Category: 地域リハの泉

159・160号:認知症の作業療法 前編 & 後編

シリーズ「認知症の作業療法」 ベテランOTへのインタビュー

相模原市役所 介護予防推進課 金沢隆之 先生

認知症予防の作業療法

《プロフィール》

認知症予防の作業療法

相模原市役所介護予防推進課 金沢隆之先生

社会人経験の後、OT養成校へ。卒業後、相模原市役所の介護予防推進課に配属となり、手探りで認知症予防に向き合う日々。現在7年目を迎えている。行政の作業療法士として介護予防最前線で奮闘中。企画・運営を担当している「脳を鍛える!脳活道場」は、年間約100名を対象としている。


金沢先生が認知症予防と関わるようになった経緯を、お聞かせください。

 私が相模原市役所に入職した平成18年は、介護保険法が改正され、介護予防が重視される動きにありました。市役所に勤めることが決まった当初は、OTとして私がどのような仕事を担当するのか、はっきりとわかっていませんでした。出勤初日に上司から、「OTには認知症予防を担当して欲しい」と言われ、2か月後には認知症予防教室を開催することになっており、とても戸惑いました。その頃の私は、精神科の実習で認知症の方と関わった程度にしか、認知症についての知識や経験はありませんでした。市役所に入ってから、認知症について、一から勉強し直したようなものです。そして同時に頭の中は「予防って何?」といった状態でしたから、介護予防や認知症予防についても、一から勉強しました。

現在のお仕事について教えて下さい。

自分たちで「脳を鍛える!脳活道場」

 現在の業務の一つとして、認知症予防事業「脳を鍛える!脳活道場」の運営に携わっています。事業の名称は、今でこそ「覚えやすくていいね」などと言って頂けることもありますが、当初は大反対されました。しかし、高齢者の方々が、受け身で参加するのではなく、自分たちで何かをやっていくぞ、といった意味合いを込めたいと思い、保健師スタッフと相談して、「道場」と名付けました。

 介護予防事業の対象は、二次予防事業対象者(65歳以上で、要介護・要支援になるおそれのある方)を中心に、定員に空きがある場合には一次予防事業対象者(元気な65歳以上の方)も含めています。1クール13回で、週1回2時間、定員は14名としています。担当するスタッフは、OT、保健師、健康づくり普及員、内容によって食生活改善推進委員の方にも参加して頂きます。進行役のOTは非常勤の方にお願いしており、私は主に事業の計画、関連団体との調整、講義の計画をしています。相模原市の各区で事業を展開し、年間8コース、約100名が脳活道場に参加しています。

基本的な質問ですが、認知症予防として、どのようなことをするのでしょうか?

暮らしの中で介護予防

 厚生労働省の介護予防マニュアル「認知機能低下予防マニュアル」に基づいて、事業の企画をしています。認知症になりにくいとされる生活習慣を学んだり、低下し易い認知機能(エピソード記憶、計画立案力、注意分割力)を鍛えるといった内容が中心です。
 参加者の皆さんが、その後の日常生活に取り入れられるような形で「予防活動」を提供することを、常に念頭に置いています。予防のために、新たに特別なことを始めるのは大変です。
 でも、認知症予防に関して言えば、普段していること、例えば「料理」ひとつをとっても、2つ以上のことを同時に行う注意分割機能を鍛えられるし、何を作ろうか?材料は?手順は?と考えることで、計画立案力も鍛えられます。次の日に、何を作ったかしら?味はどうだった?誰と一緒に?などと思い返してみることで、エピソード記憶を鍛えることにもなるでしょう。
 いつも通りの生活も、認知症予防の視点をもって取り組んでみることで予防活動になるのです。そのような介護予防のエッセンスを提供できればと思っています。「これだったら、家でもできそう」と思って頂きたいのです。

 その他に、有酸素運動としてウオーキングを実施する際に、歩き方のフォームや速さのことばかりを考えるのではなく、周囲の景色を見たり、匂いを感じ取るなどの「五感を働かせる」ことを意識したプログラムを取り入れています。これは普段の暮らしで、すぐに活かせますよね。

多職種で「脳活道場」を実施しているそうですが、OTの特性はどのような部分で活かされていますか?

159・160号:認知症の作業療法 前編 & 後編

介護予防教室の様子

共有できる場と集団の利用

 実際には、参加者の中に、明らかな認知機能低下がみられる方はほとんどいません。しかし、漠然とした不安を常に抱えていたり、もの忘れなどで自分に自信を持てなくなっている方は数多くいます。OTとして私が大切にしたいことは、同じような不安や心配を抱いている方同士が関わる場面を通して、参加者の皆さんが、少しでも自信を高めることができるようにしたいと思っています。場面を作ることや集団の利用は、まさにOTが得意とするところですから、この点は最も大切にしています。

日程 内容 「脳を鍛える!脳活道場プログラム」
1日目 事前アセスメント(個別面接)
2日目 オリエンテーション 認知症と予防に関する講話と個人目標の設定
3日目 認知症予防の体験
目標の振り返り
4日目 運動プログラム 1
・健康体操
・ウオーキングの方法と楽しみ方
・ウオーキングコースの計画
5日目 運動プログラム 2
・健康体操
・ウオーキングの実践
・ウオーキングの振り返り
6日目 創作プログラム 1
・切り絵の体験(グループ毎で実施)
7日目 創作プログラム 2
・切り絵の制作と作品発表
8日目 料理プログラム 1
・グループにてテーマの検討及びメニューの選択
9日目 料理プログラム 2
・調理実習及び会食
10日目 自主プログラム 1
・自主プログラムの計画
11日目 自主プログラム 2
・自主プログラムの実施
12日目 まとめ
・自主プログラムの振り返りと教室のまとめ
13日目 事後アセスメント(個別面接)
「免許皆伝の証」授与

事業を展開していく上で、困っていることや課題はどのようなことでしょうか?

意欲がなければ続けられない

 二次予防事業対象者というのは、基本チェックリスト(*資料1参照)の回答によって判定されます。対象者になった方のうち、認知機能に関する質問3項目中(*資料2参照)1つ以上に該当した方が認知症予防の対象となります。この方々は、地域包括支援センター(*資料3参照)から紹介されて参加する、つまり自ら希望して参加していないため定着率が低く、途中でリタイアしてしまう方が多いのです。
 予防は、実施したところで、結果は目に見えづらいものです。ですから、本人の予防に対する意識や意欲が維持できなければ、継続は困難で、次からは来なくなってしまいます。このことは、市としても重要な課題としてとらえており、今後対応策が必要です。
 来年度からは、事業開始前の個人面接で、1人1人の生活状況や暮らしの中での困りごと、本人の気持ちについても詳しく話を伺いたいと考えています。その上で、介護予防事業へ参加するメリットや必要性についても、具体的に伝えていけたらと考えています。同時に、魅力的なプログラムであるということが重要だと思います。「参加したい」という意欲を引き出せるような、その方にとって大切な作業、魅力的な作業を取り入れた活動を展開していきたいです。

*資料1

基本チェックリストとは

 65歳以上の方全員に、介護予防チェックとして実施されている。介護の原因となりやすい生活機能低下の危険性がないかどうか、という視点で運動器、口腔機能、栄養、認知機能、うつ、閉じこもり等の全25項目について「はい」「いいえ」で記入する質問表。
 

*資料2

認知機能に関する3項目(1つ以上該当する場合は、二次予防対象者)

周りの人から「いつも同じ事を聞く」などの物忘れがあると言われますか?
自分で電話番号を調べて、電話をかけることをしていますか?
今日が何月何日かわからない時がありますか?
 

*資料3

地域包括支援センターとは

 介護保険法で定められた、地域住民の保健・福祉・医療の向上、虐待防止、介護予防マネジメントなどを総合的に行う機関。保健師、主任ケアマネジャー、社会福祉士が置かれ、専門性を生かして相互連携しながら業務にあたっている。相模原市には22箇所の地域包括支援センターが設置されている。
 

終わってからが、本当の介護予防

 もう一つの課題は、終了後のフォローアップです。参加者の中には、終了後に参加者同士で自主グループを作り、継続して活動をする方々もいます。自主活動を定着していただくためには何かしらの仕掛けが必要なものですが、現状としては行えていません。そのため、実際に自主化して活動できているのは、まだ少数例です。自主グループ活動を続けている方々のフォローアップと同時に、今後は、参加時から「継続が大切」といった予防の基本を、より重視して伝えていきながら、そのための仕掛けを提供していけるような方法を検討していきます。継続には「仲間」と「環境」が必要です。「仲間」は脳活道場で作っていただき、「環境」の充実については、利用しやすい施設や場所を紹介していきたいと思っています。

 また、来年度の目標としては、是非とも脳活道場OB会を開催したいと思っています。情報交換の機会となったり、新たな仲間や活動が広がることを期待したいですね。

「脳を鍛える!脳活道場」の参加者との関わりを通して、学んだことを教えて下さい。

5年前より元気でイキイキ

 平成19年に「脳活道場」に参加してくださった方々で、終了後に自主グループを発足した方々がいます。5年以上も活動を継続しており、私も定期的に様子を伺ったり、相談に乗ったりしています。つい先日、久々に活動の見学に行ったのですが、皆さん全く変わらないどころか、5年前よりも元気でイキイキしている!という印象を私自身が持ちました。その瞬間、何とも言えない嬉しさが込み上げてきました。運動でもダイエットでも何でも、意思が強くないと、1人で何かを続けることは大変なことです。続けられる環境、そして仲間が大切だということを実感しました。「脳活道場」がきっかけとなり、イキイキした生活を継続するための足掛かりとなるものを、多くの高齢者に提供していきたいという気持ちを新たにしました。

