Category: ここへ行ってきた

155号:東日本大震災 被災地訪問レポート 『おらほさきてけらい~』

東日本大震災 被災地訪問レポート
『おらほさきてけらい~』

 神奈川県立保土ケ谷養護学校 広報部編集委員 本間嗣崇

155号:東日本大震災 被災地訪問レポート 『おらほさきてけらい~』

仮設住宅外観:砂利の上に建設され、駐車場はアスファルト敷きというのが一般的。手前は談話室で、スロープは一部の棟に設置されている。

 未曾有といわれた震災から一年。今年の3月11日前後には、連日多くのマスメディアが特集を組んで、震災当日やその後の日々のこと、そして現在の被災地の状況を伝えていました。去年の夏、OT協会の災害支援ボランティアや三連休を利用して、何度か被災地を訪れていた私は、被災した方々の様子が気がかりで、インタビューなどの映像が流れるたびに、テレビ映像に見入っていました。寒い日が続いた今年の冬を、プレハブの仮設住宅で生活をされている方々は、どの様に過ごしていられるのかと気を揉む日も多くありました。そんな時に、「福祉避難所から仮設住宅へ転居しました」という報告とお礼の手紙をいただいていた夫妻の顔がふと浮かびました。そして「機会があったらお伺いしてお話ができないでしょうか」と不躾なお願いを手紙にしたため、ポストに投函。その日からちょうど一週間経った昼過ぎ、その奥様から「昨日手紙が届いだよー。気にしないで、体ひとつでいつでもけらい(おいで)」と私の元に電話がかかってきました。
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玄関前ポーチ:結露で引き戸が凍り、工事前はお湯で溶かして出入りしていたとのこと。(時には窓から出入りしたと…)

さっそく仕事帰りにチケットを取り、次の日の夕方から週末を利用して東北へと向かいました。

 私が向かった先は、仙台市から車で1時間程の所に位置する、宮城県第二の都市、石巻。石巻市は美味しいお米や豊富な農作物だけでなく、新鮮な魚介類が年間を通じて水揚げされることで有名であり、最近ではB級グルメの石巻焼きそばもお勧めのひとつ。また「仮面ライダー」や「サイボーグ009」の原作者である漫画家の石ノ森章太郎氏の「石ノ森萬画館」があることでも有名です(現在は震災により臨時休館中)。石巻は人々が温かくて、一度訪れるとまた行きたくなる、そんな街です。

 話が逸れてしまいましたが、私に連絡をくださった夫妻は、その石巻市の山間部にある仮設住宅に暮らしていらっしゃいました。お宅を訪問すると野菜たっぷりの特製カツカレーを作って待っていてくださり、取材も快く受け入れてくださいました。そもそも夫妻と初めて出会ったきっかけは、夫妻が入所されていたとある福祉避難所に私がボランティアとして派遣されたことでした。旦那様は20年来の片麻痺のベテラン選手で、震災前は時々車の運転をして、一人で買い物にも出ていたという行動派。震災直後の2ヶ月間は自宅が在った近くの一般的な避難所で過ごし、その後奥様とともに福祉避難所へと移られたとのこと。

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トイレ前:仮設住宅の構造上、風呂トイレへのアプローチには段差がある。手前の手すりは後付けのもの。

最初の避難所での生活環境は、床にブルーシートと段ボールを敷いただけの簡素な造りで、自宅の改修済みのトイレで排泄は自立していたのに、避難所では常時オムツを使用しなければならなかったそうです。その結果褥瘡ができてしまい、活動量が低下。最終的には寝たきり状態になってしまったとのこと。その当時の様子を振り返って旦那様は「一言でいうと地獄」「杖と装具と靴がなくて歩けなくなって、脚も細くなってしまった」。また奥様は「全国から来た病院や介護士の方々に助けてもらってありがたかった」しかし旦那様の状態としては「ベッドの上に座っていてもすぐに倒れてしまう状態だった」と話されました。その後、福祉避難所へと移った時の事は「障がい者用のトイレやベッド、段ボールの仕切りがあって、本当に別世界みたいだった」と。

 その当時、石巻市の福祉避難所には、市立医療機関の看護師や地元の特別養護老人ホームの各種スタッフが常駐し、またそれと同時に東日本大震災リハビリテーション支援関連10団体所属の作業療法士や理学療法士によるリハビリテーションが展開されていました。その様な環境下で旦那様は「少しでも早く身体が戻るように」と、日々数十分間の個別リハビリと集団での自主トレーニングに専念されていました。福祉避難所から仮設住宅へと移られた現在も週2回のデイサービスへと通われ、震災前の身体の状態を100とすると今は「80%を超えるくらい」まで身体の調子が戻ってきたとのこと。実際、仮設住宅では、日中は一人でトイレに行っているとの事でした。トイレ周辺を見させていただくと、居室からトイレまでの動線に家具類が手すりの代わりとして使えるように配置されていました。また仮設住宅に元々付いていた手すりの他に、トイレの内外に2本の新しい手すりが取り付けられていました。奥様に尋ねると数週間前にリハスタッフによる家屋訪問があったそうです。福祉避難所から仮設住宅へと、生活の場面に合わせたリハスタッフによる支援が継続して続いていることを窺い知る事が出来ました。

155号:東日本大震災 被災地訪問レポート 『おらほさきてけらい~』

お話を伺ったご夫婦

 お二人に現在の生活での困り感をお聞きすると、奥様から開口一番に出てきたことは「バスが少なくて不便」ということでした。バス停は仮設住宅近くにあるのですが、午前午後あわせて6便しかないとのことで、通院や買い物などの用事を済ませてくるだけでも丸1日かかってしまうそうです。もともと徒歩や自転車で用事を済ませていた奥様にとってはその点が一番困っていらっしゃるようでした。また仮設住宅のハード面に対する不便さも話されました。水道管が凍ってしまって家事やトイレができなくなってしまったこと、居室への隙間風のこと、玄関の入り口が凍って出入りできなくなったこと、床が全室カーペット調で和室暮らしであった夫妻にとっては過ごしにくかったこと、などを伺うことができました。それらの改善策として、昨年末に水道管への防寒対策や二重窓化工事、畳の設置などが行われ、3月に入ってから防風対策のための玄関前スペースが設けられたことで、現在はだいぶ過ごしやすくなったとの事でした。一方ソフト面では、週に1回は社会福祉協議会の方が訪問に来て話を聞いてくれるので安心だとも話されていました。また仮設住宅の談話室に、NPOなどの方が訪問してお茶飲み会や集団体操を実施したり、屋久島杉でネックレスを製作したことなどもあるそうで、お部屋には箱庭療法を行っている写真なども飾ってありました。奥様によると、仮設住宅に入居されている方々はうつや自殺、孤独死が少なくはないとの事で、その点は今後も長期的な課題となると思われました。

