佐藤良枝OTR(介護老人保健施設リバーイースト)
Aさんという方がいました。
「歌を歌うのですが、いかがですか?」
「風船バレーをやるのですが、やってみませんか?」と誘っても
「いえいえ、いいんです」といつもやんわり拒否。
そんなAさんがある時、窓の外を眺めていました。
「どうしたんですか?」と私がたずねると
Aさんは「小鳥がなにかついばんでいるから、雨があがったんだなあ・・・と思って」と答えられました。
窓の外をみると、2~3羽の小鳥が庭におりたっていました。
そのときのAさんの顔は、おだやかに微笑をうかべていらっしゃいました。
さわがしい環境の中でAさんの周囲だけ時間がとまったように思えました。
私は介護老人保健施設に勤務する作業療法士です。
作業ーOCCUPATIONを方法論としてその人らしい暮らしの援助をする・・・というのが仕事です。
さまざまな障害をもつお年寄りの暮らしの援助ってなんだろう?とずっと考え続けてきました。
施設では、ベッドや居室にこもらずに他の利用者さんや職員と何か作ったり歌ったり体操するような人は「積極的、活動的でよい」という評価を得ることが往々にしてあります。
冒頭にあげたAさんのような方は、「消極的でよくない」「何かやってもらおう」「何かできることはない?」などの「対応」を検討される・・・ということもありがちです。
でも、Aさんにとってどのような対応が適切なのかは、本当に難しいことです。
ただ単にぼーっとしているだけ・・・と見過ごしてしまいがちな私たちの傍らで、当のAさんは本当に豊かな時間と空間の中にたたずんでいたように思います。
作業療法のOCCUPYの原義は中を満たす、つかむとなっています。
本来の作業の範疇はもっと広く豊かなもののように感じています。
現在、お年寄りに対して、量的な向上を要求するような風潮がありますが、果たして本当にお年寄りのニーズでしょうか?
その原因は介護保険の影響だけではなく、もっと根本的な大きな問題が潜在しているように思えてなりません。
感受性を高め内面の豊かさを磨く、共感し理解し尊重しあうような教育、社会背景、文化などが私たち自身の暮らしの中に根付いているといえるでしょうか?
お年寄りにとって適切な援助を考える・・・ということが誰にとっても大切な「生きる」ということの本質的な意味を問い返してくるように思えるのです。
だとすると、仕事柄、作業療法士はその問いを最も敏感にうけとめなければならない職業なのではないでしょうか?
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