154・155号:若年認知症の作業療法 Vol.1 & 2

シリーズ「認知症の作業療法」 ベテランOTへのインタビュー

 経験豊富な先輩から聞く「認知症の作業療法」インタビュー。2回目となる今回は、地域で若年認知症のサポートに携わる、東京都作業療法士会所属の比留間先生のインタビューをお届けします。

若年認知症の作業療法

若年認知症社会参加支援センタージョイント 所長/作業療法士  比留間ちづ子 先生

若年認知症社会参加支援センタージョイント
所長/作業療法士  比留間ちづ子 先生


《プロフィール》

東京女子医科大学病院リハビリテーション部に作業療法士として36年勤務後、特定非営利法人 若年認知症サポートセンターの設立に関わり副理事長を務める。
2007年より平成19年度厚労省補助金事業として若年認知症社会参加支援センタージョイントを創設し、現在、所長兼作業療法士として活動中。日本病院・地域精神医学会理事/事務局長、日本障害者協会理事/国際担当。日本作業療法士連盟副会長。

若年認知症社会参加支援センタージョイント
〒160-0022 東京都新宿区新宿1-9-4中公ビル御苑グリーンハイツ605号
TEL:03-5312-0644  FAX:03-3341-7144  joint.tomorrow@gmail.com

《若年認知症社会参加支援センタージョイントとは》

 若年認知症本人のはつらつとした生活への復帰を目指した就労型活動・地域貢献活動の拠点として、週2回(午前10時~午後3時)の活動を実施している。メンバーは現在男性8名で、都内、神奈川、埼玉など各地から参加している。スタッフは専任(専門職)4名とサポーター。

 活動内容は、折込発送、絵葉書・カレンダー作成、絵画、工芸、イベント援助、公園と道のサポーター、地域交流、地域行政との渉外、企業訪問、講演講師、取材対応などが中心。

 メンバー全員が名刺を持ち、入退所はタイムレコーダーで記録。朝のミーティングで一日の行動予定を確認し、退所時に活動日誌を記入するという活動方式をとっている。

 インタビュー当日は、以前シェフをしていたメンバーが、2日前から煮込んで用意をしてくれた特製カレーライスを、皆さんで美味しくいただきました。


若年認知症の方の地域生活を支援する上で、先生が大切にしていることを教えてください

場面を作る

 まず、常に頭に置いているのは、若年認知症の本人が、自分の意思で選んでいくことが本来だということです。今のうちならまだ、選択はできます。ただし、彼ら自身が受けてきた嫌な思いもありますし、自分の中で混乱して困っているのに、うまく言えなかったりすることもあります。それを、うまく対処できるような期間や、役割や、人などに出会えると、その場面で解決して、ある意味で「今、自分はこうなんだな」と障害を受容して、周りとの折り合いをつけられます。

 しかし、そうではない場合も多いのです。とても頑なになってしまったり、話を受け入れにくい状態になったり、気持ちの中で言い訳をしたり。でも、その気持ちを解き放つことができるのは、やはり仲間同士なのです。我々専門職や支援者が直接できることではありません。

 本人同士が、仲間として一緒に活動している中で、「忘れているな」とか「失敗しているな」ということは、お互いに見えています。そこで、格好をつけても何もはじまりません。だからこそ、外に行ったときには、仲間を待ってあげたり、一緒に切符を買うなどします。いろいろな形で気を配られたり、自分ができることがあれば気を配ったりと、そういった場面の積み重ねが、少しずつ、頑なになったものを解き放していくのです。

 援助するというのは、そういった「場面を作る」ことだと思います。そこに作業のかけらを用意するのです。決して作業をすること自体が目的ではありません。「場面を作る」のは、まさしくOTなので、私もそういう場面に立ち会っているということは、すごく幸せで楽しいですよ。

個人を発揮する社会的場面での役割

 もう一点としては役割です。役割を何らかの形で果たしていくことは、人間本来の、生きていこうとする1つの張り合いですよね。若年認知症で重要な役割というのは、まだまだこれから人生を作っていく役割です。自分が何かできることがある、という実感をもつことが大事なのです。役割と言うのは決して「病者」という役割ではありません。自分が今、生きているという役割なのですが、現実的には認知症という状態があって、忘れやすくなっていたり、前のように仕事をする状況ではないということもわかっているわけです。そうすると、役割を開発していくことになります。

 例えばこの場を、1つの会社や社会と見立てたとすると、必要な時に発言ができたり、意見が言えたりすることは、とても大切ですよね。公務員で役所の窓口にいたある人は、「公園のボランティア登録をしなくては」と私が言うと、「やっぱり区役所だろうな」と答えてくれます。そうとなれば、一緒に区役所のボランティア連絡会の窓口に行き、その方に掛け合ってもらう場面を作ります。