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棚上の写真:福祉避難所を訪れた全国各地のリハスタッフとの写真が飾られていた。

 一方旦那様の困り感は、やはりご自分のお身体のことで「前みたいに自由に歩けるようになりたい」と。また「もうちょっと暖かくなったら仮設の周りを歩きたい」と自主トレーニングにも意欲的で「怒らず、転ばず、風邪ひかず」を信念に今後もリハビリに励みたいと話されていました。取材後に夫妻から「部屋はいぐらでもあんだから、泊まってったらいっちゃ。美味しい酒もあっから」とお誘いを受けたのですが、今回は宿泊地を手配していたため泣く泣くお断りさせていただきました。タオルケットで寝られる季節になったらまた顔を見せて欲しいとのことだったので、このニュースが自身の手元に届く頃、また石巻に足を運んでいるかもしれません。

 皆さんも『週末に東北』なんていかがですか?それが観光であれ、ボランティアであれ、そこには皆さんが来てくれることを望んでいる方々がきっといるはず。被災地は復興に向けて、今も前へ前へと進んでいます。

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153号:神奈川障害者職業センター

リワークプログラムを専門的に行っています
 ここ数年でうつ病は大きな社会問題となっており、映画やドラマでうつ病を題材にしたものを見た方も多いのではないでしょうか。
 そんな中、精神科デイケアや外来OTでも気分障害に対する利用者の割合が多くなっており、中でも職場でのストレスといった様々な理由で休職しての利用者が増えています。デイケアで復職(以下「リワーク」)に向けてのサポートをする中、リワークを専門に取り組んでいる専門機関の存在を知りました。
 今回、リワークプログラムを専門的に展開している神奈川障害者職業センターに行ってきました。神奈川障害者職業センターでは精神障害者総合雇用支援の中でリワークの他に新規雇用・就職に関するニーズとしての雇用促進支援や雇用継続に関するニーズとしての雇用継続支援を精神障害者と事業主を対象に行っています。(表1)今回の取材ではリワークに対する職場復帰支援に焦点を当てて紹介します。相模原市の閑静な住宅街の中にある神奈川障害者職業センターにてリワークカウンセラーの湯田さんにお話を伺いました。

153号:神奈川障害者職業センター 表1

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利用者の9割近くの方が職場復帰されています
 神奈川障害者職業センターは独立行政法人である高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営しており、各都道府県に最低1ヶ所の地域障害者職業センターを設置しています。リワーク支援事業は平成17年から開始され、企業の産業保健スタッフ、人事、総務、主治医等からの紹介や、個人によるインターネット検索からの利用もあります。年々利用者は増えており、再発を防いでスムーズに復職し、職場定着ができるための準備を整えることを目的として平成22年度には、約70社の方がプログラムを利用しています。そのうち9割近くの方が職場への復帰を果たされているとのことでプログラムの成果が出ている結果と感じました。

153号:神奈川障害者職業センター 表2

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 期間は3ヶ月でウォーミングアップコースが1ヶ月と本コース2ヶ月となっています。詳しい内容は表2を参照して下さい。ウォーミングアップコースは週5回の実施で体調管理、スケジュール管理を中心に行います。プログラムを2回休んだら本コースに進めない場合もあるとのことで、厳しい条件になっています。本コースではグループワークが中心で、同時期に10~20名のグループで実施しています。午前と午後の2コマで行われています。月曜日から金曜日まで様々なスケジュールが組まれています。(表3)
153号:神奈川障害者職業センター 表3

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私が伺った時にはグループミーティングを行っていました。(写真1)参加している方の意欲が伝わり、様々な意見が出され、活発に議論されていました。最初は発言もまばらとのことですが、回数を重ねるごとに熱の入ったものになるとのことです。
153号:神奈川障害者職業センター 写真1

写真1:クリックで拡大されます

デイケアに求めることは基本的な体力、生活リズムの構築
 最近のリワークに求められる傾向として、1.フルタイム復職を想定した体力、生活リズムの構築 2.再発予防の為の振り返り 3.ストレス対処法の習得 4.職場での対人スキルの向上 5.通勤力、の5点について話がありました。
 この中でも、すべての基盤となる①の「フルタイム復職を想定した体力、生活リズムの構築」が特に重要であり、ここをデイケアで築いていけるとプログラムが円滑に進むとのことです。
 つまり、働く力の構造として健康管理の力と日常生活の力を養うことが大切ということです。(図1)実際に早めの就寝、リワークを想定した起床、身支度、デイケアに通所するならば朝から週5回、半日以上での外出リズムなどが構築できているとリワークが始まっても疲れが出にくくプログラムに集中できるとのことです。反対に今は起きることができないけれど、予定がないだけ。リワークが始まれば多分行けるだろうという考えですと、結果として遅刻、欠席が多くなり、復職後の安定が見込めず、復職判定にも不利に働くようです。後者のようにならないためにも、リワークプログラム前の準備をするステップはデイケアでの大切な役割であると感じました。
 さらにデイケアを利用する中で人間関係を築けたとの話もありました。コミュニケーションに対して自信を失っている対象者にとってデイケアは人と関わる上でストレスや煩わしさを感じすぎない中で、対人関係を築ける適度な環境なのだと思いました。

