148号:職場見学会 クラブハウス「すてっぷなな」

-職場見学会 クラブハウス「すてっぷなな」-

クラブハウスすてっぷなな
〒224-0041
横浜市都筑区仲町台5-2-25 ハスミドミトリー003号
TEL/FAX:045-949-1765
http://www.geocities.jp/clubhouse_stepnana


行ってきました、福利部主催第3回職場見学会!1月14日に開催された今回の見学会では、市営地下鉄「仲町台」駅から徒歩6分にある地域活動支援センター(※以下:作業所)「すてっぷなな」にお邪魔しました。「すてっぷなな」は、神奈川県唯一の高次脳機能障害専門の作業所です。高次脳機能障害専門の作業所は全国に数か所ありますが、若年の高次脳機能障害に特化した施設は全国でもここだけだそうです。患者さまが退院したあと、次のステップに踏み出す場所としてこの名前が付けられたそうです。

ところで皆さんの「作業所」のイメージはどんなものでしょうか? 一軒家の建物? 「○○作業所」と目立つ看板が立っている? 障害者が就労を目指して作業する場所? 障害者の日中の居場所?・・・・「すてっぷなな」はこのようなイメージとは全く異なります。外観は全面ガラス張りで、室内に大きなウッドカウンターのあるお洒落なつくりです。見学に来た方が、「美容室だと思って通り過ぎた」というほどです。また、作業所の看板はなく、実習に来る学生は、迷わずに到着できないとのことです。

左:青木さん 右:野々垣さん所長の作業療法士、野々垣睦美さんは養成校卒業後、神奈川県リハビリテーション病院で8年間勤務後、平成16年4月に「すてっぷなな」を立ち上げました。野々垣さんは、よくある作業所のイメージを避け、「お洒落な感じ」、「皆が来やすい感じ」、にこだわったそうです。これは利用者が中途障害者であり、自分が作業所で働く障害者だとは認めたがらない場合があるからだそうです。症候性てんかんや感情コントロールが難しい方もいるので、ロールカーテンで休憩スペースを設置したり、行方不明にならないよう出入口を一か所にするリスク管理をしたりと、随所に工夫が施されています。大きなウッドカウンターは、職員が利用者さまを常に見ていられるように、という目的もあるそうです。

見学会は1時間の予定でしたが、最後は質問が絶えず、結局1時間半に延長しました。以下は野々垣さんから伺った解説です。


すてっぷなな外観「すてっぷなな」は、高次脳機能障害の方の社会復帰のための支援を行っています。事業は大きく分けて、「作業所事業」と「自立生活アシスタント事業」の2つがあります。横浜市の助成金で運営しているため、利用者は横浜市在住の方に限られます。また40才までの年齢制限があります。(自立生活アシスタント事業は、年齢制限はありません。)障害者手帳の有無は必要なく、高次脳機能障害の診断があれば利用可能です。

作業所事業では、病院から退院したばかりの方を対象に、次の作業所への橋渡し的な役割を担うとともに、就労支援も行なっています。登録者は定員15名で、利用開始時期は受傷後平均3年です。頭部外傷が多く、脳出血や低酸素性脳症の方もいます。1日の仕事の役割分担は、利用者に話し合って決めてもらい、支援者主導にならないようにしています。

作業内容は、犬用クッキー製造販売、ダイレクトメール発送事務、宅急便代理発送、ネットオークション、納品配達、カブトムシの販売(!?)など幅広いものになっています。大量生産ではなく、それぞれの利用者ができる作業を担当していただくことを大切にしています。特に面白いのは、商品の「梱包作業」です。包装された「作品」がどうしてそんな形になるのか、思わず笑ってしまいます。高次脳機能障害の人は、ホントに立体構成が難しいようです。

就労支援では作業を通して働くための準備を行い、障害者職業センターと連携してジョブコーチに入ってもらうなどの支援をしています。私たちは、メンバーの行動がおかしいと感じることがあったら、すぐに「それ変だよ」と伝えるようにしています。就労後は、誰からも「おかしい」と言ってもらえない環境になるからです。

自立生活アシスタント事業は、生活環境を調整することで高次脳機能障害の方の在宅生活を支援しています。例えばヘルパーが過剰支援してしまい、本人ができることも全部やってしまっている場合があります。こんな時は、手順や環境を整えれば自分でできることや、その具体的な方法をヘルパーに伝えています。「すてっぷなな」では、この事業専任の作業療法士がいます。この業務をOTが担う意義は大きいと思います。

見学会の様子高次脳機能障害は、どの障害にも共通する部分が多い点が面白いと思います。認知症とは共通する部分が多く、基本的な対応は同じです。働く人なのか、子供はいるのかなど、生活背景の違いを考慮する必要はあります。また、知的障害と比較してみると、知的障害ではできることを積み重ねていきますが、高次脳機能障害はできていたことができなくなるという点が異なります。しかし感情コントロールが難しい場合に枠組みを作って支援する点は一緒です。障害そのものが原因でできない部分と、その人のキャラクターが原因となっていてできない部分とを分けて評価する必要があるのは、どの障害でも同じです。
病院はタテ割りで支援することが多いですが、その他多くの場所で支援する人々が手をつなげば、いろいろな所でサポートできるようになります。高次脳機能障害についての支援方法がわかれば、高次脳専門の作業所でなくても受け入れが可能になります。その結果、新しい社会資源が増えます。新しい社会資源を作るためには、分からないことを専門の人にどんどん聞いていくネットワークが大事です。そしてネットワーク構築の秘訣は、一緒に「飲むこと!」です。


今回の職場見学会には、身体障害分野8名、精神障害分野6名、老年期分野2名、障害者職業センター1名が参加しました。臨床1年目の新人から、30年目のベテランまで、バラエティーに富んだ方々でした。

参加された目的を伺うと、「担当のケースが復職できない場合に利用できる資源を知りたかった」「ネットワークを広げたいと思った」「若いケースを担当した場合に利用できる施設を知りたかった」「精神科で慢性期の支援をしているが、若い高次脳障害の方も増えていて、行き場所に困っているので」「野々垣さんに会いたくて」…等々、色々な目的をもって参加されていました。
飲み会参加者さらに感想を伺うと、「入院期間が決まっている病院では、OTができることは限られており、特に若いOTは機能訓練に目が行きがち。自分も例外ではなく、地域では何ができるのか見に来た。ためになった」(鎌倉市内の病院勤務しているSさん)。「1年目のOTで、現在は老人保健施設で勤務している。認知症の方の担当をしているが、今回の高次脳機能障害と認知症は似ているという話を聞いて、臨床に活用できると思った」(老人保健施設勤務のIさん)。「高次脳機能障害の方と直接関わったことが無かったが、認知症の方と対応が変わらないと聞いたので活用できると思った」(精神科認知症病棟勤務の方)など、それぞれの方が自分の臨床に活かせるお土産を持って帰ることができたようでした。

見学会の後に開催された懇親会には、ベテランOTから新人さんまで参加され、とても話がはずみました。先に紹介した自立生活アシスタント事業専任の作業療法士、青木明子さんを野々垣さんがスカウトした話や、見学会では出なかった爆笑裏話も飛び出しました。ネットワークの構築の秘訣は「飲むこと」!ネットワークは自分のためだけでなく、利用者にも役立つものだということを改めて感じました。筆者自身、新たなネットワークが構築され、とてもうれしく思いました。

文責:馬場

※地域活動支援センターとは:障害により、働くことが困難な障害者の日中活動をサポートする施設のこと。

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