【中堅】患者さんの3年後が想像できますか? 野々垣睦美OTR

野々垣睦美OTR(クラブハウスすてっぷなな)

患者さんの3年後が想像できますか? クラブハウスすてっぷななは、高次脳機能障害者のみを対象とした障害者地域作業所です。平成16年4月に開設しました。当時は高次脳機能障害のみを受け入れる作業所は首都圏には存在せず、どのように運営していくのか見当もつかない状況での立ち上げとなりました。準備も知識も不十分、そもそも作業所などの福祉施設を見たことがありませんでした。

 そんな私がどうしても「作業所を開設したい」と思ったきっかけは、とても小さな疑問からでした。それまでリハビリテーション病院に勤務していたのですが、自分が担当していた患者さんが受入先(通所先)もないのに退院してしまうことが不安だったのです。「この患者さん、これからどうなっちゃうんだろう?」という疑問が積み重なっていきました。でも、臨床ではその先を追っている余裕はありません。日々診療報酬の枠組みに縛られた時間の中で過ごしていました。

 そんな中、以前担当していた高次脳機能障害の男性が、神妙な面持ちで私を訪ねてくれました。何だろう?と思い話をしていると、「結婚することになりました」と婚姻届の署名を頼まれたのです。こんな名誉なことはありません。でもこのとき、ハッとしたのです。私はこの人の退院後のハッピーな生活をイメージできていたのかな?と。今まで限られた訓練時間のことしか考えていなかったし、退院後の生活って私の乏しい想像力では知り得ない未知なことがたくさんあるのではないか、と目の覚める思いがしました。

 高次脳機能障害の場合、ある日突然起こるアクシデントによって障害が発生します。医療機関では「もとに戻りたい」と思い頑張ってリハビリに取り組むのですが、退院時に障害がなくなっているわけではありません。障害に対する上手な対処法を身につけている方もごくわずかです。病院と地域生活での温度差はとても大きく、本人や家族は大きな不安の中で混沌とした生活を開始することになります。

 当施設は、医療と地域のかけはしとなり、安心・安定した地域での生活を共有できる場所を目指しています。高次脳機能障害は長期にわたって変化が見られるため、その時々に合わせた支援が必要になってきます。病院を退院するときに、関わり方などを教わっている場合も多いのですが、たとえば1年後や3年後にその当時と同じ関わり方で良いのかという疑問があります。当然、生活環境やライフステージも変化していくので、その時々に合わせた支援がとても大切になってきます。

 作業療法士は「障害」と「生活」、どちらも理解し、支援することができる職種だと思っています。自分が担当している患者さんの、その先の生活を知ることは日々の仕事に欠かせない要素のひとつです。ぜひ一度、「生活の場」を見てみてください。あたらしい発見があると思います。

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