153号:神奈川障害者職業センター 図1

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職場だったらどうなのか?想定した視点を持って欲しい
 今回の取材でリワークプログラムに入る事前準備として精神科デイケアなどの医療機関が携わることが大切であることを知りました。
 そのような中でOTに求めることとして「利用者が復職された時に、職場の方にも受け入れられる対応をなさっているかどうか、という視点を持って支援をして頂けると、復職後のコミュニケーション等にも効果的です」と湯田さんから話がありました。
 具体的には職場の環境を想定して話を聞きながらメモを取ったり、報告、連絡、相談といった行動、社会に適した整容といった部分を行うことでリワーク後に活かされるとのことです。私自身、OTとして利用者と雇用者側の視点に立った復職へのサポートと共に、その方の長所を見出して復職につなげていけるような評価もできればと思いました。そのためにもリワーク全般に対する知識や技術をさらに高めていく必要があると感じました。
 様々なニーズの利用者があり、リワークに特化した対応をするには専門的なデイケアでなければ限界があるかもしれません。しかし、今回の取材を通して神奈川障害者職業センターと連携する場合はデイケアでのリワークに対する援助の視点が明確になったと感じました。
 リワーク支援を受けるためには利用者、雇用事業主、主治医の3者の協力が必要です。支援を受ける費用は無料で現在休職中であり、雇用保険に加入していることが条件となります。詳しいことはホームページにも掲載されていますので、是非ご覧になって下さい。(文責:千葉)


神奈川障害者職業センター
神奈川県相模原市南区桜台13-1(小田急「小田急相模原」駅北口1番乗り場より「北里大学病院」、
「JR相模原駅」、「町田バスセンター」行で「第一住宅」下車 徒歩1分)
電話:042-745-3131  URL:http://www.jeed.or.jp

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151号:ヨコハマ・ヒューマン&テクノランド

 台風も通り過ぎ、連日の猛暑の中休みを思わせる、過ごしすい陽気の7月21日~22日の2日間、今年で10年目を迎えるヨコハマ・ヒューマン&テクノランド(愛称:ヨッテク)が横浜みなとみらい、パシフィコ横浜にて開催されました。「つなぐゾーン」「たのしむゾーン」「くらすゾーン」に分かれ、60を越える企業や団体が出展し、企業プレゼンテーションやデモンストレーション、簡単クッキングクラスなどのミニレクチャーも充実。更に3月11日の東北地方太平洋沖地震を受け、ヨコハマに暮らす障碍児者やその家族が、震災への備えをどうしておけばよいのか、をテーマに「災害に強い福祉のひとづくり・ものづくり」を企画。障碍別役立ち情報掲示板「愛(i)ボード」や軽自動車キャンピングカー、バイオトイレカー、停電時の福祉用具の対応など紹介されていました。

片手で結べるネクタイ

片手で結べるネクタイ

 数多くあるブースの中で、今回取り上げたいのは、「ユニバーサルファッション(以下UD)」についてです。まずは、アソシエCHACOの栗田佐穂子さんにお話を伺ってきました。
 「ユニバーサルファッションと聞くと、まだまだ『介護服』、つまり『介助者にとって被介助者に着せやすい服』といったイメージが強いようです。しかしUDが目指すところは、『障碍者自身が着やすい』という点に留まらず、『誰が着ても着やすい、どんな人でも着られる』という点だと思います。例えばこのネクタイ、当初は片麻痺の方でも簡単に付けられる様工夫しましたが、いまでは忙しい営業マンにも好評で、またそういう方のニーズを反映して、素材も100%シルクからポリエステルなど安価な生地を使い、価格を抑える努力をしました。更に当社では手持ちの服を持ち込んでいただいても、お好きな生地を選んでいただいても構いません。UD服の発展はいかにコストを抑えられるかにあると思います。工場で定型を作り、そこからはオプションで…という形を作り上げたいです。どんな形の洋服でも、工夫次第で着られます。着られない服はありません!!」

 また、UD服ブースにいた女性にもインタビューを試みました。

車いす対応ズボン

車いす対応ズボン

 「UD服についてあまり知識はなかったのですが、去年ヨッテクに来た際広いスペースを服関連で割いていて、目を引きました。その時はあまり必要性を感じてなかったのですが、車椅子生活も3年になり、やはり座っている時に背中が見えてしまうのが気になって・・・。 今年はズボンを買いにヨッテクに来ました。横浜ラポールによく行くので、ジャージ素材でこういうズボンがあるといいなと思いました。去年はスカートもあったんだけど、今年はないのかしら・・・ 」
 更に、ファッションについてどう思われるか、を質問しました。
 「病気になる前は、おしゃれが好きでした。けれど今は諦めモードですね・・・。若い子なんかは選択肢が多いほうがいいと思うけど、今は手持ちの服を着たり、大量生産の服が多いでしょうか。外出するのにも人の手を借りなきゃならないし、車の手配だなんだってやっていると、億劫になりますね。決まった場所以外に出歩く機会も減ったから、『新しい洋服がほしい』っていう気分にもなりません」
 「先日、病気になって初めて買い物に出掛けましたが、今までとの目線の違いにびっくりしました。ちょっと手にとってみたい品物に車椅子の高さからなかなか手が届かないのですね。子供目線なのね。けれど、この座っても背中が見えないタイプのズボンは欲しい!と思いました。裁縫が得意な友人の中には、年取ると市販のズボンでは股上が浅くて、どうしても背中が見えやすくなるからって、自分で背中部分に当て布をしている人もいます。こういう服がもっと手近に手に入ればいいのに・・・ 」

マグネット式ボタン

マグネット式ボタン

 ファッション感覚は千差万別ですが、服のおしゃれ性と機能性の両方が兼ね備わってくることで、UD服は単に「介護服」に留まらず、今後より一層多くの人の心を掴んでゆくように思いました。
 最後に耳寄り情報!飾りボタンとしても使える、後ろがマグネット式になっているボタンなどの便利グッズは、ユザワヤ本店や新宿オカダヤ本店、アソシエCHACOで手に入るようです。みなさんご自身の服にも是非取り付けて、使い勝手を試してみてください。

(文責 菊地)

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150号:第45回日本作業療法学会 -意味のある作業の実現-

 平成23年6月24日から26日まで、埼玉県さいたま市大宮ソニックシティで開催された第45回日本作業療法学会~意味のある作業の実現~に行ってきました!

