155号:東日本大震災 被災地訪問レポート 『おらほさきてけらい~』

東日本大震災 被災地訪問レポート
『おらほさきてけらい~』

 神奈川県立保土ケ谷養護学校 広報部編集委員 本間嗣崇


155号:東日本大震災 被災地訪問レポート 『おらほさきてけらい~』

仮設住宅外観:砂利の上に建設され、駐車場はアスファルト敷きというのが一般的。手前は談話室で、スロープは一部の棟に設置されている。

 未曾有といわれた震災から一年。今年の3月11日前後には、連日多くのマスメディアが特集を組んで、震災当日やその後の日々のこと、そして現在の被災地の状況を伝えていました。去年の夏、OT協会の災害支援ボランティアや三連休を利用して、何度か被災地を訪れていた私は、被災した方々の様子が気がかりで、インタビューなどの映像が流れるたびに、テレビ映像に見入っていました。寒い日が続いた今年の冬を、プレハブの仮設住宅で生活をされている方々は、どの様に過ごしていられるのかと気を揉む日も多くありました。そんな時に、「福祉避難所から仮設住宅へ転居しました」という報告とお礼の手紙をいただいていた夫妻の顔がふと浮かびました。そして「機会があったらお伺いしてお話ができないでしょうか」と不躾なお願いを手紙にしたため、ポストに投函。その日からちょうど一週間経った昼過ぎ、その奥様から「昨日手紙が届いだよー。気にしないで、体ひとつでいつでもけらい(おいで)」と私の元に電話がかかってきました。
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玄関前ポーチ:結露で引き戸が凍り、工事前はお湯で溶かして出入りしていたとのこと。(時には窓から出入りしたと…)

さっそく仕事帰りにチケットを取り、次の日の夕方から週末を利用して東北へと向かいました。

 私が向かった先は、仙台市から車で1時間程の所に位置する、宮城県第二の都市、石巻。石巻市は美味しいお米や豊富な農作物だけでなく、新鮮な魚介類が年間を通じて水揚げされることで有名であり、最近ではB級グルメの石巻焼きそばもお勧めのひとつ。また「仮面ライダー」や「サイボーグ009」の原作者である漫画家の石ノ森章太郎氏の「石ノ森萬画館」があることでも有名です(現在は震災により臨時休館中)。石巻は人々が温かくて、一度訪れるとまた行きたくなる、そんな街です。

 話が逸れてしまいましたが、私に連絡をくださった夫妻は、その石巻市の山間部にある仮設住宅に暮らしていらっしゃいました。お宅を訪問すると野菜たっぷりの特製カツカレーを作って待っていてくださり、取材も快く受け入れてくださいました。そもそも夫妻と初めて出会ったきっかけは、夫妻が入所されていたとある福祉避難所に私がボランティアとして派遣されたことでした。旦那様は20年来の片麻痺のベテラン選手で、震災前は時々車の運転をして、一人で買い物にも出ていたという行動派。震災直後の2ヶ月間は自宅が在った近くの一般的な避難所で過ごし、その後奥様とともに福祉避難所へと移られたとのこと。
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トイレ前:仮設住宅の構造上、風呂トイレへのアプローチには段差がある。手前の手すりは後付けのもの。

最初の避難所での生活環境は、床にブルーシートと段ボールを敷いただけの簡素な造りで、自宅の改修済みのトイレで排泄は自立していたのに、避難所では常時オムツを使用しなければならなかったそうです。その結果褥瘡ができてしまい、活動量が低下。最終的には寝たきり状態になってしまったとのこと。その当時の様子を振り返って旦那様は「一言でいうと地獄」「杖と装具と靴がなくて歩けなくなって、脚も細くなってしまった」。また奥様は「全国から来た病院や介護士の方々に助けてもらってありがたかった」しかし旦那様の状態としては「ベッドの上に座っていてもすぐに倒れてしまう状態だった」と話されました。その後、福祉避難所へと移った時の事は「障がい者用のトイレやベッド、段ボールの仕切りがあって、本当に別世界みたいだった」と。

