155号:第8回 種を蒔く

執筆者近景

種を蒔く

 ウランバートルは都会である。そんな中で朝から夕まで週5日、病院で仕事をしていると、日本にいるような錯覚に陥る。そして、「あれ?私はどうしてここにいるんだっけ?」と余計なことを考えてしまう。私が抱いていたボランティア像と現状は大きくかけ離れている気がする。これならわざわざモンゴルまで来なくても、日本で働いていた時と大差ないじゃないか!と。もちろん、モンゴルに少しでも役に立っていればいいじゃないかという気持ちもあるけれど、本来自分がやりたかったことだってやりたいし、成長したい!という思いもある。

 もともと、協力隊を受験する時の希望は、小規模の地域、グループに深く入り込んで活動をすることだった。なぜなら、なによりそういう活動に興味があったし、何かのプロジェクトの一員として動くならまだしも、一人のボランンティアで、期間は2年という条件付きではできることは限られているので、自分の力がより発揮しやすいのは小規模グループの中だろうという考えもあったからだ。現在私が働いているような国立の大規模な機関などは、例えば病院なら院長や科長、学校なら校長のような、そこでの権力者が援助の必要性を感じてボランティアを要請していることも多い。だから、実際活動を始めると、科長からの希望は出てくるけれど、実際に現場で働いている人たち本人からの希望はあまり出てこなかったりする。私の配属先でもその傾向はあり、現場で働いている人は受け身的である。私の胸の中では不協和音が消えない感じがある。それが悪いと言っているわけではないし、何かのきっかけでそれが変わる可能性もあるとも思う。そして、今の病院がつまらないというわけではなく、病院でもやりたいことはたくさんある。マンパワーとなりつつ、OTとは何かをスタッフや学生に伝達し、技術移転、定期勉強会、ホームプログラムの作成もしたい。この中から開始しているものもあるけど、どう展開して、どう根づかせるか。これは長期戦でやって行きたいと思っている。

 一方で、やっぱり地域に根差すような活動もどうしてもやりたい。地域で当事者が自ら必要だと感じて作られた団体は、もともと意識も高い。自ら、こちらへどんどんコンタクトもとってくるし、要望も明確、一緒に活動していて楽しい。

 モンゴルに来てから、ソーシャルワーカーや養護等の関連分野のボランティア、日本の柔道整復師の方たち(モンゴルには日本柔道整復師会が会のプロジェクトとして積極的に関わっている)、モンゴルのPTの学生などと関わるようにし、セミナーやイベントにはなるべく顔を出し、種を蒔いている。まずは、モンゴルの社会資源を制度や公的機関はもちろんNGO、NPOなどの団体を含め、把握していっている段階。そんな中、先週、障害者の親の会の方から一件、訪問で養護教育をやっている方から一件、二件の電話。少し蒔いた種から芽がでようとし始めている予感です。

 今、モンゴルにいるリハビリ関連職はPTだけ。養成校もPTだけ。やっぱり、モンゴルにもOTが必要!って思ってもらいたい。みなさん、モンゴルに遊びに来てくださいね!OTの種を蒔きましょう!

おまけ:モンゴル語のあいさつ

サイハン アムラーラーイ!
おやすみなさい、よく休んでね、の意味。気遣いの言葉です。今日のリハビリ、ちょっとハードだったかな?って時なんかにも。


青年海外協力隊 平成23年度1次隊 川島(旧姓 堤)由貴子

 大学卒業後一旦就職するも、退職。その後作業療法士資格を取得し、都内の病院へ3年間勤務する。平成23年9月より協力隊員としてモンゴルに赴任。現在、首都ウランバートルの国立外傷センターにてPT隊員と共に活動中。


青年海外協力隊とは

 JICAボランティア事業は日本政府のODA予算により、独立行政法人国際協力機構(JICA)が実施する事業です。開発途上国からの要請に基づき、それに見合った技術・知識・経験を持ち、「開発途上国の人々のために生かしたい」と望む方を募集し、選考、訓練を経て派遣します。その主な目的は、(1)開発途上国の経済・社会の発展、復興への寄与、(2)友好親善・相互理解の深化、(3)ボランティア経験の社会還元です。(JICAホームページより)

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