 今年の学会は、学会長講演と特別講演が4題、シンポジウム6題、市民公開講座1題、口述発表5題、ワークショップ7題、ポスター発表841題という内容でした。講演やワークショップのいくつかは満席となることもあり、熱心な参加者が多く参加していました。

150号:第45回日本作業療法学会-ポスター発表会場の様子 学会のタイトルにもあるように、対象者にとって意味のある作業とは何か発表者自身が問い考えながらそれぞれに答えを出しており、見応えのある発表が多かったです。

 ポスター発表では講習会の講師をされている名だたるOTも名を連ねており、ここぞとばかりに質問に行く参加者が多く、すごい人だかりとなっている状態でした。私もポスター発表で「箸の操作訓練における知覚再学習」を発表させていただきました。大汗をかきながら質問に答えさせていただきましたが、この盛り上がりに参加できた充実感を味わうことが出来ました。150号:第45回日本作業療法学会-ポスター発表会場の様子普段自分が関わることのない分野の考えも知ることが出来て、少し視野がし広くなった気がしました。

 残念ながら満席で、入ることすらできなかったワークショップもありましたが、来年はもっと攻めの姿勢で参加し、より充実させたいと思いました。一人職場や、少ない人数で頑張っておられる方ほど自分から発信し、意見を求める場として活用して欲しいと感じました。今年参加された方、運営に携わった方、本当におつかれさまでした。150号:第45回日本作業療法学会-震災復興募金のブース来年の学会は「健康な生活を創造する作業療法の科学」というテーマで宮崎県で開催されます。

<追記>
 今回の学会では、被災者支援に関わる報告会が新たにプログラムに追加されていました。被災された県の方々も、特設ブースで現状を伝えていたり、募金や応援メッセージを募っていたりと積極的に活動されていました。150号:第45回日本作業療法学会-震災復興募金のブース復興に忙しい中、本当に頭が下がります。また、多くの参加者が、募金活動に協力していました。みんながみんなを想う気持ちが伝わって現地の活動の助けなることを願います。
 先日誕生したOTの仲間のお子さんの誕生を祝って、璃乃ちゃん、リーノ!(ハワイで光り輝くという意味らしい) 。東北に、光よ届け!

(文責 矢野)

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149号:こんな人に会ってきた:片麻痺ゴルファー角谷利宗さん

 今回は「ここへ行ってきた」の番外編です。「こんな人に会ってきた」と題し、片麻痺ゴルファーの角谷利宗さんをご紹介します。
 角谷さんは片麻痺になられてから12年。ゴルフの他、登山にも挑戦され、これまでに7回も富士山登頂されているバイタリティーの持ち主です。定年退職された現在、障碍があっても「ゴルフをやりたい!」と思っている人のためにご自身の経験を活かしたいとNPO法人ジャパン・ハンディキャップゴルフ協会にも所属されています。今なお新しいことに挑戦し続ける原動力について伺いました。

*「片麻痺ゴルフ」との出会い

149号:こんな人に会ってきた:片麻痺ゴルファー角谷利宗さん

角谷利宗さん

 私は1999年51歳で脳出血を発症し、左片麻痺となりました。約4ヶ月間の七沢リハビリテーション病院でのリハビリ後、副腎皮質腫瘍の摘出術を受け、2000年に職場復帰しました。今の自分があるのは、七沢リハ病院で出会った無類のゴルフ好きと山登り好きの2人の同室患者のおかげです。2人ともそれぞれ退院したら絶対ゴルフやるぞ!山登るぞ!と言っていましたが、正直自分は「こんな体になってしまってはできないんじゃないかな」と思っていました。当時リハビリのゴールとして、「歩けるようになりたい」「職場復帰したい」と思っていましたが、そのゴールが達成された後は自然と「ゴルフ」や「山登り」へと目が向きました。

 退院後に同室者の言葉を思い出し、何度かゴルフの打ちっぱなしへ行きましたが、思うように球が飛んでくれません。「やっぱり無理なんだ…」と諦めていた時に、再び同室者と会い、彼から片麻痺ならではの打ち方やクラブの選び方を教わりました。すると思っていた以上に飛距離が伸び、その後2人で練習場に通うようになって、2001年夏に初めてコースに出て廻りました。独りだったら今日まで続かなかったと思います。

*片麻痺ゴルフとは

 文字通り「片手でするゴルフ」です。テニスでいうところのフォアハンドかバックハンドかによって、右利きか左利きかのクラブを選びます。私の場合は右利きクラブでのフォアハンド打ち。最初は軽い女性用のクラブを使いました。自分の体にフィットするクラブを見つけるのが大変なのですが、私の場合は中古モノを含め、市場に多く出回っているので、使いやすいものを見つけることができました。また私は短下肢装具を使っていますが、靴底が減りやすいのでまめに手入れが必要です。

 打ちっぱなしのゴルフ練習場は障碍があっても使えますが、コースの場合は、ゴルフ場側の理解が必要になります。やはり一般客より廻るのが遅いですし、カートをグリーン内にまで入れられるのか等の確認が必要です。以前に視覚障碍者のプレーヤーが盲導犬とラウンドしようとした所、拒否されたケースがあったようです。理由は「他のお客さまで、犬が苦手な方もいらっしゃる」ということでした。お互いの理解が必要ですね。

*ゴルフ大会への参加

 2001年夏、ショートコースに出たのを皮切りに、その年の11月には「ザ・チャレンジド」という障碍者のためのゴルフトーナメントに参加しました。昨年7月にはカナダの大会へも出場しています。そして11月に参加した第16回全国身体障害者ゴルフ大会(ザ・チャレンジド)では、初めてスコアが100を切り、両手打ちの片麻痺プレーヤーにも勝つことが出来ました。12月は沖縄で、夢のみずうみ村主催の「片麻痺ゴルフコンペ」に参加し、一部運営のお手伝いもしました。このコンペが他の大会と違うところは、「ゴルフ初挑戦者も参加できる」という点です。1日目は初心者向けにゴルフの練習。翌日はコースに出てプレー。18ホール廻らなくても、「ホール宣言」という独自のルールを作り、各自で目標設定してもらいます。今回は琉球リハビリテーション学院の生徒さんやゴルフ場の好意もあって、ゆっくりとプレーができ、とてもよい大会となりました。やはり、ゴルフ場の理解やサポート体制の厚さが成功の重要なキーポイントになることを痛感しました。今後数回は沖縄で開催予定ですが、このような大会が全国に広がってゆくといいですね。

149号:こんな人に会ってきた:片麻痺ゴルファー角谷利宗さん

角谷利宗さんのスイング


*登山について

 登山好きの病室の仲間に誘われて低い山から登り始め、2001年には富士山初登頂しました。高尾山や茅ヶ岳などにも登っています。富士登山で、体調も山の天候も申し分なかったのですが、途中十分に体を休めなかったことで、高山病に罹り下山した経験があります。以降は山小屋で一泊し、自分にとってベストな登り方で山と向かい合うようにしています。一回の登山で私の短下肢装具はボロボロになるくらい痛んでしまいます。