不安なく暮らせること

159・160号:認知症の作業療法 前編 & 後編

参加者が作った家紋の切り絵

 Aさんについて話しましょう。Aさんは「物忘れをするから」と、いつも首からメモ用のカードを吊り下げ、忘れないように、といつもメモをしていました。Aさんと一緒に脳活道場に参加していた仲間は、プログラム中にAさんがわからないことがあって不安を抱かないように、さりげなくフォローをしてくれていました。後半には、参加者が企画する自主活動があるのですが、その企画においても、Aさんが楽しめる内容を取り入れる気遣いをしてくれました。こちらが特別にお願いした訳でもないのに、皆さんとても自然にAさんをフォローするムードが出来ていました。Aさんの良いところやできることを引き出し、できないことはさりげなくサポートして、Aさんを不安にさせない。自然な形でのサポートがあれば、Aさんも安心して楽しめるのだと実感しました。

 その後、久しぶりにAさんとお会いした際に、いつも首から吊り下げていたはずのカードがないことに気付きました。Aさんにそのことを聞くと、「カードはいらなくなった」と言いました。Aさんの認知面はおそらく以前と変わらないか、多少低下しているでしょう。でも、周りの自然なサポートや安心できる環境があれば、その方の暮らし易さは変わるものですね。いつも不安でメモを手放せなかったAさんが、「メモはいらない」と言えたのですから。

「脳活道場」は、年に100余名を対象としていると伺いました。人口約72万人の相模原市には多くの高齢者がお住まいだと思いますが、対象人数は少ないようにも感じます。市内のどこに住んでいても、等しく介護予防事業への参加機会はあるのでしょうか。。

介護予防をもっと身近に

159・160号:認知症の作業療法 前編 & 後編

介護予防事業の様子

 相模原市には約14万人の高齢者がいます。認知症予防の対象となる方すべてに、「脳活道場」へ参加していただくことはできません。現在は、市内3区それぞれの拠点で事業を展開していますが、実施会場が自宅から遠くて参加できない方も多くいるのが実情です。市の中心部のみでなく、皆さんが住んでいる身近な地域で、介護予防を実践できる環境が望ましいのです。 そのためには、現在のように、遠くまで参加者が出向くようなスタイルではなく、こちらが地域に出ていかなくてはなりませんし、地域社会への介護予防普及のためには、スタッフの育成も必要です。それに加え、地域の団体(自治会、老人会、サロンや趣味のサークル等の団体等)で既に行われている活動を活かしながら、介護予防事業と連携することで、より身近な活動が作れるのではないかと考えています。

 また、厚生労働省の指針にもありますが、認知症予防だけ、運動器の機能向上だけ、といった個別の領域だけではなく、他の介護予防重点項目(運動器の機能向上、うつ予防、口腔機能向上、栄養改善、閉じこもり予防)と合わせて、包括的なプログラムを実践していくべきだと考えています。

今後は、より身近な地域で介護予防の理念が理解・実践されることが目標となりますね。

地域包括支援センターとの連携

 そのためにも、地域包括支援センター(以下、包括)との連携は必須です。地域包括支援センターは平成18年の介護保険改正に伴い設立された機関で、相模原市には22カ所あります。基本チェックリストでリスクが把握された65歳以上の方は、包括を通して市の介護予防事業、もしくは包括が独自で行う介護予防教室への参加を勧めます。包括と市の円滑な連携によって、早期から必要な支援を行える環境を整えていきたいと思っています。

 また、病院や老健に勤められているOTの方々も、包括の仕事や事業について把握しておくことをお勧めします。包括は地域に関わるフォーマル・インフォーマルなサービスの情報を数多く持っていますし、連携機関も多岐に亘ります。対象者が地域生活を維持するために必要な手立ても、一緒に考えてくれるはずです。是非、地域で行われている事業等にもアンテナを張ってみてください。

OTとして、介護予防に是非とも協力を!

 相模原市には常勤でOTが勤務していますが、各市町村によって状況は異なります。しかし、どの地域でも介護予防事業、認知症予防は行われています。市町村からの委託として、病院や施設で働くOTへ介護予防事業の講師等を依頼する機会も、今後は増えていくはずです。OTの仕事の幅を広げるためにも、是非とも介護予防事業への協力をお願いいたします。

認知症に関しては、早期発見、早期対応といったことが、近年強調されていますね。

 JAOT No.7のp20~p25にも掲載されていましたが、厚生労働省の認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)の中で、認知症初期集中支援チームにOTが入りました。初期集中支援チームとは、発症後できる限り早い段階で包括的に支援を提供するためのチームです。認知症の初期対応に、作業療法士の力を求められているというのはとても嬉しいことですね。認知症予防・対策にOTが関わって、よい成果を生み出した事例を、積み重ねていきたいです。
 また、OT協会もこの分野に関する研修を実施するようなので、是非とも皆さんにも積極的に参画していただきたいと思います。

最後になりましたが、県士会の若手OTのみなさんへのメッセージをお願いいたします。

 是非、積極的に介護予防に関わって欲しい、地域に出てきて欲しいのです。先日、厚生労働省の認知症予防マニュアルが新しくなりましたが、そちらにはPTが作成した有酸素運動のプログラムが大きく掲載されています。OTも予防に関して、実践と研究の両面から、より多くの方々に関わっていただきたいと思います。

 また、先日ある大学で介護予防に関する講義を行いました。その際に「自分の学生時代には、学校で介護予防について習うことなどなかった」と改めて思いました。これからは介護予防の視点を当たり前に持ったOTが多く世に出てきます。治療だけでなく、予防の目線をしっかり持ったOTとして、どうぞご活躍ください。

- 行政の作業療法士として、開拓者として、大変なお立場だと思いますが、今後ともどうぞご活躍ください。どうもありがとうございました。

(文責:地域リハビリテーション部 河村)

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156・157号:認知症の作業療法 前編 & 後編

シリーズ「認知症の作業療法」 ベテランOTへのインタビュー

特定医療法人社団同樹会 結城病院 川口淳一先生

認知症の作業療法

《プロフィール》

特定医療法人社団同樹会 結城病院 川口淳一先生

特定医療法人社団同樹会 結城病院 川口淳一先生

養成校卒業後、長崎市内の病院に勤務し、中枢疾患や整形疾患の高齢者を対象にリハビリテーションから在宅訪問まで一貫した援助を行う。その後、北海道富良野市の介護老人保健施設へ赴任。施設ケア改善の取り組みに加え、重度認知症高齢者のワークショップ開催、高齢者とのコミュニケーションを通してその声に耳を傾けた細やかなエッセイ集『リハビリテーションの不思議-聴こえてくる高齢者のこころの<こえ>-(青海社)』の執筆など、意欲的に活動。3年前より茨城県に移り、現職。


はじめに、川口先生にとっての、認知症の作業療法との関わりについてお聞かせください。

 卒業後すぐに勤めた病院は、いわゆる老人病院で、入院患者の大多数が認知症の方でした。その当時は、認知症は「リハビリの阻害因子」だと捉えられていて、「認知症があるから、リハビリできなくても仕方がないね」という言葉が、当たり前に交わされるような状況にありました。今とは随分違います。でも「それでよい」とはとても思えないですよね。OTとしての認知症との関わりを話す前に、僕自身の幼い頃の話をしましょう。

自分で「役割」を作る

 僕が中学1年生の時に亡くなった祖父は、かなり進行した認知症の状態でした。いわゆる「動ける認知症」です。僕が小学校高学年だったある日、祖父は、何十年と手塩にかけて育ててきた庭の草木を、植木バサミで片っ端から切ってしまいました。家族は「何してるの!じいちゃん」と慌てて止めに入ったのだけれど、動ける人だから、そう簡単には止められない。辺りに切るものが何もなくなったら、今度は、飼っていたセキセイインコを捕まえて、そのしっぽまで切ってしまう。僕が「じいちゃん、何でそんなことする?」と聞くと、祖父は「暑かろう」と答えました。祖父は、生い茂った草木が暑そうに見えたから、涼しくしてあげようとしたのでしょう。何でも「切る」という、その行動の出方は、社会的には受け入れ難いものがあるけれども、祖父なりの理由があっての行動だったのです。

 僕ら兄弟が、それよりももっと幼い頃、祖父の家に遊びに行くと、必ず正座して、小一時間ほど戦争の話を聞かされました。それが聞き終わったら、アイスキャンディを買ってもらうというのが、お決まりで、我慢して聞くのです。でも、大きくなるにつれて、アイスキャンディなんて自分で買えるし、遊びにいっても自分のしたいことをするようになって、祖父から戦争の話を聞こうとはしなくなりました。祖父はきっと、家の中で、これといった役割もなく過ごしているうちに、徐々に認知症が進行していったのだと思います。

 だけれども、祖父はなんて「逞しい」のでしょう。生活の中に役割がなくなってしまったというのに、役割を自分で作ってしまうのだから。暮らしの中に人に役立つことがなかったから、何の疑問もなく、そのような行動をとっていたのでしょう。