 商社マンをしていた方は、どのような対応にすると人は喜んでくれるか、というような見立てが非常に得意で、人への説明やタイミングなどがとても上手です。弁護士をしていた人は、人の話をじっくりとよく聞いてくれます。シェフをしていた人は料理を作ることや食べてもらうことが楽しみです。

 社会的な場面で、いかに個人を発揮できる役割を割り振りできるかが、大切だと考えています。

作業をすること

 今日も絵を書いている方がいましたが、なぜ絵を書くかというと、何かしらの作業に取り組んで集中したり、自分自身と向き合う中で、いい意味での暇つぶしができたり、製品になったり、アピールができたり、個人のアイディアをだせたりるからです。アクティビティを仕込むことはOTの得意分野です。製作の場面であったり、ミーティングの課題であったり、掃除だったり。作業をすることによって自分自身と向き合ったり、作品を形として残すことで活動に意味を持たせることもできます。

 一日というのは、働く外に向けた時間、休息の時間、ADL、余暇など、やはりメリハリがないといけません。現金収入の仕事ではなくても、社会の中で果たせる役割をもつこと、仕事として経験を活かせる役割を見つけて、生活の組み立てをしていくこと。これってまさにOTですよね?

- まさに社会の中、暮らしの中での作業療法の実践ですね。

次に、地域の中での連携についても教えてください

暮らしの繋ぎの中へ

 若年認知症の方の生活の悩みは、仕事のこと、経済的なこと、家族関係など多岐に亘っていて、OTだけですべてを解決はできません。ときに、ご家族と本人が向き合えなかったり、互いに遠慮しているということも聞きます。本人もご家族もお互いに低迷してしまい、それが一層ストレスになることもあります。そういった時はOTとしてご家族に、少し本人と距離をとるような関わり方をアドバイスすることもありますが、その他に、家族の会などを紹介します。

 専門家は介入するけれど、時間が限られてしまいます。でも生活の悩みは、その時間だけでは済まないものです。生活の中で、うまく散らばらせるといいますか、必要な機関を紹介したり、繋いだりすることで、みんなで支えるのです。地域の中にはいろいろな人がいますから、「どうすればいいの?」と投げかけると、みんなが助けてくれます。暮らしている人の「繋ぎ」の中に入っていくという意識。それがないとOTとしても、自分としても強くなれないと思います。

 OTは医学的な職種であるということで、専門家らしくするのもいいけど、それがどんどん支援の幅を狭めていないでしょうか。生活の実態に関わろうという意識は、まだまだ低いかもしれません。暮らしの繋ぎの中へ入っていく意識があれば、地域でできることはたくさんあります。

お互い様

 四ツ谷地域は、社会福祉協議会の職員さんたちも、とても関わりが上手です。地域のイベントへ声を掛けてくれたり、他機関との繋がりにも一役買ってくれます。ジョイントも地域の中で、掃除や餅つきの手伝いをしたり、お祭りに参加したりと、今や地域の一員となっています。「若年認知症」の特別な団体ではなく、普通の地域団体として活動しています。地域の中での足場が広がることで、メンバーの活動も広がりつつあります。

 やはり地域の中で、頼まれたり、頼んだり「お互い様」が大切ですね。

なぜ、比留間先生は、若年認知症の方の支援に携わるようになったのでしょうか?

OTとして当たり前のこと

 病院勤務の頃に、厚生労働省から、高次脳機能障害の方が生活にどのように困るのかを調査したいという相談がありました。その頃はまだ、高次脳機能障害が現在のように分類されておらず、頭部外傷も、内科疾患が引き起こす認知機能障害も、認知症も、すべてが一緒くたに捉えられ、十分な対策も講じられない状況にありました。その後、モデル事業等を経て、頭部外傷等による高次脳機能障害者の生活支援事業が制度化されると、対策としてとり残されたのは、進行性アルツハイマー病による若年認知症の方々となりました。症状としての差別感はないにも関わらず、若年認知症の方々に対しての対策は、全く進んでいないという現実に直面したのです。当初はモデル事業の一環として、若年認知症の方々の生活支援に関わりはじめました。もちろん、家族会からの要望があったことも強い後押しとなりました。

 対象者の機能の賦活を目指してOTが関わるということは、ごくごく当たり前のOTの仕事であり、若年認知症を特別視したものではありません。“若年認知症の方”ではなく、目の前にいる“疾患と生活障害をかかえる一人の対象者”にOTとして関わっているだけのことなのです。今はたまたま、対策が遅れている若年認知症の方々の生活支援に関わっています。OTとして特別なことをしているのではなく、ごく当たり前の流れとして、今に至っています。

