久松敏昌OTR(東海大学医学部付属八王子病院)
2000年に作業療法士となり、10年目を迎えた。まだまだ若輩の作業療法士であることに変わりはないが、ふと気づくと養成校の数が把握できないほど増え、いつの間にか後輩作業療法士がたくさん育っている。後輩諸君へ向けてのこのような執筆依頼を受けたりすると、中堅という立場になってきたことをあらためて実感させられる。
さて私はこれまで2度の人事異動を経験し、3次救急の急性期病院、2次救急から回復期の分野とで働いてきた。この10年で医療業界は大きく変わり、介護保険制度の導入、診療報酬制度の見直し、医療費削減や医師・看護師不足にともなう病院経営の悪化など、私たちを取り巻く環境は激変した。
そして私たちに求められる知識の適応範囲にも大きな変化が現れてきた気がしている。養成校時代に授業の多くを占めたのは、疾患ではCVAや脊髄損傷・RAなど、スキルではもっぱらアクティビティーや自助・装具、ADLに関することが大半であった。もちろんそれらは必要な知識である。
しかし臨床で医療チームの一員として携わっていくには、もっと多くの医学的知識や能力が必要で、現場で働き出してから学ぶことの方が膨大である。しかしこの激動する医療現場のさなか、新しい知識を学び、適応していく過程で生じてくる問題に、悩みを抱える後輩諸君が多いのではなかろうか。身障分野のみでの経験談となってしまうが、私なりにいくつか書き連ねたいと思う。
私が就職してから特に知識が足りず苦労したのが、急性期においても慢性期においても、病態理解や合併症・リスクを把握するのには欠かせない、バイタルサイン、呼吸・循環・代謝機能・検査値データなどの知識だ。これらは学校では詳しく教わることがなかったことだが、医師や看護師など他職種と医療チームに参加し患者を診ていくためには求められる知識である。
また急性期からの早期リハビリの重要性が謳われるようになったことから、病態理解やリスク管理の対応は当然必要であるし、ADL改善や社会復帰のために様々な疾患・病態に対応する必要もある。社会的背景では「廃用症候群」の診断名が医療保険点数の査定対象となる傾向が増加し、外科術後や循環器・呼吸器疾患などの内部障害に対する対応が求められてきている。それに伴ってか「脳血管」、「運動器」とともに「呼吸器」でも作業療法が適応となったことや、心臓リハビリテーション指導士を作業療法士も取得できるなど、学校教育では詳しく教わることがなかった内部障害に対する知識と関心が徐々に高まってきている。協会の講習会でも、呼吸・循環の講習会が開催されるようになったのは、ここ数年の変化である。
また他の悩みとして、訓練室での「できるADL」と病棟での「しているADL」との差が近づかないことでも苦慮するセラピストが多いのではなかろうか?訓練室での約1時間で我々が頑張って治療をしても、病棟での23時間の過ごし方によっては、目指したい患者の状態に近づかないことをしばしば経験する。しかし病棟には病棟のルールがあったり、看護師は単体でなくチームで動いているため、患者の自立度が周知されにくかったり、個々人の経験値や介助能力、リハビリへの理解に差があるなどといったことが生じやすい。他職種との連携という意味では院内委員会などの科外業務も同様であろう。
そこで私たちに求められるスキルが、他部門との折衝能力や、情報伝達の仕方、広報活動などといった「ソーシャルスキル」である。これまた学校では教わることもないし、協会の講習会にもない項目であるが、必ずと言っていいほどぶつかる問題だ。私の場合、先輩に相談をすることや、サラリーマン向けの書籍を読むなどしながら今も勉強を続けているが、人脈作り、説明力、話しを持っていく順番、報告・連絡・相談(ほうれんそう)などがとても大切であることが分かった。組織の中で働く人間として機能するには、専門知識のみでは業は果たしにくいということである。
変化の多い臨床の中で能力を発揮し患者にとっていい治療を展開していくためには、上記したこと以外にもまだまだ学んでいくことは多くあるだろうし、専門的知識や技術をさらに磨いていくことは勿論である。
しかし自分のスキルアップのみならず、環境やニーズの変化に適応し、自分の周囲にも影響力を持てるようになり、かつそれを自分の後輩にも教育できる人材となっていくことが、次なるステップとして大切であると考える。それは私自身にとっても現在進行形の、これからも続いていく課題でもある。後輩諸君と共に、切磋琢磨していきたい。
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