 病院にいる患者さんも、祖父と同じ思いをしているはずです。「この方はリハビリできないから寝ているしかない」という医療が行われているなんて、そんなのは絶対にダメだと、22歳のOTになった僕は思いました。

家族としての経験が、OTとしての立ち位置に繋がったのですね。

 祖父は、本当はもっといろんな話をしたかっただろうし、もっと人の役に立ちたかったのだろうと思います。祖父の思いに気付くことができたから、OTになってからも、患者さんの思いに気付こうとすることができたのだと思います。

 病院内は、エレベーター、車いす、ベッド。その環境はどこをみても、その方の今までの生活とはかけ離れています。この環境の中で、この方々の暮らしを、いかによくできるだろうか。その病院は、一生その場で暮らすような方の多い病院だったのですが、ここが自分のホームグラウンド、と思えるようにする作業療法って、どういうものなのだろうか、と模索しました。

それらの気付きや思いを、作業療法の実践にどのように活かしていったのでしょうか。

「なぜ」に向き合う

 色々なことを試してきたけれど、それが自分の中で体系づけられたのは、北海道の老健でのことでしょう。施設に入所している認知症の方々の、一見不可思議な行動、いわゆるBPSDの理由を個々に推理していきました。個人の行動には必ず理由があるはず。その理由を推理していこうと、スタッフ同士で多くの話し合いを持ちました。「なぜ」に向き合うのです。

 ケアプラン立案のカンファレンスを毎月開くのですが、その時に看護・介護からOTに対して、「この人、こんな行動があるのですけど、どうしたらいいのですか」という質問をされていました。僕はそれに対して、自分なりに知恵を絞って「こうしてみたら」とアドバイスをしていたのだけれども、大体うまくいきませんでした。打率でいえば1割くらい。ひどいものです。そういった経験から、認知症の人たちと向き合うときには、「どうすればよい」からではなくて、「なぜそういった行動がみられるのか」ということにしっかり向き合わないと、絶対に解決に結びつかないということに気付きました。だからこそ、カンファレンスは「なぜ」を話すことに徹底しました。職種は関係なく、みんなで推理しました。
認知症の方であっても、相手によっては出方を変えるし、リハビリの時はいい顔するけど女性スタッフには辛辣だなんてこともある。そういった個々の事例に対して、スタッフの考えを家族に相談・確認しながら、徐々に関わりの糸口を見出しました。

 ある入所者の男性は、人の部屋に入ってはタンスを荒らしていました。自分のものだったらまだしも、他人のタンスを荒らすものだから、これは問題です。当然、他の入所者やその家族からはクレームがきます。どうしてそんなことをするのだろう?その方の気を紛らわせようとして、あの手この手を尽くしてみても、一向に状況は変わりません。ある日、自宅の奥様にタンス荒らしの行動について相談すると、「それ、納屋の整理してるんだわ」と、ぴたっと言い当てました。その方は、長年農家をしていて、離農して認知症状がでた後も、必ず毎日納屋で道具の整理をしていたそうです。そして帰ってくると奥さんのいれる温かいお茶をすすって一息つく。その方には、日課としての「納屋整理=仕事」があったのです。しかし、老健には納屋はありませんでした。仕事場のない状況で、自分で何とかして「仕事」「役割」を見出そうとしている。その行動がタンス荒らしだったのでしょう。でも、仕事をしても達成感・役割感としてのピリオドを打てない。なぜなら仕事をしても、いつものお茶が出てこないのだから。

 行動の理由が徐々に見えてきて、よくよく振り返ってみると、その方が荒らしたタンスはすべて、納屋と同じ開き扉のタンスでした。引き扉には一切、手を付けていません。これは間違いない。スタッフで考えたのは、それならもっと納屋らしいところがあると、掃除道具棚の片付けを毎日行ってもらうことを考えました。そして一仕事終わると、いつもと同じようにお茶をだすのです。

 掃除道具棚の片付けはその方の日課として定着し、以前のように人のタンスを荒らすことはなくなりました。

チームで「なぜ」を考えることで、介護や看護スタッフの様子も変わってきましたか?

行動には理由がある

 その方の一見不可思議な行動の理由がわかると、ケアする側は、やさしくなれます。ある女性の方はティッシュペーパーをたたんで集め続けている方がいました。これは「収集癖」とも言われます。その方は「お姉ちゃんが鼻を垂らしているの」といつも話していました。「お姉ちゃん」とは、その方の娘さんのことなのか、妹さんのことなのか、誰なのかは、はっきりしませんでした。でも、その方は「お姉ちゃん」のために、ティッシュをたたんでいる。

 スタッフの中には「また集めてる!」と、怒るような対応をする方もいました。しかし、鼻を垂らしているお姉ちゃんのために、いつでもティッシュを使えるようにしている、その方の思いに気付くことができるようになると、「これだけあれば、お姉ちゃんも安心よね」と声をかけるようになっていきました。

生活歴を通して、その方の行動のあり方を理解していくことは大切ですね。

「なぜ」と考える幅を広げる

 その通りですね。でも、「なぜ」を考える時に忘れてはいけないことは、認知症の方だからといって何でも生活歴によるものと考えてしまうことは危険だということです。認知症の方は、あるがまま語れないがゆえに、病気や不調の発見、対処が遅れることは少なくありません。内科的な問題や、神経生理学的な視点をしっかりと身につけて関わることが基本です。「なぜ」と考ける幅を広げるためには、生活歴をより深く踏まえた関わりができる、ことも大切ですが、医学的な視点をもつことも同様に大切です。

現在の勤務先である身体障害領域の病院における、認知症の方との関わりについて教えてください。

ケースを通して、認知症の方との関わり方を伝える

 今勤めている病院は、急性期から慢性期まで幅広く対象とする病院で、僕は主に回復期に関わっています。先日、院内で調べたところ、リハビリをしている方の56%の方に認知症状があり、回復期でも46%の方に認知症状があることがわかりました。つまり、認知症のことを理解した上でなければ、ここで仕事をすることは難しいと考えています。

 老健に勤めている頃は、一度関わりを持つと、最後までその方の生活支援に責任を持つという意識がありました。つまり、その方とその症状と向き合うことを考えます。しかし、病院は退院させることが何より大切。もっとふさわしい場所があるでしょうという立場です。薬剤の使い方も違います。何より違うと感じていたのは、認知症の方の行動を理解しようとする姿勢のスタッフが、リハスタッフの中であっても少ないということでした。

 あるリハスタッフは「認知症があるので拒否されました。今日はリハビリ室に連れて来られませんでした」と言いました。僕の新人の頃の光景が思い浮かび、未だに『認知症はリハビリの阻害因子』という考えが残っているのかと、愕然としました。

 そこで、まずは自分が率先して、関わりにくいと思われる方、暴力的な行為がある方などを担当しました。なかなかうまくはいきませんが、あれこれと試していく中で、その方がまた歩けるようになったり、リハビリを通して関わり方がみえてくるケースはたくさんいます。関わることすらできない、という状況から、関わることはできるようになるわけです。

まずは、川口先生がお手本と言いますか、関わり方を他のスタッフに伝えることから始めたのですね。

チームのみんなが同じ目線をもつ

 とくに病棟では、認知症の方を「困った人」と捉える向きがありました。これは夜間の大変さなども考えると確かにそうかもしれません。しかし、認知症という1つの脳の病気を持つ「人」として周りが関わるのが本来なのです。忌み嫌われるような人物として捉えられてしまうのは、あまりに悲しいと思いました。

 その後、院内で認知症の勉強会を始め、現在も続けています。強制参加にはせず、どの職種でもどうぞ、という形で実施しています。最近では、かなり多数の看護師が参加してくれるようになり、意識が変わりつつあると感じます。最近の勉強会では、問題が多いと捉えられやすい方々を対象としてOTの小集団訓練を実施し、その様子をビデオ撮影したものを使用しました。ビデオを多職種で観察しながら、参加者がその時した表情の意味を考えたり、普段みられている行動の理由を考え、話し合いました。

 この3年間で、スタッフからの「あの方は無理です。関われません」というような相談は確実に減っています。見方やケアを変えることで、その方の反応が変わるということを、一人ひとりのスタッフが、日々成功体験として蓄積してきた結果がでてきたのだと思います。

- 病院、老健、そして今また病院でご活躍されている川口先生ですが、場所がどこであっても変わらない、ということでしょうか?

