150号:てんかんのある人への援助

当事者団体の活動を知る

 地域リハビリテーション部では「関係職種・機関・組織との連携や神奈川県民との連携により地域リハビリテーションの普及・推進を図る」目的として,障がい者(当事者)団体の活動の広報をおこなってきました.
 昨年度お伝えすることができなかった内容を掲載させていただきます.

 NO.146号に掲載しました「日本てんかん協会神奈川県支部」.代表の森氏に当会ニュースへメッセージをいただきました.初心に戻り,当事者の方々が発する声を受け止めてください.
 


 

てんかんのある人への援助

日本てんかん協会神奈川県支部
代表 森 敏一

[1] はじめに

 作業療法士の皆さんに、てんかんのことを知っていただく意味は何でしょうか。 皆さんがサポートしている方々の中に、てんかんのある人がいた場合、とまどうことが無いようにすることだと思います。

 親としての個人的体験・神奈川県支部代表としていろいろ出合った事例・多少の学びから得られた私なりのてんかん理解と欲しい援助を書いてみます。専門家でないことをご了承ください。 詳しいことをお知りになりたい方は、最後の参考図書をお読みください。

[2] 100人100様

 てんかんというと、突然に強直しけいれんし倒れるというイメージを持つ方もいるかもしれませんが、これは、強直間代発作というてんかん発作の一つの形(型)に過ぎません。てんかん発作の形は、国際分類によると40くらいあります。

 人の身体は、脳の命令を神経が伝えることで動いています。神経が働くには微弱な電気が必要です。脳の一部もしくは全体で、電気の強い活動が突然生まれると、脳のその部分が担当している身体の部分が異常な反応を示します。その異常な反応が40くらいあるということです。 何回も繰り返して、突然起きるその異常な反応を「発作」といっています。 40くらいの発作型といっても、細かく見ると、一人ひとり発作の様子は微妙に違いがあります。100人100様と言っていいと言うのが私の感想です。

 従って、皆さんがてんかん発作のある人を支援する場合は、その人の発作の様子と対応の仕方を、前もって関係者に聞いておくことが、安心して対応するポイントになります。

[3]救急車を呼ぶのは

 通常、てんかん発作で救急車を呼ぶ必要はありません。呼ぶ必要があるのは次の様な場合だけです。

(1) 全身のけいれんが10分以上続くとき。
(2) 1回の発作が止まっても意識が回復せず、また発作が起きるということを3回以上続けるとき。(てんかん発作が30分以上持続する場合を「発作の重積」といいます。発作と発作の間で意識が回復するものは、重積とは言いません。)
(3) 短い発作だったが、かなりの怪我をした場合。 注:転倒して頭を強く打った場合は、しばらく様子を見ます。普段より明らかに意識の回復が遅い場合やもうろうとしている場合は、病院に行ったほうが良いでしょう。

[4]てんかんと精神症状

 てんかんに伴う精神症状(統合失調症に似た幻覚・幻聴などやこだわり・感情の激しさなどの性格変化)を持つ人もいます。「てんかん性格」といわず「てんかん性格変化」というのは、てんかんの人すべてに共通しているわけではないこと、又、「性格変化」がある人でも、てんかんが治れば性格も穏やかになることからその言葉を使います。精神症状には、てんかんとは別の対応が必要です。

[5]てんかんと発達障害

 発達障害には、知的障害、自閉症、アスペルガー症候群、学習障害、注意欠陥多動性障害などがあります。てんかんと発達障害を合併する人がいますが、それぞれへの対応が必要になります。

[6]てんかん患者と生活

(1)プールと入浴
 作業療法士の方がここまでかかわることは無いと思いますが簡単に記します。

プール:一般には泳いでいるときより、プールから上がってほっとしたとき、プールサイドで発作 を起こすことが多いので、水際から離れて休むようにしましょう。しかし、泳いでいると きにも発作になることはあるので、監視は必要です。もし水の中で発作が起きてばたばた しているようだったら、後ろから抱きかかえ呼吸を確保し(前だと抱きつかれ一緒に沈む 危険があります。)出来るだけすみやかに水からあげると良いでしょう。

