【中堅】専門性に立脚して 松岡太一OTR

【中堅】専門性に立脚して 松岡太一OTR松岡太一OTR(福井記念病院)

 私は今期で14年目を迎えた作業療法士です.現在の職場である民間の精神科病院に就職して以来,これまでに急性期,慢性期,デイケア,訪問支援等,様々な経験をさせてもらってきました.

 そもそも私がOTになろうと思ったきっかけは,高校時代に医療職になんとなく憧れを抱いていたさなか,何かの本でリハビリテーション職を知ったところからでした.実際に現場を見てみようと思い立ち,タウンページで偶然見つけた病院に電話し,飛び込みで見学に行かせてもらいました.そこでPTとOTの現場を見学させてもらったのですが,OTの先生が貼り絵や風船バレーなど,いろいろな作業を取り入れながら対象者の方とリハビリテーションを行っている様子を見て,単純に「面白そうだなぁ」と感じ,OTの道を選ぶことにしました.そんなこんなで,当時は自分の志す道が明確になった爽快さはありましたが,しかし,本当の意味で作業療法を理解するのはそのずっと後の話になります.

 養成校時代は,一年のうち360日くらいは二日酔いで記憶があやふやなので割愛しますが,テストとレポートがなければ今でもその頃に戻りたいとよく思うくらいには,かけがえのない時間を過ごさせてもらいました.その時に出会った多くの人たちとの繋がりは,生涯の財産になっています.
 さておき,就職先としてはどの領域も興味深かったのですが,臨床実習で特に感銘を受けた(実習最終日に号泣して周囲を困らせた)精神領域を選び,現在の職場に就職することとなりました.

 臨床に出てからは自分の無力さを感じる日々が続くわけですが,わずかでも自分にできることがあるならと,無我夢中でクライエントに向き合ってきました.当時は「精神医療に貢献できるなら職種は関係ない」という思いでいましたが,一見枠にとらわれず柔軟に思えるその考え方は,実のところ自分の実践の基盤の脆弱さを隠すためでもあり,常に不安と自信のなさを抱え込み続けることになりました.やはり,今一度自分の職業的アイデンティティ(OTとは何か?という問い)について蓋をせずに,とことん考える必要があるのではないかと感じ始めたのが,恥ずかしながら臨床に出て6,7年が経った頃でした.

 それまで自分の職場に引きこもりがちだったことを改め,職場外のつながりを意識的に拡げていく中で,OTとしての信念をもつ方たちと出会い,その考え方に触れると同時に,理論や実践モデル(作業科学,カナダモデル,人間作業モデル等)を学び直していきました.それらを通して,OTの核となるのは『クライエントにとって大切な作業の可能化』であり,その実現を通して,本人らしい作業で満たされた豊かな生活・人生の再構築を支援することがOTの役割であるということが,少しずつ自分の中で腑に落ち,ようやく自分の職業的アイデンティティが明確な輪郭を持つこととなりました.

 そこに至るまでに随分と時間が掛かりましたが,専門性に立脚した上で臨床に取り組むことで,日々の実践の充実度は大きく変わってきたように思います.それまで意義を見失いがちだった各種集団プログラムや,自分の中で整理しかねていたあらゆる技法やテクニックが,『クライエントにとって大切な作業の可能化』を目標に据えたとき,それらは目的と状況に応じてすべて有効な手段となり得ることを,改めて認識することもできました.自身の実践の基盤を確立してこそ,枠を飛び越えた広い視野での取り組みも生きてくるものと,今は感じています.

 ここ数年は管理業務にほとんどの時間を割かれており,他部署との連携業務や各種会議,採算面における病院からの圧力等で胃を痛めたりもしていますが(笑),自部署のスタッフがOTとしての専門性を最大限に発揮できるためのマネジメント(プログラムの見直し,個別支援の拡充,他職種との連携促進,スタッフ個々のスキルアップや動機付けなど)にもやりがいを感じています.
 また,職場外のOT仲間と定期的に研究会を開き,学会発表や研究活動等に共に取り組むことを通して刺激をもらっており,それらが自分のモチベーションの源になっています.

 クライエント固有の豊かなエピソードで彩られた大切な作業の実現を通し,その人らしさが立ち現れる瞬間に,私はOTの一番の魅力を感じます.一人でも多くのクライエントが,自分らしい作業で満たされた豊かな生活・人生を再構築できるように,自分自身も様々な形で貢献したいと思いますし,専門性を大切にするOTが増えることを切に願っています.

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