 もちろんです。どこでも変わらないですよ。していることは同じです、いつも。

では次に、川口先生が、認知症の方との関わりで最も大切にしていることを教えて下さい。

生活に足りないものを補う

 僕は「生活」という作業を5つに分けて考えています。1つはADL。これがなくては、人は生活できない。2つめに役割や仕事。3つめは遊び。これがないと非常につまらない生活になってしまう。4つめは人間関係。一人で生きていけるわけがない。そして5つめに休養。この5つのどれかが0(ゼロ)になると、自分の今の暮らしに足りないものは、人は無意識のうちに補おうとするものです。

 例えば僕らだって、知らない土地に引っ越して寂しい思いをしていると、友達や親と長電話をすることで人間関係を補います。学生さんであれば、試験前に時間がないというのに本屋さんで自分がわくわくするような雑誌を立ち読みしてしまったり、無性にカラオケに行きたくなったり、なんてことがありますよね。それは生活に、遊びが足りなかったら、どこかで補おうとしているのです。

 入所したばかりの方が、翌朝から徘徊が止まらなくなる、ということがあります。徘徊、それだけを見れば、歩き回っているだけのようにも見えますが、その行動には必ず理由があるはずです。知っている風景も、いつもの役割もない、見慣れた顔もいない。その姿はまるで、何かを探しているようにも見えます。

 僕たちは、生活に足りないものがあれば、自ら補う手段を持っています。しかし、それを持っていない方々が目の前にいるのです。ですから、その方の生活に「足りない部分を補う」という意識をもつことが大切なのです。ADL、役割・仕事、遊び、人間関係、休息の全てが100%満たされている人はいません。でも、この5つが「ある」ことが大切なのです。決して0(ゼロ)にしてはいけません。

 5つの視点から「生活」をしっかり見ていくことで、その方に対して支援すべきことが見えてくるはずだし、支援することが何もない、なんていうことは絶対になくないです。

生活感を失わない支援

 向上できるADLは向上させて当然です。でも、だからといってADLだけが満たされていれば人は「生活している」といえるでしょうか?食事して、トイレにいって、寝て、たまに着替えて、、、そんなの風邪引いたときの生活でしょう?それを何とも思わないのは絶対におかしいと思っています。だからこそ、OTが支援していくべきことがあるのです。例えベッド上であっても「生活」があるようにと僕は思っています。その人の生活感を失わない支援が大切なのです。

本当に無反応?

 無反応、なんて言葉が使われますが、そもそも刺激されているのかというと、刺激が入力されていない状態にあることが多いのが事実です。刺激されていないのだから、反応していないのは当たり前。いろんな感覚刺激を与え、本当にやるだけのことをした上で、その方が無反応なのでしょうか。「できることが何にもない」なんていうことは、そうそうないことです。しかし、「反応もないし、(活動に)参加しても意味がなさそうだから、やめときますね」といった言葉がケア場面では当たり前に交わされています。

 僕は、感覚刺激を入れることで、変わっていく人たちを数多く見てきました。観察する力で、その方の反応を見出し、それを増幅し、スタッフや家族に伝えていく。そうするとスタッフや家族の関わり方、つまり刺激の量も質も変わってきます。「ほら、こうすればちゃんと手を握るんだから」なんて風になっていきます。
本人の微弱な反応に、こちらが如何に気づくことができるか。そしてそれに対して、刺激を返すことができるか。そのことを常に意識しています。

次に、これまでのご経験から、印象的なケースとの関わりについて教えてください。

役割を0(ゼロ)から1へ

 今の病院での経験を話しましょう。結城は「結城紬」が有名で、ユネスコの無形文化遺産に指定されています。僕が担当したある90歳代の女性は、若い頃に結城紬の職人さんをしていました。着物を織るほどの腕前だったようです。今回の入院の理由は内科疾患で入院後に廃用症候群が進行した状態にありました。

 関わっていく中でADLの次に考えたのは「役割」でした。生活のほとんどの時間をベッド上で過ごして、生活の中に「役割」が何もない。つまりその方の役割は0(ゼロ)の状態だったのです。紬の職人さんとしては既に引退していましたし、それを役割として行うというのは難しいだろうな、と思いました。ようやくリハ室に顔を出せるようになり、まずはじめにその方にお願いしたことは、僕と手を繋いでリハ室を1週することです。リハ室を1周しながら、若いスタッフたちに「頑張ってるね」と一声掛けて、肩をポンポンと触りながら、リハ室のスタッフ全員を激励するという役割を、1日2回、その方にしてもらいました。何より良かったのは、それを言われた側の若いスタッフ達のリアクションで、「ありがとう」とか「待ってましたよ」などの嬉しい気持ちをその方に伝えてくれました。毎日2回の役割を繰り返しているうちに、その方はリハ室に行く時間の前になると、自分でベッドから起きているようになりました。おそらく、僕が思うに「私も捨てたものじゃない」という気持ちになってくれたのではないかと思います。それは、その方の病院内での役割が0から1になった瞬間であったと思います。

自ら役割を作り出した瞬間

 退院の際に、その方の娘さんがリハ室を訪れてくれました。そして「おばあちゃんから頼まれました」と言って、箱に入った結城紬の財布を取り出しました。その方が昔織った着物の一部を使って、娘さんに作らせた物だそうです。以前は病室で寝てばかりいた方が、OTである僕を喜ばせたいという思いから、娘さんに着物を指定し、財布を作るように指示してくれたそうです。そのようにして、その方と娘さん、そして、その方とOTである僕との人間関係が紡がれていきました。

 僕の手を引いてリハ室を歩く、という役割は、OTである僕が想像した、病院内での役割に過ぎないものでした。   しかし今回は、その方が、自分自身で人の役にたちたいと、作り出した生活の中での役割です。それはOTとして、何より嬉しい経験でした。

最後になりますが、神奈川県OT会の若手OTに、メッセージをお願いいたします。

 対象となる方々も、自分たちも、同じ生活者なのです。施設生活とか、病院生活とか、家の中だけとか、ベッド上とか、色々な生活があります。でも「生活」と言っている以上は、同じでなくては不公平です。病気だから、高齢だからといって、一人ぼっちでもいいとか、何もしなくていいとか、そんなことは決してないのです。それだけは忘れて欲しくないと思っています。あたり前の「生活者」であるという視点を忘れずに、やってみましょう。

- 川口先生、心のこもった貴重なお話を本当にありがとうございました。

(文責:地域リハビリテーション部 河村)

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154・155号:若年認知症の作業療法 Vol.1 & 2

シリーズ「認知症の作業療法」 ベテランOTへのインタビュー

 経験豊富な先輩から聞く「認知症の作業療法」インタビュー。2回目となる今回は、地域で若年認知症のサポートに携わる、東京都作業療法士会所属の比留間先生のインタビューをお届けします。

若年認知症の作業療法

若年認知症社会参加支援センタージョイント 所長/作業療法士  比留間ちづ子 先生

若年認知症社会参加支援センタージョイント
所長/作業療法士  比留間ちづ子 先生


《プロフィール》

東京女子医科大学病院リハビリテーション部に作業療法士として36年勤務後、特定非営利法人 若年認知症サポートセンターの設立に関わり副理事長を務める。
2007年より平成19年度厚労省補助金事業として若年認知症社会参加支援センタージョイントを創設し、現在、所長兼作業療法士として活動中。日本病院・地域精神医学会理事/事務局長、日本障害者協会理事/国際担当。日本作業療法士連盟副会長。

若年認知症社会参加支援センタージョイント
〒160-0022 東京都新宿区新宿1-9-4中公ビル御苑グリーンハイツ605号
TEL:03-5312-0644  FAX:03-3341-7144  joint.tomorrow@gmail.com

《若年認知症社会参加支援センタージョイントとは》

 若年認知症本人のはつらつとした生活への復帰を目指した就労型活動・地域貢献活動の拠点として、週2回(午前10時~午後3時)の活動を実施している。メンバーは現在男性8名で、都内、神奈川、埼玉など各地から参加している。スタッフは専任(専門職)4名とサポーター。

 活動内容は、折込発送、絵葉書・カレンダー作成、絵画、工芸、イベント援助、公園と道のサポーター、地域交流、地域行政との渉外、企業訪問、講演講師、取材対応などが中心。

 メンバー全員が名刺を持ち、入退所はタイムレコーダーで記録。朝のミーティングで一日の行動予定を確認し、退所時に活動日誌を記入するという活動方式をとっている。

 インタビュー当日は、以前シェフをしていたメンバーが、2日前から煮込んで用意をしてくれた特製カレーライスを、皆さんで美味しくいただきました。


若年認知症の方の地域生活を支援する上で、先生が大切にしていることを教えてください

場面を作る

 まず、常に頭に置いているのは、若年認知症の本人が、自分の意思で選んでいくことが本来だということです。今のうちならまだ、選択はできます。ただし、彼ら自身が受けてきた嫌な思いもありますし、自分の中で混乱して困っているのに、うまく言えなかったりすることもあります。それを、うまく対処できるような期間や、役割や、人などに出会えると、その場面で解決して、ある意味で「今、自分はこうなんだな」と障害を受容して、周りとの折り合いをつけられます。

 しかし、そうではない場合も多いのです。とても頑なになってしまったり、話を受け入れにくい状態になったり、気持ちの中で言い訳をしたり。でも、その気持ちを解き放つことができるのは、やはり仲間同士なのです。我々専門職や支援者が直接できることではありません。

 本人同士が、仲間として一緒に活動している中で、「忘れているな」とか「失敗しているな」ということは、お互いに見えています。そこで、格好をつけても何もはじまりません。だからこそ、外に行ったときには、仲間を待ってあげたり、一緒に切符を買うなどします。いろいろな形で気を配られたり、自分ができることがあれば気を配ったりと、そういった場面の積み重ねが、少しずつ、頑なになったものを解き放していくのです。

 援助するというのは、そういった「場面を作る」ことだと思います。そこに作業のかけらを用意するのです。決して作業をすること自体が目的ではありません。「場面を作る」のは、まさしくOTなので、私もそういう場面に立ち会っているということは、すごく幸せで楽しいですよ。