*今後のゴルフとの向き合い方

 私の体力や障害度は2002年ごろと殆ど変わっていません。ゴルフと山登りそして車の運転は自分にとって、体力や気力のバロメーターとなっています。できる限り長く続けられるよう、無理はせずに、今の体でできることを、できる範囲でやっています。片麻痺ですから、身体能力的にできないことが多いのです。障碍者になったということは、健康な人に比べて、再発や転倒等によって障碍がより重度となり、「動けなくなる」確率が高いです。できるだけ、そうはなりたくないと思っています。

 自分はたまたまゴルフととても相性が良かったのだと思います。ゴルフの面白さは、障碍をおった体や能力と向き合い、どこまでプレーできるのか自分自身で見極められる所です。「あの時は…」と健康だった頃と比較しているようでは、面白くないですから。

*リハビリの専門職へ求めること

 私はNPO 法人ジャパン・ハンディキャップゴルフ協会で理事を務め、ゴルフをやってみたいと思う障碍のある方と一緒に、練習できる機会をつくっています。皆さんにもこうした活動があることを知ってもらいたいです。また興味があれば参加してもらい、専門職の方から体の使い方のコツなど教えていただきたいですね。

*挑戦し続けているその原動力について

 「面白いから!!」です。長く続けるコツは、今の自分の身体について知ることですかね。


 利用者さんの願いや夢を実現可能なものするためにはどうしたらよいのか?やる気をいかに引き出せるのか?これらは地域生活を支える作業療法士としての常に考えることでもあり、腕の見せ所です。利用者さんにまず一歩を踏み出してもらうことができれば、歩き始めたことで変わり行くその視界の中で、新たに湧き出た自らの好奇心を満たすべく、「ゆめ」へとチャレンジし続けることができるのではないでしょうか。冷静にご自身の身体を見つめ、分析し、見極める角谷さんの目線。そして諦めない心と溢れんばかりの好奇心が、はにかんだ笑顔から感じとれました。

(文責:菊地)


角谷さんのHP
http://members3.jcom.home.ne.jp/sumioyaji/

NPO 法人ジャパン・ハンディキャップゴルフ協会HP
http://sports.geocities.jp/challenge_kantou_golf/

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148号:職場見学会 クラブハウス「すてっぷなな」

-職場見学会 クラブハウス「すてっぷなな」-

クラブハウスすてっぷなな
〒224-0041
横浜市都筑区仲町台5-2-25 ハスミドミトリー003号
TEL/FAX:045-949-1765
http://www.geocities.jp/clubhouse_stepnana


行ってきました、福利部主催第3回職場見学会!1月14日に開催された今回の見学会では、市営地下鉄「仲町台」駅から徒歩6分にある地域活動支援センター(※以下:作業所)「すてっぷなな」にお邪魔しました。「すてっぷなな」は、神奈川県唯一の高次脳機能障害専門の作業所です。高次脳機能障害専門の作業所は全国に数か所ありますが、若年の高次脳機能障害に特化した施設は全国でもここだけだそうです。患者さまが退院したあと、次のステップに踏み出す場所としてこの名前が付けられたそうです。

ところで皆さんの「作業所」のイメージはどんなものでしょうか? 一軒家の建物? 「○○作業所」と目立つ看板が立っている? 障害者が就労を目指して作業する場所? 障害者の日中の居場所?・・・・「すてっぷなな」はこのようなイメージとは全く異なります。外観は全面ガラス張りで、室内に大きなウッドカウンターのあるお洒落なつくりです。見学に来た方が、「美容室だと思って通り過ぎた」というほどです。また、作業所の看板はなく、実習に来る学生は、迷わずに到着できないとのことです。

左:青木さん 右:野々垣さん所長の作業療法士、野々垣睦美さんは養成校卒業後、神奈川県リハビリテーション病院で8年間勤務後、平成16年4月に「すてっぷなな」を立ち上げました。野々垣さんは、よくある作業所のイメージを避け、「お洒落な感じ」、「皆が来やすい感じ」、にこだわったそうです。これは利用者が中途障害者であり、自分が作業所で働く障害者だとは認めたがらない場合があるからだそうです。症候性てんかんや感情コントロールが難しい方もいるので、ロールカーテンで休憩スペースを設置したり、行方不明にならないよう出入口を一か所にするリスク管理をしたりと、随所に工夫が施されています。大きなウッドカウンターは、職員が利用者さまを常に見ていられるように、という目的もあるそうです。

見学会は1時間の予定でしたが、最後は質問が絶えず、結局1時間半に延長しました。以下は野々垣さんから伺った解説です。


すてっぷなな外観「すてっぷなな」は、高次脳機能障害の方の社会復帰のための支援を行っています。事業は大きく分けて、「作業所事業」と「自立生活アシスタント事業」の2つがあります。横浜市の助成金で運営しているため、利用者は横浜市在住の方に限られます。また40才までの年齢制限があります。(自立生活アシスタント事業は、年齢制限はありません。)障害者手帳の有無は必要なく、高次脳機能障害の診断があれば利用可能です。

作業所事業では、病院から退院したばかりの方を対象に、次の作業所への橋渡し的な役割を担うとともに、就労支援も行なっています。登録者は定員15名で、利用開始時期は受傷後平均3年です。頭部外傷が多く、脳出血や低酸素性脳症の方もいます。1日の仕事の役割分担は、利用者に話し合って決めてもらい、支援者主導にならないようにしています。

作業内容は、犬用クッキー製造販売、ダイレクトメール発送事務、宅急便代理発送、ネットオークション、納品配達、カブトムシの販売(!?)など幅広いものになっています。大量生産ではなく、それぞれの利用者ができる作業を担当していただくことを大切にしています。特に面白いのは、商品の「梱包作業」です。包装された「作品」がどうしてそんな形になるのか、思わず笑ってしまいます。高次脳機能障害の人は、ホントに立体構成が難しいようです。

就労支援では作業を通して働くための準備を行い、障害者職業センターと連携してジョブコーチに入ってもらうなどの支援をしています。私たちは、メンバーの行動がおかしいと感じることがあったら、すぐに「それ変だよ」と伝えるようにしています。就労後は、誰からも「おかしい」と言ってもらえない環境になるからです。

