神奈川県医療専門職連合会 市民公開セミナー 「医療と介護のクロスロード 同時改定とチーム医療」に参加しました

2018年10月24日19時より、横浜情報文化センターで行われた神奈川県医療専門職連合会 市民公開セミナーに参加してきました。講師は国際医療福祉大学教授の武藤正樹先生です。中医協診療報酬調査組織入院医療分科会の分科会長をされている武藤正樹先生が、次期診療報酬改定に向けた基本視点と今までの診療報酬改定の影響、チーム医療の診療報酬改定、スキルミクスと看護特定行為という3点についての講演でした。

1.次期診療報酬改定に向けた基本的視点と現在までの診療報酬改定の影響
2018年の診療報酬改定では一般病院入院基本料7対1の見直しが行われました。
入院基本料7対1、10対1を統合再編し新入院評価体系に移行し、一般入院基本料は、看護配置による「基本部分」と「診療実績」に応じた段階的評価に分られました。
7対1の入院基本料にも①重症度・医療看護必要度、②平均在院日数、③在宅復帰率と評価指標を用いられることとなりました。「基本部分」は10対1に合わせ、「実績部分」の評価は重症度、看護必要度とされ、評価内容も、現行の評価方式とDPCデータの中から使えるものを併用するようになりました。
今後、「基本部分」「実績部分」の見直しが行われ、実績に基づく新入院基本料への変換が行われて、DPCデータに基づくEFファイル方式のみになり、7対1の基本料もなくっていくとのことでした。看護配置に基づく入院基本料から、実績を達成するための新入院評価体系への変換であるとのことです。
さらに、今後主力病棟として考えられている地域包括ケア病棟では、自宅からの入院割合も実績として評価されることになります。

2.チーム医療の診療報酬改定
2012年から点数化されているチーム医療の診療報酬の経過についても説明がありました。
認知症ケアチーム、病棟薬剤業務実績加算、歯科等を含むチーム医療などについて説明がありました。認知症ケアチームについては、認知症チーム介入によって在院日数が短縮しているというデータがある。病棟薬剤業務実績加算では、インシデントの件数が有意に減少しています。さらに、ICUに薬剤師を配置することでインシデントの減少につながっています。そして、歯科等を含むチーム医療では、口腔ケアによって術後合併症発生率も優位に低くなっているなどチーム医療の実績が示されていました。チーム医療についても、今後、アウトカム報告によって評価されることになるとのことでした。

3.スキルミクスと看護特定行為
最後は、スキルミクスと看護特定行為についての説明でした。スキルミクスはもともと看護職における職種混合を意味していましたが、最近医療チームの中でそれぞれの職種間の権限委譲、代替、新たな職種の新設などの概念に拡張されています。OECD諸国ではスキルミクスとして、看護師への限定的処方権、検査オーダー権、一定の条件下での死亡診断の承認などが行われています。
スキルミクスの代表的として、米国のナースプラティショナー(NP:診療看護師)があげられます。米国ではNPが20領域で、看護師の4%、約15万人が働いています。このNPの業務範囲はプライマリーケア、予防的なケア、急性期及び慢性期の患者の健康管理、また、限定された薬の処方や検査の指示を出す権限も州によっては認められています。当初は、医師会や薬剤師会で反対がありましたが、様々な研究がなされたうえで、パフォーマンスが同等であると連邦議会技術評価局で判断されたことで増加することとなったとのことでした。
米国ではNPの養成課程は大学院修士レベル、NP独自の養成校などがあります。
2008年以降日本でも養成コースが実施されています。NP日本版は、医師会等との意見調整もあり、NPではなく限定的な「看護特定行為」に落ち着いたそうです。
「看護特定行為」は、「実践的な理解力、思考力、及び判断力を要し、かつ高度な専門知識及び技能をもって行う必要のある行為」とチーム医療推進会議で定義づけされています。
業務はペースメーカーのリードの抜去、脱水症状に対する輸液による補正の判断など、38行為21区分に及んでいます。医師、歯科医師と共同で作った手順書(プロトコル)に基づいて診療の補助を行います。
看護特定行為研修を実施する指定研修期間も2016年2月の段階で80か所になっています。看護特定行為を行う「特定行為看護師」は今後チーム医療のかなめになるとされ、慢性期医療協会による調査では、研修修了者のうち気管カニューレ交換実施64.4%、中心静脈カテーテル抜去実施が37.9%という調査結果が出ています。
特定行為看護師の総数は現在、1041名となっており、はじめは2025年までに10万人を目指していたとのことです。武藤先生は、次の改定で診療報酬に入れていく必要があるかもしれないとも考えています。今年9月の厚生労働省医療審議会保健師助産師看護師分科会では、特定行為研修を在宅、慢性期などでパッケージ化し、受講しやすくすることまで検討されています。さらに、日本看護協会では認定看護師の研修で特定行為研修を実施しているそうです。

講演の最後に武藤先生から、各職種の業務を見直し、タスクシフト、タスクシェアリングの可能性がないかの検討をしてほしい、さらにアウトカム評価つまり実績を示す事が必要であるとご発言がありました。
さらに講座終了後には質疑応答が行われ、臨床工学技士、栄養士、薬剤師などからそれぞれの立場からタスクシフトについての質問・提案からありました。先生からは、事前に医師とプロトコル(手順)をつくり、アウトカム(実績)評価が示せれば可能ではないかとの助言がありました。当然、団体や学会として実績を示していく必要があるとのことです。
特定行為については他職種、例えば臨床検査技師でも臨床検査特定行為なども出てきてもよいのではないか、それぞれの職能団体から意見を言っていただきたいとの事でした。
我々作業療法においても認定、専門の制度がありますし、様々な分野で実績も集約されつつあります。今後は実績を団体として示し、作業療法士からの提案をしていくために、一人一人の作業療法士が士会、協会組織の中での役割をさらに意識していく必要を感じました。
なお、この講座のスライドは武藤先生のウエブサイトで公開されているので、興味のある方はご覧いただければと思います。
(制度対策部 社会保障制度対策班)

武藤正樹のWebサイト http://masaki.muto.net/lecture/201810241.pdf

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