個人を発揮する社会的場面での役割

 もう一点としては役割です。役割を何らかの形で果たしていくことは、人間本来の、生きていこうとする1つの張り合いですよね。若年認知症で重要な役割というのは、まだまだこれから人生を作っていく役割です。自分が何かできることがある、という実感をもつことが大事なのです。役割と言うのは決して「病者」という役割ではありません。自分が今、生きているという役割なのですが、現実的には認知症という状態があって、忘れやすくなっていたり、前のように仕事をする状況ではないということもわかっているわけです。そうすると、役割を開発していくことになります。

 例えばこの場を、1つの会社や社会と見立てたとすると、必要な時に発言ができたり、意見が言えたりすることは、とても大切ですよね。公務員で役所の窓口にいたある人は、「公園のボランティア登録をしなくては」と私が言うと、「やっぱり区役所だろうな」と答えてくれます。そうとなれば、一緒に区役所のボランティア連絡会の窓口に行き、その方に掛け合ってもらう場面を作ります。

 商社マンをしていた方は、どのような対応にすると人は喜んでくれるか、というような見立てが非常に得意で、人への説明やタイミングなどがとても上手です。弁護士をしていた人は、人の話をじっくりとよく聞いてくれます。シェフをしていた人は料理を作ることや食べてもらうことが楽しみです。

 社会的な場面で、いかに個人を発揮できる役割を割り振りできるかが、大切だと考えています。

作業をすること

 今日も絵を書いている方がいましたが、なぜ絵を書くかというと、何かしらの作業に取り組んで集中したり、自分自身と向き合う中で、いい意味での暇つぶしができたり、製品になったり、アピールができたり、個人のアイディアをだせたりるからです。アクティビティを仕込むことはOTの得意分野です。製作の場面であったり、ミーティングの課題であったり、掃除だったり。作業をすることによって自分自身と向き合ったり、作品を形として残すことで活動に意味を持たせることもできます。

 一日というのは、働く外に向けた時間、休息の時間、ADL、余暇など、やはりメリハリがないといけません。現金収入の仕事ではなくても、社会の中で果たせる役割をもつこと、仕事として経験を活かせる役割を見つけて、生活の組み立てをしていくこと。これってまさにOTですよね?

- まさに社会の中、暮らしの中での作業療法の実践ですね。

次に、地域の中での連携についても教えてください

暮らしの繋ぎの中へ

 若年認知症の方の生活の悩みは、仕事のこと、経済的なこと、家族関係など多岐に亘っていて、OTだけですべてを解決はできません。ときに、ご家族と本人が向き合えなかったり、互いに遠慮しているということも聞きます。本人もご家族もお互いに低迷してしまい、それが一層ストレスになることもあります。そういった時はOTとしてご家族に、少し本人と距離をとるような関わり方をアドバイスすることもありますが、その他に、家族の会などを紹介します。

 専門家は介入するけれど、時間が限られてしまいます。でも生活の悩みは、その時間だけでは済まないものです。生活の中で、うまく散らばらせるといいますか、必要な機関を紹介したり、繋いだりすることで、みんなで支えるのです。地域の中にはいろいろな人がいますから、「どうすればいいの?」と投げかけると、みんなが助けてくれます。暮らしている人の「繋ぎ」の中に入っていくという意識。それがないとOTとしても、自分としても強くなれないと思います。

 OTは医学的な職種であるということで、専門家らしくするのもいいけど、それがどんどん支援の幅を狭めていないでしょうか。生活の実態に関わろうという意識は、まだまだ低いかもしれません。暮らしの繋ぎの中へ入っていく意識があれば、地域でできることはたくさんあります。

お互い様

 四ツ谷地域は、社会福祉協議会の職員さんたちも、とても関わりが上手です。地域のイベントへ声を掛けてくれたり、他機関との繋がりにも一役買ってくれます。ジョイントも地域の中で、掃除や餅つきの手伝いをしたり、お祭りに参加したりと、今や地域の一員となっています。「若年認知症」の特別な団体ではなく、普通の地域団体として活動しています。地域の中での足場が広がることで、メンバーの活動も広がりつつあります。

 やはり地域の中で、頼まれたり、頼んだり「お互い様」が大切ですね。

なぜ、比留間先生は、若年認知症の方の支援に携わるようになったのでしょうか?

OTとして当たり前のこと

 病院勤務の頃に、厚生労働省から、高次脳機能障害の方が生活にどのように困るのかを調査したいという相談がありました。その頃はまだ、高次脳機能障害が現在のように分類されておらず、頭部外傷も、内科疾患が引き起こす認知機能障害も、認知症も、すべてが一緒くたに捉えられ、十分な対策も講じられない状況にありました。その後、モデル事業等を経て、頭部外傷等による高次脳機能障害者の生活支援事業が制度化されると、対策としてとり残されたのは、進行性アルツハイマー病による若年認知症の方々となりました。症状としての差別感はないにも関わらず、若年認知症の方々に対しての対策は、全く進んでいないという現実に直面したのです。当初はモデル事業の一環として、若年認知症の方々の生活支援に関わりはじめました。もちろん、家族会からの要望があったことも強い後押しとなりました。

 対象者の機能の賦活を目指してOTが関わるということは、ごくごく当たり前のOTの仕事であり、若年認知症を特別視したものではありません。“若年認知症の方”ではなく、目の前にいる“疾患と生活障害をかかえる一人の対象者”にOTとして関わっているだけのことなのです。今はたまたま、対策が遅れている若年認知症の方々の生活支援に関わっています。OTとして特別なことをしているのではなく、ごく当たり前の流れとして、今に至っています。

- 非常に明快で興味深いお答えをいただきました。OTとして常に「当たり前のこと」をしていたら、今に至ったのですね。

次に、「地域」における評価や支援について教えてください

 「地域」ということはそれほど意識してはいません。むしろ、「暮らし」をいかに評価するかが重要だと考えています。ADLひとつであっても、家の中でのみでする訳ではありませんし、そもそも生活とはADLのみではありません。家の中の活動を中心とした評価で、本当に妥当性があるといえるでしょうか。
 社会との接点の中でその方がどう動けるか、という「社会の中での評価」が非常に大切なのです。暮らしの場に軸足を置き、社会の中で評価し、社会の中で具体的な生活支援をしていくこと、それこそが「地域における評価や支援」だと考えています。

若年認知症の地域支援に関わるOTはまだ多くはありません。今後、若手OTがそのような分野で活躍することも期待されます。日々の臨床活動で養うべきことについて教えてください

事例を深く掘り下げていくこと

 私は病院勤務の頃、新人や後輩たちに「担当ケースについてのショートブリーフを作りなさい」と指導していました。ショートブリーフとは、担当ケースの現状だけでなく、OTとして何を問題と捉えているのか、何に悩んでいるのかも含めて書き留めるものです。「書く」という作業を通して、ケースについての評価や情報を統合することができます。また、ケースに向き合う自分が、今何を考え、何をしているのかを振り返り、ケースを巡る問題を構造化する手助けとなります。

 類似するケースに出会った際には、過去のショートブリーフを見返し、以前の自分はどのように関わり、何ができて、何ができなかったのかを振り返ります。それによって、今向き合うケースに対するよりよい関わりを見出したり、自分自身の技法やケースとのやりとりについて、解析する手助けとなります。

 一人ひとりのケースは違いますし、生活とは、とても複雑なものです。世の中には様々な評価表がありますし、その項目を埋めていくことは誰にでもできるでしょう。でも、それだけでは、「その方の暮らし」は捉えきれません。数値だけでは見えないことを知るためには、事例を記述的に捉え、一つ一つの事例を深く掘り下げていくことが大切だと思います。

人とのやりとり~連携力

 最近は、電子カルテ化などによって、担当者間での情報共有が容易になったと言われていますが、本当にそうでしょうか。電子カルテに書かれる情報は表面的になりがちで、本当の意味で必要な情報をまとめ、伝達できているかは、常に疑問を持つべきだと感じています。

 担当者が実際に顔を見て話し合い、やり取りしていく中でこそ、新たに見えてくることも多くあります。皆さんは、職場で毎日どのような連携をしているでしょうか。今、職場の中で実際にしている人とのやりとりこそが、地域支援の現場における連携にも活かされると思います。病院の中では、決められた職員とのやりとりが多いと思います。しかし、地域では、その方に必要な地域のつながりを、一から作り上げることを必要とされ、その度に新しい分野でのコンビネーションが生まれます。日々の職場における連携力を磨くことがとても大切です。

障害の構造化

 認知症に対して「ボケ」という表現が使われた時期もあります。私は、その一言の中にすべてを一緒くたにしてしまったことが、一番大きな問題だと考えています。整理して中身をよく見ていくと、使える能力や磨けば光るものが多く残っているのに、整理されず見逃されてきた部分が多かったのだと思います。認知症も他の疾患・障害を抱える人と同様に、障害を構造化し、アクティビティをしっかりと評価していくことが、その方の“できる部分”を支える支援の基本となります。しかし、これは決して表面的なことではなく、その方の生き方・信条といった部分までも含めて理解し、整理していくべきことです。

 その方が、迷うことなく生活を送ることが出来れば、随分と生活の様子も変わってくるものです。そのためには、作業頻度や環境設定を工夫したり、本人が混乱や悪い反応をださなくて済むような「最低限の活動の流れ」を作っておくことが必要です。OTの得意とする「障害の構造化」が、そういった場面でもっともっと活かされると思います。

