今回は、精神科病院での勤務経験を生かして、就労を望む方の次のステージへの架け橋になれるようにという思いから、就労継続支援B型事業所を立ち上げたOTさんにスポットを当てます。立ち上げに至るまでの想いや、事業所での取り組みについて綴ってくださいました。
『病院から地域へ』そんな言葉を掲げ平成26年に厚生労働省が精神障害者の地域移行に関する具体的方策を打ち出した翌年、その言葉に感化されたわけではないと思いますが、私は病院を出て地域で精神障害のある方の就労を支援する事業所を立ち上げました。
<開所の経緯>
私は以前精神科病院にて院内の作業療法士として勤務していました。その間多くの退院を目にし、病状の悪い時期を経て体調がよくなり退院していく姿や、退院支援の末に退院していく姿を見ることはとても嬉しく、その治療支援に携る事はとてもやりがいがありました。
退院する患者さんの中にはその後一般の仕事に就きたいというneedを持っている方もおり、体調や作業能力の回復が十分でないためすぐに就労は難しくとも、一般就労の可能性があるように見える方も多くいました。ある程度病状が回復してきたら早期に退院という精神医療の流れの中で、さらなる体調の安定や作業能力の回復を入院中に目指すには限界があるため、地域において体調を安定させながら就労への準備性を高める必要がありました。
しかし、地域において就労を支える場としては、就労スキルを高めたり、企業実習を行う事業所がありますが体調が不安定な方には尚早なこともあり、また病状や生活の安定のために無理なく通所できる、地域活動支援センターやデイケアでは軽作業や手工芸などの作業内容が一見一般就労とは離れているような印象を与え敬遠されることがありました。
その結果、どこの通所にも至らなかったり、本人の一般就労へのモチベーションの低下を招くこともあり、退院は喜ばしいことでしたが、本人の希望である一般就労というものについては見通しが不透明になることがあり、それに何とも言えない不全感を覚えました。
そのような経験から、就労への支援をしたいという想いが生まれ、精神障害のある方が地域において、一般就労に向けて体調を整えると共に作業能力を高め、仕事へのやりがいを感じながら通所できる場を作りたいと思い就労継続支援B型NEXT STAGEを立ち上げました。事業所名のNEXT STAGEは福祉就労から次のステージへの準備や架け橋になるようにという想いからつけています。
<NEXT STAGE支援内容>
現在事業所には、20~50代までの30名の方が登録し、皆就労を目指し通所しています。
(作業内容)
- リハビリ用品の製造
- カッティングシール製造
- パソコン業務(DM・マニュアルの作成)
- 領収書仕訳(外部会社からの委託業務)
作業内容は、リハビリ用品やカッティングシール関連の製品製造とそれに関連するパソコン業務、領収書の仕訳作業です。手作業からPC業務、事務作業など様々な業務を通して、集中したり考えたりする時間を持ち、他者と協力して行う業務の中で作業能力や対人技能が高められるよう支援しています。
(プログラム)
- 生活講座(睡眠・食事・ストレス・排便)
- 就労準備講座(履歴書職務経歴書の書き方・就労に関する社会資源の紹介と活用)
- 余暇活動(スポーツ・散策・映画鑑賞)
体調の安定のために自身の生活を考える時間や就労に関する講座、体調の安定や体力向上の為のプログラムを提供しています。
<おわりに>
障害者の就労を取巻く現状として、法定雇用率は来年度さらに引き上げられ、総合支援法下での就労系事業所数は年々増加しています。障害者雇用は国の施策として進められ、労働人口増加への期待やノーマライゼーションの浸透が背景にありますが、実際に就労を目指す方を前にすると、就労というものが個人においては時代の変化とは関係なく不変的で本質的な欲求であるように感じられます。体調や障害により、数年間働けずにいたり離職就職を繰り返しながらも再び就労を目指す方など、個々の「仕事をしたい」という強い想いは収入や喜びだけではない人間の本質的な欲求として伝わってきます。私にとっても仕事は大切でその大切な仕事を支援したいという想いから事業所を立ち上げましたが、どこかその本質的な欲求が叶えられないことに大きな不全感を覚えていたようにも思います。就労への支援は、病状から能力、対人面やストレスマネジメント、就職活動など多岐に渡り、「仕事に就く」「仕事を続ける」という結果を出すことはとても難しい支援だと感じています。まだ、就労への実績も少なく、支援のかたちも模索段階ですが、病院勤務経験者として体調をみながらリハビリの視点をもって支援を進めていきたいと思います。
今回は、就労支援の難しさを感じながらも、人間の本質的な欲求である「働くということ」を自ら事業所を立ち上げて支援されているOTさんにスポットを当てました。いかがだったでしょうか?
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県士会福利部
文責:福利部 会員交流班 松岡太一