自立生活アシスタント事業は、生活環境を調整することで高次脳機能障害の方の在宅生活を支援しています。例えばヘルパーが過剰支援してしまい、本人ができることも全部やってしまっている場合があります。こんな時は、手順や環境を整えれば自分でできることや、その具体的な方法をヘルパーに伝えています。「すてっぷなな」では、この事業専任の作業療法士がいます。この業務をOTが担う意義は大きいと思います。

見学会の様子高次脳機能障害は、どの障害にも共通する部分が多い点が面白いと思います。認知症とは共通する部分が多く、基本的な対応は同じです。働く人なのか、子供はいるのかなど、生活背景の違いを考慮する必要はあります。また、知的障害と比較してみると、知的障害ではできることを積み重ねていきますが、高次脳機能障害はできていたことができなくなるという点が異なります。しかし感情コントロールが難しい場合に枠組みを作って支援する点は一緒です。障害そのものが原因でできない部分と、その人のキャラクターが原因となっていてできない部分とを分けて評価する必要があるのは、どの障害でも同じです。
病院はタテ割りで支援することが多いですが、その他多くの場所で支援する人々が手をつなげば、いろいろな所でサポートできるようになります。高次脳機能障害についての支援方法がわかれば、高次脳専門の作業所でなくても受け入れが可能になります。その結果、新しい社会資源が増えます。新しい社会資源を作るためには、分からないことを専門の人にどんどん聞いていくネットワークが大事です。そしてネットワーク構築の秘訣は、一緒に「飲むこと!」です。


今回の職場見学会には、身体障害分野8名、精神障害分野6名、老年期分野2名、障害者職業センター1名が参加しました。臨床1年目の新人から、30年目のベテランまで、バラエティーに富んだ方々でした。

参加された目的を伺うと、「担当のケースが復職できない場合に利用できる資源を知りたかった」「ネットワークを広げたいと思った」「若いケースを担当した場合に利用できる施設を知りたかった」「精神科で慢性期の支援をしているが、若い高次脳障害の方も増えていて、行き場所に困っているので」「野々垣さんに会いたくて」…等々、色々な目的をもって参加されていました。
飲み会参加者さらに感想を伺うと、「入院期間が決まっている病院では、OTができることは限られており、特に若いOTは機能訓練に目が行きがち。自分も例外ではなく、地域では何ができるのか見に来た。ためになった」(鎌倉市内の病院勤務しているSさん)。「1年目のOTで、現在は老人保健施設で勤務している。認知症の方の担当をしているが、今回の高次脳機能障害と認知症は似ているという話を聞いて、臨床に活用できると思った」(老人保健施設勤務のIさん)。「高次脳機能障害の方と直接関わったことが無かったが、認知症の方と対応が変わらないと聞いたので活用できると思った」(精神科認知症病棟勤務の方)など、それぞれの方が自分の臨床に活かせるお土産を持って帰ることができたようでした。

見学会の後に開催された懇親会には、ベテランOTから新人さんまで参加され、とても話がはずみました。先に紹介した自立生活アシスタント事業専任の作業療法士、青木明子さんを野々垣さんがスカウトした話や、見学会では出なかった爆笑裏話も飛び出しました。ネットワークの構築の秘訣は「飲むこと」!ネットワークは自分のためだけでなく、利用者にも役立つものだということを改めて感じました。筆者自身、新たなネットワークが構築され、とてもうれしく思いました。

文責:馬場

※地域活動支援センターとは:障害により、働くことが困難な障害者の日中活動をサポートする施設のこと。

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147号:国立障害者リハビリテーションセンター研究所 福祉機器開発部

 今回のここへ行ってきたは神奈川県外での取材となりました。認知症の方に対して自立行動を促す「情報支援パートナーロボット」を開発しているとの話を聞いて埼玉県の所沢にある国立障害者リハビリテーションセンター研究所に行ってきました。
 国立障害者リハビリテーションセンターは昭和54年に障害のある方々に医療、福祉の両面から総合的なリハビリテーションを行い、その成果を全国に発信、普及することにより障害者の自立と社会参加に寄与することを目的に設立されました。その中で研究所はリハビリテーション支援技術、福祉機器の研究開発、社会システムに関する研究や発達障害に関する情報提供など多岐に渡った役割を担っています。元々飛行場があった場所とのことで広大な敷地には研究所の他に病院や就労支援を行う自立支援局、リハビリ分野の学校があると共に、障害者のための自動車訓練所や陸上競技場など様々な設備が整えられています。
 私が取材に行った当日は駅から研究所へ行くまでに視覚障害の方が歩行訓練をしている姿をたびたび見掛けました。初めて行くとしても駅から視覚障害者用の点字誘導ブロックが敷かれており、それをたどることで迷わずに着くことができました。

情報支援パートナーロボット~認知症の方と会話~

147号:国立障害者リハビリテーションセンター研究所 福祉機器開発部
NEC製PaPeRo

 ロボットがどのように認知症の方と会話をするのか?そんな興味もありつつ、国立障害者リハビリテーションセンター研究所の福祉機器開発部へと向かいました。この研究は国立障害者リハビリテーションセンター研究所と共に東京大学と産業技術総合研究所が共同開発したものです。昨年9月の国際福祉機器展にも展示されていました。実際にロボットを見てみると非常に可愛く、愛嬌があります。NEC製のPaPeRo(パペロ:写真)という高さ40センチ程のロボットが話します。「○○さ~ん、ちょっといいですか」と呼びかけられて「何ですか」と私が応対すると「今日はデイサービスに行くんですね」「出掛ける前にトイレにいったらどうですか」と活動の促しを行ってくれます。今回の取材では情報支援パートナーロボットについて国立障害者リハビリテーションセンター研究所、福祉機器開発部部長の井上剛伸先生が詳しく説明して下さいました。
 注意力や理解力が低下した認知症の方に対して音声認識機能と音声発話機能を持ったロボットを利用しているのですが、人間同士の対話構造を基にしているのが特徴とのことです。(下表)

  1. 注意喚起…認知症の方へ名前を呼ぶことでロボットに注意を向ける。
  2. 先行連鎖…これから情報を伝えるとういことを予測してもらう。
  3. 情報伝達…本題、実際の情報を伝える。
  4. 対話終了…確認、促しの声掛け
認知症の方の生活障害 発話の種類 発話内容
外出することは覚えているが、いつ外出するのかは覚えておらず、外出を想起させるきっかけが必要である