 その当時、石巻市の福祉避難所には、市立医療機関の看護師や地元の特別養護老人ホームの各種スタッフが常駐し、またそれと同時に東日本大震災リハビリテーション支援関連10団体所属の作業療法士や理学療法士によるリハビリテーションが展開されていました。その様な環境下で旦那様は「少しでも早く身体が戻るように」と、日々数十分間の個別リハビリと集団での自主トレーニングに専念されていました。福祉避難所から仮設住宅へと移られた現在も週2回のデイサービスへと通われ、震災前の身体の状態を100とすると今は「80%を超えるくらい」まで身体の調子が戻ってきたとのこと。実際、仮設住宅では、日中は一人でトイレに行っているとの事でした。トイレ周辺を見させていただくと、居室からトイレまでの動線に家具類が手すりの代わりとして使えるように配置されていました。また仮設住宅に元々付いていた手すりの他に、トイレの内外に2本の新しい手すりが取り付けられていました。奥様に尋ねると数週間前にリハスタッフによる家屋訪問があったそうです。福祉避難所から仮設住宅へと、生活の場面に合わせたリハスタッフによる支援が継続して続いていることを窺い知る事が出来ました。

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お話を伺ったご夫婦

 お二人に現在の生活での困り感をお聞きすると、奥様から開口一番に出てきたことは「バスが少なくて不便」ということでした。バス停は仮設住宅近くにあるのですが、午前午後あわせて6便しかないとのことで、通院や買い物などの用事を済ませてくるだけでも丸1日かかってしまうそうです。もともと徒歩や自転車で用事を済ませていた奥様にとってはその点が一番困っていらっしゃるようでした。また仮設住宅のハード面に対する不便さも話されました。水道管が凍ってしまって家事やトイレができなくなってしまったこと、居室への隙間風のこと、玄関の入り口が凍って出入りできなくなったこと、床が全室カーペット調で和室暮らしであった夫妻にとっては過ごしにくかったこと、などを伺うことができました。それらの改善策として、昨年末に水道管への防寒対策や二重窓化工事、畳の設置などが行われ、3月に入ってから防風対策のための玄関前スペースが設けられたことで、現在はだいぶ過ごしやすくなったとの事でした。一方ソフト面では、週に1回は社会福祉協議会の方が訪問に来て話を聞いてくれるので安心だとも話されていました。また仮設住宅の談話室に、NPOなどの方が訪問してお茶飲み会や集団体操を実施したり、屋久島杉でネックレスを製作したことなどもあるそうで、お部屋には箱庭療法を行っている写真なども飾ってありました。奥様によると、仮設住宅に入居されている方々はうつや自殺、孤独死が少なくはないとの事で、その点は今後も長期的な課題となると思われました。

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棚上の写真:福祉避難所を訪れた全国各地のリハスタッフとの写真が飾られていた。

 一方旦那様の困り感は、やはりご自分のお身体のことで「前みたいに自由に歩けるようになりたい」と。また「もうちょっと暖かくなったら仮設の周りを歩きたい」と自主トレーニングにも意欲的で「怒らず、転ばず、風邪ひかず」を信念に今後もリハビリに励みたいと話されていました。取材後に夫妻から「部屋はいぐらでもあんだから、泊まってったらいっちゃ。美味しい酒もあっから」とお誘いを受けたのですが、今回は宿泊地を手配していたため泣く泣くお断りさせていただきました。タオルケットで寝られる季節になったらまた顔を見せて欲しいとのことだったので、このニュースが自身の手元に届く頃、また石巻に足を運んでいるかもしれません。

 皆さんも『週末に東北』なんていかがですか?それが観光であれ、ボランティアであれ、そこには皆さんが来てくれることを望んでいる方々がきっといるはず。被災地は復興に向けて、今も前へ前へと進んでいます。

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