159・160号:認知症の作業療法 前編 & 後編

シリーズ「認知症の作業療法」 ベテランOTへのインタビュー

相模原市役所 介護予防推進課 金沢隆之 先生

認知症予防の作業療法

《プロフィール》

認知症予防の作業療法

相模原市役所介護予防推進課 金沢隆之先生

社会人経験の後、OT養成校へ。卒業後、相模原市役所の介護予防推進課に配属となり、手探りで認知症予防に向き合う日々。現在7年目を迎えている。行政の作業療法士として介護予防最前線で奮闘中。企画・運営を担当している「脳を鍛える!脳活道場」は、年間約100名を対象としている。


金沢先生が認知症予防と関わるようになった経緯を、お聞かせください。

 私が相模原市役所に入職した平成18年は、介護保険法が改正され、介護予防が重視される動きにありました。市役所に勤めることが決まった当初は、OTとして私がどのような仕事を担当するのか、はっきりとわかっていませんでした。出勤初日に上司から、「OTには認知症予防を担当して欲しい」と言われ、2か月後には認知症予防教室を開催することになっており、とても戸惑いました。その頃の私は、精神科の実習で認知症の方と関わった程度にしか、認知症についての知識や経験はありませんでした。市役所に入ってから、認知症について、一から勉強し直したようなものです。そして同時に頭の中は「予防って何?」といった状態でしたから、介護予防や認知症予防についても、一から勉強しました。

現在のお仕事について教えて下さい。

自分たちで「脳を鍛える!脳活道場」

 現在の業務の一つとして、認知症予防事業「脳を鍛える!脳活道場」の運営に携わっています。事業の名称は、今でこそ「覚えやすくていいね」などと言って頂けることもありますが、当初は大反対されました。しかし、高齢者の方々が、受け身で参加するのではなく、自分たちで何かをやっていくぞ、といった意味合いを込めたいと思い、保健師スタッフと相談して、「道場」と名付けました。

 介護予防事業の対象は、二次予防事業対象者(65歳以上で、要介護・要支援になるおそれのある方)を中心に、定員に空きがある場合には一次予防事業対象者(元気な65歳以上の方)も含めています。1クール13回で、週1回2時間、定員は14名としています。担当するスタッフは、OT、保健師、健康づくり普及員、内容によって食生活改善推進委員の方にも参加して頂きます。進行役のOTは非常勤の方にお願いしており、私は主に事業の計画、関連団体との調整、講義の計画をしています。相模原市の各区で事業を展開し、年間8コース、約100名が脳活道場に参加しています。

基本的な質問ですが、認知症予防として、どのようなことをするのでしょうか?

暮らしの中で介護予防

 厚生労働省の介護予防マニュアル「認知機能低下予防マニュアル」に基づいて、事業の企画をしています。認知症になりにくいとされる生活習慣を学んだり、低下し易い認知機能(エピソード記憶、計画立案力、注意分割力)を鍛えるといった内容が中心です。
 参加者の皆さんが、その後の日常生活に取り入れられるような形で「予防活動」を提供することを、常に念頭に置いています。予防のために、新たに特別なことを始めるのは大変です。
 でも、認知症予防に関して言えば、普段していること、例えば「料理」ひとつをとっても、2つ以上のことを同時に行う注意分割機能を鍛えられるし、何を作ろうか?材料は?手順は?と考えることで、計画立案力も鍛えられます。次の日に、何を作ったかしら?味はどうだった?誰と一緒に?などと思い返してみることで、エピソード記憶を鍛えることにもなるでしょう。
 いつも通りの生活も、認知症予防の視点をもって取り組んでみることで予防活動になるのです。そのような介護予防のエッセンスを提供できればと思っています。「これだったら、家でもできそう」と思って頂きたいのです。

 その他に、有酸素運動としてウオーキングを実施する際に、歩き方のフォームや速さのことばかりを考えるのではなく、周囲の景色を見たり、匂いを感じ取るなどの「五感を働かせる」ことを意識したプログラムを取り入れています。これは普段の暮らしで、すぐに活かせますよね。

多職種で「脳活道場」を実施しているそうですが、OTの特性はどのような部分で活かされていますか?

