【中堅】患者との出会い(物語)を大切に 清水拓人OTR

【中堅】患者との出会い(物語)を大切に 清水拓人OTR清水拓人OTR(鶴巻温泉病院)

まだ中堅とは言えない私が、作業療法について語るには大変恐縮ですが、少しでも作業療法士を目指している方や作業療法士で悩んでいる方のお役に立てればと思い筆を執らせて頂きます。

私は、回復期病棟や医療療養病棟、神経難病病棟、訪問リハビリ、通所リハビリなどで働いてきた15年目の作業療法士です。
作業療法との出会いは小学生の時でした。看護師をしていた母親がものを作ることが好きだった私に作業療法士という仕事を教えてくれたのがきっかけでした。中学3年生の頃、自分を生かせる仕事は何かと考えた時に、料理や植物、工作、絵画、祖父母が好きだった私がすぐに思い浮かんだのが作業療法士という仕事でした。その後、高校入学試験の面接で「将来、私は作業療法士になります」と宣言したのを今でも覚えています。
作業療法士熱が冷めないまま大学へ進学し、作業療法の世界を知ることが楽しかった学生時代を終え、作業療法士の魅力にとりつかれたまま病院に就職しました。就職してからは、「作業療法の奥深さ」「作業療法の曖昧さ」「作業療法の範囲の広さ」に悩み、しばらくの間、「体操のお兄さん(ひたすら運動を繰り返す)」「施設課のお兄さん(ひたすら病棟職員・患者の要望で環境を調整する)」「塾のお兄さん(ひたすら課題のプリントを渡す)」などのような作業療法をしていたと思います。
人一倍、作業療法士になりたかった私ですが、作業療法士になれば素敵な仕事ができると思っていただけで、どんな作業療法士になりたいのかどんな作業療法ができるのかについて考えていませんでした。

そんな私を救ったのは恩師からの「作業療法を真剣にやっていれば1年に1人は自分を成長させてくれる患者との出会いがあるから、その出会いを大切にしなさい」という言葉でした。この言葉は、成長させてくれる患者のリハビリだけを頑張りなさいという意味ではなく、作業療法士として上手く関われた、関われなかったに関わらず、1人1人の患者と真剣に向き合っていれば、自分の作業療法の視野を広げてくれる出会いが必ずあるから、その出会いを見過ごさないように常にアンテナを張って頑張りなさいという意味が込められていました。
その言葉を胸に働くようになってからは、本当に1年に1人は自分の作業療法観を変えてくれる出会いがあり、その都度自分のできる作業療法を少しずつアップデートしていけるようになりました。また、その出会いを症例報告や学会発表、事例登録制度、論文、書籍、養成校での講義などで形にしたことでその学びを深めることができ、作業療法士としての自信にもつなげることができたと思います。
さらに、最近ではその出会い(物語)を作業療法の広報の一環として、多くの人の協力を得ながら絵本にまとめ、神奈川県作業療法士会のウェブサイトのスペシャルコンテンツ「絵本でみる作業療法」で配信しています。私の作業療法観や人生(妻と結婚するきっかけとなった占い)を変えてくれたALS患者との物語(ぞうさん占い)や養成校時代に一番好きだった書籍(鎌倉矩子先生が執筆した「手のかたち 手のうごき」の中で紹介されている「XYZ連記法」)をもとに後輩と関わった脳卒中患者との物語(床屋さんの左手)など、私が臨床で経験した物語を紹介しています。お時間があるときにご覧になってみてください。

作業療法士は養成校を卒業し国家試験に合格したから作業療法士になれるのではなく、患者との出会いを通して作業療法をアップデートしていく中で作業療法士になれるのだと思います。自分の作業療法を患者や家族、他職種に押し付けるのではなく、患者の個別性に合わせて自分の作業療法をカメレオンのように変化させ、謙虚な姿勢で患者と向き合っていくことが大切なのだと思います。

以前の私のような「なんちゃって作業療法士」にならないためにも、1人1人の患者との出会いを大切にしていってください。そして、機会があればその物語を形にして多くの人に読んでもらってください。きっと、自分の中で何かが変わるはずです。

» スペシャルコンテンツ:絵本でみる作業療法


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