【研修会報告】精神科医療における身体拘束と人権を考える ――身体拘束への注目が集まる中、作業療法士は何をすべきか――

精神科医療における身体拘束と人権の問題をテーマとした研修会が、神奈川県作業療法士会 制度対策部 社会保障制度班の主催により、2025年11月30日、茅ヶ崎市勤労市民会館にて開催された。

研修会の講師は、杏林大学保健学部リハビリテーション学科教授であり、一般社団法人日本身体拘束研究所理事長、日本病院・地域精神医療学会副理事長、NPO法人にいがた温もりの会理事を務める長谷川利夫氏である。長谷川氏は、長年にわたり精神科医療における身体拘束の実態と人権問題に取り組んできた。

精神科医療の現場では、身体拘束を受ける人の数がこの10年で約2倍に増加し、その後も高止まりの状態が続いており、現在も1万人を超えているとされる。2017年には、神奈川県内の精神科病院に入院していたニュージーランド国籍のケリー・サベジさん(当時27歳)が、身体拘束後に心肺停止となり、搬送先の病院で亡くなる事案が発生した。この出来事を契機として、身体拘束の急増や拘束下での死亡事例は社会的課題として広く認識されるようになり、国会でも議論が行われてきた。

長谷川氏は、サベジさんの母国であるニュージーランドを訪問し、同国の精神科医療における身体拘束の実態を取材している。その内容はNHKで番組化され、2022年には国会予算委員会において参考人として意見陳述を行った。本研修会では、日本と海外の制度や文化の違いを踏まえながら、身体拘束が生じる背景や構造的課題について報告がなされた。

講義では、身体拘束を「安全」や「治療」の名のもとに正当化してきたこれまでの医療のあり方に触れつつ、拘束が人権に与える影響について、具体的な事例を交えて問題提起が行われた。また、呉秀三が拘束具を焼き、作業を通じた関わりを始めたことが作業療法の源流の一つである点にも言及し、作業療法士が果たしうる独自の役割について示唆がなされた。

当日の研修会は、長谷川先生のご配慮のもと、参加者一人ひとりとの対話を重視した進行で行われた。講義と意見交換を行き来しながら進められ、参加者がそれぞれの立場で身体拘束の問題を考える時間が丁寧に確保された。参加者からは、各自の臨床現場における葛藤や疑問が率直に語られ、身体拘束を「やむを得ないもの」として受け止めてきたこれまでの認識を見直す機会となった。

参加者アンケートでは、「身体拘束をテーマにした研修に初めて参加し、現状を知る貴重な機会となった」「表に出にくい情報に触れ、日本の精神科医療における人権の脆弱さを実感した」「講師のこれまでの取り組みに刺激を受け、自分たちにもできることがあると感じた」といった意見が多く寄せられた。

 身体拘束の問題は、医療安全や人員配置といった技術的課題にとどまらず、精神科医療がどのような価値観のもとで成り立っているのかを問い直すテーマでもある。

 神奈川県作業療法士会 制度対策部 社会保障制度班は、作業療法士が生活や作業という視点から対象者に関わる専門職であることを踏まえ、身体拘束という課題に対して関心を持ち続け、考える機会を共有することが重要であると考え、本研修会を開催した。本研修会が、作業療法士一人ひとりが自らの臨床を振り返り、今後の実践を考える契機となることが期待される。

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