水野健OTR(昭和大学附属烏山病院)
作業療法士として16年目になりました.これまでに,精神科療養病棟,認知症病棟,病院のデイケア,クリニックのデイケアなどで働いてきました.大学で教員をしていたこともあります.また,精神障害領域のSIGの代表も務めてもいます.そして,16年目は,なんと今まで経験のないクライエントを対象とした新たな職場でスタートをきりました.
今回ここでは中堅の立場として書かせて頂きます.色々な経験から今の私の作業療法士としての考えが形成されました.年数を重ねたことで,改めて感じた作業療法の魅力,作業療法士としての構えなど発見,変化してきたこととして,気づいたことをいくつか振り返ってみたいと思います.まとまらない文章ですが,その中で自分への戒めの意味をこめつつ,また読んでくださった方へのヒントになれば幸いです.
作業療法士をなろうとしたきっかけは,専門職,資格を持って仕事をしたいと思っただけです.その中で,たまたま選んだという感じです.ドライに感じてしまうかもしれません.でも,逆にこのドライなきっかけが専門職であるために行動するように心がけさせてくれていると感じています.専門職であり続けるために自己研鑚は欠かかさない,研究,最新情報に触れる,自身の成果を発信するという考えにつながっていきました.
そのためには,まず必要な作業としてクライエント1人1人をしっかりと振り返ることだと考えています.そして,それを事例報告や事例研究という形として発表するということです.私も毎年1例は発表するように心掛けていますし,論文として投稿を目指しています.事例報告・研究はエビデンスレベルが低いと評価されがちですが,大規模な研究の土台となりうるものです.まとめる際には,多くの研究や文献に触れることにもなりますし,発表することで,他の人から批判,評価を受けることができます.この一見辛い工程が自分の臨床スキルを上げてくれると信じています.そして事例報告や事例研究を行うためには,一緒に考え,アドバイスをくれる仲間の存在は欠かせません.職場の中でも外でも,構いません,顔を合わせる機会の多少でなく,経験年数も専門領域にも問わず,臨床観やマインドで繋がれる関係が良いかなと思っています.勉強会や研修会へ足を運んだり,仲間たちと研究を学会発表,論文投稿や後輩の指導をしたりする経験は,自分を高めてくれる非常に楽しく大切な作業の1つとして,これからも取り組んでいきたいと考えています.
臨床では,アルコール依存症のクライエントが私の考え方に大きな影響を与えてくれました.アルコール依存症は他の疾患と比較しても,再発率は非常に高いと言えます.再入院してきた患者さんを見るたびに,怒りの感情や自分に対する無力感も感じ,自分がなんとかしてやろう!と向きになった時期もありました.結局,作業療法士は無力だということを思い知らされるだけでしたが,その一方で本来はアルコールを飲む・飲まないは患者自身が決めることで,作業療法士や医療スタッフの価値で決めるのではないという当たり前のことに気付くことができました.クライエント自身が選択し,決定するということが重要であり、作業療法士として,どれだけ見通しと選択肢を示しながら関わり続けることの大切さを学びました.そして,関わり続けることで、いつか響くことがあることも信じられるようにもなりました.
クライエント自身が自分自身のことを選択することが出来,変化させられるのではなく自ら変化していくことをお手伝いするという点が作業療法の最大の魅力、役割だと考えています.そのために「根拠をもって選択肢を示す」ことが,作業療法士の役割だと認識しています.そのためには多様性を認め,受け入れること,そして認めるためには様々なことに興味を持ち,を知っていくことが必要になってきます.自分自身が生活の中で経験したことや興味のあることが,思いがけず活かせるのも魅力の一つです.
作業療法士としての役割を大切にしてクライエントの前に立っていくことを心がけています.役割を意識することは非常に重要で,作業療法の実践モデルである人間作業モデルでは,役割は動機付けを高め,習慣やスキルにも関係してくると言っています.そして,私の中での役をとらえるポイントは「役に立つ」ではなく「役で立つ」です.これは,華道家である前野博紀さんの言葉であり,与えられた役をしっかりと全うするということだそうです.
クライエントの「役に立つ」とは恐れ多くて言えません.作業療法士という「役で立つ」ことで精いっぱいです.ただ,その役をしっかりと全うできるよう,仲間たちと一緒に自己研鑽に努めていきたいと思います.まだまだ若い人には負けません!
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