- 若年認知症だからと特別視するのではなく、私達がOTとして当たり前にしていることを軸に、関わっていけばよいのですね。

神奈川県士会は、比較的経験年数の少ない会員が多く在籍しています。比留間先生から、若手OTへのメッセージをお願いいたします

まずは知識、そしてOTとして当たり前の仕事を

 まずは、認知症の医学的知識を把握することが必要です。医学的な知識を元に分析し、心理面の影響であったり、その方の生活パターンを弯曲させたり、生活の幅を狭くしている、その方の「生き辛さ」というものに向き合う必要があります。これは誰が取り組んでもよいのです。もし、皆さんがOTとして取り組むのであれば、これだけは忘れないでください。若年認知症は「特別」ではありません。当たり前のOT対象者として、疾患・障害をしっかりと分析し、プログラムを立て、淡々とOTとしての仕事をしてください。

- 比留間先生、貴重なお話をどうもありがとうございました。

(文責:地域リハビリテーション部 河村)

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151号:関連職種の活動を知る 神奈川県精神保健福祉士協会について

関連職種の活動を知る

神奈川県精神保健福祉士協会について

 地域リハビリテーション部では「関係職種・機関・組織との連携や神奈川県民との連携により地域リハビリテーションの普及・推進を図る」目的として、障がい者(当事者)団体の活動の広報をおこなってきました。
 今回は二宮町民センターで平成22年11月27~28日におこなわれた神奈川県精神保健福祉士(以下PSW)協会研修委員会が開催した実践報告会と宿泊研修会・中級研修会についてご紹介いたします。

 


 神奈川県PSW協会では神奈川県OT士会と同様に、専門職として資質の向上を図り会員相互の交流や関係団体との連携、その他社会活動を通じ、精神保健福祉の発展に寄与することを目的とするという活動方針があります。

研修会の様子

 27日(1日目)の実践報告会は『見つめよう、見直そう、かながわの実践』をテーマにPSW以外の職種、学生の参加も可能のオープン企画で、田園調布学園大学の小田敏雄先生を座長に4施設からの活動報告がありました。

 汐入メンタルクリニックデイケアの有川氏からは横須賀三浦周辺地域の若手職員の意見交換会や学習会などを中心に活動されているユニークなネーミングの「やんちゃ会の活動とネットワークについて」の報告がありました。

 続いて横浜市の総合保健医療センターの安増氏より、横浜市の単独事業で主に単身者または単身生活への移行を希望する人への総合的な生活支援「横浜市自立生活アシスタントについて」の報告、WRAPかながわ活動とWRAPの概要についての報告がありました。 

 WRAPとはWellness Recovery Action Planの頭文字で元気回復行動プランというもので、アメリカのメアリー・エレン・コープランドさんを中心に精神症状を経験した人たちによって考案され、今なお発展しつづけているリカバリーに役立つプログラムといわれています。

 最後に藤沢病院の長見氏より藤沢市の地域移行支援の取り組み「藤沢市精神障がい者地域生活支援連絡会」についての中間報告がありました。藤沢市の精神保健福祉の関係機関が連携して、患者さんが病院から退院した後も継続して生活支援をしていくことを目標としている活動のほか、藤沢市の様々な特色ある取り組みの紹介がありました。

 28日(2日目)の午前中は新人とベテランの交流会と経験5年以上の中堅者研修に分かれおこなわれ、新人とベテランの交流会では「公開スーパーバイズ」と題して、木太直人氏がPSWとして大事にしたい視点について、架空の事例を用いながら話し合いがおこなわれました。また中堅者研修では「PSWのキャリアを考える~現在と未来の希望のために~」という題で愛知淑徳大学の瀧誠先生を講師に招き、先生の講義と3名の体験発表がおこなわれました。そして最後に「もう一歩踏み出すために~ソーシャルワーク実践と私たちの明日~」とグループワークの後、閉会となりました。

 平成23年度は神奈川県PSW協会と合同研修会を開催いたします。合同研修会の様子は後日ご報告いたします。

(文責:地域リハビリテーション部 原島)

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150号:てんかんのある人への援助

当事者団体の活動を知る

 地域リハビリテーション部では「関係職種・機関・組織との連携や神奈川県民との連携により地域リハビリテーションの普及・推進を図る」目的として,障がい者(当事者)団体の活動の広報をおこなってきました.
 昨年度お伝えすることができなかった内容を掲載させていただきます.

 NO.146号に掲載しました「日本てんかん協会神奈川県支部」.代表の森氏に当会ニュースへメッセージをいただきました.初心に戻り,当事者の方々が発する声を受け止めてください.
 


 

てんかんのある人への援助

日本てんかん協会神奈川県支部
代表 森 敏一

[1] はじめに

 作業療法士の皆さんに、てんかんのことを知っていただく意味は何でしょうか。 皆さんがサポートしている方々の中に、てんかんのある人がいた場合、とまどうことが無いようにすることだと思います。

 親としての個人的体験・神奈川県支部代表としていろいろ出合った事例・多少の学びから得られた私なりのてんかん理解と欲しい援助を書いてみます。専門家でないことをご了承ください。 詳しいことをお知りになりたい方は、最後の参考図書をお読みください。

[2] 100人100様

 てんかんというと、突然に強直しけいれんし倒れるというイメージを持つ方もいるかもしれませんが、これは、強直間代発作というてんかん発作の一つの形(型)に過ぎません。てんかん発作の形は、国際分類によると40くらいあります。

 人の身体は、脳の命令を神経が伝えることで動いています。神経が働くには微弱な電気が必要です。脳の一部もしくは全体で、電気の強い活動が突然生まれると、脳のその部分が担当している身体の部分が異常な反応を示します。その異常な反応が40くらいあるということです。 何回も繰り返して、突然起きるその異常な反応を「発作」といっています。 40くらいの発作型といっても、細かく見ると、一人ひとり発作の様子は微妙に違いがあります。100人100様と言っていいと言うのが私の感想です。

 従って、皆さんがてんかん発作のある人を支援する場合は、その人の発作の様子と対応の仕方を、前もって関係者に聞いておくことが、安心して対応するポイントになります。

[3]救急車を呼ぶのは

 通常、てんかん発作で救急車を呼ぶ必要はありません。呼ぶ必要があるのは次の様な場合だけです。

(1) 全身のけいれんが10分以上続くとき。
(2) 1回の発作が止まっても意識が回復せず、また発作が起きるということを3回以上続けるとき。(てんかん発作が30分以上持続する場合を「発作の重積」といいます。発作と発作の間で意識が回復するものは、重積とは言いません。)
(3) 短い発作だったが、かなりの怪我をした場合。 注:転倒して頭を強く打った場合は、しばらく様子を見ます。普段より明らかに意識の回復が遅い場合やもうろうとしている場合は、病院に行ったほうが良いでしょう。

[4]てんかんと精神症状

 てんかんに伴う精神症状(統合失調症に似た幻覚・幻聴などやこだわり・感情の激しさなどの性格変化)を持つ人もいます。「てんかん性格」といわず「てんかん性格変化」というのは、てんかんの人すべてに共通しているわけではないこと、又、「性格変化」がある人でも、てんかんが治れば性格も穏やかになることからその言葉を使います。精神症状には、てんかんとは別の対応が必要です。

[5]てんかんと発達障害

 発達障害には、知的障害、自閉症、アスペルガー症候群、学習障害、注意欠陥多動性障害などがあります。てんかんと発達障害を合併する人がいますが、それぞれへの対応が必要になります。

[6]てんかん患者と生活

(1)プールと入浴
 作業療法士の方がここまでかかわることは無いと思いますが簡単に記します。

プール:一般には泳いでいるときより、プールから上がってほっとしたとき、プールサイドで発作 を起こすことが多いので、水際から離れて休むようにしましょう。しかし、泳いでいると きにも発作になることはあるので、監視は必要です。もし水の中で発作が起きてばたばた しているようだったら、後ろから抱きかかえ呼吸を確保し(前だと抱きつかれ一緒に沈む 危険があります。)出来るだけすみやかに水からあげると良いでしょう。

お風呂:施設では監視者の注意が大切です。旅行などでは、複数で入ることが大切です。家では、 いつ発作が起きるかわからない人の場合は、時々声かけをしたり、音に注意しているなど をします。万一の時は、顔をあげ呼吸できるようにし、風呂の水を抜きます。(音や人影 の動きを他の部屋でわかるシステムもあるとのことです。)シャワーで済ませる人も沢山 います。(四方から温水が出て湯に入っているのと同じような感じになれるシャワーも あるとのことです。)何年も発作が無く元気な人が、風呂でおぼれることがあります。 そんな人への対応は悩ましい問題です。