- 非常に明快で興味深いお答えをいただきました。OTとして常に「当たり前のこと」をしていたら、今に至ったのですね。

次に、「地域」における評価や支援について教えてください

 「地域」ということはそれほど意識してはいません。むしろ、「暮らし」をいかに評価するかが重要だと考えています。ADLひとつであっても、家の中でのみでする訳ではありませんし、そもそも生活とはADLのみではありません。家の中の活動を中心とした評価で、本当に妥当性があるといえるでしょうか。
 社会との接点の中でその方がどう動けるか、という「社会の中での評価」が非常に大切なのです。暮らしの場に軸足を置き、社会の中で評価し、社会の中で具体的な生活支援をしていくこと、それこそが「地域における評価や支援」だと考えています。

若年認知症の地域支援に関わるOTはまだ多くはありません。今後、若手OTがそのような分野で活躍することも期待されます。日々の臨床活動で養うべきことについて教えてください

事例を深く掘り下げていくこと

 私は病院勤務の頃、新人や後輩たちに「担当ケースについてのショートブリーフを作りなさい」と指導していました。ショートブリーフとは、担当ケースの現状だけでなく、OTとして何を問題と捉えているのか、何に悩んでいるのかも含めて書き留めるものです。「書く」という作業を通して、ケースについての評価や情報を統合することができます。また、ケースに向き合う自分が、今何を考え、何をしているのかを振り返り、ケースを巡る問題を構造化する手助けとなります。

 類似するケースに出会った際には、過去のショートブリーフを見返し、以前の自分はどのように関わり、何ができて、何ができなかったのかを振り返ります。それによって、今向き合うケースに対するよりよい関わりを見出したり、自分自身の技法やケースとのやりとりについて、解析する手助けとなります。

 一人ひとりのケースは違いますし、生活とは、とても複雑なものです。世の中には様々な評価表がありますし、その項目を埋めていくことは誰にでもできるでしょう。でも、それだけでは、「その方の暮らし」は捉えきれません。数値だけでは見えないことを知るためには、事例を記述的に捉え、一つ一つの事例を深く掘り下げていくことが大切だと思います。

人とのやりとり~連携力

 最近は、電子カルテ化などによって、担当者間での情報共有が容易になったと言われていますが、本当にそうでしょうか。電子カルテに書かれる情報は表面的になりがちで、本当の意味で必要な情報をまとめ、伝達できているかは、常に疑問を持つべきだと感じています。

 担当者が実際に顔を見て話し合い、やり取りしていく中でこそ、新たに見えてくることも多くあります。皆さんは、職場で毎日どのような連携をしているでしょうか。今、職場の中で実際にしている人とのやりとりこそが、地域支援の現場における連携にも活かされると思います。病院の中では、決められた職員とのやりとりが多いと思います。しかし、地域では、その方に必要な地域のつながりを、一から作り上げることを必要とされ、その度に新しい分野でのコンビネーションが生まれます。日々の職場における連携力を磨くことがとても大切です。

障害の構造化

 認知症に対して「ボケ」という表現が使われた時期もあります。私は、その一言の中にすべてを一緒くたにしてしまったことが、一番大きな問題だと考えています。整理して中身をよく見ていくと、使える能力や磨けば光るものが多く残っているのに、整理されず見逃されてきた部分が多かったのだと思います。認知症も他の疾患・障害を抱える人と同様に、障害を構造化し、アクティビティをしっかりと評価していくことが、その方の“できる部分”を支える支援の基本となります。しかし、これは決して表面的なことではなく、その方の生き方・信条といった部分までも含めて理解し、整理していくべきことです。

 その方が、迷うことなく生活を送ることが出来れば、随分と生活の様子も変わってくるものです。そのためには、作業頻度や環境設定を工夫したり、本人が混乱や悪い反応をださなくて済むような「最低限の活動の流れ」を作っておくことが必要です。OTの得意とする「障害の構造化」が、そういった場面でもっともっと活かされると思います。

- 若年認知症だからと特別視するのではなく、私達がOTとして当たり前にしていることを軸に、関わっていけばよいのですね。

神奈川県士会は、比較的経験年数の少ない会員が多く在籍しています。比留間先生から、若手OTへのメッセージをお願いいたします

まずは知識、そしてOTとして当たり前の仕事を

 まずは、認知症の医学的知識を把握することが必要です。医学的な知識を元に分析し、心理面の影響であったり、その方の生活パターンを弯曲させたり、生活の幅を狭くしている、その方の「生き辛さ」というものに向き合う必要があります。これは誰が取り組んでもよいのです。もし、皆さんがOTとして取り組むのであれば、これだけは忘れないでください。若年認知症は「特別」ではありません。当たり前のOT対象者として、疾患・障害をしっかりと分析し、プログラムを立て、淡々とOTとしての仕事をしてください。

- 比留間先生、貴重なお話をどうもありがとうございました。

(文責:地域リハビリテーション部 河村)

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