159・160号:認知症の作業療法 前編 & 後編

介護予防教室の様子

共有できる場と集団の利用

 実際には、参加者の中に、明らかな認知機能低下がみられる方はほとんどいません。しかし、漠然とした不安を常に抱えていたり、もの忘れなどで自分に自信を持てなくなっている方は数多くいます。OTとして私が大切にしたいことは、同じような不安や心配を抱いている方同士が関わる場面を通して、参加者の皆さんが、少しでも自信を高めることができるようにしたいと思っています。場面を作ることや集団の利用は、まさにOTが得意とするところですから、この点は最も大切にしています。

日程 内容 「脳を鍛える!脳活道場プログラム」
1日目 事前アセスメント(個別面接)
2日目 オリエンテーション 認知症と予防に関する講話と個人目標の設定
3日目 認知症予防の体験
目標の振り返り
4日目 運動プログラム 1
・健康体操
・ウオーキングの方法と楽しみ方
・ウオーキングコースの計画
5日目 運動プログラム 2
・健康体操
・ウオーキングの実践
・ウオーキングの振り返り
6日目 創作プログラム 1
・切り絵の体験(グループ毎で実施)
7日目 創作プログラム 2
・切り絵の制作と作品発表
8日目 料理プログラム 1
・グループにてテーマの検討及びメニューの選択
9日目 料理プログラム 2
・調理実習及び会食
10日目 自主プログラム 1
・自主プログラムの計画
11日目 自主プログラム 2
・自主プログラムの実施
12日目 まとめ
・自主プログラムの振り返りと教室のまとめ
13日目 事後アセスメント(個別面接)
「免許皆伝の証」授与

事業を展開していく上で、困っていることや課題はどのようなことでしょうか?

意欲がなければ続けられない

 二次予防事業対象者というのは、基本チェックリスト(*資料1参照)の回答によって判定されます。対象者になった方のうち、認知機能に関する質問3項目中(*資料2参照)1つ以上に該当した方が認知症予防の対象となります。この方々は、地域包括支援センター(*資料3参照)から紹介されて参加する、つまり自ら希望して参加していないため定着率が低く、途中でリタイアしてしまう方が多いのです。
 予防は、実施したところで、結果は目に見えづらいものです。ですから、本人の予防に対する意識や意欲が維持できなければ、継続は困難で、次からは来なくなってしまいます。このことは、市としても重要な課題としてとらえており、今後対応策が必要です。
 来年度からは、事業開始前の個人面接で、1人1人の生活状況や暮らしの中での困りごと、本人の気持ちについても詳しく話を伺いたいと考えています。その上で、介護予防事業へ参加するメリットや必要性についても、具体的に伝えていけたらと考えています。同時に、魅力的なプログラムであるということが重要だと思います。「参加したい」という意欲を引き出せるような、その方にとって大切な作業、魅力的な作業を取り入れた活動を展開していきたいです。

*資料1

基本チェックリストとは

 65歳以上の方全員に、介護予防チェックとして実施されている。介護の原因となりやすい生活機能低下の危険性がないかどうか、という視点で運動器、口腔機能、栄養、認知機能、うつ、閉じこもり等の全25項目について「はい」「いいえ」で記入する質問表。
 

*資料2

認知機能に関する3項目(1つ以上該当する場合は、二次予防対象者)

周りの人から「いつも同じ事を聞く」などの物忘れがあると言われますか?
自分で電話番号を調べて、電話をかけることをしていますか?
今日が何月何日かわからない時がありますか?
 

