今回の「ここへ行ってきた」は、6月に開催された第42回日本作業療法学会の特別企画、「訓練用具 夢のポケット ~OTが考える訓練用具コンテスト~」です。「狙った訓練目的に沿って、素材や形・見た目もOTがこだわって作った訓練用具」が多数出品された好企画でした。出展者・見学者それぞれの訓練用具に対する熱い想いをお伝えします!!
訓練用具コンテストの概要
コンテストはOTが作成した訓練用具について実物とポスターを展示し、参加者の投票により入賞作品が決定するという企画でした。ポスターは作成した訓練用具の目的・素材や形状・利点・操作方法などアピールしたい点を掲示し、指定された時間に見学者が質問する、という発表形式でした。会場では質問や討議が活発に行われており、学会企画者からも「作成するときの留意点やコスト面など、実用性を考慮した具体的な内容について情報が交わされ、有意義なコンテストでした」といった喜びの声がありました。
最優秀賞受賞者の声
コンテスト出品数合計64作品(一次書類選考ではその約2倍の応募もあったそうです!)からみごと最優秀賞になった作品は、脳神経外科大田記念病院(広島県)の作業療法士、佐近隆二氏が考案した「フードペーパー」です。
これはプラスチックでリアルな魚の骨を作成し、その上に色水に浸したしたトイレットペーパーを魚の身に見立てて配置し、「魚の身をほぐす」ように箸で操作する訓練器具です.
水の加減で素材の感触や操作難度の段階付けが可能な点や、トイレットペーパーを使う簡便さが素晴しく、多くの投票を獲得し受賞となりました。
左近氏は、「箸練習ではこれまでスポンジや豆を移動する課題を行っていました。箸の操作=つまむだけではないことがわかっていても訓練に反映できていないことに気になっていたんです。この訓練用具はリアルな操作性を求めて作成しました!」とのコメントをいただきました。
Jブランド8点出展!
残念ながら入賞は逃しましたが、唯一の複数出展を果たした神奈川県代表(!)Jブランドの錠内氏の作品にも、多くの投票がよせられました。
展示ブースの一角を占拠するように配置された8点のJブランドの訓練用具は壮観で、真剣にポスターを見学し写真を撮る見学者の姿も多く見られました。
美しく楽しい訓練用具が大集結
コンテスト展示作品の中から、いくつかの訓練用具をご紹介いたします。訓練のための機能のみでなく、美しさやネーミングにもこだわった、見ていて飽きない作品が会場に溢れていました。
■いつでも・どこでも上肢機能訓練セット「リハビリ・サスケ」
自衛隊中央病院診療技術部リハビリテーション技術課 江藤 昌晶 氏
さまざまな自作の上肢訓練器具に、テレビでおなじみの肉体競技「サスケ」の名前を冠した作品。眺めているだけで楽しく、訓練が楽しみになるような作品でした。
■ひまわりピンチ
西尾老人保健施設 塚本 健二 氏
ひまわりの花びらが大小の洗濯ばさみになっていて、これを花の中心に、方向を合わせて挟んでいきます。単純なピンチの訓練が、かわいらしくきれいな花を咲かせるたのしい遊びに変身します!
■足踏み旋盤と削り馬
岐阜県立森林文化アカデミー 谷山 真子 氏
これはデカイ!!木工用の足踏み旋盤を作業療法に利用するために作成した作品だそうです。足踏みしながら歯を当てて木材を削っていくのですが、実際に触れてみると、足踏みの速度や歯で削る抵抗感などいろいろな感覚を体験できるアクティビティーでした。
■夢のバーチャルセラピーシステム
静岡県立こども病院 鴨下 賢一 氏
本格的なパソコン仕掛けのバーチャルマシン!立方体の骨組みの中にブロックが2個、糸で吊られています。これを両手で動かすと、正面のモニターのグラフィックも連動して動きます。グラフィックで物に触れたり挟んだりすると糸の張力が変化して操作している手に固有受容覚フィードバックがかかります。すごい!
■するするホースくん
昭和伊南総合病院 酒井 千穂 氏
集塵用のホースでコースを作り、ボールを転がして遊ぶ遊具。コースを自分で設定したり、高いところからボールを入れたりと、訓練的要素も組み込みやすいとのこと。何よりボールの動きを見ていて楽しい!
見学者の声
見学者に対し、広報部員より今回の特別企画や訓練用具についての感想を伺うと、企画に対する好印象を持った発言のほかに、「(錠内氏の作品を見ながら)作成者が訓練用具をつくるときの視点がOTの視点のみではなく、様々な知識やアイディアが必要だということが伝わってきて、自分の臨床の励みになった」、「訓練用具を作るというだけでなく、どのように自主トレーニングを考慮した関わりができるのかなど、利用者の目的に合わせることが大切だと視点が広がった」といった感想も寄せられました。
「訓練用具」に着目する今回の学会特別企画は大好評に終わりました。訓練用具に対してOTがこだわりをもっていること、そして訓練の狙いを形として具体化し、『必要なものは自分で作る』というハングリーさ・情熱をもった熱いOTがたくさんいることがわかり、みんなが感化された素晴しい企画でした。応募作品は学会HP・学会誌でチェックできますので是非ご覧下さい!
文責:酒井・松本・池田