150号:第3回 災害支援に思う(今回は、宮城・岩手県での災害支援活動の話になります)

執筆者近景 はじめに、この場を借りて、宮城県でお世話になった県士会や地元スタッフの方々、岩手県で拠点となる場所を提供してくださったデイサービスの方々、協力してくださった全ての方々に、深く御礼申し上げます。

 「すごくきれいなところなのに。何で何でこんなことになっちゃったんだろう」大船渡のデイサービスのスタッフが、送迎車の中から街の景色を見渡しながら、つぶやいた。車の中には私しか居なかったが、それは、私への言葉ではなかった。誰にとも言えない、こころのつぶやきだったように思う。 

 4月16日~21日、私はOT協会から紹介され、宮城県南三陸・気仙沼で支援活動をした。その際は、地域の保健所のリハビリスタッフがコーディネーターとなり、外部から来たボランティアを支援してくれたため、スムーズに支援活動に入ることができ、専念しやすかったように思う。協会主導のボランティアの内容は、今後様々なところで知ることができると思うので、ここでは割愛する。その後そのまま岩手県大船渡市に移動し、4月22日~5月26日、さらに支援活動を行った。そこではJOCVリハネット(脚注)という団体に属し、大船渡近隣の3つの障害者施設をまわった。

 私が大船渡に到着した当初は、私の少し前に到着したボランティアが1人居ただけの状態で、大船渡の行政・医療・福祉に関わる情報が十分に把握されていなかった。そのため、現地がどのような状態か、自分たちのキャパシティーの中でいかに関わることができるか、2人で調査することから始めた。最初は、調査や連絡、調整に奔走し、その中で協会の支援から漏れていた3施設の支援に絞った。それらの施設は、震災前には週に一度リハビリスタッフが来ていたが、震災によりそれが止まってしまったという。加えて、物的人的被害によって、利用者の活動範囲が狭まってしまい、それにより廃用が認められるということだった。それに対し私たちが行ったことは、それら3施設をまわり、震災によってレベルダウンした方々に集中的に関わり元の状態へ近づけること、震災以前のリハビリスタッフ訪問と同等の関わりを継続し、最終的に地元のリハビリスタッフに引き継ぐことであった。

 ゴールデンウィーク後は私一人での活動になってしまったが、地元のスタッフの方々の協力があったこともあり、最後まで継続することができた。しかし、この活動が十分にやりきれたとは言い難く、無力さを感じることもあった。冒頭の、地元スタッフの言葉にも、立ち尽くすだけだった。そんな中にも、活動によって改善の兆しが見えはじめた方もおり、一定の成果もあったように思う。しかし、今振り返ってみると、何より「気持ち」を届けたということが大きかったように思う。よく貰った言葉は、「来てくれるのが嬉しい」という言葉だった。

 現地のがれきの状態は、言葉にならない。それでも、1か月以上見ていると、少しずつ片付いていくのがわかる。しかし、心の傷はそうはいくまい。それでも、地元の人は、立ち上がろうとしている。拠点としていたデイサービスのほど近くに、空き店舗の居抜きという形で居酒屋がオープンした。店主は、店舗も家も全て流されたという。それでも、前を向く。「雇用が大事。地元の人は雇用を欲しがっている。だから、少しでも早く店を開けて、店を増やして、雇用を創設したいんだ」と。そして、ボランティアに対しては、「来てくれること自体がありがたい」とのことだった。地元の人にとって、がんばっていることを見ていてくれる人がいる、応援してくれている人がいる、そのことがエネルギーになっていると感じる。何か特別なことをしなくてもそこに行くこと、それに意味があったと思えた。誰にでもできる、そして実は究極の支援の形のようにも感じたし、作業療法にも通じるとも思う。


青年海外協力隊 平成23年度1次隊 堤由貴子

 大学卒業後一旦就職するも、退職。その後、作業療法士資格を取得、都内の病院へ3年間勤務。昨年、長年の夢であった青年海外協力隊の試験を受験し、合格。平成23年3月退職し、4月から約2カ月の訓練を経て、協力隊員として赴任予定であった。しかし、東日本大震災を機に渡航を延期し、東北にて災害支援活動を行う。今後は、7月より協力隊訓練予定。


青年海外協力隊とは

 JICAボランティア事業は日本政府のODA予算により、独立行政法人国際協力機構(JICA)が実施する事業です。開発途上国からの要請に基づき、それに見合った技術・知識・経験を持ち、「開発途上国の人々のために生かしたい」と望む方を募集し、選考、訓練を経て派遣します。青年海外協力隊は40年以上という長い歴史を持ち、これまでにのべ3万4000人を超える方々が参加しています。(JICAホームページより)

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