*資料3

地域包括支援センターとは

 介護保険法で定められた、地域住民の保健・福祉・医療の向上、虐待防止、介護予防マネジメントなどを総合的に行う機関。保健師、主任ケアマネジャー、社会福祉士が置かれ、専門性を生かして相互連携しながら業務にあたっている。相模原市には22箇所の地域包括支援センターが設置されている。
 

終わってからが、本当の介護予防

 もう一つの課題は、終了後のフォローアップです。参加者の中には、終了後に参加者同士で自主グループを作り、継続して活動をする方々もいます。自主活動を定着していただくためには何かしらの仕掛けが必要なものですが、現状としては行えていません。そのため、実際に自主化して活動できているのは、まだ少数例です。自主グループ活動を続けている方々のフォローアップと同時に、今後は、参加時から「継続が大切」といった予防の基本を、より重視して伝えていきながら、そのための仕掛けを提供していけるような方法を検討していきます。継続には「仲間」と「環境」が必要です。「仲間」は脳活道場で作っていただき、「環境」の充実については、利用しやすい施設や場所を紹介していきたいと思っています。

 また、来年度の目標としては、是非とも脳活道場OB会を開催したいと思っています。情報交換の機会となったり、新たな仲間や活動が広がることを期待したいですね。

「脳を鍛える!脳活道場」の参加者との関わりを通して、学んだことを教えて下さい。

5年前より元気でイキイキ

 平成19年に「脳活道場」に参加してくださった方々で、終了後に自主グループを発足した方々がいます。5年以上も活動を継続しており、私も定期的に様子を伺ったり、相談に乗ったりしています。つい先日、久々に活動の見学に行ったのですが、皆さん全く変わらないどころか、5年前よりも元気でイキイキしている!という印象を私自身が持ちました。その瞬間、何とも言えない嬉しさが込み上げてきました。運動でもダイエットでも何でも、意思が強くないと、1人で何かを続けることは大変なことです。続けられる環境、そして仲間が大切だということを実感しました。「脳活道場」がきっかけとなり、イキイキした生活を継続するための足掛かりとなるものを、多くの高齢者に提供していきたいという気持ちを新たにしました。

不安なく暮らせること

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参加者が作った家紋の切り絵

 Aさんについて話しましょう。Aさんは「物忘れをするから」と、いつも首からメモ用のカードを吊り下げ、忘れないように、といつもメモをしていました。Aさんと一緒に脳活道場に参加していた仲間は、プログラム中にAさんがわからないことがあって不安を抱かないように、さりげなくフォローをしてくれていました。後半には、参加者が企画する自主活動があるのですが、その企画においても、Aさんが楽しめる内容を取り入れる気遣いをしてくれました。こちらが特別にお願いした訳でもないのに、皆さんとても自然にAさんをフォローするムードが出来ていました。Aさんの良いところやできることを引き出し、できないことはさりげなくサポートして、Aさんを不安にさせない。自然な形でのサポートがあれば、Aさんも安心して楽しめるのだと実感しました。

 その後、久しぶりにAさんとお会いした際に、いつも首から吊り下げていたはずのカードがないことに気付きました。Aさんにそのことを聞くと、「カードはいらなくなった」と言いました。Aさんの認知面はおそらく以前と変わらないか、多少低下しているでしょう。でも、周りの自然なサポートや安心できる環境があれば、その方の暮らし易さは変わるものですね。いつも不安でメモを手放せなかったAさんが、「メモはいらない」と言えたのですから。

「脳活道場」は、年に100余名を対象としていると伺いました。人口約72万人の相模原市には多くの高齢者がお住まいだと思いますが、対象人数は少ないようにも感じます。市内のどこに住んでいても、等しく介護予防事業への参加機会はあるのでしょうか。。