注意喚起

○○さん、ちょっといいですか

先行連鎖

○○さん、今日もデイサービスに行くんだよね

情報伝達

そろそろデイサービスのお迎えが来る頃だと思うから、

対話終了

出掛ける前にトイレに行っておいたらどうかな?
よろしくね

スタッフなどが訪問した際、インターホンが鳴っても気付かないことが多い

注意喚起

先行連鎖

情報伝達

対話終了

○○さん

誰か来たみたいだから

玄関に行ってみたらどうかな

よろしくね

 直接的な主題となる「情報伝達」をすぐに行うのではなく「注意喚起」「先行連鎖」を踏まえて会話をしています。私達の臨床でも認知症の方との会話で同じように話し掛けていることはありませんか?このようなやり取りをロボットが行っていることに私自身、とても興味深く感じました。

97歳の女性、アルツハイマー病の方とのやりとり

 効果検証のため、実生活場面において軽度認知症の方(97歳女性、アルツハイマー病)を対象に活動の促しを行っています。その結果、認知症の方が行うべき行動を判断し、自立・自律行動を行えることがわかりました。その内容は表1の対話例を使い、外出前にトイレを済ませる、ヘルパーを玄関で出迎える行動の2パターンを行っています。(下表)

対話 実験日 支援情報 対象者の発話 対象者の行動
1 1日目 トイレへの促し わかった、トイレに行ってくるね トイレに行くために立ち上がるが、システムに気をとられて戻ってしまう
2 2日目 トイレ行ってきたけど トイレにはいかない
3 3日目 わかった、行ってみるね トイレに行く (支援達成)
4 1日目 玄関への促し ああほんと、どうもありがとう 玄関に向かう (支援達成)
5 2日目 じゃ行ってみますね。ありがとね…ほんとかな? 玄関には向かわず、様子を窺っている
6 3日目 じゃあ行ってきてみますよ、ほんとかな? 玄関に向かう (支援達成)

 取材日に私は軽度認知症の方とロボットのやりとりを映像で見させて頂きました。思いのほか自然な会話で、ロボットを子供のように話しかけている女性の姿がとても印象的でした。
 以上のことから対話を用いた情報支援システム(ロボット)が幅広く認知症の方への自立支援に役立つことが期待され、今後は複数の認知症の方への実験を行い、症状の変化や多様性に対応するためのシステム開発を行う予定とのことです。期待がさらに膨らみます。そして介護サービスと連携機能を強化することで、より安心で低コストな認知症の方への24時間の自立支援体制の構築、さらには認知症の方が、パートナーロボットのサポートを受けながら住み慣れた地域でより長い自立生活を継続できるような社会実現を目指すとのことで、夢はさらに広がっていく印象を受けました。
 そのような将来性を考えた中で、OTに対して求めていることについて聞いてみました。井上先生は「どのような人にどのような機器が必要なのか専門家であるOTに評価して欲しい」そして「OTは福祉機器に携わるべくもっと外に出てくれることを願っています」とおっしゃっていました。話す口調からもOTに対して期待を込めている気持ちが強く伝わってきました。ちなみに福祉機器開発部の中でもOTが研究員として携わっています。

認知症を対象にした福祉機器展示館があります

147号:国立障害者リハビリテーションセンター研究所 福祉機器開発部

アラーム付き薬いれ

 最後に今回取材した福祉機器開発部ではロボット以外の研究をされていると共に様々な福祉機器にも目を向けています。とりわけ海外では認知症のある方の福祉機器が注目され、普及し始めているそうです。しかし日本では市販されている機器は少ない現状があります。国立障害者ハビリテーションセンター研究所に併設された福祉機器展示館(現在はセンター内の別場所で展示中)では国内外から収集した認知症のある方の福祉機器(約80点)を展示しています。もちろん見て触って、体感することもできます。その中でも印象に残ったのが服薬時間を音と光で伝え、飲む分量だけ薬を出せる「アラーム付き薬いれ」(写真)です。服薬管理が困難な患者さんのことを思い出しつつ、福祉機器を使用することもひとつの選択肢と思いました。その他にも立ち上がると同時にブレーキが自動で掛かる車椅子やスケジュール把握支援機器など様々な福祉機器が紹介されています。見学を希望する方は予約制ですので事前の連絡をお願いします。
 今回の取材を通して福祉機器の将来性についていろいろ考えました。技術の進歩と共にロボットが現場で活躍する日も近いのかと思うと不思議な感じもしますが、作業療法士が福祉機器に関わる担い手としてきちんと評価、活用できることが大切であると思いました。さらに、そのためには日々進化する福祉機器の動向をしっかりと掴んでいくことが必要であると感じました。最後に今回の取材に快く応じて下さいました井上先生をはじめ、福祉機器開発部の皆様、本当にありがとうございました。

(文責:千葉)

国立障害者リハビリテーションセンター
埼玉県所沢市並木4-1
(西武新宿線「航空公園」駅または「新所沢」駅より徒歩15分)
電話:04-2995-3100(代表)

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145号:パン工房「ラポールセイカ」

 知的障がい者支援施設の秦野精華園が運営しているパン工房「ラポールセイカ」は今年の5月に開店1周年を迎えました。ラポールセイカは秦野精華園が就労継続支援A型として、安定した就労ステップへの第1歩として始まりました。今では地域の皆さんにも認知されつつあり、地域の一員として様々な活動をしています。今回はラポールセイカができたそのいきさつ、取り組みについて紹介していきます。

美味しいパンを作っています
 秦野精華園敷地内にあるパン工房では同園で雇用契約を結んだ8名がパン作りに取り組んでいました。オーブン等設備は本格的なもので衛生面も厳格に保たれています。勤務時間は月~金曜の9時~4時で、そのうち5.5時間となっています。私が訪れた時はパンの成形作業をしていました。皆さん、慣れた手つきで手際よく作業をしていました。今では販売個数も増え、雇用体系を維持していますが、そのための取り組みが過去にあったのです。

東海大学の学生さんとの連携
 話は2007年の7月にさかのぼります。秦野精華園から程近い東海大学へ1通のメールを出しました。大学生の専門知識を活かした商品開発、販売促進についての協働企画を提案したのです。それ以後、共同特別プロジェクトとして様々な取り組みが行われました。販路の拡大、モニタリング、ブランドイメージの確立など徐々に実を結んでいったそうです。ラポールセイカのロゴマークは学生さんと会議を重ねて完成しました。「パンのふっくらとしたイメージの穂を形に」「手作りパンのおいしさが伝わるように」「今後の発展を印象づける元気な印象に」を基に作成したそうです。
 「ラポール」という言葉は私達OTにとって馴染みのある言葉だと思います。まさに学生さんとの「信頼関係」が今も協業して活動している象徴的な言葉であると思います。