お風呂:施設では監視者の注意が大切です。旅行などでは、複数で入ることが大切です。家では、 いつ発作が起きるかわからない人の場合は、時々声かけをしたり、音に注意しているなど をします。万一の時は、顔をあげ呼吸できるようにし、風呂の水を抜きます。(音や人影 の動きを他の部屋でわかるシステムもあるとのことです。)シャワーで済ませる人も沢山 います。(四方から温水が出て湯に入っているのと同じような感じになれるシャワーも あるとのことです。)何年も発作が無く元気な人が、風呂でおぼれることがあります。 そんな人への対応は悩ましい問題です。

(2)お酒
 禁止というお医者さんと、「ほろ酔い程度で」というお医者さんといます。本人の症状に合わせて決定することのように思います。

(3)睡眠
 十分な睡眠をとることは、てんかん患者にとって、薬の次に大事なことです。

(4)人間関係
 幼児期の発症のため、十分な社会体験が出来ず、また自己充実の経験が無いことから人間関係がうまく取れない人、脳出血などの中途障害のためプライドから人間関係がうまく出来ない人のほかに、てんかんに伴う精神症状、てんかんとは別の精神障害を持っているため人間関係がうまく出来ない人などがいます。
 前2者の場合は、本人への丁寧な説明が必要と思います。後の2つの場合は、是々非々での対応が必要のように思われます。
 人間関係を自分から求めない人もいます。しかし、人は人間関係なしには生きられないので、どういう条件があれば、人間関係をうまくつくれるようになるのか工夫が必要になるでしょう。
 人間関係を求めようとしても、避けられてしまうケースもあります。地域ボランティアのネットワークをつくるなど、一人ひとりにそった、人間関係が豊かになる工夫をする必要があると思います。

(5)社会的支援を
 学校や病院への移動支援は、自立支援法では、利用できません。そうした制度を、「ニーズに応じた支援」にしていくため、現在行われている「障害者制度改革推進会議」の「障害者総合福祉法」作りに、積極的な関心を持って行きたいものです。

[7]最後に

 同じてんかん患者といっても微妙な違いがあります。又、重複障害の人もいます。そんな意味で、最初に「てんかん患者は、100人100様です。」と書きました。

 作業療法士の皆さんが、てんかんのある人をサポートする場合、発作の型や対応の仕方を、本人や家族の方からよく聞いておくと安心して対応できると思います。又、その人の性格や生活の質(趣味・興味・大事にしていること)を知っていただき、尊重していただけるとありがたいと思います。

[8]参考図書

(1)『てんかん、こうして直そう 治療の原則』 久保田 英幹著 発行:日本てんかん協会 定価1,600円+税 ※てんかんの基本的なことがわかります。
(2)『てんかんテキスト、理解と対処のための100問100答』 清野 昌一・八木 和一共著 発行:南江堂 定価3,200円  ※問答形式で基本的なことがわかります。
(3)『てんかん発作、こうすればだいじょうぶ 発作と介助』 川崎 淳著 発行:日本てんかん協会 定価2,000円+税  ※代表的な発作とその介助法を実演したDVDが付いています。
(4)『てんかんのすべてがわかる本 治療と生活から心理・福祉まで』 河野 暢明著 発行:株式会社法研 定価1,575円  ※臨床心理士が書いた本。医者の書いた本とはちがう良さがあります。
(5)『新 てんかんと私 ひびけ、とどけ!34人の声』 日本てんかん協会編 発行:萌文社 定価2,100円  ※患者本人や家族の生の声がまとめられています。
(6)『日常生活のためのてんかんのくすり』 日本てんかん協会編 発行:日本文化科学社 定価2,500円+税  ※てんかんの薬の基本の本です。

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