今回は「ここへ行ってきた」の番外編です。「こんな人に会ってきた」と題し、片麻痺ゴルファーの角谷利宗さんをご紹介します。
角谷さんは片麻痺になられてから12年。ゴルフの他、登山にも挑戦され、これまでに7回も富士山登頂されているバイタリティーの持ち主です。定年退職された現在、障碍があっても「ゴルフをやりたい!」と思っている人のためにご自身の経験を活かしたいとNPO法人ジャパン・ハンディキャップゴルフ協会にも所属されています。今なお新しいことに挑戦し続ける原動力について伺いました。
*「片麻痺ゴルフ」との出会い
私は1999年51歳で脳出血を発症し、左片麻痺となりました。約4ヶ月間の七沢リハビリテーション病院でのリハビリ後、副腎皮質腫瘍の摘出術を受け、2000年に職場復帰しました。今の自分があるのは、七沢リハ病院で出会った無類のゴルフ好きと山登り好きの2人の同室患者のおかげです。2人ともそれぞれ退院したら絶対ゴルフやるぞ!山登るぞ!と言っていましたが、正直自分は「こんな体になってしまってはできないんじゃないかな」と思っていました。当時リハビリのゴールとして、「歩けるようになりたい」「職場復帰したい」と思っていましたが、そのゴールが達成された後は自然と「ゴルフ」や「山登り」へと目が向きました。退院後に同室者の言葉を思い出し、何度かゴルフの打ちっぱなしへ行きましたが、思うように球が飛んでくれません。「やっぱり無理なんだ…」と諦めていた時に、再び同室者と会い、彼から片麻痺ならではの打ち方やクラブの選び方を教わりました。すると思っていた以上に飛距離が伸び、その後2人で練習場に通うようになって、2001年夏に初めてコースに出て廻りました。独りだったら今日まで続かなかったと思います。
*片麻痺ゴルフとは
文字通り「片手でするゴルフ」です。テニスでいうところのフォアハンドかバックハンドかによって、右利きか左利きかのクラブを選びます。私の場合は右利きクラブでのフォアハンド打ち。最初は軽い女性用のクラブを使いました。自分の体にフィットするクラブを見つけるのが大変なのですが、私の場合は中古モノを含め、市場に多く出回っているので、使いやすいものを見つけることができました。また私は短下肢装具を使っていますが、靴底が減りやすいのでまめに手入れが必要です。
打ちっぱなしのゴルフ練習場は障碍があっても使えますが、コースの場合は、ゴルフ場側の理解が必要になります。やはり一般客より廻るのが遅いですし、カートをグリーン内にまで入れられるのか等の確認が必要です。以前に視覚障碍者のプレーヤーが盲導犬とラウンドしようとした所、拒否されたケースがあったようです。理由は「他のお客さまで、犬が苦手な方もいらっしゃる」ということでした。お互いの理解が必要ですね。
*ゴルフ大会への参加
2001年夏、ショートコースに出たのを皮切りに、その年の11月には「ザ・チャレンジド」という障碍者のためのゴルフトーナメントに参加しました。昨年7月にはカナダの大会へも出場しています。そして11月に参加した第16回全国身体障害者ゴルフ大会(ザ・チャレンジド)では、初めてスコアが100を切り、両手打ちの片麻痺プレーヤーにも勝つことが出来ました。12月は沖縄で、夢のみずうみ村主催の「片麻痺ゴルフコンペ」に参加し、一部運営のお手伝いもしました。このコンペが他の大会と違うところは、「ゴルフ初挑戦者も参加できる」という点です。1日目は初心者向けにゴルフの練習。翌日はコースに出てプレー。18ホール廻らなくても、「ホール宣言」という独自のルールを作り、各自で目標設定してもらいます。今回は琉球リハビリテーション学院の生徒さんやゴルフ場の好意もあって、ゆっくりとプレーができ、とてもよい大会となりました。やはり、ゴルフ場の理解やサポート体制の厚さが成功の重要なキーポイントになることを痛感しました。今後数回は沖縄で開催予定ですが、このような大会が全国に広がってゆくといいですね。
*登山について
登山好きの病室の仲間に誘われて低い山から登り始め、2001年には富士山初登頂しました。高尾山や茅ヶ岳などにも登っています。富士登山で、体調も山の天候も申し分なかったのですが、途中十分に体を休めなかったことで、高山病に罹り下山した経験があります。以降は山小屋で一泊し、自分にとってベストな登り方で山と向かい合うようにしています。一回の登山で私の短下肢装具はボロボロになるくらい痛んでしまいます。
*今後のゴルフとの向き合い方
私の体力や障害度は2002年ごろと殆ど変わっていません。ゴルフと山登りそして車の運転は自分にとって、体力や気力のバロメーターとなっています。できる限り長く続けられるよう、無理はせずに、今の体でできることを、できる範囲でやっています。片麻痺ですから、身体能力的にできないことが多いのです。障碍者になったということは、健康な人に比べて、再発や転倒等によって障碍がより重度となり、「動けなくなる」確率が高いです。できるだけ、そうはなりたくないと思っています。
自分はたまたまゴルフととても相性が良かったのだと思います。ゴルフの面白さは、障碍をおった体や能力と向き合い、どこまでプレーできるのか自分自身で見極められる所です。「あの時は…」と健康だった頃と比較しているようでは、面白くないですから。
*リハビリの専門職へ求めること
私はNPO 法人ジャパン・ハンディキャップゴルフ協会で理事を務め、ゴルフをやってみたいと思う障碍のある方と一緒に、練習できる機会をつくっています。皆さんにもこうした活動があることを知ってもらいたいです。また興味があれば参加してもらい、専門職の方から体の使い方のコツなど教えていただきたいですね。
*挑戦し続けているその原動力について
「面白いから!!」です。長く続けるコツは、今の自分の身体について知ることですかね。
利用者さんの願いや夢を実現可能なものするためにはどうしたらよいのか?やる気をいかに引き出せるのか?これらは地域生活を支える作業療法士としての常に考えることでもあり、腕の見せ所です。利用者さんにまず一歩を踏み出してもらうことができれば、歩き始めたことで変わり行くその視界の中で、新たに湧き出た自らの好奇心を満たすべく、「ゆめ」へとチャレンジし続けることができるのではないでしょうか。冷静にご自身の身体を見つめ、分析し、見極める角谷さんの目線。そして諦めない心と溢れんばかりの好奇心が、はにかんだ笑顔から感じとれました。
(文責:菊地)
角谷さんのHP
http://members3.jcom.home.ne.jp/sumioyaji/
NPO 法人ジャパン・ハンディキャップゴルフ協会HP
http://sports.geocities.jp/challenge_kantou_golf/
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