介護予防をもっと身近に

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介護予防事業の様子

 相模原市には約14万人の高齢者がいます。認知症予防の対象となる方すべてに、「脳活道場」へ参加していただくことはできません。現在は、市内3区それぞれの拠点で事業を展開していますが、実施会場が自宅から遠くて参加できない方も多くいるのが実情です。市の中心部のみでなく、皆さんが住んでいる身近な地域で、介護予防を実践できる環境が望ましいのです。 そのためには、現在のように、遠くまで参加者が出向くようなスタイルではなく、こちらが地域に出ていかなくてはなりませんし、地域社会への介護予防普及のためには、スタッフの育成も必要です。それに加え、地域の団体(自治会、老人会、サロンや趣味のサークル等の団体等)で既に行われている活動を活かしながら、介護予防事業と連携することで、より身近な活動が作れるのではないかと考えています。

 また、厚生労働省の指針にもありますが、認知症予防だけ、運動器の機能向上だけ、といった個別の領域だけではなく、他の介護予防重点項目(運動器の機能向上、うつ予防、口腔機能向上、栄養改善、閉じこもり予防)と合わせて、包括的なプログラムを実践していくべきだと考えています。

今後は、より身近な地域で介護予防の理念が理解・実践されることが目標となりますね。

地域包括支援センターとの連携

 そのためにも、地域包括支援センター(以下、包括)との連携は必須です。地域包括支援センターは平成18年の介護保険改正に伴い設立された機関で、相模原市には22カ所あります。基本チェックリストでリスクが把握された65歳以上の方は、包括を通して市の介護予防事業、もしくは包括が独自で行う介護予防教室への参加を勧めます。包括と市の円滑な連携によって、早期から必要な支援を行える環境を整えていきたいと思っています。

 また、病院や老健に勤められているOTの方々も、包括の仕事や事業について把握しておくことをお勧めします。包括は地域に関わるフォーマル・インフォーマルなサービスの情報を数多く持っていますし、連携機関も多岐に亘ります。対象者が地域生活を維持するために必要な手立ても、一緒に考えてくれるはずです。是非、地域で行われている事業等にもアンテナを張ってみてください。

OTとして、介護予防に是非とも協力を!

 相模原市には常勤でOTが勤務していますが、各市町村によって状況は異なります。しかし、どの地域でも介護予防事業、認知症予防は行われています。市町村からの委託として、病院や施設で働くOTへ介護予防事業の講師等を依頼する機会も、今後は増えていくはずです。OTの仕事の幅を広げるためにも、是非とも介護予防事業への協力をお願いいたします。

認知症に関しては、早期発見、早期対応といったことが、近年強調されていますね。

 JAOT No.7のp20~p25にも掲載されていましたが、厚生労働省の認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)の中で、認知症初期集中支援チームにOTが入りました。初期集中支援チームとは、発症後できる限り早い段階で包括的に支援を提供するためのチームです。認知症の初期対応に、作業療法士の力を求められているというのはとても嬉しいことですね。認知症予防・対策にOTが関わって、よい成果を生み出した事例を、積み重ねていきたいです。
 また、OT協会もこの分野に関する研修を実施するようなので、是非とも皆さんにも積極的に参画していただきたいと思います。

最後になりましたが、県士会の若手OTのみなさんへのメッセージをお願いいたします。

 是非、積極的に介護予防に関わって欲しい、地域に出てきて欲しいのです。先日、厚生労働省の認知症予防マニュアルが新しくなりましたが、そちらにはPTが作成した有酸素運動のプログラムが大きく掲載されています。OTも予防に関して、実践と研究の両面から、より多くの方々に関わっていただきたいと思います。

 また、先日ある大学で介護予防に関する講義を行いました。その際に「自分の学生時代には、学校で介護予防について習うことなどなかった」と改めて思いました。これからは介護予防の視点を当たり前に持ったOTが多く世に出てきます。治療だけでなく、予防の目線をしっかり持ったOTとして、どうぞご活躍ください。

- 行政の作業療法士として、開拓者として、大変なお立場だと思いますが、今後ともどうぞご活躍ください。どうもありがとうございました。

(文責:地域リハビリテーション部 河村)

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