研究テーマが決まり、必要な文献も集まりました。具体的に、研究計画を立てていきます。 今回は、研究法についての説明です。 研究デザインが不十分だと、間違った結果が導かれる可能性があります。せっかく多くのデータを集めたのに、統計がかけられない、結果が出ないということになりかねません。自分が決めたテーマは、どの研究方法を用いるのがよいのかを把握しておく必要があります。
説明
自分の研究テーマをもう一度よく考えてみましょう。ある介入の効果を検証する、ある疾患や事象が起きる要因やリスクを評価する、単一の事例の報告をする・・・それぞれ研究法が異なります。簡単に研究法についての説明をしますので、文末の参考文献などをもとに、自分の研究方法を考えましょう。研究テーマ、そして研究法・研究デザインが決まってくると、用いるべき統計や、変数も明らかになっていきます。
〜 実験的研究/観察的研究/調査研究〜
1.実験的研究
介入・治療の効果を確かめる研究デザイン。基本的には前向き研究になる。
治療以外の背景因子がすべて公平になるように対象を群分けし、介入の効果を調べる研究。群分け手順をランダム化することで、背景因子が公平化できる。乱数表を用いてランダム化を厳密に行う。
コイン投げやくじ引き、カルテ番号などを用いた、ランダム化に準じた割り付けを行う比較試験。
対象を介入群、対象群の2群に分けて介入を行った後、いったん介入を中止する。その後介入の有無を交換して再度経過を追跡して比較する方法。
介入前後のアウトカム要因を比較する。対照群を持たないものも含まれる。
2.観察的研究
調査者が結果に影響を及ぼす行為をせずに、何が起きるかを単に観察する研究。
あらかじめ疾病・重症度へ影響すると思われる影響要因を決めて、影響要因あり群と影響要因なし群に分け、対象を一定期間追跡する。疾患発症の有無や重症度などへの影響を調べる。前向き研究。 ex)注意障害有無群で、1年後に転倒経験有無に関連があるかみる。
症例群と対照群に分けてから、影響要因の有無・度合いなどを比較する研究。後ろ向き。 ex)心疾患患者の再入院の有無と、過去の運動機能との関連をみる。
疾病を有する症例のみを対象として、影響要因の有無・度合いを調べ、疾患との関連を研究するもの。対照群との比較は行わない。 ex)転倒患者の高次脳機能を調べる
3.調査研究
面接や郵送・電話などにより、回答を得て、データの処理、分析を行う。
〜横断的研究/縦断研究(時間要因による分類)〜
1.横断的研究
疾病の有無や重症度、介入の有無によって対象を群分けし、同時期に影響要因の有無・度合いを調べて関連性を検討する方法。
2.縦断的研究
一定期間にわたって、追跡する。
疾病の有無や重症度などで対象者を群分けし、過去にさかのぼって影響要因の有無やその度合いを調べて関連性をみる方法。
まず影響要因の有無・度合いに注目して対象者を群分けしてから、将来にわたり追跡し、疾病の有無、重症度との関連をみる方法。
〜単一事例研究(シングルケースデザイン)〜
1. 単一事例研究(シングルケースデザイン)
1例、もしくは複数例の症例を連続的に分析していく。目的とする行動や反応を一定の間隔で繰り返し測定する。ベースラインとそれに続く治療期間の設定を行い、分析を行う。ベースラインAと治療期間Bを測定するABデザイン、ABにひきつづきもう一度ABを繰り返すABABデザインなどがある。
〜質的研究〜
1.伝記研究
研究者は、対象者の経験を生活史に沿うなどしながら整理し、それぞれのストーリーの意味を探りながら人生経験に解釈を加える。
2.現象学的研究
研究者は対象者の主観的体験を重視し、その体験様式の特徴や、経験の主な意味を探し、意識の志向性を明らかにしていく。
3.グラウンデッド・セオリー
研究者は、観察とインタビューによってデータを集め、情報をコード化・カテゴリー化し、それを繰り返し修正していく。いくつかの概念を形成し、導かれたストーリーを模式的に図示する。
4.エスノグラフィー
現地調査によってグループを観察し、人々の生活様式、行動、習慣、思考、感情などの特性を検討する調査。
5.質的事例研究
前向きに情報収集を行い、データ分析に基づいて対象者の体験とその変化の意味を解釈し、記述する。
デザインの分類や、研究デザイン名は、清書・文献により多少異なっています。以下の参考文献などで、詳しく勉強してみてください。初めての研究では、過去の優れた研究論文を読み、その手法を真似るというのも良いと思います。
参考文献
1)対馬栄輝:理学療法27巻3号 467-472
2)石倉隆:シングルケースデザインの実際.PTジャーナル 38巻8号653-660
3)網本和:シングルケースパラダイム.PTジャーナル29巻3号189-192
4)吉田勝美監訳:一目でわかる医学統計学.メディカルサイエンスインターナショナル.2001
5)日本作業療法士協会:作業療法マニュアル34.作業療法研究法マニュアル.2006
6)D.H.バーロー、M.ハーセン:一事例の実験デザイン.二弊社.2003
Story:森下史子(済生会横浜市東部病院)
イラスト: OTナガミネhttp://otoba.ame-zaiku.com
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