方から、そのような感想をいただくと本当に嬉しく思います。

ハウツー的思考回路から脱却し
uniqeな目の前の対象者の困りごとの場面そのものを
自身も含めた環境因子の中で
明確に観察・洞察・対処できるようになる人が
一人でも多くなることを願って
このサイトを再開させたいと思います。

 

 

 

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