地域に根ざした活動をするために
 さらに移動販売車を使用することで、販売の機会を増やしました。今では利用者さんと学生さんが一緒に近所の保育園や、東海大学の構内、駅前や量販店の正面玄関にて定期的に販売しています。工学部の学生さんを中心としてオーブンにタイマーを導入し、大量生産にも対応することができました。また、タウン誌や新聞にも活動内容が掲載され、地域での活動認識が高まっているようです。
障がい者の就労支援を行う一方、独立採算を目指して収益、給料を賄うことは非常に大変なことだと思います。しかし、ラポールセイカでは東海大学の学生さんと協業することで一定の成果を出し、地域へ積極的にアピールすることで売り上げが少しづつ伸びています。
 今回、取材を通して障がいを持った方が地域の方々と協業することでノーマライゼーションが確立していくものと感じました。OTとして業務に従事する上で、直接的に地域と関わることは多くないと思いますが、何かのきっかけで地域に目を向けること、そして少しでも動いてみることがノーマライゼーションにつながるのではないかと思いました。最後に私も手作りパンを買って帰りました。本当に美味しいですよ。

取材:千葉

パン工房「ラポールセイカ」
秦野市南矢名3-2-1(秦野精華園内)
(小田急小田原線東海大学前駅より徒歩10分)
電話:0463-77-8811(代表)
URL:http://www.kyoudoukai.jp/hadano/info.html
open:10:00  close:17:00 (日・祝日 休業)

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143号:神奈川県障害者就労相談センター

 障害を持った方が就労を検討するにもどんな職種が良いのか、どれくらいの能力があるのか等、援助するOTの立場として悩んだことはありませんか。そんな悩みに応えて頂ける県の施設があることをご存知でしょうか。先日、横浜にある神奈川県障害者就労相談センターを訪れました。ここでは就労を希望する障害のある方(障害の種類、障害者手帳の有無は問いません)に面接や職業能力評価を行って状況を把握し、求職活動から職場定着まで一貫した就労支援を行っています。中でも職業能力評価では仕事の実際場面を想定したワークサンプルが38種類もあります。

ベルトコンベアもあります
 ワークサンプルは様々な職種に対応されています。パソコン作業はもちろん、見本に合わせた箱作り、組み立て、シール貼りから商品のピッキング活動、そしてダンボールの組み立てや野菜の袋詰め、牛乳配達といった実際に仕事内容を想定した評価もあります。取材当日は5名の方がベルトコンベアを使用して流れ作業を行い、作業の早さや正確性、協調性などを評価しておりました。

就労後の支援も行っています
 職業能力評価をする中で体験される方自身が活動の向き、不向きを理解したり、作業が楽しいと考えるきっかけになることもあるそうです。このような評価を踏まえて支援計画を立案し、事業所内での実習や就労前支援を行って一般就労等に結び付けています。平成20年度では相談があったうち384人に対して個別就労支援を行い、111人の方が一般就労に結びついた実績があります。就労後も職場定着支援として事業主に助言等サポートを行っており、フォロー体勢も整っています。実際に仕事で困っていることをSSTで実施するプログラムは人気があるとのことです。
 取材で対応して頂いた就労支援課の永田さんは、能力評価をするにあたり「継続して職場に通えるか。朝から夕方まで働けるかといったことは各施設のスタッフの情報が重要であり、情報の共有ができるといいですね」と話されました。やはり就労支援をする上で連携が欠かせないと改めて実感した次第です。是非ともこのような施設を利用してみてはいかがでしょうか。相談、評価にかかる費用は無料です。詳しくはホームページをご覧下さい。

取材:千葉

神奈川県障害者就労相談センター
横浜市中区寿町1-4 かながわ労働プラザ5F
(JR根岸線石川町駅北口より徒歩3分)
電話:045-633-6110(代表)
URL:http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f3767/

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141号:みんなちがって、みんないい、当事者と家族の人形劇団「でこぼこ」

 ♪あなたがともした小さな灯りが たとえどんなに小さくても きっと誰かを励ましている きっと誰かをささえてる♪
 このフレーズは現在練習している人形劇「すてきなホーム」の挿入歌「あかりをともそう」の一節です。一人の力はわずかでも、合わさることで大きな力となっていく…。人形劇団「でこぼこ」の活動にはそんな思いが感じられます。

劇団員の皆さん 当劇団は厚木市内に拠点を置き、主に病院や介護施設の慰問活動をしています。劇団員は心の病を持った当事者とその家族、そしてボランティアの方々などで構成されており、週に1回程度練習を行っております。劇の内容はオリジナルストーリーが主体とのことで驚きです。今回は気持ちが伝わる練習を取材させて頂きました。

和気あいあい、そして真剣そのもの
 休憩中に伺ったところ、非常に和やかなムードでありましたが、いざ練習が始まるとプロ顔負けの演技力です。台詞の読み合わせでは団員皆さんの口調が変わり、雰囲気に引き込まれていきました。さらにその日は歌唱練習となり、私も一緒に加わっての合唱となりました。その中でメンバーの一人が歌詞の一部変更を提案。みんなで話し合う中で変えることとなりました。この柔軟性が一つの特徴のようです。

モットーは「みんなちがって、みんないい」
手作りの人形です 人形劇の楽しさをみんなに知ってもらい、みんなで分かち合いたいという趣旨のもと、平成16年頃より活動を始めました。障がいに関わらず、それは個性であり、みんなちがってでこぼこだけれども良いものを必ず持っている。そんなメッセージが劇団名「でこぼこ」には込められています。
 人形劇は人形の製作や道具、ステージ、音響の準備等様々な役割をこなしてできるものです。そのような役割を無理せずに自分ができるものを行い、時にはそれを他メンバーが補いつつ活動している姿が練習からも感じとれました。でこぼこでは障がいという概念を取り払い、みんな一人の人間として活動しています。活動中に当事者、障がい者という言葉は使っていません。団員として興味のある方、公演を依頼したい方は県士会事務局、もしくは電子メールkaotアットマークkana-ot.jp(件名:広報部へ転送)までご連絡下さい。

取材:千葉

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