(2)お酒
 禁止というお医者さんと、「ほろ酔い程度で」というお医者さんといます。本人の症状に合わせて決定することのように思います。

(3)睡眠
 十分な睡眠をとることは、てんかん患者にとって、薬の次に大事なことです。

(4)人間関係
 幼児期の発症のため、十分な社会体験が出来ず、また自己充実の経験が無いことから人間関係がうまく取れない人、脳出血などの中途障害のためプライドから人間関係がうまく出来ない人のほかに、てんかんに伴う精神症状、てんかんとは別の精神障害を持っているため人間関係がうまく出来ない人などがいます。
 前2者の場合は、本人への丁寧な説明が必要と思います。後の2つの場合は、是々非々での対応が必要のように思われます。
 人間関係を自分から求めない人もいます。しかし、人は人間関係なしには生きられないので、どういう条件があれば、人間関係をうまくつくれるようになるのか工夫が必要になるでしょう。
 人間関係を求めようとしても、避けられてしまうケースもあります。地域ボランティアのネットワークをつくるなど、一人ひとりにそった、人間関係が豊かになる工夫をする必要があると思います。

(5)社会的支援を
 学校や病院への移動支援は、自立支援法では、利用できません。そうした制度を、「ニーズに応じた支援」にしていくため、現在行われている「障害者制度改革推進会議」の「障害者総合福祉法」作りに、積極的な関心を持って行きたいものです。

[7]最後に

 同じてんかん患者といっても微妙な違いがあります。又、重複障害の人もいます。そんな意味で、最初に「てんかん患者は、100人100様です。」と書きました。

 作業療法士の皆さんが、てんかんのある人をサポートする場合、発作の型や対応の仕方を、本人や家族の方からよく聞いておくと安心して対応できると思います。又、その人の性格や生活の質(趣味・興味・大事にしていること)を知っていただき、尊重していただけるとありがたいと思います。

[8]参考図書

(1)『てんかん、こうして直そう 治療の原則』 久保田 英幹著 発行:日本てんかん協会 定価1,600円+税 ※てんかんの基本的なことがわかります。
(2)『てんかんテキスト、理解と対処のための100問100答』 清野 昌一・八木 和一共著 発行:南江堂 定価3,200円  ※問答形式で基本的なことがわかります。
(3)『てんかん発作、こうすればだいじょうぶ 発作と介助』 川崎 淳著 発行:日本てんかん協会 定価2,000円+税  ※代表的な発作とその介助法を実演したDVDが付いています。
(4)『てんかんのすべてがわかる本 治療と生活から心理・福祉まで』 河野 暢明著 発行:株式会社法研 定価1,575円  ※臨床心理士が書いた本。医者の書いた本とはちがう良さがあります。
(5)『新 てんかんと私 ひびけ、とどけ!34人の声』 日本てんかん協会編 発行:萌文社 定価2,100円  ※患者本人や家族の生の声がまとめられています。
(6)『日常生活のためのてんかんのくすり』 日本てんかん協会編 発行:日本文化科学社 定価2,500円+税  ※てんかんの薬の基本の本です。

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149号:NPO法人 脳外傷友の会 ナナ

当事者団体の活動を知る

 地域リハビリテーション部では「関係職種・機関・組織との連携や神奈川県民との連携により地域リハビリテーションの普及・推進を図る」目的として、障がい者(当事者)団体の活動の広報をおこなってきました。
 昨年度お伝えすることができなかった内容を掲載させていただきます。

NPO法人 脳外傷友の会 ナナ : 必要なときに必要な支援を

149号:NPO法人 脳外傷友の会 ナナ日時:平成22年11月25日
場所:男女共同参画センター
取材担当者:井上・田中
取材対象:大塚 由美子 氏

 脳外傷(児)者とその家族の悩み、不安に対し、交流と情報交換を通じ、支え合うことで家族や社会の問題解決の糸口をつかむべく立ち上がり結成された脳外傷友の会。
 会設立当初より携わっている脳外傷友の会 ナナ理事長である大塚由美子氏にお話を伺いました。

会の設立

 1988年、大塚氏のご子息が交通事故に遭い、急性期を経て神奈川リハビリテーション病院でリハビリの日々が始まりました。当時、主治医であった医師にTBI患者の家族会の設立を勧められ、同時期に出会った同じ境遇のご家族(4家族)、医師、ワーカー、心理士を交えてサポートナナを立ち上げました。その後、アンケート調査などを通して、参加家族も増え、1996年の準備会が発足しました。2000年、日本脳外傷友の会設立に伴う経緯の中で、神奈川県における脳外傷友の会ナナが発足、2003年には脳外傷友の会として日本で初めてNPO法人設立しています。

活動目的

 会員相互の交流と情報交換を通じ、ともに支えあうことで家族や社会での問題解決の道を探り、当事者の元気を支え、社会参加への意欲を引き出しています。また、高次脳機能障害に悩む当事者および家族の社会的不利を改善するために、社会に向けた情報発信、啓発を行うよう活動しています。

様々な取り組み

 神奈川県内では、地域ごとに会員が集まり、相互の親睦・交流・ネットワーク作りを行い、食事会、カラオケなどを行っています。高次脳機能障害支援モデルの一事業として神奈川リハビリテーション病院内に協働事業室を開設し、家族が主体となって当事者、家族の相談に応じています。また、当事者自身が活動する場であり、それを支えるボランティア育成を行い、広報・啓発活動として定期的に会報誌を発行、リーフレットなどを作成し、配布しています。
 また、全国的に家族会の必要性を感じて働きかけて約10年目が経過し、青森県を除く各都道府県に家族会が設立しています。同時に厚生労働省にも働きかけ、高次脳機能障害モデル事業を5年展開し、現在、都道府県すべてに拠点を置いて高次脳機能障害支援普及事業として3年目を迎えているなど国に対しての働きかけも継続されています。

今後について

 障害を抱えても住みなれた場所で生活が継続できるような支援を提供していきたい
 現在、障害者の多くは支援のあるところに転居されていることが多く、支援の地域格差がある状態である。横浜市で始まっている障害者自立生活アシスタント派遣事業(障害者が地域生活を継続するために、専門的知識と経験を有する「自立生活アシスタント」を派遣して、具体的な生活の場面での助言やコミュニケーション支援を行う)のような生活版ジョブコーチやヘルパーに対して見守り支援の方法を伝えること、さらにグループホームの運営などにも携わっていきたいと考えているそうです。

インタビューを通じて

 脳外傷友の会として「ナナの会」を一度は耳にしたことがある方も多いだろう。今回、会の代表である大塚氏にお会いし、活動のほんの一部を紹介させていただいた。全国でも大規模な当事者の会でありながらも、“必要な時に必要な支援を”と地域性や形態、状況別の会を設け、100人いれば100通りのニーズに応えていこうと日々模索し、活動され、実践していることに脱帽であった。作業療法士として当事者やその家族に地域生活に必要で有益な情報を提供できるように様々な資源を周知していく必要性を感じた。

(文責:地域リハビリテーション部 井上・田中 )

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149号:かわさき七和会「麻生ピオニー」

当事者団体の活動を知る

 地域リハビリテーション部では「関係職種・機関・組織との連携や神奈川県民との連携により地域リハビリテーションの普及・推進を図る」目的として、障がい者(当事者)団体の活動の広報をおこなってきました。
 昨年度お伝えすることができなかった内容を掲載させていただきます。

かわさき七和会「麻生ピオニー」

取材日:平成22年10月7日(木)10時~15時30分
場所:百合丘老人いこいの家(麻生区 百合丘2-8-2)
この日の活動:カラオケ・会食・手芸(ビーズや編み物)など
一日見学と会長・澤淑子さんや参加されている皆さんにお話を伺ってきました。

かわさき七和会について

 各々活動していた自主グループ(主に脳血管障害後遺症の方、機能訓練B型のリハビリ教室を卒業された方など)があり、その中から組織化したものが『かわさき七和会』です(平成9年8月に設立)。川崎市各区に支部があり、麻生区は『麻生ピオニー』が活動しています。会全体では、七和だよりの発行、バス旅行(年1回)・新年会やスポーツ交流会を開催しています。また、会の中での活動に留まらず、同じ境遇の方々の心理的サポートとして、麻生リハビリ総合病院で2カ月に1回ピアカウンセリングも行っています。

麻生ピオニーの活動

 脳血管障がいの方や虚弱高齢者の地域リハビリとして、主に月4回(カラオケ・会食・手芸の日、書道の日、ハンドベル・手話の日、絵手紙の日)老人いこいの家や保健福祉センターで活動しています。それ以外に区や社会福祉協議会などのイベントにも積極的に参加し、各活動で製作した作品の展示やハンドベルや手話を披露しています。
 また、さわやか会(*)との共催で『ふれあいコンサート』を開催しており、自ら社会に呼びかける活動を展開しています。当会は生き甲斐づくりとして自分たちで目標をもち、計画立案し活動すること、その意義を大事にしてボランティアや家族も支援をしています。
 会長の澤さんは、24年前に脳血管障害で片麻痺を呈するが、当時はリハビリテーションを十分に受けられなかったそうです。自分で情報を集めてリハビリ教室などに参加するものの望む活動がなく、それならば「自分たちで!」と奮起して、会の設立に至ったそうです。少人数から始まり、今では当事者・ボランティア・家族合わせて37人が参加しています。活動費用は、会費や参加費の他に市の助成を受けていますが、その予算を削減されるかもしれないという厳しい状況に現在立たされています。

