149号:第2回 渡航延期

執筆者近景 本来ならば、この回で青年海外協力隊の訓練所の事を書く予定でしたが、4月に予定されていた訓練を7月からに変更することになりました。(この記事は4月初旬に書いています)。そのため、今回は、協力隊の事とは少し離れたものになってしまいますが、なぜ変更したかを含めて、現在の状況をお知らせしたいと思います。

 3月、私は4月に予定されていた訓練所入所のため、着々と準備を進めていた。様々な事務手続きを行い、訓練所や渡航先で必要と思われる物品をかき集め、有給をもらって実家に帰り、家族・友人に別れを告げ、仕事の引き継ぎをし…。

 しかし、3月11日の大地震、職場にいた私は大きく揺れた。自分が今まで経験した中で、一番揺れた。そして、自分が経験してきた災難の中でも、一番危険だったように思えた。それから、自分や親しい人たちの無事にほっとしたものの、その被害状況が除々に明らかにされるにつれ、じっとしていられない気持ちになった。今、自分に何ができるだろうか。仕事もある中で、冷静に生活し混乱を招かないようにする、募金をする、というその時に自分にやれることをなるべく実行した。それと同時に、協力隊への参加について非常に悩んだ。

 被害状況を見ていると、現地で自分ができることはたくさんあるように感じた。また、非常に長い期間の支援を要するだろうということが想像された。世間では未曽有の事態とも騒がれている。こんな時に他の国に行っていていいのか。3月いっぱいで退職することも決まっていたため、4月になれば、協力隊にさえ行かなければ、長期間被災地へ行く時間は十分ある。協力隊は長年の夢であったけれども、時にはそれを捨てなければならない時もある、とも思った。

 私が、「そんなこと言ってらんないよね。」と、協力隊参加を迷っているという話をした時、周囲の反応は様々だった。自分の考えもなかなかまとまらなかった。結論から言うと、私はその後、JICAに連絡し、被災地へのボランティアを理由とし、渡航延期を申し出た。基本的には、やむをえない場合以外の渡航延期は認められず、また、渡航先が変更をよしとしなければ取り消しになる可能性もある。結局、私は、自分にとって非常に重要なことだったにも関わらず、自分では決めきれず、JICAに自分の身の振り方を委ねる形にしたことになる。そして、結果としては、渡航は延期となった。

 一人一人が自分の目の前にあることを着実に行って、何かしらの支援に結びつけることは大切だと思う。皆が被災地に行けるわけではなく、無理をすることよりも、一人一人が身近なことを続けることが大事なのではないかと思う。私にとって目の前のことをやることは、JICAボランティアに参加することだろう。国際協力は大事だし、今回の震災でも多くの国々が支援をしてくれた。私の派遣予定のモンゴルでも、国としての支援だけでなく、協力隊が派遣されている病院では、全職員の一日分の給料を送ってくれたと聞く。今まで、日本が支援をしてきたからそれがあったと思うし、私が協力隊へ参加することも非常に重要な事。今まで渡航準備を進めてきた両国のスタッフがいる事もわかっている。関東にいてもやれることはある。帰ってきてからだってやれることはある。頭の中ではわかっているのだ。しかし、割り切れない。もちろん、今、直接、被災地で関わって自分の胸に焼きつけることが、自分が今後、復興支援をする時にエネルギーになるのではないかという思いもある。それに、現地に実際に行く人もやっぱり必要だとも思う。しかし、やっぱり、自分のエゴのようにも思える。目の前のやるべきことを置き去りにして、直接現地で判りやすい活動をしたいだけなのではないか。決まっていたことを踏み倒して強硬突破しようとしているエゴイスト。どう考えても、混沌としている自分がいた。

 結局、どうしたらよかったのかは判らない。近くに困っている人がいる。遠くにも困っている人がいる。
今はまだ、混乱して、考えも文章もまとまっていないところがあると思う。答えは見つからない。たくさん疑問がある。今回、自分が招いた結果。迷惑を被っている人もいるかもしれない。ただ、今はこの結果に添ってやっていこう、と思っています。自分はこんなでいいのかと思いつつ、こうやって迷いながらも、進んでいくしかない。精一杯、今決まったこと、被災地での活動をやってこようと思います。


青年海外協力隊 平成23年度1次隊 堤由貴子

 大学卒業後一旦就職するも、退職。その後、作業療法士資格を取得、都内の病院へ3年間勤務。昨年、長年の夢であった青年海外協力隊の試験を受験し、合格。平成23年3月、退職し、4月から約2カ月の訓練所での訓練を経て、協力隊員として赴任予定であったが、現在、訓練所への入所を3カ月延期中。


青年海外協力隊とは

 JICAボランティア事業は日本政府のODA予算により、独立行政法人国際協力機構(JICA)が実施する事業です。開発途上国からの要請に基づき、それに見合った技術・知識・経験を持ち、「開発途上国の人々のために生かしたい」と望む方を募集し、選考、訓練を経て派遣します。青年海外協力隊は40年以上という長い歴史を持ち、これまでにのべ3万4000人を超える方々が参加しています。(JICAホームページより)

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