活動から学ぶこと

 ピアカウンセリングがきっかけで会の活動に参加されているAさんは、当初は突然の病気と麻痺への戸惑いや不安が強く、暗く、硬い表情で日々を過ごしていました。しかし、会のバス旅行に出掛けた帰りには、それまでとは違う明るい笑顔が見られるようになったそうです。当事者同士ゆえに理解し合えること、同じ境遇の人が「できる」姿を見て「自分も!」と希望や自信を持ち奮起されることもあるのです。私たちOTはその方が奮起できるようなサポートができているでしょうか?
 また、Bさんは「デイサービスにも行っているけど、こっちも楽しいから来るの。」と話され、自分で活動に通い、次のスケジュールを確認し、自分で一日の行動を決めて参加されています。私達OTは、病院から介護保険へエスカレーター式に移行するという支援だけに留まっていないでしょうか?各地域にどんな活動があるか知っているでしょうか?その都度振り返り、その方に必要な情報提供をすることも、地域リハビリテーションの一翼を担うOTの役割です。
麻生ピオニーの定期活動は平日のため、活動見学の機会は少ないかもしれませんが、OTの皆さんも、身近な地域の当事者の声を聴くこと、その方々の活動を知ることから始めてみてはいかがでしょう。

(*)『さわやか会』について
 澤さんは、身障者リハビリ『さわやか会』(月1回の第三日曜日の午前中に手話と体操)も21年前に立ち上げて活動されています。ボランティアでPTが体操を指導しています。こちらも是非見学してみてください。

かわさき福祉情報サイト『ふくみみ』
ホーム>団体検索>高齢者に関する団体 または 身体障害に関する団体>リハビリ>かわさき七和会「麻生ピオニー」 ・ 身障者リハビリさわやか会 

(文責:地域リハビリテーション部 笹森 田中)

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148号:認知症のある方への作業療法・後編 OTへのメッセージ

 地域リハ部ではH21年度より、県内の障害者・当事者団体との交流・連携を推進する目的で活動取材を行い、県士会ニュースで紹介させて頂きました。取材の際に、認知症者の御家族から、「認知症の人に対して作業療法士がどのように関わっているのかわからない」「地域に作業療法士はいるのか?」といった声が聞かれました。それらの声からは、認知症者の地域生活支援に関わる作業療法士の少なさや、活動自体がよく知られていない現実が伺われました。
 今回、地域リハ部推進班の試みとして、認知症の方に関わるベテラン作業療法士から、認知症の作業療法における基本的な考え方や、実践の工夫等を教えていただくインタビューを企画しました。現在そして今後、地域で認知症の方に関わる作業療法士にとって、実践のヒントとなることを期待しています。前号に引き続き、佐藤先生のインタビューをお届けします。

「認知症のある方への作業療法・後編 OTへのメッセージ」

財団法人積善会 曽我病院 認知症治療病棟 佐藤良枝 先生

148号:認知症のある方への作業療法・後編 OTへのメッセージプロフィール:県内の養成校卒業後、静岡県で小児分野の作業療法に従事する。その後神奈川に戻り、介護老人保健施設(以下、老健)および曽我病院勤務を経て、老健の作業療法士としてリハビリテーション全般に従事。平成22年4月から再び曽我病院認知症治療病棟に勤務している。臨床25年目。」

―認知症のある方へ関わるOTへのメッセージをお願いします。

 まず1点目として、「幼稚にならないアクティビティ」の工夫をして欲しいということです。これは、心掛け一つで、今すぐにでもできることです。塗り絵はよく使われているアクティビティですが、子ども用の下絵を用いている場面を見かけたことがあります。自分の親や恩師、実習のスーパーバイザーなどの顔を思い浮かべて提供することに違和感はないか、人として当たり前の感覚を忘れずに、考え、工夫して欲しいと思います。
 たとえば、「いろはかるた」を塗り絵の下絵にすれば、幼稚には見えないし、作業の途中で対象者が疲れたり飽きたりした場合でも「いろはかるたの『い』って何でしたか?」など、塗り絵から語想起へとその場で課題を切り変えることもできます。また、認知症の方は抽象思考力が低下しているので、簡略化した図柄は却って認知しにくく、写実的な図柄のほうが認知し易いことも念頭において工夫してみるとよいと思います。パンダさんやクマさん、お人形さんのような幼稚な題材はやめて頂きたいと思います。
 その他にも、素材を工夫することによって工程を変えずに難易度を調整できますし、手続き記憶を上手に活用すると導入を円滑に行え、仕上がりも綺麗です。具体例は県士会サイトの「作業療法Tips—手工芸Tips」のコンテンツに掲載されているのでご参照ください。
-少しの工夫で幼稚にならないアクティビティができますね。これはOTがもっと知恵を絞るべきことですね。

 2点目としては、「生活歴を活用したアクティビティ」を提供して欲しいということです。対象者の行動や対応のパターンを理解し、良い面を良い方向に活用できるようなアクティビティを提供する。それは「その方の生きてきた人生を理解した」という、コミュニケーションの象徴としても機能します。認知症の方は、日々喪失体験を重ねているので、アクティビティが単に、can(=できる)やdo(=する)を目指すのでは、その時できたことは確かにすごいことだけれども、いずれできなくなる時がきて喪失体験の反復・強調になってしまいます。「する」「できる」ということが、その方の「在りよう」に結び付くような、doでありbeでもある体験としてのアクティビティを提供できれば、そのアクティビティは対象者自身の支えにもなります。そして、具体的なエピソードとしてそのことを御家族に伝えられたなら、一見、何もわからなくなったかのように見えても、その方らしいところが今もきちんと残っている…御家族の歴史の中のその方の姿を現在に再定位・再認識できる機会を提供することにもなります。
 OTとして再確認して欲しいことは、生活歴というのは、対象者が「何をしてきたか」ではなくて、「どのように生きてきたか」ということです。生活歴の活用について誤解している人が多いように感じていますが、重要なことは、生活歴の特性をよく理解して、生活歴の要素を対象者の今できることと結びつけ活用できるようにアクティビティをアレンジしたり選択することだと考えています。どこまでこちらが適切に生活歴を理解できるか、ということが最も重要なことだと思います。何にせよ生活歴は個別性の高いものですし、聴取の手段も機会も限られていますから。
-やはり、ある程度時間をかけてその方と関わって、理解が深まっていくものでしょうね。

 そうですね。評価と治療は車の両輪のようなもので、治療を進めるごとに評価が深まって、相手のことがより理解できるようになれば、より適切な治療が提供できるようになっていくと思います。

 3点目は、「表現形としてのBPSD」を理解して欲しいということです。「表現形としてのBPSD」という表現は、地域医療研修センターの八森淳先生が、認知症に関するシンポジウムで提唱されました。BPSDが起こる理由は、薬剤の副作用、身体的な不調によるものも多いとされています。また、不快刺激や不安なことをうまく言葉で表現できない時にもBPSDが出現するということは臨床現場で感じられている方が多いと思います。「表現形としてのBPSD」という言葉は、それらを非常に端的に適切に言い当てていると私は思います。BPSD=悪いこと、と捉えられがちですが、能力があるからこそできることであり、どんな状況でどんな風にBPSDが出現しているかという中にこそ、その方の能力や特性が現れています。認知症のある方は、伝えたいことを適切に伝えられないことが多々あります。しかしその方の「表現形である」という認識を持てば、BPSDはピンチであるだけでなく、チャンスでもあります。その方の伝えたいこと、その方自身を理解するきっかけにもなり得るのです。
-確かに。認識を変えてみると、BPSDを通して、見えてくるものや対応が変わりそうです。

 4点目は、「知識・技術は活用する」ということです。科学というのは過去の知識の修正の上に成り立つ学問です。現在、常識とされている考え方が10年後には全く変わる可能性もあります。多くの先人によって積み重ねられてきた知識と技術は大切です。けれど、目の前のAさんに対して、今の常識が適切かというと、それはまた別問題です。今の知識と技術を対象者に当てはめるのではなくて、最前線にいるのは常に自分と対象者であって知識ではない。対象者の役に立てるように、対象者の利益になるように、知識と技術を活用して頂きたいと思います。
-目の前の方を、持っている知識に当てはめようとしてしまうこと、恥ずかしながら私にもあります。当てはめるのではなく、一人ひとりの「○○さん」をよくするために、自分の持っている知識を統合して考えることが大切ですね。

 5点目は、専門的な本や論文だけでなく、当事者の本をもっと読んでいただきたいということです。当事者の方が考えている、感じている「現実」に触れる経験を通して、専門職が学び、類推できることはたくさんあります。認知症の方の御家族で、当事者の本を読んでいる方も大勢いらっしゃいます。論文を読むことは勿論必要ですが、当事者の本やサイトなど、御家族や御本人が接しているであろう情報にOTが関心をもち、知っておくことは、専門職のもう一つの役割として重要だと思います。まずは是非、読んでみてください。

-佐藤先生、貴重なお話をいただき、本当にありがとうございました。

後記:本インタビューはH22年10月のとある夕方に、曽我病院の認知症病棟リハビリテーション室で実施させて頂きました。当初1時間の予定が、気付けば3時間近く経過してしまう程、話題は尽きないものでした。丁寧に言葉を選び、お話される佐藤先生のお言葉は、長年認知症のある方と接し、悩み考え行動を積み重ねてきた、経験に裏打ちされた力強さの感じられるものでした。県内の様々な分野・場所で何らかの形で認知症のある方に関わっているOTの方は多くおられると思います。佐藤先生のお話から、認知症のある方との関わりを、より良き方向へと発展させるヒントが得られることを期待しています。

(文責:河村)

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